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Hank Green Address to MIT Class of 2025(全1記事)

「キャリアは“好奇心の向け先”で決まる」 科学コミュニケーターがMIT卒業生に贈る4つのヒント [2/2]

アドバイスは卒業生の言葉から

というわけで、いくつかのアドバイスは君たち自身から。アンケートで聞いたんだ。「今の僕みたいにステージに立てたら、クラスメイトに何て言う?」って。いくつか紹介するよ。まずはこれ。

「グリーン兄弟のどっちがハンクで、どっちがジョンか、いつも忘れる」(笑)もし可能なら、二人が一人の男だと想像してくれてもいい。それなら確かに超すごい人になる。でも区別がつかなくても大丈夫。十分だよ。

ところでこの演台、デカくない? 気づいた? すごい演台だ。僕を小さく感じさせる。ちっちゃい人になった気分。なんでこんなに大きいのか聞いたら、「校章が入らないから」って言われたんだ。だから僕は言った。「新しい校章を作れば?」って。そしたら、あまりウケなかった。(笑)

別の回答。「成功に唯一の定義はない。頭の中の成功像は変わっていくし、変わることを受け入れるべきだ」。これは年長者の助言みたいだね。誰? 45歳が紛れ込んでいる? 同じく45歳からのアドバイスがもうひとつ。「ロスIRA(積立型の個人退職口座)を開こう」。(笑)アンケート、君のお父さんが代わりに答えてない? めっちゃ父親感。でも、開いたほうがいい。今がその時だ。

僕のお気に入りもある。読んでいて心が動いた。「協力し合い、助け合おう。勇気を出して手を伸ばし、やりとりでは寛容でいよう」。大好き。これは「テクノロジーだけど、主語は『人』」ってことだよね。こんなのもあった。「たぶんうまくいかなくても、とにかくやってみよう」。最後は、とてもMITらしいやつ。「解決から入るな。問題から入れ」。

今こう思っている人がいるかも。「この人、僕らに卒業式スピーチを書かせた?」って。そんな君には言っておく。少なくともクロード(AI)に書かせなかっただけマシでしょ(笑)。

寄り道だらけの20年が教えてくれたこと

この20年、オンライン動画とソーシャルっていう、ものすごく不安定で変化の激しい地盤の上でやってきた。自分のキャリアの“バカバカしさ”を中心に話そうと決めてきたし、実際すごくバカバカしかった。でもそれでいい。TikTokでエルモのリミックスに合わせて踊ったこともある。一方で、ベストセラーのSF小説を2冊出した。「おならネタのまとめ記事」も書いたし、合衆国大統領にインタビューもした。

キリンの性行動についての動画を何本も作ったし、会社も複数売却した。インターネットにつながるすべての人に無料の学習動画を提供する教育系メディア会社の立ち上げにも関わった。僕らのコンテンツは、アメリカの大半の学校で使われている。ありがとう。

ここは、みんなのご両親に、僕がここにいることをちょっと安心してもらうためのパートね。ここまでだと「うーん」ってなっていたかもしれないから。できるだけ引っ張ったけど(笑)。僕は「いいアイデアだと思ったら、とにかくやる。結果はどうでもいい」タイプで、それが功を奏してきた。ただ、いつもリラックスして生きてこられたわけじゃない。

もし僕が、運以外の何かに成功を帰すなら、それは「新しいことを学ぶ以上に良い時間の使い方は存在しない」と信じていること。そんな発想以外は、僕の頭には入り込む隙がない。何か新しいことを学べた日、それが「良い日」だ。この好奇心は、君が使える道具の数や習熟だけでなく、「問題空間」そのものの理解を広げる。アイデアって結局、問題に適用できるたくさんの道具と、その問題の形や構造の理解なんだ。

そのふたつが重なるところに、チャンスがある。だから、アドバイスはすごくシンプルに聞こえるかもしれない。世界に好奇心を向けよう。そうすれば未来に必要なものは手に入る。ほぼ、それで十分。ほぼね。ただ、その等式で僕がまだ触れていない、とても大事な点がある。


好奇心は“どこへ向けるか”で力になる

アンケートでもうひとつ聞いた。「今、何が君に希望をくれている?」。一人は「マッカラン12年」って書いていたけど(笑)、それはちょっと控えめにね。多くの人は、まるごと「人」のことを書いていた。友人、家族、仲間。何度も繰り返されていたのは、気にかけてくれる人、コミュニティの暮らしを良くしようとする人、自分の信じることのために立ち上がる人、大きな問題を見て、解決しようと決意する人たちの存在。

MITみたいな学校だと、「作る」に意識が向きやすくて、「人」に向き合うのは後回しになりがちかもしれない。ここはテクノロジーの学府であって、人文学の学府ではないから。でも、みんなの回答の中で、人間性(humanity)をちゃんと読んだよ。

ここで、さっきの「好奇心」のシンプルさに戻ろう。好奇心は、問題の理解へ、そしてそれに対処する新しい道具の獲得へ導く力だ。でも君の好奇心は手に負えない野生動物じゃない。どこへ向けるかは君が決められる。その向け方が、この先の人生を劇的に左右する。おそらくキャリアで最重要のファクターになる。

そして、ひたすら強力な道具を作り続ける、魅力的でエキサイティングで、正直それほど複雑でもない課題ばかりに意識が向いてしまうのは簡単だ。僕もそれが大好きだし、強力なツールづくりを延々と語るポッドキャストを聴くのも大好きだ。けれど、問題空間はそのはるか外側まで広がっている。この事実に気づかずに過ごしてしまうことも、驚くほど簡単なんだ。

大問題だけじゃなく“暮らしの解ける課題”にも目を向ける

僕たちの注意を方向づける強力な仕組みは、はっきり言っていつも僕たち自身や世界の最善の利益のために設計されているわけじゃない。ソーシャルのコンテンツ・プラットフォームは、僕たちの好奇心の舵取りがとてもうまい。でも時にそれは、恐れを煽るものや、ほとんど解けない問題ばかり、あるいは社会の一番熱い分断ばかりに、好奇心を向けさせる。

一方で、資本主義の衝動は、僕たちの関心の向きをお金に換えやすい問題へ固定するのが得意だ。その結果、最も権力や富を持つ人たちが解きたい問題に重心が偏る。もし僕たちがそのふたつの力に、好奇心の向きを任せてしまったら、僕たちが決して目を向けなくなるのは何か? それは、ふつうの人々の、日々の解ける問題だ。

だから僕は望むし、お願いしたい。君たちが、世界の途方もなく多様で巨大な「問題空間」に対して、好奇心を持ち続けることを。そこには解ける問題がたくさんある。ただ、今の世界は、そこへ自然に好奇心が向くようにはできていない。

もし自分の執着のハンドルを自分で握れたら、君たちは止められない存在になるだけじゃない。君たちはこの世界を、出会った時よりも良い場所にして去ることになる。これは「経済的安定か理想か」の二者択一の話じゃない。キャリアが進めば、その領域でもお金は生まれる。問題が本物だから。これはただ、「君が問題空間に誰を含めるか」「何に好奇心を向けるか」という話だ。


アイデアは外に出して育てよう

その心づもりで、僕の心と経験から、いくつか助言を。まず草は食べないで(※ハンクの持ちネタの一言)(笑)。これはとても具体的な理由があるんだけど、今は先へ進もう。

次に、もっと重要なこと。君が生涯で解く問題のひとつは、「不完全な世界で、どうやって喜びを見つけるか」だ。「生産的じゃない」と感じるかもしれない。でも、「君の喜びも、君が生み出すもののひとつだ」と受け入れられるまで、たぶんそう感じ続ける。

3つ目。アイデアは頭の中に置いておいたらダメ。頭の中にあるだけじゃ、誰の役にも立たない。人が自分のすばらしいアイデアに中毒になって、愛しすぎるあまり、現実の不完全さにさらせなくなるのを、僕はときどき目にする。待つのはやめよう。アイデアを外に出そう。失敗するかもしれない。でも、失敗している間に新しい道具が増える。そして君が僕に「失敗した」とメールしてきたら、僕はこう返す。「それは誇らしいことだ」。

4つ目。人はとても複雑で面倒だ。だから君は、人を避けて、誰のためでもない人抜きのものづくりに走りたくなるかもしれない。その気持ちはわかる。でも年に一度くらい自問してほしい。「価値と意味はどこから生まれる?」 それは銀行でも、テックでも、キャップテーブル(株主持分表)でもない。

価値と意味は「人」から生まれる。人に関わる仕事は最も難しい。けれど、多くの場合一番重要な仕事だ。新しく強力な道具の構築や獲得だけに向かわず、君自身や君のそばにいる友だちや家族も含めて「人のニーズ」に向き直ろう。

世界があまりに大きくて、誕生日会を開くことや、友だちのためにプレイリストを作ることなんて、気候変動やAI、民主主義の後退と比べたら、取るに足らないって思えてしまうことがある。でもそんな考えは、人間としての現実から、そして君が作るのは「道具」だけでなく「意味」でもあるという事実から、君を遠ざけてしまう。

これはインパクトや生産性や問題解決だけの話じゃない。生き方の話だ。忘れないで。人間として生きられるということは、途方もなく特別で奇妙なことなんだ。最初の単細胞から、この卒業式に至るまで、30億年かかった。宇宙の寿命の4分の1以上の時間が、そこに費やされたっていうことでもある。

この惑星では、とてつもなく特別で不思議なことが起きている。そしてそれは「君」だ。君が生涯で作り上げる最も偉大なものは、骨……それもすばらしいけれど、それだけじゃない。君自身だ。信じてほしい。君はまだ制作中だ。僕自身がそうだから。君が作るのはツールキットだけじゃない。君という人間を作る。そしてそれは「人のため」に行う。

MITで「何をした?」と聞いたら、君たちは「作った」と答えた。でも「何が希望をくれる?」と聞いたら、君たちは「建物」とは答えなかった。君たちは「人」と答えた。だから、2025年卒業生のみんな、自分のために、誰かのために、この美しくて、奇妙で、すばらしい世界のために歩み出そう。ありがとう。

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