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Ginni Rometty Addresses 2023 Graduate Commencement(全1記事)

「自分が何者かは、自分で決められる」 元IBM CEOが語る、逆境と成長の3つの教訓 [2/2]

世界を前進させる“目的”を持って働くということ

最後にお話ししたいのは、「目的」についてです。これは、あなたの目的であり、私たち全員の目的に関わる話です。

人が働く理由はさまざまです。自分の情熱を追いかけるため、家族や自分自身の生活を支えるため……けれど、時にはそれを超えた“何か”のために働くこともあります。

私は、ロヨラ・メリーマウント大学が、公平性・包括性・多様性・そして正義の推進に力を注ぐコミュニティであることを知っています。

世界にポジティブな影響を与える方法はたくさんあります。ここでは、私自身の目的にもなっている「1つの方法」を、みなさんに共有したいと思います。

“仕事はあるのに人がいない”という矛盾への疑問

私がIBMのCEOに就任したのは、2012年のことでした。今では当たり前になっているテクノロジー……AI、クラウド、サイバーセキュリティなどが、ちょうど台頭し始めていた時期です。

当時のIBMでは、サイバーセキュリティ関連のポジションが何百件も空いていたにもかかわらず、それを埋めるための人材がなかなか見つかりませんでした。そしてこの人材不足は、IBMだけの話ではありませんでした。サイバー分野に限らず、テクノロジー全体で同じことが起きていたのです。

多くの人は「そもそも、採用できる候補者が存在しないのだ」と考えました。しかし同じ時期、アメリカの失業率は非常に高く、約1,200万人が職を失っていました。その多くは、マイノリティや低所得の家庭出身の人々です。

私は心の中で、こう思いました。「なぜ、これほど多くの人が職を探しているのに、これほど多くの仕事が埋まらないままなのだろう?」

そこで私は調べました。そして見えてきた3つの事実は、残念ながら今でも大きくは変わっていません。

企業の“学歴偏重”がチャンスの格差を生む

1つ目。企業(IBMのような会社も含めて)は、いつの間にか「すべてのポジションに4年制大学や博士号を持つ人材しか採用しない」という習慣を持つようになっていたのです。

2つ目。実際には、多くの仕事に4年制大学の学位は必須ではないということ。むしろ、採用側が必要以上の資格を求めてしまっていたのです。

3つ目。これはアメリカだけでなく、世界中の先進国に共通していますが、世界の人口の約65パーセントは、みなさんのような「伝統的な学位」を持っていないのです。

この3つを合わせると、1つの深刻な現実が見えてきます。それは、「この社会には、機会から取り残されている人々が大勢いる」ということ。彼らは、本来なら家族4人を養えるだけの仕事に就けるはずだったのに、そのチャンスを与えられずにきたのです。


スキルを重視した採用で機会を広げる

そこで私は、IBMの採用プロセスを徹底的に見直すように指示しました。そして、学歴だけではなく、スキルや適性に基づいて人材を採用する方針に切り替えたのです。

私たちは、2年制大学の卒業生、テック系ブートキャンプを修了した人、見習い制度や非伝統的な教育課程を経た人たちも積極的に採用し始めました。

その結果、ただ空席が埋まっただけではありません。私たちは、これまで完全に見過ごしてきた、多様で優秀な新たな人材層を発見することができたのです。

高等教育の意義と多様な選択肢の共存

さて、今この会場にいるみなさんの中には、「ちょっと待って、今は大学の卒業式でしょ?私たちは大学院を修了したばかりなのに、彼女は“大学に行かなくてもいい”って言っているの?」と思った方もいるかもしれません。

その気持ちはよくわかります。でも私は、ちゃんと理解しています。私は今、みなさんが大学院を修了されたことを心から祝福しに来ているのです。

そして誤解のないように、はっきり申し上げておきたいことがあります。私は、大学・大学院教育の大ファンです。私のきょうだいたちは、合計で6つの学位を持っていますし、私自身も大学の理事会の副議長を務めています。

そして、みなさんのように高等教育を受けた人材を必要とする職種は、これからもずっと存在し続けます。高等教育は、人間社会が前に進むために不可欠な存在です。この世界には、まさにみなさんがここで学んできたことを必要としている場所が、たくさんあります。

でも同時に、こうも覚えておいてほしいのです。人それぞれ、人生の「スタート地点」は違います。そして、どこから始めたかが、どこへ行けるかを決めてはいけない。人は、学歴ではなくスキルで評価されるべきです。

私は、母からこのことを学びました。適性(aptitude)と、機会(access)はまったく別物だということを。母には明らかに高い能力がありました。でも、その能力を活かす「機会」がなかったのです。


能力は平等でも、機会は平等ではない

今も、世界には数えきれないほど多くの人々が、大学に通うための経済的余裕がなかったせいで、経済の輪から取り残されています。

能力は、あらゆる人に等しく備わっています。でも、機会は平等ではない。では、その現実を変えることができたら?

もし、もっと多くの人にチャンスが届く社会を作ることができたら? それこそが、今の私の「目的(purpose)」です。私は今、企業が「学位」だけでなく「スキル」に基づいて人を採用するようになるための活動に取り組んでいます。

スキル重視は社会の包括性も高めてくれる

これを私たちは、「Skills First Movement(スキル重視運動)」と呼んでいます。スキルを重視した採用は、企業にとって競争力の向上にもつながります。

それだけでなく、包括性(インクルージョン)、経済的な平等、社会的な平等、こうしたものすべてを後押ししてくれるのです。

そして私は、こう信じています。自分の未来が、過去よりも明るいと信じられること。それこそが、民主主義の土台になるのだと。

あなたが誰かに“機会”を与える存在になれる

そして、ここからがみなさんの出番です。このキャンパスを後にして、あなたは社会へと歩み出していきます。

これから新たなキャリアを始める方もいれば、すでに働いていて再び職場に戻る方もいるでしょう。いずれにしても、あなたは堂々と誇れる学位を手にしています。

そしてその力を活かし、これからどんな道を選ぶにせよ、きっとあなたは、周囲に良い影響をもたらす存在になっていくはずです。例えば、人を採用したり、昇進させたりする立場になった時、「学位があるかどうか」ではなく、「どんなスキルを持っているか」を基準に判断することもできるはずです。

それが、私がみなさんに伝えたい3つ目、そして最後の教訓です。あなたの力を、もっと大きな目的のために使ってください。それは、誰かに“機会”を与えることです。

ですから、2023年の卒業生のみなさんへ。これからどんな道を歩んで行くとしても、どうか忘れないでください。

・自分が何者であるかは、自分で決められるということ。
・人はいつでも学び、成長し続けられるということ。
・そして、あなたには他の誰かに“機会”を与える力があるということ。

未来を信じ、社会を変える力はあなたにある

信じがたいかもしれませんが、あなたには、この世界を本当に変える力があるのです。あらためて、心からお祝い申し上げます。

そして今日という日を支えてくださったすべての方々に、深く感謝いたします。このようなかたちでみなさんの門出に立ち会えたことを、私は心から光栄に思います。本当に、ありがとうございました。

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