【3行要約】・集中できない・ケアレスミスが多いという悩みは、実は「注意力」の4つの種類(維持・取捨選択・分割・切り替え)のどれかに課題があることが多くあります。
・注意の分割や切り替えが苦手な人は、自分を変えようとするより外部ツールの活用が効果的です。
・環境を整える、アラームを活用する、時間管理を工夫する、自分の興味を理解するといった、自分に最適な仕組み作りの方法を紹介します。
前回の記事はこちら 「注意力不足」の攻略法
半村進氏(以下、半村):では3つ目の対談のテーマにいかせていただきます。これも、もうこの文字を見ただけでみなさんドキッとなさっているかもしれないんですが、「注意力不足!」。そう思った時に、何か攻略法がないのかなと。

林田さん、会計士というすごく注意が必要なお仕事の資格を取っていたわけですけど、悩まれたんじゃないですか?
林田絵美氏(以下、林田):いや、そうなんですよね。なにしろ注意欠陥多動性障害なので(笑)。会計士の資格を取ってから(自分の特性に)気づいてしまうという感じだったんですけれども。でも会計士試験以前から、やっぱり注意力(不足)というのは、すごく(周りの人から)思われていて。塾の先生にも「うっかり娘」というあだ名をつけられるぐらい(笑)。
半村:あはは、本の中にも出ていましたね。
林田:そうですね。本当にケアレスミスが多くて。例えば試験勉強中、設問の中の条件を読み飛ばすとか、よくやってしまうミスってありますよね。
私がやってしまうのは、「8」という答えを求められている試験問題があった時。その手前で因数分解とかそういう問題を解いていてその頭になっていると、「8」と書けばいいものを「2の3乗」と回答欄に記入してしまったりとか。
あとは、マークシートで答える時に、マークシートを1行ずつずれて塗ってしまったことに、試験終わりの直前になって気づいて大パニックを起こすとか。そういうことをやってしまっていたりするんですよね。
「注意」には4つの種類がある
半村:こういうエピソードがあると、「自分、注意力が足りないなぁ」と心が折れちゃうわけなんですが。ただ、注意力と言っても、もう少し深く考えてみると、注意の種類があるんじゃないかというのも、本のすごくおもしろいところだったんですね。それがこちらです。
林田:そうなんですよ、ケアレスミスというと、ミスをした後のことばっかり語られがちなんですけれども。そもそも注意って何だろうということに、すごく疑問をもって調べたところ、実は注意にもこんな4種類のものがあると。

1つが「注意の維持」。これが一番注意と言ってイメージが湧く人が多いと思うんですけど。何か1つのことに注意した時に、それを続ける、いわゆる集中力みたいなイメージですね。
2つ目が「注意の取捨選択」。これは例えばこの絵にあるように、ワイワイしているカフェで、手元の作業とか、本を読んでいることに集中する。ある意味、この注意する対象が手元にも周りにもある中で、手元に集中するという取捨選択をしているという脳の働きがあるんですよ。
あるいは「注意の分割」ですね。これは仕事のシーンなので、資料を作成してデータ確認してとかの絵になっているんですけど。勉強のシーンだと、例えば時間をある程度意識しながら勉強する、試験問題を解くのは、注意の分割なんですよね。
あとは「注意の切り替え」。何か1つ(やあることが)あって、次の注意の対象に切り替える。前に集中していた事柄を頭の中から捨てて、新しいところに集中する。これが注意の切り替えですね。
気が散って勉強に集中できない、試験中もケアレスミス多発…
林田:だいたい何かミスをするとか集中できない時は、この4つのうちのどれかに当てはまるような感じがするんですよね。
例えば私は試験時間を守るのが、すごく苦手だったんですよ。さっきの1つの科目に集中してしまいがちというところにも共通するんですけど、その試験の中のすごく難しい問題を解き切ることに集中して、その後のところは解けなかった。
やはり自分はこの注意の分割が苦手なんだなということに、大人になってから気づいたんです。半村さんは、例えばキズキの方からのよくあるお悩みでも、こういうことはあったりしますか?
半村:そうですね。例えば試験の時のケアレスミスも、みなさんすごく気にするわけですけど。あと親御さんもそう(いう悩みがある)かもしれませんが、そもそももっと手前の段階で、ちょっとでも気が散るようなものがあると、すぐにそっちに行っちゃう。
「スマホに手も伸ばすし」「動画も見たがるし」とかですね。あと「本当は勉強するはずだったのに、絵を描いちゃっているし」みたいな悩みもあると思うんですよね。気が散ってしまうと、勉強に注意を向けられないなんてこともよく聞きますよね。
その時に叱ればできるようになるのかというと、そんなことはまったくない。親御さんがたまに叱るのは人間ですから当然だと思うんですけれども。でも、仕組みを作っちゃおうというのが、やっぱりいいのかなと思うんですよね。本の中でも仕組み作りの話もなさっていたと思います。
勉強の終わり時間10分前にアラームを鳴らす
林田:そうなんですよね。例えば気が散りやすい時には、すごくありがちですけど、もうテーブルの上に(気が散る物)は一切出さない環境を整えるとか。
あとは注意の切り替えは、もう自分の注意力を信じるのをやめることなんですよね。例えば1つのことを勉強していて、もう1つの勉強に移るとしたら、その勉強が終わる10分前ぐらいと終わるタイミングの時にアラームを鳴らす。
これは、終わるタイミングだけで鳴らさないのがポイントです。やはり注意の切り替えはちょっと時間がかかる。だから10分前に鳴らすことで、「あ、もうすぐ注意(するのは)終わりだな」と収束させて、「終わり、次」というところでもう1回アラームを鳴らすとうまく切り替えられるとか。
「注意力を高めよう」「自分を変えよう」としすぎなくていいんですよね。じゃあその注意力が自分の脳に頼れないんだったら、どうやってそれ以外のところに任せるかを考えるようなイメージですかね。
最初に「試験問題の数」を数えておく
半村:あともう1個、さっき林田さんが話したテーマでみんな聞きたかったのかなと思ったのが、試験の時にちょっと難しめな問題に集中してしまって、本当だったら他の(問題を)解いておけばよかったのに、そればっかりやっちゃったよという話があったじゃないですか。
でも、林田さんは受験も、そして難関の資格試験も合格しているという事実があるので。今言った特性とどうやって折り合いをつけたのかな、というのも聞きたい人が多いのかなと思って。
林田:そうですねぇ。そこもすごく難しいんですけれども、やっぱり自分の注意が向きやすい状況を作るのが必要です。私の試験の時はストップウォッチを持っていくことができたんですけど。ストップウォッチを持っていって、もう「今何時」じゃなくて、残り時間が明確にわかるようにしたという感じです。
あと、試験問題の数を数えておく。試験時間を試験問題の数で割ると何分になるかを最初に計算しておくというのをやっていました。これだけやっても、それを意識するには訓練が必要なんですけど。
なので、3つ目にやったのが、ふだん過去問を自分の部屋で解く時とか、テキストを解く時も、そのストップウォッチを使うようにしていたこと。とにかく時間を刷り込む訓練をしていましたね。
半村:実践的な方法を聞けて、ちょっと喜んでいらっしゃる方も多いと思いますね。今、僕たちは大きく3つのテーマに分けてお話をしてきたんですけれども。みなさんが聞きたいことはこれだけにとどまらない気がしたので、実は質疑応答のお時間を設けております。
勉強を強制されなくても「やりたい」と思えるか?
半村:事前にいくつかいただいていたご質問もあって。あと、今見てみると、チャットに書いてくださっていた方もいらっしゃってですね。チャットを見てみると、「学校の授業で、勉強や体育、音楽、美術が嫌いになるケースは多くないですか。強制的にやらされているみたいで」と。
この強制的にやらされているという感覚があると、やらなきゃいけないことであってもやりたくなくなるというのはみなさんあると思うんです。ただ、特にその傾向が強い方もやっぱり多いのかなと思うんですよね。
自分の好きなものにはガッといけるんだけど、「やれ」と言われたことにはぜんぜんいけないみたいな。これはいかがですか、林田さん。仕事でも勉強でも「やれ」「やれ」と言われたことで、「なんか取り組む気分が起きないなぁ、嫌いになっちゃった!」って。
林田:いや、そうですよね。これは参考になるかはわからないんですけど。ちょっと話が外れちゃうんですが、前提として、自分は中学校の時にあんまり友だちがいなくてですね(笑)。
それで、ネット上で海外の友だちを作ったわけですよ。そのドイツ人の子が日本に来た時に会ったんですが。その子が誰かに「やれ」と言われたわけでもなく、学校で教科になっていたわけでもないのに、日本語を自分で勉強していたことに、ハッと気づかされるものがあって。勉強ってこれでいいんだと思えたところから、学校の科目にこだわらなくていいと気づけたんですね。
なので、学校の勉強以外で、「あ、これが勉強なんだ」と気づけて、「自分はこの勉強をやりたい」という機会に出会えると、強制されている感がちょっと変わるのかなと思ったりします。
半村:それで言うと、僕は授業で社会を教えていたことがあったんですよ。社会って「さあ、この年号を覚えて」「世界地図を見て、バングラデシュという国はここ」みたいな感じで、「こんなことを覚えて何の役に立つの?」みたいな話になりがちだと思うんですよね。ただ、その生徒さんはきれいなものが好きで、デザインとかのお話をしてくれていたのが、僕にとってもおもしろかったんですよ。
林田:なるほど。
半村:僕が国旗のデザインについて話すようになったら、それをすごく喜んでくれて。世界地図も勝手にどんどん頭に入っていくし、「あれ、首都の名前まで」みたいなこともあって。1対1でそういう学びができるとおもしろいかなと、生徒さんにすごく気づかされましたね。