2024.12.19
システムの穴を運用でカバーしようとしてミス多発… バグが大量発生、決算が合わない状態から業務効率化を実現するまで
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千葉佳織氏(以下、千葉):続いて、「伏線の回収」についてです。前提の覆し、という言い方もできます。ジョブズは「iPhone」の説明のプレゼンの中で、「3つの機器を作りました」と言って、それぞれの要素を出し、その後で「実は1つだった」と伝えています。本来3つあるべきものが、1つに集約されるなんてすばらしい。これが前提を覆していて、より人の心をつかんでいるんですね。
実はこの前提の覆し、伏線の回収には、2つのパターンがございます。これを考えながらスピーチ・プレゼンをしていただくと、よりジョブズに近づいてまいります。まず左側からご覧いただきましょう。「思わぬ良いポイントが加えられる」プレゼン・スピーチです。
今回のジョブズもそうですね。「Apple社はふだんから新開発しています」「3つの機器があります」「作りました」と。この時点で幸福です。すばらしい。「でも、実はこれが1つだったんです」と、さらに一段階上がるというものですね。
続いて、右の緑色の部分になります。「逆境から這い上がっていく」スタイルです。
例えば、「Apple社は新開発してます」と。「ただ、どうしても作り上げることができなかった。困難なものがあったんです。それは○○。今から私の失敗談について話します。それは2年前のことでした……」。
うまくいかなかったこと、昔の自分は今と違ってできなかったんですよ、というところから始めて、そこからがんばって、結果的に1つにまとまったiPhoneを作れた。このように話すと、最初はできないと思っていたけどできたんだという、「つかみ取った幸福」を表現できるんです。
千葉:企業の新作発表会の場合は、左側が使われることが多いです。最近だと、トヨタの豊田(章男)社長がEV(電気自動車)のモデルを発表したんですね。最初は5台のモデルを発表し、5台の車が並ぶ前で豊田社長が話し続けるんです。そして「私たちは30台作りました。どうぞ」と言うと後ろの幕が落ちて、今度は豊田社長の後ろに30台の車が並ぶんですね。これも、スティーブ・ジョブズと同じ、さらなる幸福、という構成です。
では、これを真似るためにはどうすれば、と思いますよね。左側の場合は、1、2、3段階と上がっていきます。まずは、最も伝えたい3から埋めてみてください。今回だと「3つの機能がそろった高性能のiPhoneができた」、これがスティーブ・ジョブズが言いたかったことですよね。
じゃあここから、一つひとつ階段を下りるようにするには、どんな情報を入れるとおもしろいのか。こうやって発想を転換させて考えていくんです。今回の場合は、新製品を開発して3つ機器を作って、実は3つが1つだった、という流れになります。
これが仮に、逆境から這い上がっていくパターンだとすると、「新製品を開発しましたが、より高度なものを目指したら失敗が続きました。今日はみなさんに謝罪しに来たんです」のように話し始めてもよかったかもしれません。「でも、実はこんな努力をして、結果的にこれができました。自分も感動してます」というストーリーテリングでもいいですね。
ですので、みなさまが何かスピーチ・プレゼンを行う時、「いや、こんな高度なことはできない」と思うのではなく、ジョブズの型を真似るように伏線回収を楽しんでいただくと、より幅が広がってまいります。
千葉:3つ目、「立ち位置の変化」です。実は、ジョブズはお話をしながらたくさん動いているんですね。ずっと動いているようにも見えますが、これはかなり計算して動いているんです。例えば、「2年半、この日を待ち続けていた」。ここで始めて、数歩歩きます。そして、止まります。「数年に一度、歴史を変えるような○○なものが現れる」。また数歩歩きます。「私たちもそうなりたいんだけれど……」という感じですね。
なので、ずっと動いているというよりも、ここで決めたい、というところで止まっています。さらに、一文が終わったら数秒程度の間を自然にとるために、意識的に数歩歩いているんですね。間が空くと、前の文章を理解しやすくなります。次にどんな話をするのか、ドキドキします。間をとることと、動きと変化というものは密接につながっているんです。
何よりもすごいのは、最初左側にいたジョブズは、「3つの機能、1、2、3。そうです、ぜんぶ1つになってiPhoneです」という見せ場の時、真ん中で話しています。ここでおそらく、たくさんのメディアからシャッターを浴びるんだろう、と考えて、意識的に左から真ん中に来ているんですね。
なので、メディアから見た時、聴衆から見た時、自分やスライドへの視野がどのように移り変わるのかに合わせて立ち位置を変化させていくことも、非常に大切ですね。まだまだご紹介したいことはあるんですけれども、スティーブ・ジョブズの項目は以上としております。
千葉:続いて「キング牧師から学ぶ」、やっていきましょう。キング牧師といえばアメリカの黒人解放運動、そして公民権運動の指導者ですね。ノーベル平和賞を受賞しています。特に「I have a dream」が有名ですが、これは約30分というすごく長いスピーチなんです。今回は冒頭と中盤を紹介しますね。
「本日私が、アメリカ合衆国史上、もっとも偉大な自由のためのデモとして歴史に刻まれることになるこの集会に、みなさんとともに参加できることをうれしく思います。100年前、ある偉大なアメリカ人がいました。我々は今日、その人物をかたどった像の前にいます。
彼は奴隷解放宣言に署名しました。この画期的な布告によって、情け容赦ない不公平の火の海にさらされてきた何百万人もの黒人奴隷たちに、すばらしい希望の光がもたらされました。奴隷解放宣言は、囚われの身であった彼ら黒人奴隷の長い夜が終わり、喜びに満ちた夜明けとなりました。
しかし、100年後の今、我々は痛ましい現実に向き合わなければなりません。それは、黒人が未だに自由ではないということです。100年後の今、黒人の生活は、不幸にも未だに人種隔離の手かせと人種差別の足かせによって縛り付けられている。
100年後、黒人は物質的な繁栄という広大な海原の真っただ中に浮かぶ貧困という孤島に暮らしている。100年後、黒人は未だにアメリカの社会の片隅でみじめに暮らし、自分たちの国なのに国外追放者かのごとく感じています。そこで我々が今日、ここに集結したのは、この悲惨な状況を浮き彫りにするためである」
千葉:スピーチはこのように始まります。さっそく1つ目のポイントを紹介します。それは「リアルタイム性」です。スライドの黄色い文字に注目してください。
「我々は今日、その人物をかたどった像の前にいる」。これはYouTubeを視聴するという感覚とは違います。今日この瞬間、この場所でないと感じることはできないということなんですね。「今日、あなたとともに私はこの場所に立って、一緒に考えていくんだ」「この空間は、今後二度と存在しないすばらしい場所なんだ」と。それを「今日」という言葉が示しています。
さらに「我々が今日、ここに集結したのは、この悲惨な状況を浮き彫りにするためである」という部分もあります。インターネット上で動画を観て、一人ひとりが「そうだ、そうだ」と思うことよりも、このリアルの場で集まっていることによって結束力が生まれますよね。
だからこそ、キング牧師は何百人、何千人という人たちに向けて「今日この場所だから意味があるんです」「私とあなたはこの空間を共有しているんです」ということを意識的に伝えています。そうすると「今日この場所に参加して良かった」「この日、この場でしか聞けないのだから、しっかりと話を聞こう」といった意識が生まれます。これは現代においても応用できることですよね。
千葉:続いてのポイントは「言葉の連続による効果」です。文頭表現、文末表現、両方に使用が可能になっています。ここで、スピーチの終盤に近い部分を見ていきましょう。
「私には夢がある。それは、アメリカンドリームに深く根ざした夢である。私には夢がある。いつの日か、この国が立ち上がり、『すべての人間は生まれながらにして平等であることを、自明の真理と信じる』という、この国の信条を真の意味で実現させるという夢が。私には夢がある。いつの日か、ジョージア州の赤土の丘で、かつての奴隷の子孫たちと、かつての奴隷所有者の子孫たちが、兄弟の間柄として同じテーブルにつくという夢が」
ここから「私には夢がある。私には夢がある」と続いています。
また、キング牧師は「この信念があれば、この信念があれば」という言葉もたくさん続けています。このように言葉の連続があると、「どれだけ夢が強いのか」「どれほど信念があるのか」が伝わってきます。つまり、文頭表現で何度も同じ言葉を使用することによって、「自分がもっとも言いたいことを強調」したり「その言葉で周りを鼓舞」したりすることができるんです。
実は、文末表現も同様なんです。例えば、私が「伝える力の大切さ」を説いたとします。「『伝える力』を学ぶことが大切です。なぜなら、夢を持つことができるからです。仲間を見つけることができるからです。将来を切り開くことができるからです。だからこそ、今目の前で……」といった感じです。
「〇〇です。〇〇です。〇〇です」と言われると、たくさんあるようなイメージになりますよね。このようにリズムをよくすることによって、より美しく強調する手法があります。
千葉:そして「接続詞の効果」です。これは「一文の長さの調節と期待値づくりに効果的」です。キング牧師のスピーチでは「『そして』アメリカが偉大な国家となるためには、これを実現させなければならない。『だからこそ』……」、「しかし」などの接続詞が多いんですね。
日本語の場合、接続詞を使わず「〇〇ですが、〇〇だと思います。〇〇で……」など、一文を長くすることもできます。でも、接続詞を使うと、その文章の役割が明確になるんですね。しかも一文が短くなるので、話し言葉として情報が入りやすくなります。
さらに、「しかし」は否定するんだな、「そして」は加えるんだな、とわかります。この情報が最初に入ってくることによって、「次に彼はどんな話をするんだろう?」というドキドキ感や緊張感も作ることができる。より短い話し言葉のほうがわかりやすいからこそ、接続詞の効果を使って、周りとコミュニケーションを取っていくことが大切です。
「どのように聴衆と会話していくのか」という考えから、このようなレトリックが生まれています。以上、キング牧師から学ぶことができるポイントでした。
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