2024.10.10
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Tom Hanks delivers the Commencement Address | Harvard Commencement 2023(全1記事)
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トム・ハンクス氏(以下、ハンクス):聞いてください。私は“ズル”をしました。どうか怒らないでください。
学問を一切することなく、授業を受けたこともなく、あそこに見える図書館には一度も足を踏み入れることなく、ハーバード大学卒業生や教職員のみなさんや、数多の著名な卒業生とは一切関連性がない私は、ハーバード大学の関係者(映画『ダ・ヴィンチ・コード』に登場するハーバート大学の教授)を演じたことで、今、裕福に暮らしています。
(会場笑)
世の中というものは、得てしてそんなものです。
カリフォルニア州ヘイワードのシャボー・コミュニティ・カレッジで2年、カリフォルニア州立大学サクラメント校で2学期、そして世間の荒波にもまれること45年、その間になんとか文学士号を取得しました。
本当に世の中、腹が立つことだらけでしたが、とりあえずひとこと言わせてください。ありがとうございます。
(会場拍手)
「ラテン語はわからない 酵素については興味すらない」(サム・クックによる楽曲『ワンダフル・ワールド』のパロディ)。
(会場笑)
公共政策学の大学間ネットワークである『グローバル・パブリック・ポリシー・ネットワーク』は、単語当てゲームの「wordle」をやる時に新聞でスキャンする時くらいにしか使いません。
本日は、学生代表のスピーチをしてくれたジョザイアとパラス、ヴィクに続いて、幕引き担当が私というわけですね。3人ともありがとう。
ハンクス氏:聴衆のみなさんの中には、かつて週5回放送されていた、ある有名なテレビ番組のオープニング口上を言える人がきっといますよね。
別の惑星からやってきた、人間離れしたスーパーパワーと超能力を持つ謎の男、その名は「スーパーマン」。ふだんは、大手新聞社の温厚な記者に偽装しています。……昔は大手の新聞がたくさんありましたね。中には、立派な新聞もありました。
(会場笑)
大河の流れを変え、素手で鉄をもひん曲げます。弾丸よりも速く飛び、機関車よりも強く、高層ビルもひと飛びの、すばらしい超能力の持ち主です。
一番すばらしいのは、力の使い方です。ネコを木の上から助け出し、悪は虚空の彼方へ吹き飛ばします。弱き者が最後に必ず救けられるまでがお約束です。
30分番組は、やがて映画やマルチバースへと成長を遂げていきました。……君たち若い人は、既存の作品をけっこう全部見ていますよね。
(会場笑)
こうした作品群に共通する戦いは、世界の平和を守るためだけではありません。悪者とその嘘を、白日の下にさらすさまを多く描いています。
スーパーマンとその仲間たち、ワンダーウーマンやキャプテン・アメリカ、ブラックパンサーやブラック・ウィドウ、そしてファンタスティック・フォー……。困ったな、数え上げればきりがないですね。
(会場笑)
彼らはみな、真実、正義、そしてアメリカの精神を守る終わりのない戦いに身を投じます。そのような戦いにおいて、スーパーマンであることはプラスです。
しかし、彼の唯一にして致命的な弱点は、住民の傲慢さと無関心によって破壊された、生まれ故郷の惑星のカケラです。残念なことに、地球にはスーパーマンも、ジャスティス・リーグの仲間たちもいません。私たち自身以外に頼れる者はいないのです。
ハンクス氏:ところで話は変わりますが、こういう記念式典の場で、歴史上の偉人の賢そうな言葉を引用したり、偉大な文学者や芸術家による語録を持ち出したり、友人だとする高名な人物の名を引き合いに出して(drop)、含蓄ある意味ありげな言葉を引用する有名人を信用してはいけません。
壇上に呼ばれて来る輩の中には、たまたまのタイミングでうまい場所に居合わせて、その時たまたま役に立つ物を手にしていただけ、しかも偉い人になんとなく態度が気に入られただけの運頼みで出世した連中がけっこういます。
マーロン・ブランドという男が、かつて私に言いました……。
(会場笑)
(電話に出るモノマネをしながら)「ちょっと名前を落としちゃったんだけど(drop)、拾ってくれないか」「マーロン、スピーチが終わるまで待っていてくれ」「わかった。終わったら拾って返して」。
マーロン・ブランドという男が、かつて言いました。留守電にこんなメッセージが残っていました。
(再び電話のモノマネ)「トミー、トミー・ハンカチーフ(トム・ハンクスに対する親しみを込めた呼びかけ)。マーロンだ。もしもし。今どこにいるんだ?」
(会場笑)
マーロン・ブランドが、こんな話をしてくれました。若い頃に軍の招集名簿に登録し、自分の名前と年齢をフォームに記入した時のことです。彼は「人種」という欄に「人間」と書いたそうです。
「トミー、だって俺たちはみな人間だろ?」。その通り。私たちはみな人間ですね。
ハンクス氏:ノンフィクションを読むのが趣味の、肘掛け椅子の歴史家として言わせてください。どの本も、みなさんほど困難に直面「しなかった」卒業生は、人類史上いないとしています。
(会場笑)
これらの本には、歴史の渦は春になると激しく渦巻くとあり、年も時代も世代も関係なく、私たちの運命が変わる分岐点である、できごとの川が大気に存在するというのです。
そして壇上にいる私たちは、角帽とガウンを着たみなさんを見てこう思っています。「ああ、ついに助けが来た!」
今日もどこかで、“鉄の男”か“鋼鉄の女”が入学して来ます。危機に瀕したギリギリのタイミングで、颯爽と登場する超人です。
みなさんを頼みにするのは、私たち上の世代が義務を失敗したからでも、疲れ果てたからでもありません。私たち上の世代は、非常にすばらしいこともしてきました。
でも残念なことに、私たちは全員が檻に閉じ込められて格闘技の試合をさせられているようなものなのです。総合格闘技のバトルロイヤルです。
対戦相手は、傲慢、無関心、不寛容を司り、無気力を蔓延させる悪のエージェントです。その害悪は、帝国のストームトルーパーやレックス・ルーサー、ロキに匹敵します。しかし、これからはみなさんというスーパーヒーローを使うことができます。
ハンクス氏:今、こうして壇上から眺めると、構内はスクールカラーをまとったみなさんでいっぱいで、まぬけな大きな手で拍手をしています。
(会場笑)
世界を象ったボールが飾られ、ピニャータからは飾りがたなびき、誰かの顔が大きくスクリーンに映し出されていますね。あ、あの女性ですね。
(会場笑)
みなさんは若く、疲れを知らず、エネルギーと想像力に溢れ、正義と知恵、喜びと思いやりを持っています。みなさんがここで獲得した叡智と倫理とを称えます。
残念ながら、弾丸よりも速い人はいないことを私たちは知っています。しかし、私たちは機関車よりも強い力を得られます。
うまいこと道具を使えば、一息に高層ビルを飛び越えることだってできます。必要があれば、大河の流れを変えることもできます。素手と同じくらい、やすやすと鋼を曲げる機械も作れます。
ハンクス氏:確かに、お互いが別の惑星からやって来たかのように、理解不能に思えることはあります。風習、趣味趣向、言語、祝日、食習慣、曜日の呼び方に至るまで、すべてが多様です。
でも、私たちはみな、他の人間には使えない特別なパワーと能力を持っています。網戸を簡単に修理できる人もいますし、5歳の子どもと赤ん坊の世話を同時に、24時間体制でできる人もいます。しかも、子どもたちを愛することを決してやめません。
(会場笑)
物理学や経済学、グローバルポリシーに秀でた人もいますし、最低限の収入でやりくりができている人もいます。何年にもわたるロックダウンの中、Zoomの授業で見事に大学を卒業するみなさんのような人々もいますよね。
私たちは単なる人間にすぎませんが、このような偉業を達成しました。すべてが輝かしい業績です。
でもやはり、空を見上げて、鳥でも飛行機でもない若くて強いスーパーヒーローが、真実と正義、アメリカの精神のため終わりのない戦いを繰り広げるさまを見たいのです。そのためにがんばる姿を求めるのです(1940年から始まったスーパーマンのラジオドラマシリーズ『The Adventures of Superman』の劇中で使われた「空を見ろ! 鳥だ! 飛行機だ! スーパーマンだ」という定番のセリフから)。
(会場拍手)
ハンクス氏:さて、変わり者の叔父がかつてこんなことを言いました。「学校なんざ、長くいればいるほどいいものさ。卒業した瞬間から、一生あくせく働かなければならないんだからな」。
少々悲観的に過ぎる気はしますが、間違ってはいない気がします。実際、上司の不平を言い、ローンを抱え、休日にはだらだら過ごすようになりますから。
(会場笑)
しかし、私たちに求められている、真実と正義、アメリカの精神を追及するという仕事には締め切りはありません。その仕事とは、1つにまとまった国を作ることです。この仕事は決して完了することはありませんし、注意力と色あせない意志、全員の協力が必要です。
仕事とは、約束の地における約束を守ること、品位を持って行動すること、自由を守ること、そして例外なくすべての人が自由を得る後押しをすることです。これは、大変な「仕事」です。
この「仕事」は、あらゆる職業の現場で日々行われています。一つひとつの仕事が真実と正義、アメリカの精神を守る戦いだと言えます。そう、「アメリカの精神」です。
ハンクス氏:アメリカの精神は、大規模に表明される場合もありますし、ちょっとした態度に出ることもあります。
日常的なやり取りの瞬間にも見られ、衆人環視の中で行われることもあります。歴史的な重みのある場にも、法廷にもありますし、ふだんの身近な場所にもアメリカの精神の実践を見ることができます。
アメリカの精神は、みなさんが法と人々の権利を遵守する場でも発揮されます。みなさんが守らなければ、誰が守るのでしょう?
食事を運んできてくれたウェイターにお礼を言う時もそうですね。みなさんが言わなければ、誰が言うのでしょう?
リサイクルゴミ箱からこぼれ落ちたゴミをあなたが拾わなければ、誰が? 良心に従って投票をする時、同様の権利を隣人も持てるよう手を差し伸べてあげなければ、他の誰が差し伸べるというのでしょう?
(会場拍手)
勝利して成功を修めること、失敗から学ぶこと、どちらも立派で崇高な努力の賜物です。あなたでなくて、誰がそうしますか?
ハンクス氏:アメリカの精神は、ここからそう遠くない場所で最初に実践されました。摂理によって決められたよりも多くの支配権を、英国がこの国に要求した時のことです(ハーバード大学が所在するボストン市において、1773年に反英闘争「ボストン茶会事件」が起き、米国独立戦争の契機の1つとなった)。
当時は、女性の権利は法的に守られていませんでした。米国の人口で大きな割合を占める人々が故郷から連れ去られて家財とされ、年齢に関係なく奴隷として労働に従事しました。
輝く海の間の地(アメリカ愛国歌の歌詞より、アメリカの国土を指す言葉)であるこの大陸に元からいた人々、アメリカのDNAを持つ唯一の人々は、下位の人間とされました。
このような矛盾をはらむ歴史を経てはきましたが、正義を確立し、国内の平穏を確保し、他国と手を結んで集団安全保障を行い、福祉を促進し、自分たちと子々孫々のために自由という恩恵を確保するのは、時間や議論、民主主義の制度が決めるように、私たちの性別や人種や信条や肌の色や選んだ神々や愛する人に関係なく、私たち自身の幸福を追求する権利が自明だからです。
すべての人には、侵されざる権利として「自由」があります。なぜなら、私たちはアメリカ合衆国の国民だからです(アメリカ独立宣言部分)。
(会場拍手)
ハンクス氏:アメリカの精神とは何か、私たちが共有する法律や権利はどんなものかと言いますと、哲学的な思索だったり、実はちょっとおもしろかったり、質問に質問で答える箇所もあったり、ラテン語の知識で煙に巻こうとしてきたりするものです。
(会場笑)
まあ、質問に質問で答えるのはごく一部で、残りの部分はすべて実用的な内容です。物質的とすら言えるほど確固たるもので、それは真実を語る言葉です。ラテン語で「真実」とは何でしたっけ?
会場:「Veritas」!
ハンクス:「 Veritas(ベリタス)」。真実を語る言葉ですね。真実を求める成人の儀式として、私たちは新たに加わったジャスティス・リーグやアベンジャーズのメンバーであるみなさんに救いを求めています。なぜなら、真実はもはや実証に基づいたものではなくなってしまったからです。
データや常識は無視され、良識すらありません。真実を語ることは、もはや行政の基準とはされず、真実が恐れを癒すこともなく、行動の指針にされることもありません。真実とは、意見やゼロサムゲームによってコロコロと変えられてしまうものになってしまいました。
画像は勝手に作り上げられ、自称専門家による嘲りの論理によって真実はねじ曲げられ、偽りの誠実さで言葉が添えられます。「ちょっと言っただけ」「ただ質問しただけ」「知りたかったから聞いただけ」などが、その常套句です。
ハンクス:今や自分の目は信じられず、耳から入るのは嘘だらけです。知らない人があなたに世界について伝えてくれますが、それはあなたが「こうだったらよいな」と望む、でたらめな“真実”です。
現状を維持するために作り物のナレーションが添えられ、反対意見はねじ伏せられます。ルールは作り変えられ、競技場は泥で汚されます。その人が属している社会層や、持つ道徳観によっても、“真実”は変わって来ます。
しかしアメリカの精神は、どんな平凡な人でも有名人でも、決して終わることのない祈りとして実践できます。
正義は日々追い求めることができます。稲妻のような速さで達成される場合もありますし、重力のようにゆっくりと、それでいて抗えない力である場合もあります。
しかし真実は、高地で育つのと同じくらい希少で、静寂と同じくらい捕えどころもありません。それでいて北極星や南十字星と同じくらい、指針の頼りにできるものです。自分で選んだ行動と、習慣化されたいつもの行動との交差点で、真実は見いだされます。
真実の同義語は「正直」や「名誉」や「透明性」ですが、多くの人はそれらの言葉をずさんに扱っては敵を作り、被害を主張します。凡庸なものを功績として祭り上げ、実際には澄み切っているはずなのに、曇っている風景を美しいと偽ります。
ハンクス:同様に、「真実」には「隠蔽」という反対語もあります。みなさんには、これを知る必要はありません。
真実ではないことに誘導すること。(演技をする)「それは真実ではない! 真実はこっちだ……」。千里眼を装った単なる意見。
(演技をする)「予言しましょう……これからこんなことが起こります……」。影響を安売りすること。
(演技をする)「まあ、聞いてください! 他の人が大勢こう言っていますよ!」。真実にもまた、どんな色のクリプトナイト(スーパーマンの弱点)にも匹敵するほどの手ごわい宿敵がいます。
野生の犬の群れの姿をしたその敵は、公道からほど近い草むらや影の中に潜んでいて、真実を襲って仕留める機会を狙っています。
その獣は「無関心」です。無関心は、真実が持つ永遠の力を無意味なものにします。無関心は、約束の地の約束をサビだらけにします。
プロパガンダや厚かましい嘘は時間とともに浸食されていきますし、やみくもな崇拝や作られたイメージは、輝きや効果を失っていきます。無知や不寛容は、一回じかに対面してみれば、それまでの考えを改めることができます。
しかし、無関心はアメリカの人々の視野を狭め、自由の女神の象徴的なたいまつの光を暗くしてしまいます。
ハンクス:無関心は市民を、専制者や暴君の下で労働に従属させられる契約奴隷にします。これらの暴君は、懐疑主義がデフォルト設定であり、反対意見を違法とし、芸術や対話や本を禁止し、あらゆる手段で権力を掌握します。
彼らは、共謀者がうまく言いくるめてくれるため力を持ち、根拠を正当化します。闘いで疲れ果てた人々はやがて無関心となり、そんな人々が作り出してした真空に吸い込まれていきます。
やがて希望を失い弱り切った人々は、フィクションの中のスーパーヒーローに救われることを切望するようになります。
それぞれの年の卒業生は、毎年、毎日、選択をしなければなりません。アメリカの他のすべての大人と同様に、アメリカで生きる3種類の人間から自分がなりたい1種類を選ぶのです。
すべての人の自由を尊重する人、しない人、そして無関心な人。アメリカを、分かたれることのない1つの国家(米国の国旗宣誓の言葉)にまとめる努力ができるのは、1つ目のアメリカ人で、その他はそれを阻む者です。
ハンクス:みなさんが今日から正式に参加した、この終わりのない戦いでは、今後の道を決めるのはみなさんです。固い信念を持ち、声を上げるのです。私たちはみな平等であり、それでいて多様性をはらんでいるという、まごうかたなき真実を死守するのです。
もちろん、私たち全員で力を合わせるのです。共に力を合わせれば、正義とアメリカの精神を手に入れることができます。
そこに性別や宗教、地位、文化、遺伝子構造、肌の色、先祖の出生地は関係ありません。なぜこれほどまでに明白な事実をなかなか受け入れず、尊重することすらできない人がいるのでしょう。
アメリカに生きる以上、私たちにはこの責務を果たす義務があります。実現させる手段は人それぞれですが、真実は神聖にして不可侵であり、合衆国の根幹に深く刻みこまれています。
私たちは超人ではありませんが、すべての人がこれを実現する力を持っています。私たちはアメリカ人です。自由と正義をあまねく広げるのです。
私たちはそれぞれが名前を持ち、生きた年数だけ年を取っています。そして私たちの人種は「人間」です。唯一にして無二のすばらしい生き物であり、シンプルに「人間」なのです。マーロン・ブランドが、かつてトミー・ハンカチーフに言ったように。
みなさんのこれからの人生の日々がすべて、幸福と慈愛に満ちたものでありますように。旅路に幸あれ。おめでとうございます。
(会場拍手)
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