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ムヒカ前ウルグアイ大統領講演会(全6記事)

「人生を1人で歩まないでください」 ムヒカ前大統領から日本の学生へのメッセージ

2016年4月7日、「世界でいちばん貧しい大統領」と呼ばれたホセ・ムヒカ前ウルグアイ大統領が東京外国語大学で来日講演会を行いました。講演の後半では、金融の肥大化が生産の拡大に結びついていないこと、海の汚染が進んでいることなど、現在世界が抱える問題について語ります。また、自身が経験した10年以上にもおよぶ投獄についても振り返りました。刑務所の中で過ごした時間について、ムヒカ氏は「非常につらい時期だった。でも、それによって学ぶことができた」と、過去に対する捉え方を話します。最後は会場の大学生に向けて「人生を信じられるように何かをしてください」とメッセージを送りました。

人生を1人で歩まないでください

ホセ・ムヒカ氏:政治的な立場、モラル的な立場があります。政治的な立場は、必ずしもなんらかの政党に属するということではないのです。どこにあるとしても、そういうような立場を考えることができます。

すなわち、私は「人生」という党に属しています。残念ながら私はまだ神というものを信じるに至っておりません。もし信じることができるのであれば、人生の最後のときにおそらく神様に「もう一度生きさせてください」と頼むかもしれません。

しかし、私たちはこの「生きる」という奇跡を得ています。みなさん、どうぞよく生きてください。そしてまた、毎晩あなたのベッドに入ったときに、例えば5分間使って、その日1日のことについて考えてください。

なぜならば、それぞれ自分自身の中に、それを評価する、審判する者がいるからです。ですから、自分自身に聞いてください。良かったのか、悪かったのか。そしてまた、それをもとに、より良い明日を築くようにしてください。

それから、ぜひ家族を持ってください。家族というものは、単純に血のつながった家族ということではありません。そうではなくて「考え方の家族」という意味です。同じように考える人です。人生を1人で歩まないでください。

ですから、なんらかの情愛、それを1つも持たないと、1人で歩かなければならないことになるでしょう、非常に重い孤独の中で。

しかし、もちろん私たちは神ではありません。私たちは人間です。もしほかの人に対して非常に大きな要求をするとなればどうなるのか。人間というのは完璧なものではないので、友人を得ることができなくなるでしょう。そして、1人で歩かなければならなくなるでしょう。

ですから、例えば社会というものを得る場合には、寛容性が必要であるとも言えます。なぜなら、人間というのは完璧ではないからです。だから、寛容性が必要なのです。

金融が肥大化しても生産は大きくならない

現状、私たちの身の上にはさまざまな問題があります。非常にグローバル化した世界に私たちは生きています。私にとっては、2つの基本的な問題が感じられます。

まず1つは、金融資本が爆発的に大きくなっているということです。それが「通貨をもとにした生活」を大きく変えているのです。

これはまさに、お金が重要になっている。そして、お金を得るために、人生のなかで大忙しで、あっちに行ったり、こっちに行ったりとしているわけです。

この金融の資金が非常に多くある場合、しかしながらそれは、例えば生産を大きくするものではない、ということもあるわけです。経済はこの金融を中心に成り立っている。それによって公共をなくし、みんなが忙しく動き回るようになった。

そして現在、非常に大きな困難が世間の中にあります。非常に莫大な量のお金があります。これはさまざまなかたちで、投機的に使われています。大量のお金です。すなわち、それらは単純に生産に向かっているわけではありません。

またもう1つ、ほかにも深刻な、重大な問題があります。私たちの文明のガバナビリティー(統率力)というものがない、ということです。

なぜならば、それは非常に大きなものになっているからであります。そして、この文明というものが、非常に大きく変わってきているからです。例えば、大量のナイロンが太平洋の中に浮遊していたりするわけです。

世界ができることは、数限りなくある

じゃあ、どうやってこれを解決することができるのでしょうか? 「人間は気候を変えることができない」誰が言ったでしょうか。例えば、アフリカ大陸の国々があります。技術的に可能なことがあります。

これは例えば、蒸気の鍋を使うことができます。それから、水蒸気の量があります。そして、それによって砂漠の問題を対処できるでしょう。

そういったことが、すべて可能です。塩水で農業を営むこともできます。塩水で生きられる種も多くいます。97の化学記号というのは、すべて海水から発見されています。世界ができることは、本当に数限りなくあります。

でも、そういった大切な決断をする人が誰もいません。誰もそのために必要な課税をすることができません。30年前からトービン税という話が出てきますけれども、トービン税というのは資本取引に対してわずかの税をかける、そしてそれによって投機を抑えようという税金ですが、それもまだ実現していません。

なぜかというと、金融資本のほうが生産資本よりも重要な地位を占めているからです。私の小さな国でもお金持ちがいます。最後の1ペソまでインフラに投資しているお金持ちもいます。

でも、別のぜんぜん投資しない金融資本を、例えば今、パナマでもパナマ文書というのが問題になっていますけども、自分の資本を増やすためにだけ、いろんなタックスヘイブンを使ったりしてお金を動かしている人もいます。こういう状況があるんです。

ですから、みなさんのような若者は、こういった状況に対して戦わなければいけません。こういった非常にバカげたこと、悲惨なことを止めるために何かしなければいけません。

これは誰も問題を解決できないという問題ではありません。人間がまとまれば、組織すれば、戦うことができるのです。まさにそうすることこそが、人類の連帯、団結という意味だと思います。

10年の投獄について「非常につらい時期だった」

最後になりますけれども、私は若いときに多くの本を読みました。そのあと、世界を変えたいと思いましたけども、変えることはできませんでした。それで10年ぐらい刑務所に入れられました。非常につらい時期でありました。

でも、それほどすごく厳しい時期を過ごさなかったら、今学んだようなことは学ぶことができなかったと思っています。ほかの人と同じように、踏みつけられたり、ゴミのように扱われたこともありました。

例えば、軍事独裁であるとか、その圧政もありましたし、私の同志たちと一緒に収監されたこともありましたけれども、最終的に大統領になることができました。でもそれ以上に、「もっといっぱい、いろんなことを実現したいな」と夢見たこともありました。いっぱい途中で挫折して、実現しなかった夢もありました。

じゃあ、何が残ったのか? 私はほかの人がその道を続けられるように、その道を耕してきたと思います。なぜならば、闘争は永遠に続くからです。私はほかの人たちを知ることができました。

以前、私が収監されて、若くして「世界を変えよう」と思って辛い時期を過ごしたときには、孤独を慰めるために、私自身に多くを語りかけました。

ひょっとしたら全部には到達できないかもしれないですけれど、10ぐらいには到達できるかもしれません。つねに自分が切り開こうとした道を、自分が掲げた旗を引き継ごうとする人は必ずいるはずです。

人生を信じられるように何かをしてください

日本ではなかなか希望を持てない、というふうに聞いています。前に聞きましたけれども、若者の30パーセントぐらいしか投票に行かない、と聞きました。

……信じてないんですね。でも、もし信じられないんだったら、信じられるように何かをしてください。人生を信じられるようにしてください。

何か悪いことがあって、それを変えたいと思うこと、不満を持つことはいいことです。単に何もしないで不平ばっかりを言っているのでは、まったく変わりません。一緒に同じ気持ちを持つ人と、まとまって一緒に何かをしなければいけないと思います。

それがあなたの人生に、あなたの存在に意味を与えることだと思います。そうじゃなければ、あなたの失望が勝利してしまうでしょう。生きるためには希望が必要です。もし希望のない人生になってしまうとしたら、どうでしょうか?

今までずっと講演を聞いてくれた若者のみなさん、本当にありがとうございました。もちろん別に同感してほしいとか、そういう思いで話したわけではありませんけども、寝るときに私が言ったことを、ぜひ考えてみてください。

(会場拍手)

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