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ヤフー小澤隆生氏が語るECの10の未来予測とYahoo!JAPANの戦略(全2記事)

3Dプリンターで物流がなくなる!? ヤフー小澤隆生氏が予測する「未来のECから消えていくものリスト」

未来のECに向かって今後「減っていくもの」とは何だろうか。たとえば商品を選択したり、物を届けたりすること。自宅の3Dプリンターから商品が出てくることだって不可能ではありません。いまから5年後の2019年はどういう世界になっているか。ヤフーでEC事業を統括する小澤隆生が予測しました。

EC市場において「減っていくもの」とは?

今までは増えて行くものについてお話してきました。でも逆に減って行くものがあるんですね。3つご用意しました。商品選択でございます。

10億品の中から自分の商品をどうやって選ぶのかというのは、非常に難しい話でございます。商品を減らしに減らして見ないといけないんですね。10億品なんて見ることできませんから。減らすためには3つの方法で進化して行きます。1つは検索の進化です。

ヤフーはもちろん検索の会社ですから、皆様方がこういう商品が欲しいんだという条件をあるときは推測しながら、またはその物の後ろにある情報を一生懸命かき集めながら検索している。これは15年間やってきた当たり前の進化でございます。

新しい流れはふたつ、キュレーションとパーソナライズです。キュレーションて皆さん聞いたことありますかね? キュレーションEC、非常に流行りです。アメリカではFabとかfancyっていうんですね。誰かが選ぶんです。たとえば美術館での話をしますと、キュレーターという芸術にすごく詳しい方が、こういったものを観覧者が望んでいるに違いないという予測のもとに多くの絵の中から物を選んで展示する。同じことです。キュレーション、編集による商品の絞り込みでございます。

アパレル業界のセレクトショップはまさにそうです。たくさんのアパレル商品の中からこういう商品が売れるだろうなというのをセレクトして売ってるものがキュレーション。キュレーションするためにはふたつ必要なものがあります。母数の大きさ、もうひとつはキュレーターのセンスでございます。キュレーション系のサービスの多くは、センスのある人を集める、誰にキュレーションしてもらうか。これをとても重要な戦い方にしております。

もうひとつ、パーソナライズでございます。誰が選ぶのか、ではなく「誰が見たいのか」。買う側にフォーカスした選び方です。私がたとえば、ヤフーショッピングで「バッグ」と検索したときと、70歳の女性が「バッグ」と検索したとき、今どうなってるかというとぴったり同じもの出してるんですね、残念ながら。

ちょっと話が脱線しますけども、コンビニエンスストアはその地域における多くの人が欲しいだろうなと思う商品を並べてる。でもインターネットですからね、その地域における多くの人が欲しがってるだろうじゃなくて、そのお店に来た小澤が欲しい品揃えに瞬時に変えることができるのがインターネットです。

どうやって瞬時に変えるか。私の購買履歴・ウェブの閲覧履歴、どういったものが好きなんだというのは「ビッグデータ」と俗に言われますが、これを個人情報保護法に則るかたちで利用して、検索結果を私なりに変えればいいんです。過去500円のバッグしか私が買ってなかったら、やっぱり500円の方から並べるべきです。7万円以上のバッグしか買ってない人、もしくは非常に高級なものを好む傾向があるとわかる方には「バッグ」と検索したときには、性別を見たうえで高級なバッグから並べるべきなんです。当たり前なんですけど、今ECの世界ではできていません。

パーソナライズっていうのは思いっきり進化します。コンビニエンスストアが地域に合わせて品揃えを変えてきたように、インターネットの世界では購入者を見極めて、その人なりのお店を瞬時に変化させて品揃え・ページを変えるんです。「この商品を買った方はこの商品も買ってますよ」というレコメンデーションも出てきますね。あれもパーソナライズの1種ですが、まだ物寄りです。

「あなたにお勧め」こういったものは、どんどん進化して行く。それを気持ち悪いと感じる方もいらっしゃるかもしれません。ただ、本当に欲しいものしかないというECのサイトのページ・検索結果ができあがるというのは、間違いなく誰にとってもハッピーだと考えてます。

3Dプリンターがほとんどの物流をなくす可能性も

物流です。ECにおけるもっとも重要なものといっても過言ではないと思います。物流に関しては3つの進化があると予測しています。3つの類型で考えています。ひとつは中央集権型。仮にAmazonさんというロゴを出させていただいてますけども、日本の東日本・西日本の特定の場所に大きな物流センターを置いて、そこからすぐに注文されたものを届けますよというものです。

物流において減ってるもの、15年前と今で一番変わってるものは配送までの日時・期間でございます。注文してから昔は3日でした。ちょっと前は2日、今は次の日・むしろ当日です。不可逆ですね。欲しいものが今すぐ手に入るとなっているわけです。中央集権型の物流というのは今、倉庫内の作業がものすごく迅速になってます。一番最適なところに倉庫を建てて、トラックで皆様方の所に届けるように頑張ってるんです。ただきっと限界があるんです。

そういう場合どうするか。家の近くから届けましょう。これが地域分散型です。今Googleが「Shopping Express」、eBayがe「Bay Now」というのをやってます。これどういうことかというと、購入者の近くの場所から届けるということですね。物流センターを全国に分散するんです。そこから注文した物を届けるほうが当然、一番早いですね。埼玉・小田原。こういうところに倉庫があるよりも、港区から注文があった場合は港区から届ける。これにこしたことはないわけですね。実際こういう実験がアメリカでは始まっております。これが地域分散型と言います。

そして最後、物流自体がなくなる。何だこれはと思うかもしれませんけど、本とか音楽においてデータのやり取りだけで済みますからね。電子書籍・音楽というのは物流がなくなってしまっているんです。

これが将来、物の世界でも起きます。家の中に高性能な3Dプリンターが今後置かれてくるでしょう。3Dプリンターっていうのは、オリジナルの物を買う・作るだけではないんです。非常に一般的なもの。たとえばLEGOのひとつの部品をLEGOに発注して待ってたら3日かかる。目の前のLEGOを作り上げたいんだけど、この部品がなくて困ってるんだよといったときにデータを取り寄せて家の3Dプリンターで打ち出す。iPhoneのケース。新しいのが欲しいときに物を現地から運ぶんじゃなくて、データだけ買って家の3Dプリンターで打ち出す。

金属やカーボンなどいろんなマテリアルで3Dプリンターを使って造形ができるようになれば、実際にデータだけを購入して家で再生することができる。音楽とか書籍はすでにそうなってる。音楽はデータを取り寄せて家・ポケットの中で再生してるんです。データのやり取りをして物を作り上げる。これは非常に重要な変化です。物流はなくなる。この3つどれかになるんじゃなく、どれも発展していく。こう考えててください。

今後のECで増えるもの、減るものリスト

最後、決済でございます。15年前と今、何が減ってきましたかというと決済手数料がどんどん下がってるんです。ECとリアルの差、皆さん考えてみてください。売る側からするとECっていうのは面倒くさくてしょうがない。注文が入ったらメールでやり取りをして、梱包して届けなきゃいけない。お金も決済手数料を抜かれるわけですよ。一方で、お店に買いに来てくれればメール打つ必要ない。その場で物をビニール袋に入れて渡せば終わり。現金でもらえば決済手数料もなくなる。

ECがリアルのビジネスを超えていくためには、こういったものがどんどん発展しないといけない。言い忘れましたけど、物流ではフルフィルメントと言って、物を倉庫に預けておけばその業者さんが梱包して届けてくれる(サービスがあります)。物流の手間が小売業者にとってはひょっとしたらなくなるかもしれない。

でも決済手数料っていうのは非常にまだ高い。今世界で何が起きているかというと、eBayは「PayPal」、アリババは「Alipay」を持ってます。EC事業者自体が決済のサービス・事業をやってるんです。

そうすることで何が起きるか。「決済事業は儲からなくてもいいじゃないか、ECで儲かれば」「ECで儲からなくてもいいじゃないか、決済で儲かれば」。合わせて考えることができますね。売り手も買い手も同じ口座、(たとえば)Alipayで作ってもらえれば決済手数料タダでいいですよと。リアルと一緒です。物を売るのも買うのも、インターネットとリアルが一緒になってきた。決済の未来っていうのは、1つはeコマースの事業者が決済事業自体を運営するということ、もうひとつは決済手数料がどんどん下がっていくことになるわけです。まとめます。

増えて行くもの。eコマースの市場・売り手・商品・買い手。リユースのマーケット・サービスEC・発注方法が多様化してきます。減って行くもの。商品選択の仕方。ちょっと言い方は語弊があるかもしれませんけども、商品を減らして見せるやり方といっても過言ではありませんね。物流、それから決済。物流は発注からお届けまでの日数が減ってきます。まだまだ減ります。決済手数料は限りなくゼロになるでしょう。

2019年、どういう世界が来ているか。国民の多くの方がインターネットで物を買い、多くの企業・個人の方がインターネットで物を売る。ここにお集まりの方、おそらく4~5割がインターネットで物を売ったことがある。それは物だけじゃないですよ。自分の空き時間・お部屋、就職に関する何かかもしれない。そういったものを売るような世界が来る。頼んだものはすぐ来る。リアルと変わらないくらいの決済手数料。決済に対して何のストレスもない時代が来るんじゃないかなと思ってるんですね。

我々ヤフーは、この5~10年後をこうだと見据えたうえでそれぞれに対して手を打っていこうと、それを去年考えたのがeコマース革命でございます。これだけ成長する、こんな将来が来るだろうというECにヤフーとしてどんな手を打ってくべきか。増えて行くものに関してはeコマース革命を行いました。

予測される未来に対して、ヤフーが手を打ってきたこと

出店料・出品料が無料。売れた時でも無料。だってこれからどんどん50~60万社って増えるんですから。彼らがいちいち契約なんか、難しいことしてられない。お金かかるんだったらやだよ、というような方々を全部取ってしまおうと。

皆さん方が楽で気軽に、そして本当にお金もかからず売れるような社会を作るべきであると。だってそういう将来が見えているんだから。スマホからも出店・出品できますという世界が重要だろうと。難しくしちゃダメ、簡単じゃなきゃならんと考えております。その結果、ストアが4倍になりました。商品もあっという間に1億品超えてます。それで何が起きたか。取扱高が大きく伸びました。

やっぱり自分たちの考えは将来に向かって合っていたと思いますし、今後もおそらくこの流れから続いていくんだろうなと思ってるわけです。40~50万社、そういう売り手に対してこれからもより便利なプラットフォームを提供していきたいと思っております。個人の売り手が増えるとリユースが高まります。もちろん我々はリユースの成長を見越したうえで手を打ちました。ブックオフさんへの資本参加でございます。

インターネットでリユースの世界を切り開いてきたのがヤフオクなら、リアルの世界ではブックオフさんです。ダントツのナンバーワン。この2社が手を携えて、1兆円を2兆円にして行こうという非常にわかりやすい戦略でございます。ヤフーショッピングも当然でございますが、個人の出品・出店の開放という今までショッピングモールでは絶対にやったことがないような手段を選択しました。

その結果、数万人が一気に流れ込んでくる。1000万~2000万人が、たとえばヤフーショッピングで買ったものをワンクリックで出品できる。ヤフーオークションで買ったものをワンクリックで出品できる。当たり前なんですが今はまだできてない。これ絶対やるべきですね。誰が何を買ったかわかっていて、データの入力必要ないんですから。これは必ずやろうと思ってます。

サービスECはどんどん拡大していきます。我々はそこに対しての予約革命ということで、トラベル・飲食店の領域においてシステム利用料無料化ということをやらせていただいております。この夏には新しいトラベルの発表ができると思っております。飲食店の予約に関しましては今、東京地域においては私どものサービスがもっともインターネットで予約できる店舗数を獲得しています。これからまだまだ皆様方の予約を便利にするために頑張りたいと思ってるわけです。

発注方法の多様化というのもありました。Internet of things。残念ながらY!mobileは買うことができませんでしたけども、インターネット専属・インターネット用プロバイダで、インターネットに特化したキャリアとして物をいかに提供していくか。そして先ほど申し上げました。中高年・地方。ひょっとしたら、注文用のタブレットごと配ってもいいじゃないか、使い方わからないんだから。ヤフーショッピングは難しすぎるだろうと。電話の世界ではらくらくホンというのがあります。らくらく注文パックってあってもいいじゃないかと。そういうようなところまで考えて、Y!mobileと一緒に頑張っていきたいと思ってるわけですね。

商品選択における1番重要なのはパーソナライズだと申し上げました。ヤフーというのは日本最大のマルチビッグデータカンパニーです。インターネットの行動をもっともしていただいているのはヤフーでございます。もちろん皆様方が気持ち悪くならない前提ですけども、そのデータを上手に利用させていただいたパーソナライズ。これはヤフーがもっともやる意味があるし、ヤフーにしかできないことがある。コマースにおけるパーソナライズをもっとも綺麗に、素晴らしくできるのはヤフーであると今考えてやっております。

物流と決済をお話します。中央集権型・地域分散型・物流消失型。中央集権型に関しましてはBtoBの世界で非常に頑張っておられるアスクルさんに資本参加をさせていただいて、巨大な倉庫を建ててしっかりとした物流を行おうと。地域分散型に関しては今、豊洲だけで実験をしてるんですけども、注文が入ると平均37分で物を届ける「すぐつく」という素晴らしいサービスを発信しております。そしてデジタルコンテンツ。物流の消失に関しましても、もちろんデジタルブック・デジタルコミック・音楽。これをGyaoという会社で展開しているわけです。

決済。銀行・カード。やはり事業者たるヤフーがやらなきゃならないということで、ジャパンネット銀行とKCカード、それぞれに対して資本参加や買収させていただいております。EC事業者が決済手段を自ら運営することによってできることは、決済手数料の低減だけじゃなく、さまざまなことができると考えております。それはeBay、アリババを見れば自明のことであります。

ヤフーは5~10年後の未来に投資をしていく

ちょうど最後になりました。ヤフージャパンは、5~10年後の未来を見据え、eコマースの未来に投資をしてまいります。残念ながら去年からです。私が担当でございます。お集まりの皆さん、この未来に共感をいただけるのであれば、ぜひともいろんなお仕事をさせていただきたいと思っております。ヤフーは5~10年後、SoftBankグループと一緒にeコマースの中でナンバーワンになりたいと思っている。なぜならこういう未来が見えているからでございます。

お集まりの皆様方、ぜひともお力添えいただきたいと思いますし、一緒に新しい世界を作れればと思っております。本日はご清聴いただきまして、誠にありがとうございました。

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