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茂木健一郎氏 : 今ここにない未来をつくる仕事をしよう(全2記事)

「人工知能から見れば、アインシュタインも凡人も同じ」 茂木健一郎氏が説く、日本人が今すべきこと

TVなどでもお馴染みの脳科学者・茂木健一郎氏が、今年から始まったG1カレッジに登壇。人間を凌駕しつつある人工知能について、日本と英語圏での注目度の差を例に、日本語のみで情報を受け取ることのリスク、そしてそこに眠るチャンスを解説しました。(G1カレッジ2014 より)

「無理ゲー」にこそを価値がある

茂木健一郎氏:皆さん、どうも。(会場拍手)

「無限」って何だと思います? 皆さんは今、自分の人生を無限だと感じてるかもしれないんだけど、僕も実は今、自分の人生を無限だと感じてます。日本の可能性も、無限だと感じてます。

なぜか。無限というのはね、数学的にどういうことかというと「次がある」ということなんですよ。次! 正確にいうと「可能無限」っていうんですけど……数学的帰納法って覚えてる? 「nについて成り立ったらn+1について成り立つ、すると全部について成り立つ」っていう。

つまりさ、もちろん人間って無限そのものを手に入れることはできないんだけど「次がある、次のステップは何か」ってわかってれば、さっき堀(義人)さんも言いましたよね。行動すること。次の行動がわかってたら、君たちはその限りにおいて無限と向き合ってるわけよ。

だから、僕だって無限を持ってるし、君たちはもちろん無限を持ってるし、日本も無限を持ってるわけ。

ここで考えてほしいんだけど、次の一歩っていうか次にやることってなあに? ってことなんですよ。これが飛躍してればしてるほど良い。無茶ぶりであればあるほど良い。無理ゲーであればあるほど良い。

いいですか、脳の中にはドーパミンって物質があるのは、聞いたことがあると思います。中脳、midbrainというところにドーパミンってものを出す神経細胞があるんですけど、これが前頭葉にいくと強化学習というのが起こって、そのときにやっていた行動の回路が強化される。

じゃあ、どういう行動のときにドーパミンが出るのかっていうと、無茶ぶり、無理ゲー、そのときに出るのよ。ドーパミンってのは誤差信号なんです。自分ができると思ってなかったことができると出るんです。どれくらい君たちは、毎日無茶ぶりしてますか? 無理ゲーやってますか?

日本で日本語の教育を受けることは、すでにリスクである

例えば英語。これはもう必要ですよ。僕は、今君たちが抱えてる最大のリスクは、日本の大学で日本語で教育を受けてることだと思ってます。なぜか。日本語の情報と英語の情報はまったく違う。質も違うし量も違う。

英語って、君たちはどういうイメージでとらえてる? TOEFLってイメージ? TOEICってイメージ? 英検ってイメージ? 君たちが大学入試までに学んだ英単語の数ってのは、だいたい6,000くらいですよね。

6,000単語、ちゃんと覚えてるかい? ネイティブの人ってのは、だいたい20,000から30,000の言葉を使っているといわれています。シェイクスピアは100万くらい使ったといわれてるよね。

じゃあ君たちが今6,000だとする。大学入ってからサボリ気味で、4,000とかになってるかもしれないな。君たちが6,000として、ネイティブの最低の20,000にいくには、1日10個覚えていって何年かかるの。そうやって考えてみたら、英語というひとつの課題を考えてみても、いかにやることがあるか、やるべきことが多いかがわかると思うんですよね。

人間を凌駕しつつある人工知能

今はもう世界がどんどん変わってきてて、例えば僕の分野の近くでいうと、人工知能、artificial intelligenceというのが大変熱くなっています。すでに、人間のチェスの世界チャンピオンを破りました。それから「ジェパディ!」という雑学クイズで、人間のチャンピオンを破りました。

自然言語処理だとか知識のデータベースの高速処理などにおいて、コンピューターはすでに人間を凌駕しています。

そして、君たちの中にも東大の学生がいるかもしれないけど、東大に人工知能が合格するというプロジェクトが進んでるのは、皆さんご存知だと思います。これは、以前から人工知能の世界ではrobot enrollment problemといって、ロボットが大学に登録して、学習して、普通に卒業できるかってことを人工知能のチャレンジとしようと。

「ムーアの法則」って聞いたことあるよね? 18ヶ月ごとに集積度が2倍になる。君たちの中で「俺って18ヶ月ごとにIQが2倍になってきた」ってやつ、いるか?

(会場笑)

いないよな。ということは何を意味するかというと、君たちの中の頭の良さ・悪さなんていうのは、人工知能の今後の発展に比べたらたいしたことじゃない、ってことです。

君たちの中にIQ180のやつはいるかもしれない。IQ80ってのはいないかな? じゃあ80と180、人間のあいだでは「あいつ頭良いよ!」「あいつちょっとトロいな」……将来人工知能がIQ4000とか40000になったらどうするんだよ。関係ないだろ!?

英語の世界では、village idiotっていう言い方があるんですよ。village idiotっていうのは、村にいるちょっとタルい男の人のことをいうんだけど、人間にとってはvillage idiotとアインシュタインの差はすごいよね。「アインシュタイン天才! village idiotはちょっとタルい」……人工知能から見たらどっちもタルいのよ。

日本にいることのリスク、そしてチャンス

例えば、すでに金融取引においては半分くらいのものがプログラム売買だって知ってるよね。1〜2ミリ秒ごとに売買注文を出せるんだよ。「デング熱が出た! アース製薬(の株)買わなくちゃ」、デイトレーダーが押すよね。何秒かかってるんだ? どんなに早くたって1分かかってるんじゃないか? 熟練して一生懸命したって十数秒かかるだろう。

プログラム売買は、ニュースフィード自体がプログラムで理解できるようなデータフォーマットになってるわけよ。だからもう「デング熱が発生した→アース製薬売買!」って10ミリ秒後に出しちゃって、人間のデイトレーダーが「俺って速い」って十数秒後に注文のクリックしてるときにはもう、売り抜けてるんだよ。そういう時代。

この人工知能の問題が今なぜ心配されて議論されてるのかっていうと、イーロン・マスクって知ってる? イーロン・マスクわかる人? ……はい、ちょっと君たちをいろいろ探ってますよ。イーロン・マスク知ってるんだな、よし。

(イーロン・マスクは)最近「人工知能は核兵器より危険である」ってツイートをした。なぜかわかりますか? 人工知能が制御不能になるという危険性が今、非常に憂慮されていて、イギリスだとケンブリッジ大学とかオックスフォード大学とかにそういう研究センターができたりしてるんですよ。

簡単な話だ、ドローンって知ってるだろ? 無人爆撃機。アメリカは使ってるよ。アメリカは最高のドローンの技術を持ってる。戦争のとき、どんどんロボット化してるんです。自動化してるんです。君たちがアメリカ大統領だとして、テロリスト集団に対してどう反応するんですか。人間が判断してたら間に合いますか。

いろんな兆候があるよ。インターネットだとか通信も傍受してるかもしれないし。その莫大なデータを人間が処理してて対応しきれるかって考える人が、ペンタゴンにいてもおかしくない。

そしたら彼はどうしますか? 無人爆撃機があるんですよ。無人の、ロボットの攻撃兵器があるんですよ。「じゃあ人工知能に任せちゃおうか」って考える人が出てきてもおかしくないだろ?

だけど、ちょっと待てよ。人工知能に任せて本当にコントロールできるのか。どうしたら我々は、人間の能力をはるかに凌駕できる人工知能のパワーをもって、それを我々の平和とか繁栄のために使えるんだろうってことを……例えばよ? 英語圏では真剣に議論してるわけ。

そういう情報って、日本にどれくらい入ってきてるかな。君たちは大学でそういうことをどれくらい議論してるかな。ここに、僕が言っているリスクもあるし、チャレンジもあるんです。

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