2024.10.10
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バブソン大学 卒業スピーチ2019 豊田章男 氏(全1記事)
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豊田章男氏:今日、この場に招いてくださったバブソン大学のみなさんに感謝したいと思います。ヒーリー学長、カポッジ会長、ライス学長補佐、ディーン・ローラグ、運営委員会の方々、両親、パートナー、友人たち、赤ん坊たち、そして卒業生のみなさん、こうしてバブソン大学の100周年を記念し、お話しさせていただけることを非常に光栄に思います。
この特別な2019年の卒業生へ、まず私から、お祝いの言葉を申し上げます。
では単刀直入にお話いたしましょう。そこに座っているみなさんの中に、卒業後どこで働けばいいのかというストレスでいっぱいな方がいると思います。「どんな企業が自分を雇ってくれるんだろう」なんて考えていると思います。では、そのお悩みをいますぐに取り払い、みなさん一人ひとりに働いてもらいましょう! そう、トヨタで! まだ人事部の許可はおりていないんですが……。
(会場笑)
きっと大丈夫でしょう。さあ、これで就職のお悩みは解決しましたね。もっと大切な話をしましょうか。このものすごく大切なときをどうやって過ごすか。今夜どれだけ羽目を外してこのパーティーを楽しむか、ということなんかですね。
それから、もっと大事なのは……私も仲間に入れてもらえますか? でもあんまり遅くはいられないんですよ、明日は『ゲーム・オブ・スローンズ』の最終回ですからね。
(会場笑)
これは言っておかないといけないんですが、私がバブソンにいたとき、自由な時間なんてまったく持てませんでした。英語で講義を受けるというのは、私には本当に難しかったんです。
全集中力・全自由時間を費やしました。パーティーにもアイスホッケーにも行かず、ただ寮、講義、図書館、寮、講義、図書館の繰り返す毎日。ですから、バブソン在学中の私を一言で言うと、「つまんねえヤツ」でした。
でも卒業してニューヨークで働きはじめたら、まるで失った時間を取り戻さんばかり、あれよあれよという間に「夜の帝王」ですよ。
(会場笑)
私とおんなじことをしなさいと言っているのではありません。みなさんの顔を見れば、誰も「つまんねえヤツ」じゃないとわかります。きっと、充実したキャンパスライフを楽しんできたんじゃないかと思っています。
ここにお招きいただいたからには、まず「つまんねえヤツ」になんかならないで楽しんでください、ということをお伝えしたいのです。自分が本当にハッピーでいられるものを見つけ出してください。「何が人生を楽しくしてくれるのか」をです。
私が学生だった頃、ドーナツに楽しみを見出したんです。アメリカのドーナツは心躍る、衝撃的な大発見でした! みなさんにもそんな「ドーナツ」を見つけてほしいのです。
自分をハッピーにしてくれるものを見つけて、離さないでください。わかってほしいのは、「これから諸君が登らなくてはならないだろう険しい山々や直面するだろう困難」なんていう平々凡々な話をするために、私はここに来たんじゃないということです。そうじゃない。
ただ前を向いて、すべてうまく行くと考えていたほうがいいと思うのです。私は、みなさんが大物になると思っています。本気ですよ。それが厄介なんです。みなさんは成功します。しっかり出世して、お金を得ることでしょう。でも、それは楽しいことでしょうか? それは、あなたが愛してやまないことでしょうか?
才能に溢れるみなさんのような人は、ある日目が覚めたら、住宅ローンとバブソンを卒業させなきゃいけない3人の子どもという黄金の手錠に囚われているということに易々と気づくでしょう。
(会場笑)
家業を継ぐか否か、どちらにせよ、今が心底やりたいことを見つけ出すときです。キャリアを積み上げだしたばかりのときが、一番おいしい時期です。いろいろ試してみる自由があります。避けがたい人生の責任というのが、「その後」に増えていきます。
だから今の時期を有効に使って、自由を謳歌して、若さがあれば自分の素敵な世界を見つけることができます。予想通りにいかないことを恐れないでください。
いろんな点で私はラッキーでした。というのも、かなり早い時期から自分は何がしたいのかわかっていたんですね。子どものとき、タクシードライバーになりたいと確信していました。完全に叶ったわけではないものの、非常に惜しいところにいます。ずっと自動車を運転して、ずっと自動車に囲まれていて、ドーナツよりも好きなものがあるとすれば、それは自動車です。
トヨタは80年以上自動車をつくり続けていますが、織り機づくりのビジネスから始まっています。曽祖父が自動織り機を開発し、祖父の喜一郎が自動車産業へコンバートして、今のトヨタ自動車を創設しました。
トヨタの三代目が私ですが、みなさんはこんなことわざを聞いたことがあるでしょう。三代目は苦労を知らない。三代目が台無しにする。まあ、願わくば例外であってほしいと思います。最終的に私はバブソン大学を卒業したわけですから。
(会場笑)
幸運もあるでしょう。だけど、CEOになったあとすぐに、大恐慌、地震、津波、リコールがありました。ワシントンDCの議会に証言をしなければなりませんでした。その時ばかりは本当に仕事をしたいと思いましたね、タクシードライバーのほうの。
(会場笑)
でも「今は元気ですよ」と言えるので満足しています。というのも、バブソンで学んだことがトヨタで活きているからです。何よりも役に立っているのは、起業家精神の感覚でしょう。この場所でインストールしたものです。トヨタほどの大企業であっても、私はスタートアップとして考えようと心がけています。
実際、何十年来の家族でビジネスを走らせることの課題もあって、それは革新を求められたときによろこんで変わることができるかということです。客観的に物事を見極められるか。不安要素にしがみついてしまわないか。ある時、繊維をつくることのリスクをどうやってとるか。それに自動車、その次だってありますよね。
今日、この産業には、多くの他の産業と同じように、革命が起こっています。今から20年後にどんな車種が道を走っているのか、私でさえ予測つきません。ですが、バブソン時代に戻ってみれば、逃走よりも変容すべきだと気が付かされます。私もあなたたちに同じことを伝えたい。
よくこんなことを尋ねられます。「トヨタの名前を背負って大変ではありませんか?」と。あなたたちと同じぐらいの年齢だったら、「左様ですね」と答えたかもしれません。今となっては、この名前が表すものを本当に誇りに思っています。世界中の大勢の人が支持してくださっているんです。
話を未来に投げて、あなたたちが自分の本当に好きなことをして成功しているとしましょう。そして、ひとりのCEOとして、その「もうひとりのCEO」にアドバイスをするならば、「ヘマすんなよ(しくじるなよ)」です。
当たり前だと思わないこと。正しいと思うことを実行すること。正しいことをすれば、お金は後からついてくるものです。歳をとっても新しいことをしてください。10年前にトヨタのCEOになったとき、あるメンターから言われたことがあります。
高度な運転技術がなければ、技術者たちには響かないだろうと。だから私は52という年齢で、マスタードライバーになろうと訓練を積みました。レーシングカーを運転するのが目的ではありませんでしたが、やりすぎて父親を困惑させることにもなったわけです。
それでも、私が自動車について何を考えているのか技術者たちに伝わるようになりました。大事なことは、何歳になったって、いつだって、新しいことを学ぶことができるということです。学ぶ人であり続けてください。それが何よりもすてきな仕事なんです。オプラ、ヨーダ、トム・ブレイディのように学び続けてください。
両親、友人、感化してくれる人物を探してください。熱をもらって、あなたも熱を振りまく人間になってください。善き地球市民になってください。環境に配慮して、この惑星のことを気にかけて、その他の世界中で起こっていることに目を向けてください。冷めることを気にせず、地球温暖化とは逆にあなたの情熱を温め続けてください。
(会場笑)
自分の立脚点を持ってください。トヨタが価値と思うものには、誠実さ、謙虚さ、他人へのリスペクトがあります。それを「トヨタウェイ」と呼んでいます。それはこの会社に北極星というガイドライトを与えてくれるものです。あなた自身のガイドライトを見つけることができれば、意思決定をするときの頼りになります。世界をよりよい場所にする手助けをしてくれます。
学生のみなさん、今日という日は終わりであり、始まりです。日本では、新しい天皇が誕生するたびに、新しい時代が始まります。暦もまた1から数え直しです。その時代ごとに名前も新しくなるのですが、(日本では)5月1日から新しい時代に突入して、令和という名前がつけられました。美しき調和といった意味です。
多くの点において、誰もがそれぞれの新しい時代を生き始めています。時計の針が1に戻った場所では、可能性が無限大になります。あなたの時代が美しき調和に囲まれ、成功にあふれ、多くの、ほんとうに多くのドーナツで満たされることを願っています。ありがとうございました。
(会場拍手)
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