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ギャローデット大学 2022年卒業式スピーチ ティム・クック氏(全1記事)

ティム・クック氏が、聴覚障害者のための大学で語ったこと 「意義があり、満たされると感じるような生き方とは……」

ワシントンD.C.にある視覚障害者のための私立大学ギャローデット大学。同大学の卒業式に、学生からSNSを通じて招待を受けたApple CEOのティム・クック氏が登壇。コロナ禍という試練を乗り越えた卒業生に向けて、将来や決断に迷った時の考え方や、大学で築いたコミュニティの重要性などを語りました。

聴覚障害者のための大学の卒業式に、ティム・クック氏が登壇

ティム・クック氏:この記念すべき式典に、みなさんと共に出席できる名誉をうれしく思います。ロバータ・コルダノ学長、理事会の各位、学生のみなさん、教授各位、そしてスタッフのみなさん。観覧席で喜びのさなかにいるご家族や友人方、本日はご歓待いただきありがとうございます。

ドロシー、カール、ローレン。ご卒業おめでとうございます。大舞台でスーパーヒーローを演じたのはこのうちの1人ですが(注:聴覚障がいをもつ女優、ローレン・リドロフは、初の舞台でトニー賞の演劇主演女優賞にノミネートされた。出演作は『Children of a Lesser God』)、3人とも聴覚障害者コミュニティの先駆者や代弁者として、すばらしい手本となり活躍しています。

そしてマーリー。力強い言葉をありがとうございました。丁寧なご紹介にあずかり感謝します(注:マーリー・マトリンは、聴覚障害者のオスカー受賞女優。出演作『コーダ あいのうた』は、第94回アカデミー賞で作品賞を受賞)。みなさんもご存じのとおり、マーリーはキャリアを通して一貫してバリアを打ち破り、ステレオタイプに抗ってきたすばらしい女優です。

彼女の才能はスクリーン上でも輝いていますが、スクリーン外でもそうです。彼女は、人としてリーダーとして、先駆者としてもすばらしい方です。その行動は高潔で品格があり、我々Appleも、彼女と『コーダ あいのうた』でコラボレートする機会に恵まれたのは幸いでした(『コーダ あいのうた』は準備と撮影においてApple TV +とパートナーシップ下にあり、Apple TV+が2021年に配給権を獲得)。

さらに、Appleが近年ギャローデッド大学と築いてきたパートナーシップにも深い感謝の意を表明します。Appleは、すべての人に使っていただけるアクセシビリティ機能に力を入れており、ギャローデッド大学のような革新的で献身的なパートナーに恵まれたのは幸運でした。

聴覚障害者を中心としたビジネスや、聴覚障害者に寄り添ったビジネスとユーザーが手を組める、一連のガイド機能をApple Mapに導入できたのは、このコミュニティの協力のおかげです。今後も長きにわたるパートナーシップの構築に期待します。

(会場拍手)

コロナ禍という「未知の障壁」を乗り越えた卒業生

2022年卒業生のみなさん、ご卒業おめでとうございます。今日この日に至るまで、まったく先が見えなかったにも関わらず、みなさんはこのような業績を成し遂げました。毎年、卒業生を何かしらの困難が襲うものですが、みなさんのそれは、これまでにないほど甚大なものであったことは間違いありません。

パンデミックで世界がひっくり返ってしまった当時、みなさんはまだ2020年の春学期を迎えたばかりで、勉学に励んでいたことと思います。ある人は、生まれて初めて自分を受け入れてくれたと感じられるコミュニティである、キャンパスを去らなくてはいけませんでした。またある人は、家族のように仲の良い友達やクラスメイトと離れ離れになって、ワシントンD.C.で孤独に暮らさなければいけませんでした。

ここにいる全員が、まったく変わってしまった不確かな世界で生きる術を模索することになったのです。今日の卒業式への到達を妨げる、数々の未知の障壁と対峙することを余儀なくされたのです。しかし、みなさんはそんな障壁に妨げられはしませんでした。

今日、みなさんがこの式典会場にいるのには、当然の理由があります。ここに至るまでがんばったからです。その努力を否定できる者はどこにもいません。

(会場拍手、歓声)

人々の「どう生きるか」への考え方を変えたパンデミック

今日の式典のテーマは「不屈の精神」が選ばれたとのことですが、苦渋の忍耐を強いられ、未来をつかむために、やり抜く力と持てる力とを総動員してきたみなさんにはぴったりのテーマだと言えるでしょう。

ギャローデッド大学は、みなさんに生涯の宝を与えてくれました。キャンパスで学んで得たものは、みなさんが自覚しているよりも多いはずです。図書館や講堂で、寮の部屋での明け方までのディスカッションでも、学びがありました。ここで得たものは学位や公的な教育だけではありません。経験や洞察力、知恵であったはずです。

人類史で見ても、この時代は、身近な問題が世界各地で解決を試みられている問題と共通しているのが特徴です。なぜなら、パンデミックが根本から変えてしまったのは生活様式だけではないからです。生き方についての考え方が変わってしまいました。

人はみな自問自答します。人生で何をやりたいのだろう? 何になりたいのだろう? 根底に流れるのは、人間にとっての根源的な疑問ではないでしょうか。意義があり、満たされると感じるような生き方とは、どのようなものだろうか? そして、みなさんが抱くその疑問へ答えを出せる者は、私も含め、存在しません。iPhoneにも、みなさんを救う機能はありません。AIは優れた機能を持ちますが、そこまでの力はありません。

でも、お伝えしたい大切なアドバイスが1つだけあります。とても大切なことで、今日お伝えしたいのはその1つだけです。ではお話ししましょう。

ティム・クック氏からの唯一のメッセージ

何であれ行動を起こす際には、自分の価値観を大切にして生きてください。「価値観を大切にする」とはつまり、日々行う大なり小なりのすべての決断は、真の自分と自分の信念を理解した上で行うということです。

真の自分と信念は、日々変動しますし、変動しないと困ります。私たちはみな、歳月の経過と共に学び、成長していきますから。しかし、根源的な価値観というものが存在します。人格や性格を形作る上での核となるものです。生きていく上で、原点として立ち返っていくべきものです。

みなさんはギャローデッド大学で世界レベルの高等教育を受けました。ここで過ごした時間の中で、自分の信念やその理由を解明するために、周囲の世界について深く広く考察したものと思います。大切なのは、そういった考察や価値観を活用して、自らを導いていくことです。意義があり、満たされると感じるような生き方とは、そのようにしてできています。

そもそも私がAppleに入社したのは、そうした「生きる意義」に導かれたからでした。Appleは、人の生活を豊かにするテクノロジーの創造を社是としてきました。これは人間の価値観を常に見つめ続けることでのみ達成できることだと信じています。

そして、すべての人に使っていただけるアクセシビリティ機能や基本的なプライバシーの保護に力を入れ、後に残す世界を当初よりももっと良いものにできるような環境保護に、Appleが力を入れている理由です。

大学で築いたコミュニティの重要性

私は、仕事やプライベートで難しい決断を下す時には、常に自分の持つ価値観に従ってきました。サステナビリティの持続活動への資金について苦言を呈された時には、気候変動の解決は人類が掲げ続けるべき重要な目標であると自覚していたので、その価値観に基づいて声明を出しました。

(会場拍手)

プライベートでは、自分の持つ価値観に導かれ、ゲイであることをカミングアウトしました。ゲイであることを隠して生きている人々に希望をもたらすことができるかもしれないと考えたからです。

(会場拍手)

一言で言えば私の価値観は、すべての行動の原動力であり、すべての決断の核です。企業の経営と良い人生を送ることはまったくの別物ですが、自分と自分の信念に誠実であることは、どの決断の時もとても大事です。人間関係を円滑にし、仕事への充足感をもたらし、少しの運と多くの努力で、意義深い人生を送ることができます。

意義深い人生が、一番想定外なものになる可能性もあります。どんなに努力したとしても、未来は予測できません。それでも良いのです。

エレノア・ルーズベルトはこう書いています。「人生が予測可能であれば、それはもはや人生ではなく、その楽しさも失われる」。

将来を悩んだり、曲がりくねった道が眼前に現れた時は、「何が起こるのだろう」と考えるのではなく「どう生きるべきだろう」と考えてください。他者に優しく、思いやりをもって接してください。自分よりも大きなものの一部となることの醍醐味に気づいてください。

他者のために行動することのすばらしさを見いだしてください。私たちが暮らすこの地球を導き、より良くするために戦ってください。より平等でアクセシブルな社会を作ってください。この大学で築いたコミュニティを大切にしてください。なぜなら、この先どんなことがあろうとも、共にシェアする仲間がいれば、成功の喜びは大きく、挫折の苦悩は小さくなるからです。

何にもましてみなさんが、幸福と喜びに溢れ、意義があり満たされ、求めるものが得られる人生を送ることを切に願います。

2022年卒業生のみなさん。今日はみなさんが主役です。これからみなさんが何を成し遂げてくれるか楽しみにしています。ありがとうございました。おめでとうございます。

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