2024.10.10
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Michelle Yeoh addresses the Harvard Law School Class of 2023(全1記事)
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ミシェル・ヨー氏:すばらしい紹介をしていただきありがとうございます。みなさん、こんにちは。マニング学部長、ボール学生部局長、ボック元学部長、このようなたぐいまれな栄誉をいただき誠にありがとうございます。2023年卒業生のみなさん、おめでとうございます。
(会場拍手)
なんとも晴れがましい日ですね。みなさんは、学業の旅路を無事終えました。保護者やパートナーのみなさん、本日ここにいるすべての学生の家族のみなさんにもお祝い申し上げます。大切な人が米国最高峰のロースクールを卒業する誇りと喜びは、何物にも代えがたいことでしょう。
(会場拍手、歓声)
卒業生のみなさん。今まさに世の中へ羽ばたこうとするみなさんにスピーチをするのはたいへんな栄誉です。高飛び込みの選手が虚空へと飛び込もうと身構える、あの胸の高鳴る瞬間を想起させます。
ところで、ご存知のように私は弁護士ではありませんし、弁護士の役を演じたこともありません。そんな私が、どうしてこの(法を学ぶロースクールの卒業式の)場に呼ばれたのでしょう?
(会場笑い)
まだ見ぬ希望に満ちた不確かな未来へ、今まさに頭から飛び込もうとする大切な日のスピーチ依頼が、なぜ私に来たのでしょう?
もしかしたら、高みのわずかな足掛かりから目のくらむ虚空へとダイブするような事態を何度も経験しているからかもしれません。そこで、跳躍とダイブを繰り返してきたこれまでのキャリアの経験から私が得た、シンプルなアドバイスをさせて頂こうと思います。
「ミシェル・ヨーによる3つの簡単なステップで墜落から生還する方法」です。
(会場笑い)
最初の1つはわかりやすいですが、簡単ではありません。「気楽でいましょう」ということです。
マレーシアのイポー市から始まった、アカデミー賞を掴むまでの私の旅路は、演技ではなくバレエに初恋をしたことがそもそもの発端でした。
私はごく幼い頃から、体を動かして表現することが得意でした。厳しく集中して鍛錬することで、自在な表現ができるようになりました。昼夜を問わず精力的に体を酷使して、多彩なバレエ技術の習得に努めました。
時折、疑念が頭をもたげましたが、心を落ち着けて抹消するように自らを律しました。バレエとは私にとって「安全地帯」、ゆるぎない未来、たどるべき道だったのです。
イギリスのバレエのアカデミー(ロンドンの「ロイヤル・アカデミー・オブ・ダンス」)に留学し、いよいよ夢が叶うというタイミングで、無情にも人生は別の道へと続くことになりました。私は脊髄損傷を負い、バレエの道は閉ざされました。夢は泡と消え、思い描いていた人生は終わりを告げたのです。
バレエの夢が打ち砕かれた時にかけてくれた、アカデミーの校長による励ましには心から感謝しています。その言葉はやがて、想像を超えたキャリアに私を導いてくれることとなりました。「もっと気楽に将来を考えましょう」。そう言って励ましてくれたのは彼女です。
落下時は衝撃に備えるために身を固くして構えがちですが、実は最も安全なのは平静を保つことです。さらには、身の周りの変化する世界に興味を持つことです。
卒業しクリエイティブアートの学位を取得して帰国すると、私は他の可能性に目を向けるようになりました。意識してみると、それまで気づかなかった自由な選択肢が目につきました。
こうして新たな扉が開かれました。私は香港でコマーシャルに出演し、演技の仕事をするようになりました。映画俳優としての人生が始まったのです。
ここで2つ目のアドバイスです。
「自分の限界を知りましょう。何ができるかを把握することは大切です。一方で、できないことを把握するのも重要です」。
これは、内外の2点で役に立ちます。まず内的には、自分の限界を知ることで謙虚さとやる気を保ち、設定した目標に向け努力することができます。
外的には、他者に限界を設定された場合に人差し指ではない別の指を使う機会を得ます。そう、中指ですね。
(会場笑い)
自分で限界を設定した場合は、尊重するべき境界線の線引きができます。他者が制約を設けた場合は、打ち壊そうというやる気がわきます。
香港で映画業界に参入しようとしている若い女性だったころ、私はあらゆる場面で制約に直面しました。当時は、控えめで従順な、ただ助けを待つだけの「囚われの姫」のようなステレオタイプな役割ばかり与えられました。やがて私は、本当にやりたいのはアクションで、ヒーローを演じたいことに気づきました。
こうした役をもらえるのは、当然のように男性だけでした。しかし「殺陣」はバレエの振り付けと同様に様式が確立されており、バレエの経験のある私なら、チャンスさえもらえれば男性の俳優よりもうまくやれると確信していました。
それで私はプロデューサーに直談判して、アクション俳優の役が欲しいと伝えました。もちろん、ちゃんと「お願いします」と言い添えましたよ。「男性の俳優には負けません。殺陣もできるし受け身も取れる、ワイヤーワークだって自信があります。楽勝ですよ」って。
(会場拍手、歓声)
ついにアクション映画主演の依頼が来たとき、チャンスは1回きりだと覚悟して臨みました。アクションスターとして「使える」ことを証明できるのはこの作品のみです。失敗したら2度目はありません。撮影では、持てる能力のすべてを出し切りました。
なんともありがたいことに、観客はアクションコメディの主演女優を熱狂的に受け入れてくれました。映画『レディ・ハード 香港大捜査線』はヒットを遂げ、私はアクション俳優としてデビューを果たしたのです。
ジェット・リーとジャッキー・チェンに並んで、香港の保険会社が補償を拒否した3人の中に私の名前が挙がっていることを知った時には大喜びしました。
(会場笑い)
保険会社の担当者は、撮影現場を一目見るなり引き受けできないと即答したそうです。この話は私にとってまさに“名誉勲章”でした。
時は流れ、私はいつの間にか当然のように屋上を走り、移動中の列車にバイクで飛び乗り、大型車の天井から対向車に転がり落ちるようになりました。良い子は真似しないでくださいね。
もちろん故障は多々ありました。擦過傷やあざ、椎骨骨折も負いましたが、そのたびに私はより強く、より勇猛になってカムバックを果たしました。
うまく落下する方法を覚えれば着地も上達します。着地がうまくなれば、より高みからジャンプする勇気が出ます。「ジェームズ・ボンド」のプロデューサーから映画『トゥモロー・ネバー・ダイ』出演の打診があった時には、てっきり「ボンド」役のオファーがきたのだと思い小躍りしました。
(会場笑い、拍手)
大変ありがたいことに、プロデューサーのバーバラ・ブロッコリとマイケル・G・ウィルソンは、「ウェイ・リン」というキャラクターを、確固たる実力のある役として設定していました。ウェイ・リンは常にボンドの一歩先を行く手ごわいエージェントで、彼とは対等の存在です。
「ウェイ・リン」のキャラクターは「ジェームズ・ボンド」シリーズに新風を吹き込み、これまでの作中で描かれてきた時代遅れな女性像を刷新したと言われました。バーバラとマイケルに感謝を伝えます。
「ボンド」映画の後にもオファーは来ましたが、自分が妥当だと思う役を依頼されるまで2年待ちました。人物像の描写に丁寧さや深みに欠けると感じた台本は断りました。正直なところ、こうして待つ間、自分は果たして正しいことをしているのかと不安になったこともありました。俳優とは演技をしたい生き物なのです。
とはいえ、志を同じくするクリエイティブな人々と共に深く掘り下げることができて、生き生きとした存在感のある人物像として創造できるような役でなければ、演じる喜びを感じられないことはわかっていました。そして、ついに出会った作品が『グリーン・デスティニー』でした。
(会場拍手)
『グリーン・デスティニー』の出演後はオファーがどっと増えたので、私は正しかったのでしょう。この体験は、制約がどれほど大切かを示しています。制約を受ければ、それは壁となります。より良い物を手に入れようとがんばり、努力し、常にやる気を持ち続けるには、壁の存在が一番うってつけです。
屈辱的な役のオファーや拒絶、過小評価を受けるたび、私は気持ちを奮い立たせ、やる気を新たにしました。
ここで3つ目の最後のアドバイスです。
「仲間を見つけてください」。人生はすべてが“ゼロサムゲーム”ではありません。勝者がいても、必ずしも敗者はいません。サクセスストーリーのほとんどは協力によるもので、競争によるものは実は多くはありません。
実際これまでお話ししてきたことはどれも、私一人の力では達成は不可能でした。これまで私の業績とされるものは、周囲から手を差し伸べ、支え続けて信じてくれた人々のおかげです。
自分にがっかりしたくはありませんが、支援してくれる人は絶対に失望させたくはありません。私が「仲間」と表現する人は広範囲に及びます。家族や大切な人、友人はもちろん、同業の俳優や監督、プロデューサー、映画のスタッフや撮影クルー、ダンサーやミュージシャンをはじめ、これまで出会ってきたアーティストたちです。
「仲間」は時を超えて存在します。先達の肩には支えられ、後に生まれた人々には活気づけられ、刺激を受けています。実際に顔を見知っている人以外にも「仲間」はいます。
だからこそ、映画の登場人物像はとても大切なのです。映画の中でも現実でも、私は多様性を非常に重んじています。常に女性を念頭においていますし、主役とする場合には特に意識します。身の周りの世界にある豊かさや多様性に光を当てれば、人類全体に力を与えることができます。私たちはみな、そうするべきではないでしょうか。
私の「仲間」は映画業界の外にもいます。目下務めている「国際連合開発計画」UNDP親善大使の仕事では、世界中の社会を蝕み続ける深刻な不平等を目撃しました。特に人道が危機に瀕している地域では、きれいな水やワクチンなどの大切な資源の供給は、女性と女児が後回しにされているのを目の当たりにしてきました。
こうした苦難にある女性たちとは、努めて同じ目線でいるよう心掛けています。
(会場拍手)
変化に必要なのは共感です。他者の視点を通して見ることで、他者に共感することができます。これは、実際にできる行動を起こす原動力になります。思いやりは私たちの中の究極の力です。落下防止ネットなしで飛び降りても、他者があなたのネットになってくれますし、あなたが他者のネットになることもできます。
ここでアドバイスをおさらいしましょう。
気楽に構え、自分の限界を知り、仲間を見つけてください。
さて、最後に『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』について簡単に触れようと思います。
(会場拍手、歓声)
この映画は、いろいろな意味で私が今日お話ししたすべての集大成です。ジャンルに縛られず、お気楽で展開は予想がつかず、分類が不可能です。
低予算であるがゆえに制約を無視できたおかげで、世界中で社会現象を巻き起こしました。独創的で才能のある仲間たちが結集し、普遍的な人間の物語を作りたいという共通の想いを実現させました。
本当にすばらしい体験でした。時代の波をこの手で起こしているような感覚でした。
私のライフワークの集大成として、愛を込めて作った映画『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』の残響は、今もなお続いていることを随所に感じます。映画業界に大変革を起こしたこの映画は、インデペンデントな試みの受け入れを進め、映画の登場人物にアジア人が増える機会を広げたのです。
(会場拍手)
未知の空虚へ輝かしい飛躍を遂げようとする時に私が思い出すのは、この映画です。
2023年卒業生のみなさん、私からの贈り物を受け取ってください。今日みなさんは卒業して世に出て行きますが、どうか気楽に構えて、賢くあり、愛を持って世に飛び出してください。そして何度でも何度でも跳躍してください。
みなさんがこれから作る世界を楽しみにしています。そして旅の初めにささやかなお話をお届けできたことを光栄に思います。
ありがとうございました。みなさんのご多幸を願っています。ご卒業おめでとうございます。(拍手)
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