2024.10.10
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渋沢栄一から学ぶ「壁を乗り越える考え方」【藤野英人×渋澤健 ③】(全1記事)
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ナレーター:今回は、渋澤さんと藤野さんに投資家として必要な先見性や未来を信じる力についてうかがいます。さて、岸田内閣の骨太の方針にも「包摂社会の実現」が盛り込まれていますが、なんと渋沢栄一はすでに実践していたそうです。
藤野英人氏(以下、藤野):渋沢栄一さんはファイナンシャル・インクルージョン、金融包摂の話をされていたと思うんですが、渋沢栄一さんの考える金融包摂でもいいし、渋澤健さんとして金融包摂をどう現代に考えているのかを、ぜひお聞きしたいなと思います。
渋澤健氏(以下、渋澤):ありがとうございます。渋沢栄一は500社ぐらい会社を作ったと言われていますが、それだけではなく、今おっしゃっていただいたように、大学や女子教育とか社会福祉施設、NPO、NGOなど600件の設立に関与したと言われています。そうすると、人を取り残さないような社会を目指すべきだと考えていたのは間違いないと思うんです。
新しい資本主義が始まった時に岸田さんは『論語と算盤』を参考にしているという話があって、だから私がメンバーに招かれたというのはあるんですけど。あらためて渋沢栄一のインクルージョンを考えてみると、『論語と算盤』の中に「ただ王道あるのみ」という教えがあって、そこで「富の平均分配は空想だ」と言い切っているんですね。
だから一般的に言われている分配政策、「みんなが同じになるべきでしょ」という思想は、実は渋沢栄一にはなかったんです。
藤野:なるほど、そういう包摂じゃないと。
渋澤:そう。栄一に見えた社会はたぶん今の社会とそういう意味では同じで、いろんな立場で、さまざまな能力・才能を持った人たちがいた。何よりもここが栄一が一番重視したポイントだと思いますが、たくさん努力する人がいれば、まったく努力しない人もいた。「こんなバリエーションがある世の中で、みんなが同じ結果になることはない」と。「結果平等」という考えはなかったと思うんです。
当時の日本で渋沢栄一が目指した社会は、どのような身分の生まれであっても、仮に社会の弱者と言われる方々であっても、自分たちが与えられた能力・才能をフルに活かすことができて、参画できる社会。結果は平等ではないかもしれないけど、機会は平等であるべきというインクルージョンの考えがあったと思うんですね。
岸田さんの新しい資本主義の話に戻すと、意味がわからないと言われるんですけど、僕は大切だと思うことがいくつかあって、1つはさっきお話しした好循環が大事ということです。
なぜ好循環が必要かは、実は岸田さんはかなりはっきりとおっしゃっているんだけどなかなかメディアがその言葉を取り上げないんですね。それは「外部不経済」という言葉です。
ちょっと難しい概念だから読者がわかりづらいという判断があるのかもしれないけど、すごく簡単に説明すると、資本主義が取り残した環境や社会の課題のことです。それを資本主義の中に取り込みましょうと言っているんですよね。
僕は新しい資本主義とはインクルーシブ、包摂である資本主義を目指すことだと思うんですよ。「新しい」かというと概念はぜんぜん新しくないんだけど、これからの時代にはすごく必要な考えじゃないかなと僕は思いますね。
ナレーター:渋沢栄一の本質を捉えた多くの言葉は現代でも活かせるものだそうです。今回は特別に1つ選んでもらいました。
藤野:文庫にもなった『渋沢栄一 100の訓言』はたくさんの方に読まれていると思うんですが、渋沢栄一さんの言葉の中で「特にこれが気に入っている」というのはありますか?
渋澤:気に入った100の本があって、その次に気に入った100の本(『渋沢栄一 100の金言』)もあるので(笑)。
藤野:確かに選びきれないよね(笑)。
渋澤:言葉ではなく、渋沢栄一の気に入っている解釈があります。『論語』の中に「これを知る者はこれを好む者に如かず。これを好む者はこれを楽しむ者に如かず」という言葉があります。
知らないで動くのは無謀なので、それはやめなさいと。だけど知っているだけで、動かない場合がありますよね。だから、好きであることが大切だと。好きであれば、あそこに好きな女性がいるから、そこに行きたいという動きが出てくる。「好む」という気持ちが、アクションを起こすんです。
だけどアクションを起こしても、その女性に「あなたなんか嫌い」と言われるかもしれない。壁にぶつかって挫折してしまうかもしれない。でも「楽しむ」心を持っていればどんなに困難な状態でもそれを壁だと感じず、進み続けることができると。その解釈は素敵だなと思っています。
草食投資隊(渋澤氏と藤野氏、セゾン投信社長の中野晴啓氏の3人で結成)の初期もいろんな壁がありましたよね(笑)。
藤野:そうですよね(笑)。
渋澤:いろんな壁があって。だけど「なんか楽しいからいいんじゃん」みたいな感じで3人でガチャガチャやっていましたよね。
藤野:これからの10年、20年、30年と言うと、日本や世界に対する悲観的な評論や見方が見られます。特に日本については「もう駄目だ」といったネガティブな見方が増えてきた気がするんです。
未来を信じる気持ちとか、未来を明るく思えなかったら、長期投資はなかなか続けられないと思うんです。そういう中でこれからの日本に期待することってどんなことでしょうか。
渋澤:日本の課題はたくさんあって、それを話し始めると延々と何時間も話せるのですが、おっしゃるとおり未来を信じる力がなければ長期投資はできないわけですよね。
どういう未来が起こるかを当てるという予測ではなくて、そもそも我々がどういう未来にしたいかが大事じゃないですか。1つは先ほどお話しした「メイドウィズジャパン」というモデルですね。
あと、先ほどブロック経済の話もしましたが、ふと先日思いついたんですけど、戦後からベルリンの壁が崩壊するぐらいまで続いたブロック経済って、日本が最高によかった時代ですよね。
藤野:そうなんですよね。
渋澤:もちろん背景には人口動態とか、競合があまりアジアにいなかったとかいろいろあったと思うんですけど、最高にそれで日本には良かったじゃないですか。でも、ベルリンの壁が崩壊して、グローバル社会が来てから、日本は横ばいが続いた。
藤野:相対的な地位が下がりましたよね。
渋澤:でも世界は成長し続けた。そして、これからまたブロック経済になると。「大変だ、大変だ」と言われているけど、前のブロック経済の時はけっこううまくやったので、再びブロック経済になった時にどう日本の特徴を活かすことができるかだと思うんですね。
かつて日本が諦めないで豊かな社会を作ったという業績や記憶は、実は世界には残っているんですよ。だから僕は、アフリカとか新興国に行くと「日本は150年前は新興国、途上国で、民主主義と資本主義を使って豊かになりました」という話をよくするんですけど、課題がたくさんあることは間違いないけれど、日本が持っている特徴を活かせる場は必ずあると思うんです。
短所が「駄目だ」というやり方もあるけど、「長所を伸ばす」という考えがあってもいいんじゃないかと思うんですよね。
藤野:さっきの言葉に戻りますよね。やっぱり楽しめるか。好奇心を持てるか。
渋澤:前からも言っているけど、円安になった時っていろんな問題があるんだけど、輸出会社はすごい利益が上がるじゃないですか(笑)。
藤野:いや、そうですよね。
渋澤:きちんと海外で投資をしていて、事業が回っている会社って今年の業績は絶好調なんだろうなと。
藤野:「円安だ」と大騒ぎしているけど、「これはボーナスタイムだ」と。どうして「日本にあるすべての物を売りに行け」「もうなんでもバカスカ売れるぞ」というトーンの話が出ないかなって。
企業経営者もメディアも「ピンチだ、ピンチだ」と言っているけど、これは千載一遇のチャンスで、もし今、渋沢栄一さんがいたら「者ども行くぞ」みたいな感じだったんじゃないかなと思いますよね。2023年はかつてないインバウンド元年というか、復活の年になって、ものすごいチャンスが来る気がしますよね。
渋澤:ありますよね。
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