2024.12.19
システムの穴を運用でカバーしようとしてミス多発… バグが大量発生、決算が合わない状態から業務効率化を実現するまで
Princeton Baccalaureate 2012: Michael Lewis(全1記事)
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マイケル・ルイス:ありがとうございます。ティルマン校長、私の支援者、友人達、卒業生の保護者の皆さん。そして、誰よりも、今年のプリンストン卒業生達。今日の君たちに盛大な拍手を。次に皆で黒い服で集る時はきっと教会で、笑えない状況の時でしょうね。今は楽しみましょう。
君たちがちょうど座っている所に私が座っていたのはもう30年も前のことです。年長の誰かの人生についてのスピーチを聴いていたはずなのですが、何について語っていたのかなんてさっぱり覚えていません。誰のスピーチだったのかすら、覚えていないんです。はっきりと覚えているのは、卒業したということだけでした。
私は卒業するということは、わくわくすることだろうと言われていました。また、せいせいするだろうとさえ言われていました。君たちもきっとそうでしょうね。でも、私は違ったのです。ワクワクなんて、するどころか、むしろ憤慨していました。人生で最高の4年間を過ごした見返りが、叩き出されることだったのですから。
そのとき確かだったのは、たった1つのことでした。私は外の世界にとって何の経済的価値を産み出すことも無い存在だと言うことです。のっけから、そりゃないとされる芸術史の専攻でしたしね。私は君たちのほとんど以上に市場向きの人間ではなかったのだです。まあでも私は金持ちの有名人になったわけですけどね。そう、いわば、ね。
私の身に起こったことを簡単に説明しましょう。君たちが外の世界に飛び出し、何かを成し遂げる前に分かって欲しいのは、何かを成し遂げるということ、神秘の力無くしては語れないということです。
私はただの1冊の本も出さないまま、出版されないままプリンストンを卒業しました。皇太子はもちろん、他の誰かのためにも書かなかったわけです。しかし、初めて書くことの手痛い洗礼を受けたのはプリンストンで芸術史を学んでいた時でした。卒業論文に励んでいたころです。私の助言者はウィリアム・チャイルズ先生という、考古学者で才能のある素晴らしい先生でした。
イタリアの彫刻家、ドナテッロがギリシャとローマの彫刻技術をどのように使いこなしたかについて論じているもので、要点とはズレてしまいますが、ちょっと誰かに聞いて欲しかったもので。
チャイルズ先生がどう思ったかは神のみぞ知る所ですが、彼が私の熱意を引き出したことには違いありません。熱意なんてもんじゃなく、強い渇望です。私は論文を提出したとき、人生において何がしたいか分かっていました。論文を書くことです。言い方を変えれば、本を書くことです。
それで、私は自分の腹をくくりました。私はここからほんの数ヤード離れたマコーミックホールに居て、チャイルズ先生が私の論文を褒めてくれることを聞き耳を立てて待っていました。チャイルズ先生は褒めてくれなかったばかりか、45分後に一言こう言ったのです。
「何を思ってこれを書いたんだね」と。
「言うなれば……」先生は言ったのです。「これでごはんを食べていこうなんて思っちゃいけないよ」
そうはしませんでした。そうでもないかな。私は何をしていいかわからない者たちがたいていすることをしました。大学院に進学したのです。書くことは夜にしました。何について書けば良いのかさっぱり見当がつかなかったので、結果は出せませんでしたが。
ある夜のことです。私はとある晩餐会に招かれました。その時座った席がウォール街の大手投資銀行、ソロモンブラザーズの重役の奥様の隣の席でした。その彼女が夫である投資銀行の重役に掛け合ってくれたおかげで、ソロモンブラザーズでの仕事に就けることとなったのです。
ソロモンブラザーズのことはほとんど何も知らなかったのですが、ちょうどその頃、ウォール街は今私たちが知る、愛すべき形に姿を変えようとしている混乱期の最中でした。
仕事に行った日、ほとんど勝手に私に割り当てられたのは、成長し続ける狂気を目の当たりにできると言う、最良の仕事でした。デリバティブの専門家に仕立て上げられたのです。1年半後にはソロモンブラザーズから私は数十万ドルの小切手を受け取り、プロの投資家にデリバティブについてのアドバイスをする仕事に就いていたのです。
私はソロモンブラザーズについて書くことのできるネタを持っているわけです。ウォール街は混乱していました。お金の駆け引きというものについて少しも知らなかったプリンストン卒業生をお金の駆け引きの専門家に仕立て上げ、大金を払ってしまうくらいに。私が次の場所に行くべき時が来たのです。
私は父に電話をし、前金40万ドルで本を書くために何十万もの大金を払ってくれる仕事を辞めると伝えました。長い沈黙が、電話回線の向こうから伝わって来た後、「考え直したらどうだろう」と父は口を開きました。
「どうして?」と私は聞くと、「ソロモンブラザーズに10年勤め、お金を貯めてから本を書けば良い」と言ったのです。
考え直すことはありませんでした。私は、書きたいという情熱がどういうものか知っていました。ここ、プリンストンで実際にそう感じたのですからね、その時の情熱を欲していたのです。私は26歳で、36歳まで書きたい情熱が持続するとはとうてい思えなかったのです。
私が書いた『ライアーズ・ポーカー』という本はミリオンセラーとなりました。私が28歳のときです。私は経歴があり、少し有名であり、ちょっとしたお金を手にしているという、新しい人生の幕開けを迎えたのです。私は人々に、作家になるために生まれたんだと、突如言われ出しました。とんでもないことです。
隠されている別の真実が、そこにはあるのです。運です。ソロモンブラザーズの重役の奥様の隣に座る確率は一体どれくらいでしょうか。しかるべき時に物語を書くためにウォール街随一の投資銀行で働ける確率は? ビジネスの最前線を目にする確率は?
ため息をつきつつも経済制裁も加えず、「好きにすれば」と言ってくれる両親を持つ確率は? プリンストンの芸術史の教授によって書きたいと気付かされ、情熱に火をつけられる確率は? そもそも、プリンストンそのものに入れる確率は?
嘘の謙遜をしているわけではありません。意味のある、嘘の謙遜です。私の経験から、成功というものがいかに合理化されているかについて説明します。人々は運に基づく成功というものを嫌います。特に成功した人々においては。
成功した人というものは、歳を取るにつれ、成功は必然だったのだと考えがちになります。彼らは、自分たちが歩んで来た道を、偶然によるものとして片付けられたくないのです。というのも、世の中の成功というものが偶然によってもたらされるものだとは認めたがらないからです。
わたしは『マネーボール』という著書のなかでこのことについて書きました。野球という形をとって書いたものですが、言いたかったことはまた別のことです。
プロ野球球団にはお金のある球団と、そうでない球団が存在し、プレイヤーにかけるお金は桁違いです。私がこの話を執筆中、プロ野球球団一のお金持ち球団、ニューヨークヤンキースは1億2,000万ドルもの大金を25人の選手に支払っていました。オークランドアスレチックスという最もお金の無いチームが同じく選手に支払う額は3000万ドルなのに、です。
しかし、です。オークランドチームは自分たちよりお金を持っているチームよりも、ヤンキースを何回も制しているのです。
起こってはいけないことが起こっているのです。筋書きでは、お金を持っているチームは有力選手を集めることができるのだから、いつでも勝利を手にすることができるはずなのですから。
しかし、オークランドチームは気付いていたのです。お金のあるチームは、本当に良い選手というのはどんなものかわかっていないのだと。
選手達は不当な評価を受けていました。そしてその最大の理由というのは、専門家が野球の成功というのは運というものも込みだということに気付こうとしなかったことにあるのです。
選手、ピッチャーはゲームに勝つことで、打者はランナーをベースでノックすることによって信用を勝ち得ますが、それらすべては他者のパフォーマンスによって成り立っているものです。選手は、例えば打たれたボールが偶然球場に落ちるなど、彼らの力ではどうすることもできない出来事のために非難されたり、信用を得たりしていたのです。
野球や、スポーツから離れましょう。1年で何百万ドルも稼ぐ会社員が居たとしましょう。彼らはこれまでその会社に勤めて来た社員がしていたことを同じ様に繰り返し、また、し続けます。一挙手一投足を評価する何百万人もの群衆の前で。
評価する側は彼らの仕事について統計をとっていますが、しかし、それでも彼らの評価は正当ではありません。彼らの運に目をつけていないからです。
これはもう1世紀もの間、私たちの目と鼻の先で起こっていることです。そして、お金のない球団の活躍に注目せざるを得なくなるまで、誰もそのことに気付かなかったのです。
あなたは聞くでしょう。何百万ドルもの報酬を得ているプロスポーツ選手ですら、評価を誤られているというのなら、誰が正当に評価されているのか、と。純粋な実力主義であろうプロスポーツの世界において、運の良い選手と、実力のある選手を見極めることができないのなら、誰ができるのだろうかと。
『マネーボール』には実際的な含みがあります。より良いデータを使えば、より良い価値を見出すことができるのだというものです。市場開拓は常に非効率性を含んでいるものだ、というように。
しかし、この本にはより大まかで、実践的とは言えないメッセージも含まれています。人生の結果に騙されるな、というものです。良い運と悪い運が互い違いに重なっている、というわけではありませんが、人生というものは沢山の運によって成り立っています。
何よりも、もし成功を手にしたとしたら、運の力というものも働いているのだということ、運というものには義務も付いてくるということ、神に対してのみならず、不運というものに対して借りができたのだと言うことを心に留めておかなければならないのです。
このことは簡単に忘れ去られてしまう部類のことでしょう。ちょうど、このスピーチの様に。ですから、あえて私は言いたかったのです。
現在私はカリフォルニアのバークレイに住んでいます。数年前に、私の家から数ブロック離れた先で、カリフォルニア大学の心理学部がとある実験を行なったことが在ります。最初に、実験台となる生徒を無作為に選び、性別で分けて班を編成しました。男性3名の班、女性3名の班、男女混合班の3種類です。
それからそれぞれの班を部屋に入れ、1人を選び、リーダーとなる様に指示しました。そこで学内でのカンニングについてどうすべきか、学内での飲酒をどう規制するか、などの解決がややこしい道徳問題についての議題を与えたのです。
ちょうど30分経ったころ、実験者はそれぞれのグループの元へ行き、皿に乗ったクッキーを差し出したのです。4枚のクッキーです。3人からなる班であるのに、4枚のクッキーを差し出したのです。1人1枚のクッキーを受け取れるわけですが、となると、クッキーが1枚だけ皿に残されてしまうこととなります。
さぞや気まずかったに違いありません。しかし、どうも様子が違ったようなのです。無作為にリーダーとして指名された1人が、何の躊躇も無く4枚目のクッキーを食べたのです。
ただ食べただけではなかったでしょう。音を出し、口を開け、口の端からよだれを垂らしながら、さぞや美味しそうに食べたのでしょう。残った1枚クッキーが残したものは、リーダーのシャツの食べかすだけだったのです。
このリーダーは何か特別なことをやり遂げたわけではありません。何かに秀でていたわけでもありません。30分前に、ただ無作為にリーダーに選ばれたに過ぎません。彼にあったのは、運だけでした。しかし、それでも彼はクッキーは自分のものだと疑わなかったのです。
この実験はウォール街のボーナスやCEOの給料について、また、人間がとる行動についての説明に役立つことでしょう。しかし、プリンストン大学を卒業するあなた達にも無関係ではない話なのです。
一般的な観点から、あなたたちはこれまでリーダーの役割を担ってきたことでしょう。いつでも偶然で選ばれたのではなかったかもしれません。しかし、その偶然性をしっかりと感じないといけないのです。
あなたは、少数派である恵まれた人たちなのです。両親に恵まれ、国に恵まれ、プリンストンのような、恵まれた人材を恵まれた人材に紹介でき、より運を開く機会を設けられる素晴らしい場に恵まれている人たちです。他の何かのために自分自身の興味を犠牲にすることも無い、世界中で類を見ない最も豊かな社会に幸運にも住んでいるのです。
あなたたちすべてが4枚目のクッキーを目にしたことがある筈です。あなたたち全てがこれからもっともっと4枚目のクッキーを目にするでしょう。そのとき、当然自分こそがそのクッキーにふさわしいのだと思うことは簡単なことだと知るでしょう。
まあ、そうなのでしょうが。しかし、自分はクッキーにはふさわしくないんだというフリをするだけでも、あなたはより幸せになれるでしょうし、世界はより良くなるのではないでしょうか。
決して忘れないで下さい。国の奉仕の元に。すべての国の奉仕の元に
ありがとう。そして幸運を。
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