2024.10.10
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デューク大学 卒業式 2018 ティム・クック(全1記事)
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卒業生のみなさんの前に立って、スピーチができてとても光栄に思います。私は1988年に(デューク大学の)フクア・スクールで学位を取得しました。
このスピーチの準備のため、私は当時の教授たちに連絡を取りました。ボブ・ラインハイマー教授は当時、素晴らしいマネージメント・コミュニケーションの授業をしてくれて、それには演説法のレクチャーもありました。
ラインハイマー教授とはもう何十年も会っていませんでした。再会して、1980年代に教授のクラスを受けていた著名な演説家の話をしたときに、私は心踊りました。その演説家は明るく、チャーミングな性格の持ち主です。
ラインハイマー教授は、彼女が大きなことを成し遂げる人間だと見抜いていたのです。彼には先見の明がありました。そう、メリンダ・ゲイツ(注:ビル・ゲイツの妻)は世界に名を残しましたよね(笑)。
(会場笑)
ボブ教授やディーン教授たちに感謝しています。彼らの教えは、私のキャリアを通してずっと私を支えてくれています。
このような場を設けてくれた学長や教職員たち、理事会の仲間たちにお礼を言いたいです。学位取得者たちにはおめでとうと言いたいですし、何よりも卒業おめでとうと伝えたいです。
(場内拍手)
卒業生はここまで1人でやってこれたわけではありません。みなさんの両親や祖父母の方々にもお礼を言いましょう。支えてくれた友人たちにもです。サポートしてくれた方々に感謝の気持ちを伝えましょう。
私の母も、私を支えてくれました。彼女のサポートがなければ、デューク大学を卒業できなかったでしょうし、今日ここにいることもなかったでしょう。母の日にここに集まってくれたお母さんたちに、心からの感謝の気持ちを伝えましょう。
ここには素晴らしい思い出があります。ここで学業、また学業以外のことを一緒に学び、いまだに交友のある友人たちがいます。キャメロン(注:デューク大学のインドアスタジアム)で勝利を願って声援を飛ばしたこと。ノースカロライナ大学に勝利したときは、とくに大きな声援を飛ばしました。
ただ、感傷的に思い出を振り返り、アクト1にさよならを告げたら、アクト2はすぐ今日から始まります。今度はあなたたちがバトンを受け取る番なのです。
あなたたちは挑戦の時代に飛び込んだのです。この国はバラバラになっています。多くのアメリカ人が自身と異なる意見には耳を貸しません。
この地球では温暖化が進み、深刻な状況になっていますが、この現象自体が存在しないと主張する者さえいます。
学校と地域社会には大きな格差が生じています。すべての生徒に良質な教育を与えるという命題を果たせていません。しかし、私たちはこの問題に対して、無力なわけではありません。あなたたちはこの問題を解決する力を持っています。
あなたたちはこれまでの世代で最も強い力を持っています。また、あなたたちの世代は最も素早く物事を変えることができるのです。テクノロジーに支えられて、進化のスピードは大きく飛躍しています。
各個人がツールを手にすることができ、誰もがよりよい世界を築く潜在的な力を持っています。この事実が今このときを歴史上もっとも恵まれた時代にしているのです。あなたが人生において何をするのであれ、また、あなたの情熱がどこに向かっていくとしても、この世界をよりよいものにするために、あなたの能力を使ってください。
人生の先行きを見通すのは容易なことではありませんが、一つ言えるのは、人生の最大のチャレンジは社会の常識を変えてしまうことです。ただただ現状を受け入れてはいけません。大きな挑戦や改革が実現するのは、人々が何か違うことを、独自のやり方で取り組んだときです。
私は幸運なことに、まさにこういった考えを持つ人から教えを得ることができました。その人は、挑戦は過去に来た道ではなく、未来を追うことで果たせると信じていた男でした。その男とは、私の友であり、指導者であったスティーブ・ジョブズです。
スティーブの信念は、「アイデアは既存のものを否定することで生まれる」ということでした。この原則は現在もアップルの道しるべとなっています。
私たちは、地球温暖化は不可避だとする考えを否定しました。そして、アップルを100パーセント再生可能エネルギーを使って運営しているのです。
(会場拍手)
私たちは、テクノロジーを推進することは、プライバシーの権利を取り引きすることだとする考えを拒否しました。私たちは違う方法を選択したのです。できるかぎり少ないデータを収集し、思いやりと尊敬の念を持って、事にあたりました。なぜならば、個人のデータは個人のものだからです。
いつどんなときでも、我々の頭の中にあるのは、「何ができるか」ではなく、「何をすべきか」ということです。スティーブは、変化はそうやって生じると教えてくれましたし、現状に満足してはいけないと教えてくれました。
このような心構えは、若者たちには自然と備わっていると信じています。そして決して、その“落ち着きのなさ”を失わないでほしいと思います。
今日の式典は、あなたにただ学位を授与するためにあるのではありません。あなたが現状維持に対していかに挑戦するか、いかに世界をよりよいものにするかを問うためにあるのです。
50年前の今日、1968年5月13日に、ロバート・ケネディは、ネブラスカ州で選挙運動をしていて、生徒たちのグループに語りかけました。
この頃も悩み多き時代でした。アメリカはベトナムで戦争をしていました。アメリカの都市では暴動が起き、1ヶ月前に起きたマーティン・ルーサー・キング牧師の暗殺を引きずっていました。
ケネディは生徒たちに言いました。「この国で差別や貧困を見たなら、不正義や不平等を見たなら、現状を見過ごさない最初の人間になれ」と。
今こそケネディの言葉を繰り返しましょう。現状を見過ごさない最初の人間になってください。あなたが医療、ビジネス、エンジニア、慈善活動など、どんな道に進んでも、業界の現状を改善する最初の人間になってください。「ここではそう決まっている」といういいわけを改める最初の人になってください。
デューク大学の卒業生のみたさん、あなた方が現状を変える最初の人間になるのです。
あなたたちは限られた者だけが得られる世界トップクラスの教育を受けるため、必死に勉学に励んできました。あたなたちは独自の資格を有するのですから、世界を前に進めるために独自の働きをする義務があります。それは容易なことではなく、大きな勇気が必要になります。
その勇気は、あなた自身の人生を満たすだけではなく、他者の人生を変える力も与えてくれます。
先月、私はバーミングハムでのキング牧師の暗殺50年の式典に参加しました。そこで当時、キング牧師とともに行進をしていた男性、女性と時間を過ごせました。彼ら彼女らの多くは、今のあなたたちの年齢よりも若い人々でした。
彼らは、親に逆らい、座り込みでの抗議に参加したときのことを話してくれました。警察犬や消化ホースを前にしながら、危険をかえりみず、また迷うことなく、歩兵の一人となったのです。
なぜなら、彼ら彼女らは正義のために変化が必要だと信じていたからです。彼ら彼女らは状況は厳しくとも、次世代のために世の中を変えるチャンスを手にしていると知っていたのです。私たちはこの史実から学ぶべきです。もしあなたが世界を変えたいと願うなら、恐れぬ心を持たないといけないのです。
今あなたたちはさまざまな恐れを持っていることでしょう。今後の仕事や住む場所、奨学金の返済などについて心配しているかもしれません。気持ちはよくわかります。私も同じでした。
しかし、不安があるからと変化から逃げることはしないでください。恐れない心とは、例えどこに向かうかわからずとも、最初の一歩を踏み出すことです。ただ傍観するのではなく、自身がより高く目標を掲げること。群集と一緒に立つよりも、一人離れて立つことで、自分自身を理解できるのです。
あなたが失敗を恐れず前に進んでも、あなたたちが互いに恐れ、拒絶することなく話し合ったとしても、親切な心で行動し、それを誰も見ていなかったとしても、また、それをすごく小さく、ちっぽけなものに感じたとしても、安心してください。最後はすべてうまく収まります。
さらに、そうすることでこの先、あなたが大きな問題に直面したときに、避けることなく取り組めるようになります。試練に立ち向かっているとき、恐れない心が我々を鼓舞してくれます。
フロリダ・パークランドの生徒たちが、恐れることなく、銃規制を呼びかけ、数百万の人間を集結させたように。恐れることなく、「me too」と声を上げ、社会の暗部に光をあて、より平等な社会へと導いた女性たちのように。恐れることなく、移民の権利のために闘い、我々の明るい未来は、貢献しようとするすべての者とともにあると信じる人たちのように。
デューク大学の卒業生のみなさん、恐れることなく、立ち上がって、よりよいものへと変化を求める最初の人間になってください。キング牧師が1964年に、デューク大学の講堂で演説したとき、会場は聴衆の生徒たちであふれかえり、外の芝生にまで座ってスピーチに耳を傾けました。
キング牧師は生徒たちにこう警告したのです。いつの日か、悪人たちの言動のみではなく、善良な人間たちの沈黙や無関心、じっと待ち続ける行為もまた断罪されるのだと。
キング牧師はここに立ち、「正しいことをすべきときはまさに今だ」と語りました。卒業生のみなさん、今こそ、そのときなのです。いつでも思い立ったときが、そのときなのです。
今こそ道を前へと進むときです。そして今こそ先頭に立って、道を切り拓いていくときなのです。2018年度の卒業生のみなさん、ありがとうございました、そして、おめでとうございます。
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