米国ノースカロライナ州ダーラムの名門私立大学として知られるデューク大学。本記事では、その卒業式スピーチに登壇した伝説のコメディアン、ジェリー・サインフェルド氏の人生哲学をお届けします。70歳の彼が学生たちに贈る“人生の3つの鍵”と、人生に必要不可欠だと語るものとは。
名門私立大学にコメディアンが招かれたワケ
Jerry Seinfeld(ジェリー・サインフェルド)氏:ありがとうございます。なんてすばらしい日でしょう。なんてすばらしいクラスでしょう。みなさんが大好きです。
私は今日、プライス学長とデューク大学理事会の寛大な招待により、ここに招かれました。世界最高の高等教育機関の1つとされる場所で4年間を過ごしたみなさんに、世界で最も優れた高等教育機関の1つとされるこの場所で4年間を過ごしたみなさんに、最後に少しライトなエンターテインメントを提供することで、こう思わせたいのでしょう。

「もうここは十分だ」。だからコメディアンを呼ぼうと。デュークで培った教養や知性を、ちょっとだけレベルダウンさせようと。
(会場笑)
そして、私はそれが理にかなっているかもしれないと思いました。おそらく彼らが本当にやりたいのは、「これらの若者たちを早く送り出したい」ということで、何が彼らに最後の一押しを与えるだろうか、というものでした。
というのも、あなたたちがこのすばらしい大学で学んでいる間、私たちはずっと、あなたたちを別の子たちと入れ替えられないか検討してきたからです。
(会場笑・拍手)
別に、あなたたちに満足していなかったわけではありません。まったくそうではありません。本当に、あなたたちはすばらしかった。ただ、他にどんな学生がいるか見てみたかっただけです。私たちが話した学生の数を正確に言いたくありません。(両手を大きく広げて)大体これくらいです。
そして、私たちは多くのすばらしい学生たちに会いました。本当にたくさん。みなさんがここに来て学び、成長し、繁栄することに私たちが興奮していた時期はありましたか? もちろんありました。その時期は過ぎました。
(会場笑)
もしみなさんと保護者の方々が最終的な無用性を数年先延ばしにしたいなら、さまざまな分野での大学院プログラムも提供しています。
「情熱なんてどうでもいい」
みなさんが「情熱を追い求める」という話にどれだけ飽き飽きしているか想像もできません。私が言いたいのは、情熱なんてどうでもいい。何かできることを見つけて、それをやればいいんです。何かを試してうまくいかなくても、大丈夫です。ほとんどのことはうまくいきません。ほとんどのものは良くありません。
みなさんは短い人生でそれをすでに知っています。家を出て戻ってきて、「食事はどうだった?」「まあまあだった」。
(会場笑)
だから、みんながここに入るために一生懸命努力するのです。デュークは実際に本当にすばらしい。この学校は、あなたの人生への広い扉を開く四角いハンディキャップボタンのようなものです。ただし、ウエストユニオンの重い木製のドアは除きます。あれは危険です。
「これこそが自分の情熱だ!」と、シャツを引き裂き、胸筋を震わせながら叫ぶような生き方はやめなさい。恥ずかしいだけです。ただ自分の能力の限り、できる限り一生懸命仕事をする意欲を持ちなさい。あなたの情熱からの重い息づかいと伸ばした腕は必要ありません。隣の仕事仲間を不快にします。
魅了されるものを見つけなさい。魅了されることは情熱よりもずっと健全でクールです。
コメディアンが冗談抜きで語る、人生の3つの真の鍵
私の人生の3つの真の鍵を教えます。この部分には冗談はありません。1つ目、全力を尽くすこと。2つ目、注意を払うこと。3つ目、恋に落ちること。
1つ目は、明らかにすでにわかっていることですが、仕事であれ趣味であれ人間関係であれ「M Sushi」の予約を取ることであれ、何をしていても、努力しなさい。純粋に愚かで、本当に何をしているのかわからない、そんな努力です。
たとえ努力の結果が完全な失敗だったとしても、努力は常にプラスの価値をもたらします。これは人生の法則です。ただバットを振って祈るというのは、多くのことに対して悪いアプローチではありません。
2つ目、注意を払うこと。もしあなたが巨大なカズー(口にくわえて声を出すと膜が振動して音が鳴る、シンプルな笛のような楽器)のように見える小さな潜水艇に乗って、海底7マイルのタイタニック号を訪れていて、船長がゲームボーイのコントローラーを使っているなら、注意を払いなさい。
「あそこで何を調べているの?」「ああ、わかった。この船は沈んだんだ。だから港に到着しなかったのか」。もしそこにいる魚がシェリー・デュヴァルのような目をして、頭から曲がったストローのような作業灯をぶら下げているなら、あなたはそこにいるべきではありません。魚たちが「何も見えやしない」と言っているなら、あなたにも見えないでしょう。
3つ目、恋に落ちること。人に恋することは簡単です。あらゆる機会に、何にでも恋することをお勧めします。あなたのコーヒー、スニーカー、青い駐車スペースに恋をしなさい。私は、人生で無意味な物理的なものに恋することで多くの楽しみを得てきました。
私が最も愛している物は、クリアバレルのビッグペンです。10本入り1.29ドル。私は心地よい感触の車のウインカースイッチに恋することができます。ちょうど良い圧力で崩れるピザクラスト。
仕事、運動、恋愛……許容できる“拷問”を見つけよ
私は本当に人生で想像できる最も小さなことに集中して、生きることの大きな問題にまったく気づかずに過ごしてきました。良い部分が大好きで、悪い部分もまあ許容できる。そんなものを見つけなさい。あなたが快適に感じられる拷問。これが人生での勝利への黄金の道です。

仕事、運動、恋愛、これらはすべて純粋に“拷問”としか呼べない要素を持っていますが、1,000パーセント価値があります。「特権」という言葉は最近かなり批判されています。今日、特権は持ちうる最悪のもののように思われています。ここで私は、特権を擁護したいと思います。また、多くの人が「なぜこの人を招いたのか」と思っているでしょう。手遅れです。
(会場笑)
私は「あなたの特権を使いなさい」と言います。私はニューヨーク出身のユダヤ人の少年として育ちました。コメディアンになりたいなら、それは特権です。
(会場拍手)
ありがとう。もし私が親戚の前でおもしろい話をしくじったら、彼らは「そんな風にジョークを言うんじゃない。妻が入ってきた時には、娼婦はカーテンの後ろにいないといけない」と言うでしょう。
あなたはデュークに行きました。それは信じられないほどの特権です。私は今、デューク大学から人文学の名誉博士号を授与されました。そして、もしそれを使う方法を見つけられたら使うでしょう。まだ何も思いついていません。それは、私が今着ているこの服装と同じくらい、実生活では役に立たないと思います。でも、いいじゃないですか? 受け取ります。
(会場笑)
私たちは誇るべきことを恥じ、恥ずべきことを誇っている
私の言いたいことは、私たちは誇るべきことに恥ずかしさを感じ、恥ずべきことに誇りを持っているということです。私が90年代にテレビシリーズ「Thanks」を書いていたとき……。
(会場歓声、拍手)
何というオーディエンスでしょう。
スタッフにはハーバード出身の人が多くいました。彼らはすばらしかったのですが、なぜハーバード出身であることをそんなに恥じていたのか理解できませんでした。彼らは決してそれについて話さず、決して言及しませんでした。
昔のハーバード大学はすばらしい大学でしたが、今やデュークです。
(会場拍手)
あなたはすばらしい教育を偽造したわけではありません。それを獲得したのです。誇りに思いなさい。ピックルボール(テニス、バドミントン、卓球の要素を組み合わせた、アメリカで発祥した新しいスポーツ)をサーブする直前に、「デューク24年卒、行きます」と人に言いふらすだけではなく。
もし誰かに聞かれたら、下を向いて地面を足でつついたりせずに「デュークに行きました」と言いなさい。相手がごくりと喉を鳴らすのを見届けなさい。
(会場笑)