2024.10.01
自社の社内情報を未来の“ゴミ”にしないための備え 「情報量が多すぎる」時代がもたらす課題とは?
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ここにいる皆さん全員が、私ほどの失敗を経験することはないでしょう。しかし、失敗は人生につきものです。生きていれば誰でも失敗します。失敗しないのは、慎重になりすぎて自分の人生を生きていないと同じこと。つまり、失敗しないということ自体が失敗なのです。失敗は学校の講義からは学ぶことのできない経験を私にもたらし、結果、自分に自信を持つことに繋がりました。
私は失敗から自分自身についてよく学びました。他の経験だけではこのように学ぶことは決してなかったであろうと思います。失敗を通じて私は気が付きました、私には夢を叶えるための確固たる意志があるということ、そして自分が思っていた以上に夢を叶えるために必要な行動を取ることができるということに。
更に気が付きました、私にはどんな宝石よりもずっと価値のある友人がいるということに。どんな困難も自分は乗り越えていけるのだという事実は、これから何が起きても自分は絶対に大丈夫だ、という自己信頼感を生みます。
困難に見舞われなければ、本当の自分を知ることも、真の友情の意味を知ることもないでしょう。辛いことを乗り越えると、このように素晴らしいギフトを受け取ることができるのです。そして、困難を乗り越えた経験は、私が今までに得たどんな資格よりも価値を持っています。
もしも私にタイムターナーの魔法が使えれば、21歳の私にこう言うでしょう、「人生の醍醐味は自分が何をやり遂げたかのチェックリストを作ることではない」と。「大人の多くは何を持っているか、どんなことをやり遂げたかを幸せの基準と思いこむけれども、資格やレジュメがあなたの人生を決める訳ではない」と。人生とは時に理解不能で複雑です。人生を自分の力でコントロールすることなどできません。それを知ることが人生を生き抜く力を与えてくれます。
私が「想像力」をもうひとつのテーマとして選んだのは、それが、私が人生を再構築するのに役立ったからだけではありません。もちろん、子供のために読み聞かせする物語の力を信じています。しかし、私が想像力に価値を置くのには、もっと大きな理由があります。想像力とは、今ここにないものを想像する人間独自の力であり、この力によって、人類は様々な発明をして進歩してきました。この能力により、私達は、私達が経験したことのないことを経験する他者に寄り添うことができるのです。
ハリー・ポッターが生まれる前、私が体験した素晴らしい経験についてお話します。この体験はハリー・ポッターの中にも反映させています。それは大学を卒業して間もなく働いていた頃のことです。ランチの時にはこっそり小説を書いていたものですが、20代前半、私はロンドンにあるアムネスティ・インターナショナルの本部内、アフリカ調査部に勤めて生計を立てていました。
小さなオフィスの中で私は、バレれば投獄のリスクがあるにも関わらず書かれた手紙を読みました。それは男女問わず、独裁政権下で、国内で何が起きているのかを国外へ知らせるための彼らの必死の行動でした。アムネスティには行方不明になってしまった人々の写真が家族やその友人から送られてくることもありました。
拷問を受けた被害者の証言、そして彼らの拷問によって受けた傷の写真も見ました。アムネスティに送られてくる処刑、誘拐、レイプの手書き目撃証言の手紙も読みました。私の当時の同僚の多くが、過去に政治犯として捕えられた経験がありました。もう自国にはいることができずに、やむを得ず国から脱出してきた人達でした。すべては彼らが自国の政府に盾突いたからです。情報提供者や自国に残してきた人々のその後を知る為に多くの人々がアムネスティを訪れました。
当時の私と同年代の拷問被害にあったアフリカ人男性を決して忘れることはないでしょう。彼は、自国で受けた拷問により精神を病んでしまいました。彼は当時受けた拷問の数々をビデオカメラの前で証言する際、自身の身体の震えを抑えることができませんでした。彼は私より1フィートほども背が高かったのですが、とても怯えており、今にも心が壊れてしまいそうで、弱々しい子供のようでした。
私は地下鉄まで彼を見送ったのですが、こんなに精神を虐待によって痛めつけられた彼なのに、彼は私の手をやさしく取って言いました。「今後のご検討を、あなたの幸せをお祈りします」と。
それまで聞いたこともないような恐怖と痛みにもがく悲鳴を、あの声を、ひっそりとした廊下を歩いていて突然聞いた瞬間のことを、私は今後も忘れることはないでしょう。ドアが開き、スタッフが顔を出し、何か温かい飲み物を彼のために持ってきてはくれないだろうか、と私に言いました。このスタッフは、彼にとても辛いニュースを伝えたところでした。彼が自国政権へ反逆した罰として、自国に残してきた彼の母が処刑され、亡くなったということを。
20代前半、仕事をする毎日の中で、私は自分がどれだけ幸運であるかを思い知りました。私は民主主義国家の国民であり、弁護士を立てて裁判で闘う権利を誰もが持っている国に住んでいる。この事実がどれだけ恵まれているのかを、毎日毎日思い知らされました。
当時は毎日「どれだけ非道な行いが世界でなされているか」の証拠を目にし続けました。それらはすべて権力を得る、または維持するために人間が他の人間に危害を加えるという「悪夢」でした。私は文字通り、夜中に悪夢にうなされるようになりました。仕事で見るもの、聞くもの、読むものについてです。
しかし、アムネスティに勤めることによって、それまでに感じたこともなかった人の善意を目の当りにしたのも事実です。アムネスティは拷問を受けたり、政治犯として投獄されたりした人々の代わりに、何千もの人を巻き込んで行動を起こしています。
そしてその何千の人々には、拷問をされた経験も投獄された経験もありません。私達人間が持っている人に寄り添う力が、共に立ち上がり行動を起こす原動力に、そしてそれが多くの命を救い、投獄された人々を解放することに繋がります。身の安全を心配することなく「普通」に生きている人々が、会ったこともない、そしてこれからも決して会うことのない人々を救うために大勢集まります。彼らの仲間として少しだけ貢献できた経験は、私の人生で最も謙虚な気持ちになる、そして心が鼓舞したものの1つです。
この地球上のどんな生物とも人間が違うのは、私達が実際に経験していないことでも学び、理解することができる点です。私達は、他者の立場に立って物事を考えることができます。もちろん、この能力は私の小説に出てくる魔法のように、その人次第で良くも悪くも使うことができます。人間が、理解し共感することができる能力を持っているということはつまり、人を操ったり、コントロールしたりする人もいるということです。
そして、想像力を使うことを避ける人が多くいるのも事実です。彼らは自分の身に起きること、身の保身だけを考え、自分以外の人の人生はどんな風であろうか、などと考えにも及びません。彼らは人々の叫び声や囚人の存在を無視し、自分には直接関係ない人々の苦しみから目を背け、そしてそういった苦しみ全てを知ることを拒否することができるのです。そんな風に生きられた方が楽なのだろうな、と思うことがあると同時に、彼らだって私と同じように、彼らの悪夢を見ていることでしょう。
小さな世界に留まって生きるということは、心の広場恐怖症を起こすことと等しく、これはこれでまた恐ろしいことなのです。意図的に外界から心を閉ざし、目を背ける人々のほうが、より多くのモンスターを見ているのではないでしょうか。そして彼らの恐れは、想像力を使う人々よりも大きいのではないでしょうか。
つまり、他者への共感の心を持つことを選ばない人々が「本物のモンスター」を生み出すのです。無関心は「道徳的に悪いこと」を実際にすることなく「悪」に身を染めるということなのです。
18歳の頃、「何か」を求めて古典文学の門を叩き学んだことの1つは、古代ギリシャ人プルタゴスにありました。彼はこう書いています、「自分が変われば世界が変わる」。これは本当に物事の核心をつく言葉です。そしてこの真理は、日々あらゆる場面で証明されています。ある意味、「自分が変われば世界が変わる」ということはつまり、私達は他者とのかかわりを避けることができない、更に、私達はただそこにいるだけで他人の人生に関わってしまうということなのです。
2008年ハーバード大学卒業生の皆さんは、今後どれほどの人々と関わっていくでしょうか? 皆さんの知性、困難にチャレンジする能力、そしてここで受けた教育は皆さんが特別な地位と責任を担っていくことを意味します。皆さんの国籍でさえ、今後世界の中で皆さんの立場を特別にしていくことでしょう。多くの卒業生の皆さんは、世界で多大な力を持つアメリカの国籍を持っているでしょう? 皆さんの1票が、皆さんの生き方が、皆さんの主義主張が、そして政府への抗議が、国境を越え、世界に影響を与えるのです。これが皆さんの特権であり、また背負った負担でもあります。
もし皆さんが、苦しむ人々のために皆さんの特権を使い、声をあげるのであれば、もし皆さんが権力に共感するだけでなく、力を全く持たない人々にも共感することができれば、もし皆さんが、皆さんのように恵まれた人生を送っていない人々のことを考えることができる想像力を持ち続けるのであれば、皆さんの両親だけではなく、何千何万の人々から感謝と愛を受け取るでしょう。世界を変えるのに魔法は必要ありません。なぜなら、私達は、既により良い世界を想像する力を持っているからです。世界を変えるために必要なのはこれだけです。
もう少しで終わります。私も21歳当時これに恵まれたのですが、皆さんにもこれが訪れているといいな、と思うことがあります。「友情」です。卒業式の日に一緒に座っていた友人達は、生涯の友となりました。彼らは私の子供達の養い親であり、困った時にいつも手を差し伸べあってきた仲間であり、小説の中に出てくる「死喰い人」に彼らの名前を付けても訴えたりしない、心の広い人々です。
(会場笑)
卒業時、私達は大きな親愛の情と共有した時間、もう二度と戻ることのない同じ時を過ごしたことで深く繋がっていました。そしてもちろん、その時撮った写真は仲間の誰かが総理大臣に立候補したらお宝になるぞ、という期待もありました。
(会場笑)
今日皆さんがこのように深い友情を築き、今後も守っていくことを願っています。そして明日になって、例え私が今日話したことを全く思い出すことができなかったとしてもこれだけは覚えておいて欲しいと思います。私がキャリア道から逸れて、古代の知恵を求めて彷徨っていた中で見つけた、古代ローマ人セネカの言葉です。
「人生とは物語と同じで、その長さは重要ではない。どれくらい良いかが重要なのだ」。
皆さんの今後のご活躍に! ありがとうございました。
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