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2025 Commencement Address by Sandra Oh(全1記事)

「不快さ」に耐えられる人こそ、本当に強いリーダーになれる ハリウッド女優が語る、世界を動かす“優しさの哲学” [2/2]

「自分ではどうにもできないこと」と向き合う時

私自身にとっては、『グレイズ・アナトミー』がそうでした。クリエイティブな部分には、ある程度関わる余地がありましたが、それ以外には、自分ではどうにもできないことも多くありました。

例えば、肌がボロボロになったり、外に出るのが怖くなったり。終わりのないスケジュールに追われて、完全に心身が限界を迎えていました。「気合い」でどうにかする、それまでのやり方はもう通用しませんでした。

だって、うつ病を無視することも、パニック発作を人任せにすることもできないんです。人生は待ってくれません。たとえ自分がどれほどつらくても、ショーは続く。外側の状況が変わることばかりを望んでいると、逆にどんどん気持ちは追い詰められていきます。

私の場合、少しずつ安定していったのは、自分の内面と向き合うようになってからでした。今、あなたが心身ともに健康だとしても、きっと「自分ではどうにもできないこと」に対する不安を感じているはずです。

例えば、就職先が見つかるかどうか。大切な友だちと離れて暮らすことになるかもしれないという不安。市民権や自由が損なわれていくことへの焦り。地球が燃えているような感覚。
ロボットに仕事を奪われるのでは、という心配。あるいは、「この世界を少しでも良くしたい」と強く願っているのに、どこから始めればいいのか、わからない。そんな想いを抱えている人もいるかもしれません。

優しさとは、痛みとともに生きる力

私が提案したいのは、小さな“自発的な不快”にあえて身を置いてみること。ほんの一口サイズの不快さを、意識的に経験してみるんです。安全な範囲で、不快に留まる練習をしてみる。

私がよく実践してきた方法のひとつに「沈黙」があります。この静けさは、私の内面を育てる助けになってくれました。ここでいう「内面を育てる」とは、その場その場の思考や感情に振り回されるのではなく、もっと深いところで、自分自身とつながる感覚のことです。

なぜそれが大切かというと、常に反応し続けていたら、常に気を散らされていたら、私たちは「本当に望んでいること」が何かすら、気づけなくなってしまうからです。だからこそ、“一口サイズの不快”を、あえて体験してみる。それでは、少しだけ試してみましょう。

(会場沈黙)

……どうでしたか? 不安を感じましたか? 混乱しましたか? 携帯に手を伸ばしたくなりましたか?

おもしろいですよね。静けさの中に身を置くと、頭の中や心の中でどれだけのことが起きているか、どれだけ批判的だったり、神経質だったり、不安だったりするかがよく見えてくる。

それでは、この不快さとどう付き合えばいいのか? どうすれば、自分を見失わずに、その場に留まることができるのか? 私が意識してきたのは、「優しさ」を持つということでした。

今の時代、優しさを見つけるのは難しいと感じることがあります。私たちの世界のリーダーの中には、恐怖や抑圧、残酷さによって権力を得ようとする人もいます。そんな中、多くの人が不安や怒りを抱えて生きています。

だからこそ、優しさは無意味に思えたり、甘い幻想に見えることもあるでしょう。でも、私がここで言っている優しさは、ただ“いい人”になることではありません。それは、自分の痛みを、壊さずに抱えて生き抜く力。それでもなお、人と向き合い、未来をつくろうとする力です。

つまり何度も立ち現れる残酷さに心をすり減らすことなく、それでも人間らしさを手放さずに、抵抗し、癒し、築いていく、そんな力が「優しさ」なんです。私が話している優しさには、 勇気、敬意、思いやりが含まれています。

そしてこの優しさは、朝、目を覚まして再び歩き出すためのエネルギーであり、リーダーとして人を導く土台でもあります。決して弱さではなく、むしろ長く保ち続けられる本当の強さの源なのです。

もちろん、それは簡単なことではありません。自分に対しても、意見の合わない他人に対しても、本当の意味で優しさを持ち続けるのは難しい。けれど、あなたがそれを大切に育てることができれば、その優しさはやがて、 “行動の種”になります。


「心の痛み」こそが、あなたの優しさの原点になる

もしあなたが、優しさと聞いてもあまりピンとこないなら。あるいは、優しさに触れるのが難しいと感じるなら。例えば、優しさがなんとなく形のないぼんやりしたものに思えてしまうのなら、代わりにこう考えてみてください。

「心が痛む感覚」は、わかりますか? 私は、ここにいるみなさん誰もが、その「心の痛み=ハートブレイク」を知っていると思います。この世界で生きている限り、人は誰でも、ハートブレイクを経験するからです。

では、そのハートブレイクがどんなものか、少し想像してみてください。例えば、恋人との別れのように、とても個人的な痛み、あるいは、何千キロも離れた場所で起きている戦争のように、大きく遠い痛み、どんなかたちでもかまいません。

それを、手のひらにのせていると想像してみてください。どんな形をしていますか? 重たいですか? 色はありますか? もしかしたら、手のひらが焼けるように熱く感じたり、指の間からこぼれ落ちそうだったり、あるいは、その痛みがあまりに大きくて、とても両手では抱えきれない、そんなふうに感じるかもしれません。

でも、今この瞬間だけでいい。その痛みを、やさしく、大切に、抱きしめてみてください。あなたの“心の痛み”を、丁寧に扱って、そっと保ちつづけること。それこそが、私の言う「優しさ」なんです。

ここ、ダートマスで過ごした時間は、みなさんの人生の中でも、かけがえのない時期だったはずです。知識を大切にし、自分自身を表現する機会を与えてくれる場所で、みなさんはこの数年間を過ごしてきました。

もしあなたがこれから、学問の自由を守りたいと願うなら、抑圧の残酷さを終わらせたいと願うなら、真の民主的な変化を生み出したいと願うなら、あるいはただ、誠実に善く生きたいと願うなら、それらすべての出発点は、優しさを知ることなのです。

だからこれから社会に出ていくあなたに、私は願います。今日、私たちがここで分かち合ったこの時間をどうか胸に刻んでください。そして、それを胸いっぱいに蓄えて、次はあなたの手で、それを周りの人へと広げてほしい。友だちへ。見知らぬ誰かへ。そしてこの地球という星そのものへ。

なぜなら、これからの世界を生き抜くには私たちはみんな、ありったけの優しさを携えていく必要があるから。今こそ、その優しさのすべてを武器にして。

踊る時間を持つことを忘れずに

もう一つだけ、伝えたいことがあります。ほんのちょっとだけ、いいですか? 実は、私がこれまでの人生でずっとやってきたことがあって、それを今日、みなさんとシェアできたらと思います。

立ち上がってください。無理のない範囲でいいので、立ち上がって、少しだけ不快さの練習をしましょう。世界がつらい時、あるいは、今日みたいにすばらしい日でも、そんな時こそ、「踊る時間」を持つことを忘れないで。

あなたひとりでもいい。 友だちとでも、大切な人とでも、見知らぬ誰かとでも構わない。

踊る時間をちゃんと持ってください。今から15秒だけ、体を動かす時間を取ります。さあ、いきましょう!

(音楽が流れ始める)

さあ、スマホはしまって! 体を動かして、リズムに乗って!

(観客が歓声を上げながら踊り始める)

お母さんもお父さんも、一緒に! もっと上に! もっと自由に!

「不快な気持ち」さえも、「喜び」へと変えていくことができる。この感覚を、どうか忘れないで。この感覚を、あなたの中にしまって、大切にして。そしていつか、誰かにそのまま手渡してあげてください。

誰か、私と一緒に踊ってくれる人いる? さあ、いこう! 一緒に!

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