【3行要約】
・カーンアカデミー創設者サル・カーン氏が、ジョンズ・ホプキンス大学卒業式でスピーチ。
・AI時代は人類史の転換点、卒業生は99.99パーセントの人類が得られなかった知識と機会を持つと強調しました。
・物語の主人公として生きていくための3つの助言を贈りました。
日常に潜む「壮大な物語」
Salman Khan(サル・カーン)氏:本日ここに立てることは大きな光栄です。今日はみなさんにとって人生の節目であると同時に、人類史における転換点でもあります。
物語の主人公は、『自分にはもっと大きな使命がある』と感じながらも、その第一歩をどこから踏み出せばいいのか分からずにいるものです。そして時代は非凡で、世界を救う役割が求められます。
私の願いは、みなさんにとってガンダルフやダンブルドア、オビ=ワンのような存在となり、日常的な発想の枠を超え、みなさん自身が人類史の壮大な冒険の主人公であると気づいてもらうことです。
人類史の「分岐点」
人類の歴史には、私たちの在り方を根本から変えた数少ない分岐点がありました。
・100万年前:火と石器の発見
・約1万5,000年前:農業と定住
・4,000~5,000年前:文字の発明
・600年前:印刷技術とルネサンス、科学革命
啓蒙思想と科学への投資は、アメリカを創造的な人材の集まる地にしました。ジョンズ・ホプキンス大学もその伝統の一翼を担っています。
史上最大の転換点を迎えて
しかし今、私たちはさらに大きな転換点に立っています。分断、民主主義への脅威、気候変動、世界的紛争……。確かに深刻ですが、実はこれらはさらに大きな変化の前景にすぎません。
人類はAIとバイオテクノロジーの融合による「技術的特異点」に突入しています。1993年に数学者ヴァーナー・ヴィンジが予言したとおりです。
AIはすでに人間を上回り、AIを活用した研究がノーベル化学賞を受賞するほど、その影響力は現実の科学に浸透しています。ゲノム編集、病の克服、寿命の延伸といった、かつてSFの中にしかなかった未来が現実になろうとしています。
AIは「人間の意図」を増幅する
AIは善でも悪でもありません。それは火やナイフと同じく、人間の意図を増幅します。犯罪者や独裁者の意図も、芸術家や教育者の意図も、増幅されます。だからこそ私たちは意図と責任を意識しなければなりません。
卒業生へのアドバイスその1 夢を真剣に育て、力をつける
夢を持ち、それを大切にしてください。しかし夢だけでは不十分です。影響力や資源を得るには、スキルと信頼を築く必要があります。役立つ存在となり、信頼を得て、フィードバックを受け取れる人間になりましょう。ときには許可を待たず、一歩踏み出す勇気も大切です。
卒業生へのアドバイスその2 心配を取捨選択する
人生は本物の困難を投げかけてきますが、多くのストレスは些細なものです。対処できるなら行動し、できないなら手放しましょう。「対処しなければならない」ではなく「対処できるのは特権だ」と考えることで、ストレスをむしろ成長のエネルギーに変えられるのです。
卒業生へのアドバイスその3 真の願望を見極める
物質的な豊かさや評価は一定の意味を持ちますが、それが満足を保証するわけではありません。真に大切なのは、強い人間関係、目的意識、自己表現の場、感謝と笑いです。これらが人生を豊かにします。
「カーンアカデミー」誕生の物語
私自身もこの考え方に導かれました。2004年、従妹の算数をオンラインで教えたことがきっかけでした。そこから動画やソフトを試し、やがて世界中の人々に広がっていきました。
営利ではなく、非営利として教育を提供する道を選んだことで、「カーンアカデミー」は、新しい形の教育基盤として世界に根付きました。教育を奪われた子どもたちにとっての「最後のセーフティーネット」にもなっています。
みなさんは「物語の主人公」
今、みなさんには不利な条件はありません。準備は整っています。仲間もいます。今日卒業するみなさんは、未来を切り拓く「先頭部隊」です。
最後に
ジョンズ・ホプキンス大学から巣立つみなさんは、人類史上99.99パーセントの人より多くの知識と機会を持っています。
コントロールできるものに集中し、できないものは手放し、自分に意味を与えるものを見つめてください。挫折にも感謝を見いだし、一歩ずつ前に進みましょう。
みなさんは今、現実の時間の中で進行する壮大なSF叙事詩の登場人物です。その結末はまだ書かれていません。そして、そのペンはみなさんの手にあります。
さあ、胸を張って前へ進みましょう。