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ハワード大学 卒業式 2018 チャドウィック・ボーズマン(全1記事)

業界にはびこる「黒人への偏見」を乗り越えて ブラックパンサー俳優・ボーズマン、若手時代の苦悩と葛藤の日々

映画『アベンジャーズ』などで活躍する名優チャドウィック・ボーズマン氏が、全米で屈指の黒人大学であるハワード大学の卒業式でスピーチを行いました。同大学を卒業したボーズマン氏は、後輩たちに社会に出ることの意義や、覚悟すべきことなどを熱弁。また、役者として駆け出しの頃の苦労を振り返り、後輩たちにエールを送りました。

アベンジャーズ俳優が祝辞

チャドウィック・ボーズマン氏:まず創造主を讃え、先人たちの偉業を讃えようと思います。私の母には、「母の日おめでとう」と伝えます。今日はこの場に出席してはいませんが、明日になればこの様子を見るでしょうからね。

(会場笑)

さらに、亡くなった教授のみなさんにも、この場をお借りして感謝の言葉を述べたいと思います。ここ近年は仕事が忙しく、追悼の会に出席することが叶いませんでした。

アル・フリーマンJr.教授、マイク・マローン教授、レジー・レイ教授、ヒラタ・エドマンズ博士、ジョー・シルマン教授、ジョンソン博士、シングルトン博士、ジョージ・エプティーン総長、トーニー・スタームス、デニース・サンダース、ロバーツ・ウィリアムズ教授、ベラ・キャッツ教授。

みなさんの教えと指導は、今日にいたるまで私を導き続けています。ウェイン・フレデリック学長と評議員会のみなさん。この学び舎の名誉ある場に招待いただいたことに、感謝します。他の高名なみなさんとともにここにいられるのは、大変な喜びです。

『ブラックパンサー』『アベンジャーズ』のキャンペーン直後に来ることができる場所として、この大学以上の場は考えられません。卒業生のみなさんとともに、この卒業式に出席させていただき、みなさんの人生でもっとも重要な偉業が達成されるこの日、卒業生のみなさんの前でスピーチをさせていただくことは、この上ない名誉です。

「ヒルトップ」での数多くの思い出

この大学は、魔法で満ちあふれています。ポジティブとネガティブの力学が、両極端のかたちで存在しています。ある日、中庭を歩いていたことを思い出します。多くのみなさんの日常と同様に、私も世界に対し、悩みをたくさん抱え、うなだれていました。

中庭の中央まで来て、ふと見上げると、モハメド・アリが私に向かって歩いてきました。彼は目を見開いて、私の目をじっと見つめ、時間がゆっくりと流れていきました。

アリは拳をガードスタイルにしました。私は、あたかも好敵手であるかのように、彼に合わせ、ふざけて振る舞いました。ごく短い時間とはいえ、史上最高の相手に挑戦を受けるとは、なんと光栄なことでしょう。

(会場笑)

アリの表情は真剣で、まるで私が「スリラー・イン・マニラ」(注:マニラにおけるアリの伝説的マッチ)における対戦相手、ジョー・フレージャーであるかのようでした。彼の動きは素早く、私の想像をはるかに超えた素晴らしいものでした。

アリのボディーガードたちは、この冗談を少し続けさせた後、アリを連れて去って行きました。私も、蝶のようにふわふわと歩み去りました。誰も信じてくれないようなその瞬間、私は、モハメド・アリに、自分自身に、人生に対し、なんだか楽しい気分を抱いていたのです。

世界に立ち向かって行こうという気概にあふれ、足取りは軽くなりました。これが、この大学の魔法なのです。この場所では、何でも起こりえます。

ハワード大学のみなさん、執筆をしている時にラジオを聞いていたら、この大学が「ワカンダ大学」と呼ばれているのを聞きました。他にも「メッカ」「ヒルトップ」など、さまざまな呼び名がありますね。「ヒルトップ」に関して言えば、一回この大学に来てみれば、身体でわかります。毎日、脚の運動ができます。

(会場笑)

だから、車を持っている人も大勢いますよね。

学業の成績は真の指標ではない

私が1、2年生の時には、キャンパス外の、ブライアント通りにある家から通っていました。そう、あの通りです。ご存じない方にお話ししますと、この通りは丘のふもとにあって、坂が一番急な所です。

そこまで下宿が遠いと、ほぼ毎日、クラスメートが本を全部持ってくれました。徒歩だと家に帰ることは不可能だからです。ずっと家にいるのであれば、話は別ですが。

しかし体力以外にも、このキャンパスで得られるものはあります。ここ「ヒルトップ」は、みなさんが在学中に極めた、知的で高邁な精神の旅の象徴です。この大学においてみなさんは、アカデミックな急坂を、少なくとも3、4年登りました。人によってはもう少し長い間、登り続けましたね。

(会場笑)

古来、学舎は丘の上に作られてきました。啓蒙の証を得るには、それだけ大きな労を要求されたのです。この丘においては、みなさん一人ひとりに、それぞれ異なる困難があったことでしょう。

学業に苦労した人もいることでしょう。「首席」という言葉は知っていても、自分には関係がないと考えているあなた。

(会場笑)

一生懸命勉強して努力したことでしょうけれども、AはもらえずオールB、ひょっとしてCもあったかもしれません。オールDはなかったかもしれませんが、この丘の上の卒業式に出席することができたのですから、気にすることなどありません。

(会場拍手)

みなさんもお気づきかとは思いますが、学業の成績はみなさんの素晴らしさの真の指標ではありません。ですから気にすることはありません。

別の人にとっての困難は、金銭面であったかもしれません。みなさんご自身やご家族が、毎学期、資金を工面するために奮闘されたのかもしれません。あちこち駆け回り、苦労して支援を探しまわったかもしれません。いくつものアルバイトを掛け持ちしたかもしれません。

これからの人生も、さらなる高みへ

でも、みなさんはここにいます。全員がそうではありませんが、みなさんのうち大勢の人にとって、一番の苦労は社交的なものだったかもしれません。まったく友達ができなかった人がいるかもしれません。思い描いていたような、クールで友達がたくさんいる学生生活を送れなかったかもしれません。悩んだ人もいることでしょう。精神的に追い詰められてしまった人もいるでしょう。

丘の頂上のこの大学に、重荷を背負って、登ってきたのかもしれません。それでもいいのです。みなさんはこの式に出ているのですから。

何がしかのトラウマを背負ってきた人もいるかもしれません。多くの傷跡やあざを負って、丘の頂上の、この大学まで来た人もいるかもしれません。学生生活を楽しみすぎた人もいるかもしれません。

(会場笑)

授業を抜け出して、中庭でラップを歌っていたり、踊っていた人もいるかもしれません。DCパーティ人生をまっしぐらに進んだ人もいたことでしょう。私もよく知っています。大都会の真ん中なのですから、当然です。

学生の本分を忘れてしまった人もいることでしょう。素晴らしい学業成績を修めて式に臨んでいる人もいるでしょうが、ぎりぎりのところをなんとか卒業できた人もいることでしょう。授業、レポート、卒論は「ダルかった」かもしれません。

そんな人たちは、文字通り「学校に通うにはクール過ぎる」(too cool for school)みなさんです。ベストの実力を発揮するにはギリギリまで待ちます。多すぎる称賛を背負っているのですから、丘の上まで登ってくることができたのは驚異的です。

今日、卒業するみなさんのうち大勢が、私が話した苦労を背負ってこの丘に登ってきたでしょう。

今、私たちは、長い時間の末、初めてこの眼のくらむような丘の単独登頂を達成しようとしています。これはさらなる高みを目指すための短いオリエンテーションです。しかし、このような登り道に慣れてしまえば、みなさんの心は勝利の静けさに開かれるでしょう。

まだ低地にいる時には、なぜか人は、高みに登るのは難しいという意識に押し流されそうになります。この瞬間は、ほとんどのみなさんには覚悟が必要です。これから大きな決断を下す必要があるためです。

ハワード大での抗議活動について

私はみなさんに、意識の底から、この瞬間の重要性を、同輩とともに感じるようお願いします。昨晩、パーティをして過ごした人も大勢いることでしょう。もちろん、祝うべきではありますが、この瞬間もまた祝うべきなのです。

今日の勝利を味わってください。ここで起きていることを、消化もせずに丸のみにしてはいけません。自分が獲得したものを眺め渡して、神がみなさんを導いて来てくれたことに感謝してください。

大学に対し闘ってきた人もいることでしょう。今年、学生たちは、8つの学舎を占拠して抗議活動を行い、要求のリストを学長と大学当局につきつけ、交渉しました。私は、これには感銘を受けました。

私の在学中にも、同じように学生たちは抗議運動を行い、同様に8つの学舎を占拠し、国会からの単年間予算を増額させるよう訴えました。パトリック・スワガー学長が、大学の学部数を縮小することを決定したからです。

学長の決定によると、工学部は建築学部と合併することになっていました。保育学部は衛生学部と合併し、私の出身である美術学部は、人文学部に吸収されることになっていました。そう、学生からしてみれば「吸収」される憂き目を見たわけです。

(会場笑)

これは美術学部の多くの学生にとっては、自分たちや後輩たちのカリキュラムが薄められる可能性のある事態でした。私たちが誇りとし、受け継いでいた伝統を冒涜するものでした。

美術学部の出身者はフェリシア・ラサード、デビー・アレン、イザイア・ワシントン、リチャード・ウェスリー、ダニー・ハサウェイ、ロバータ・フラックが挙げられ、しかも彼らはほんの一部に過ぎません。そうです。私たちは歩み続けるのです。歩み続けるべきなのです。

抗議活動で達成された「快挙」

ハワード大学は、密度の濃い、良きライバルに恵まれた、美術系大学としての伝統を守り続ける限り、ジュリアードやニューヨーク大学などの名門の学生と十分に肩を並べることができると考えています。これらが失われてしまえば、それは望めません。

しかし、学生が8つの建物を何日も占拠し、抗議文を学長以下大学当局に提示したにも関わらず、合併は行われました。現行の学部編成は、このような経緯で存在するのです。

だからこそ、私は直近のみなさんの抗議活動は、学生側と大学当局の両陣営にとって素晴らしい快挙だと考えるのです。私は、どちらか一方の肩を持つつもりはありません。私が関心を持つのは、何が大学にとって一番大切かということです。

ハワード大学における教育は、教室の中に留まりません。抗議活動中のみなさんの行動は、みなさんが教室で学んだスキルを示しているのだと思います。ハワード大学での教育とは、教育を理論の領域から実用と実行に移すことです。

みなさんの抗議活動において組織された行動は前例がありません。授業を継続して受けるために、活動をシフト制にしていたと聞きました。私たちの活動時には授業にはまったく出席しませんでした。ずっと立てこもっていましたから。

(会場笑)

民主主義の実現に近づいた

また、活動中には豊富な食料の寄付があったと聞きました。私の時代には、3日間の抗議活動中に食べたのはピザ1枚だけだったと記憶しています。

つまり、みなさんの組織的活動と計画性は非の打ちどころがありません。みなさんの要求は多くが採用され、後進に大きな影響を残しました。多くの場合がそうですが、みなさんの後に続く若者たちが、みなさんが勝ち取った成果の恩恵を受けています。

みなさんは深い愛校心ゆえに、大学をより良くすべく奮闘したのです。そして私からのお願いです。要求が通った今であっても、そして今日、みなさんが巣出とうとも、みなさんはこれからも奮闘し続けてください。みなさんが闘ったのは全て、自分のためではなく、後進のためです。

自身が不利益を被り、追放されてしまう可能性があっても、この場所を最善のものにする当事者たるべく、みなさんは闘いました。さらに、学生たちの声に耳を傾けてくれた、ウェイン・フレデリック学長と大学当局のみなさんにも、称賛の拍手を贈りたいと思います。

(会場拍手)

みなさんは、この場所に貢献を残すかたちで、言論の自由を行使しました。同様のことが、民主主義にも言えると思います。私が抗議活動を行った時代の大学警官隊は、現在ほど心が広くはありませんでした。難しい時代だったのだと思います。しかし、両陣営のみなさんを見ていると、私たちみんなが夢見たことへの実現へ近づいてきているのだと信じることができます。

学生のみなさん。みなさんの抗議活動には希望が持てます。なぜなら、みなさんはハワード大学を卒業後、さまざまな業界や機関に入ります。昔から差別や蔑視が続いて来た場所です。みなさんが、愛する大学のために闘った事実は、みなさんがこれから向かう世界をよりよいものにするために、受けた教育を生かせる証拠なのです。

若手役者時代の苦悩

私は、エンターテインメント業界に入った時に、初めて役をもらいました。劇場やテレビ、映画の世界です。ニューヨークでの初めてのオーディションで、主役をもらいました。

(会場歓声)

その劇に出演すると、初めて代理人が付きました。その代理人が話を持ってきて、私はオーディションを受けることになりました。メロドラマです。いいえ、『サード・ウォッチ』では無いですよ。テレビのメロドラマでした。そして役をもらうことができました。

まるで初対戦相手を第一ラウンドでノックアウトした、マイク・タイソンになったような気分でした。このドラマの仕事で、私は6桁のギャラをもらえることになっていました。私には、今まで見たこともないような大金でした。最高の気分でした。

しかし、初めてドラマの台本をもらって……。そうそう、台本をもらうのが撮影前夜であり、事前の準備機関がほとんどなく、翌日にまるまる一話を撮影することは、よくある話なのです。

自分の役柄を知った時、私は葛藤しました。その役は、必ずしもステレオタイプとは言い切れませんでしたが、青春時代を暴力の中に送った青年が、ギャングの抗争に巻き込まれる物語でした。実話だそうです。

学校では「自分が演じるキャラクターを批判してはならない」と教えられますし、これは演技の鉄則です。さらに、どんな役でも経験に繋がります。しかし、私はとても悩んでしまいました。この役は、あまりにも私たち「黒人」への偏見に満ちていると感じたからです。

暴徒たちには個性がまったくない上に、この役に長所や才能は、一切ありませんでした。希望のかけらも無いのです。私には、無から有を生み出す必要がありました。これには、ものすごく葛藤しました。

ステレオタイプな黒人像に疑問

ハワード大学は、私に誇りを与えてくれました。そしてこの役は私にとって、その基準にまったく満たないものでした。

2話目の撮影後、番組のプロデューサーの部屋に呼ばれたのは、まったくの幸運でした。プロデューサーたちは私に「君の演技に大変満足している。長期契約を結びたい。何か聞きたいことがあったら、言ってほしい」と言いました。これはチャンスだと思いました。

(会場笑)

私は、自分の役のバックグラウンドについて、シンプルな質問をすることにしました。物語のプロットについて、適切だと思われる質問です。

「質問その1です。私の父親は、どこにいるのでしょうか」。プロデューサーは「もちろん、君が小さい時に失踪したんだ」と言いました。「オーケー、わかりました。では質問その2です。この台本では、私の母親はよい親ではなかったことが示唆されていますが、それでは実際に何が起こって、私と幼い弟は、養護施設に保護されたのでしょうか」。

プロデューサーはさも何でもないことのように「えーと、ヘロインをやったせいだ」と答えました。私は「それは確かにリアリティがありますね」と答えました。

でも私は、それを当然だとは思いたくはありませんでした。テレビに出てくる黒人はみんな、ドラッグに手を染め、家庭に問題のある犯罪者であるのは当然だということにしてしまえば、ステレオタイプな役を認めてしまうことになります。「ステレオタイプ」という言葉が、しばらくその場に漂っていました。

制作陣の1人が、私の履歴書を出して細かく眺めはじめました。もう1人は、数分前の「聞きたいことがあったら言ってくれ」という言葉の通り、笑顔を作っていました。

彼女は言いました。「もうわかっていると思いますが、この業界では何でもすぐ変更されます。もし希望するなら、脚本家と連絡を取れるように計らいますがどうしますか」。

私は「よろしくお願いします。私は、課題を解決したいと考えているのです。みなさんが、こういった設定を事前に決めていたかはわかりませんが、何らかの才能や能力、例えば『実は彼は数学が得意だ』などといった設定をこの役に与えてやることはできます。私は、このキャラクターを被害者として演じたくないです」。

私の履歴書を持ったプロデューサーが「君はハワード大学出なんだね」と、履歴書越しに割って入りました。「はい」と、私は誇らしげに答えました。彼は私の履歴書を引き出しに戻し、「お時間をいただきありがとう。期待しているよ」と言いました。

私は役員室を退出し、自分の出番の撮影に入りましたが、この回はこれまでの3話の中で一番良い演技ができたと思います。ずっと気になっていたことがすっきりしたのですから。

翌日、私は役を降板になりました。代理人から電話が入り「方針が変わったそうだ」と伝えられました。

降板をきっかけに深まる葛藤

私が投げかけた質問は、プロデューサーたちが警戒するきっかけとなり、私の後任の黒人俳優が、よりステレオタイプ色の薄い役を演じる道を開いたのかもしれません。聖書にもあるように、私が種を植え、水を蒔いたのかもしれません。そして神が、芽を育てたまうのです。神は、育て続けるでしょう。

(会場拍手)

しかし作品を見て、自分が画面で使い捨てられ、自分を抜きにして芽が育っていくのを見るのは、辛いことです。とても辛いことです。降板になった経験を持つ人であれば、共感してもらえることでしょう。その役に思い入れがなかったとしても、降ろされるのは、失恋のような痛手があります。

(会場笑)

他人には、まるで気にしていないように振る舞って、「あんな役はイヤイヤやっていたんだ」などと言っていたとしても、一人になると自問自答を始めます。もっとうまく立ち回れたのではないか、家計を支えることができたのではないかなどと考えてしまいます。

そして気がつくと、一文無しになっており、次の仕事を得るため、地下鉄の切符を買う小銭をかき集めることになります。なんとか次の仕事が決まれば、膨れ上がるモヤモヤは晴れますが、さもなければ、「賄賂を払ってもよいから役をもらいたい」といった心境に陥ります。

当時の代理人は、「次の出演作品は、当面は決まらないだろう」と言っていました。しかし私は気にしませんでした。私はもともと演技をするつもりはありませんでしたし、ハリウッド映画のB級作品にこだわるつもりはありませんでした。私は、むしろ脚本家であり、監督なのです。他人の作品は忘れて、自分自身の物語を語ろうと思いました。

(会場拍手、歓声)

しかし、実際のところ、私は排除されたのでしょうか? 今、みなさんを外の世界の、一部の業界に出すことにためらいを感じています。みなさんには、扱いが難しいという烙印を押されているからです。

権力者に断固として真実を語る必要があったのと同様に、降板される前の私は葛藤を極めていました。降板された後にも、私はさらに葛藤を深めました。

胸の中のモハメド・アリに励まされた

私は今では、ここハワード大学で受けた教育が、ジャッキー・ロビンソン、ジェームズ・ブラウン、サーグッド・マーシャル、ティ・チャラを演じる礎を築いてくれたとわかっています。

(会場拍手、歓声)

でも、この大学で身につけた真理や基準の扉が、いきなりみなさんの目の前で閉じられたとしたら、いかがでしょうか。真の闘いとは何か、そしてどう闘うかを知るには、時に叩きのめされなくてはならないことがあります。

ある時期、ハワード大学にいた時代を、しきりに思い出していたことがありました。私と対立し、争った教授のみなさんを思い出しました。ロバーツ・ウィリアムス教授、シングルトン博士、ジョージ・エプティーム教授。あたたかな心でみなさんを満たしてくれる方々の、ほんの一部です。

(会場笑)

現時点で聞いても、よくわからない方もいらっしゃると思います。スワガー学長にも思いを馳せました。学長との交渉は、在学中のどんなディベートよりも遥かに冷酷で容赦のない、外の世界と対峙する前の、良い練習になりました。私の理想や信念にまったく興味の無い世界です。このような世界を相手に、うまく立ち回ることなどできるでしょうか。

そして最後に、中庭の真ん中の、モハメド・アリを思い出しました。勝利と敗北の日々から引退した、年齢を重ねた姿です。やがて私は、モハメド・アリの新たな素晴らしさと、アリがどのように栄冠を担い続けてきたかに気がつきました。あの日、アリは、私に何かを伝えてくれようとしていたのです。

アリは私に、闘士の精神を伝えようとしていたのでした。彼は私に、闘士の精神を伝えようとしていました。アリは実に、闘士の精神を、私に伝えようとしてくれたのです!

時に人は、神がみなさんの中に運命付けた真の情熱と目標とを喚起するために、敗北の苦痛と痛みとを感じる必要があります。

(会場拍手、歓声)

「エレミヤ書」で神は誓います。「私にはそなたのための計画がある。そなたを富ましめるものであり、害するものではない。希望と未来を与えるものである」。

卒業生のみなさん。今日、私の言葉をよく聞いてください。この丘に登頂したこの日、これから職業を、次なるステップを、キャリアを、さらなる進学を決めるこの時に、みなさんが見出すべきなのは、職やキャリアではなく、目標なのです。

目標は、規律を上回ります。目標は、みなさんの根源を成すものです。悠久の歴史の中で、この時この地上に、みなさんが存在する、唯一の理由です。みなさんの存在は、みなさんが叶えるべき目標の中に包み込まれているのです。

道すがらの苦闘が栄光をもたらす

みなさんがこれから、どんな道を選択しようとも、その道すがらの苦闘こそが、みなさんの目標を叶えるべく、みなさんを形作っていくためだけに存在することを覚えていてください。

私たち黒人を、何ら明確なバックグラウンドのなく、希望も才能も持たない、被害者とステレオタイプに格下げしようとする業界に、異議を申し立てようとした時、その描写メソッドに疑問を投げかけた時、まったく別の道が、私の前に開けました。私自身の運命に続く道です。

神がみなさんのために用意したものの前には、何者が立ちはだかろうと問題はありません。神は、扉を開かんとするみなさんを阻む者を排除し、ともに扉を開けてくれる者を使わすでしょう。

みなさんの未来は私には知りえませんが、もしも、それがみなさんの運命であるならば、困難な道を選ぶのであれば、最初は成功よりも失敗の多い道を選ぶのであれば、その道にはより多くの意義と勝利、栄光があることが必ず約束されているはずであり、後悔することは決してありません。これからは、みなさんがつくる時間なのです。

今日この日、新たなる目覚めの光が、みなさんに降り注ぎます。ハワード大学の伝統は、みなさんがこれから得る賃金ではなく、みなさんが立ち向かわんとする困難の中にあります。

過去と向き合い、誇りと目標とを胸に前進してください。神の祝福がみなさんの上にありますように。みなさんを愛しています。ハワード大学よ、永遠にあらんことを。

(会場歓声)

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