【3行要約】・完璧にできないならやらない方がいいと極端に考える「全か無か思考」が、多くの学習者の勉強継続を妨げています。
・発達障害支援の専門家である林田絵美氏は「自分で『ここまでいかなかったらダメ』と決めてしまい、失敗のシーンを自ら作り出していた」と自身の経験を語ります。
・この思考パターンから抜け出すには、現状の客観的把握、計画への余裕の組み込み、効果的な勉強時間帯の活用など、特性に合わせた学習法の確立が鍵となります。
前回の記事はこちら 勉強が続けられない「全か無か思考」
半村進氏(以下、半村):今日のテーマ「勉強しようとすると心が折れてしまう」ですね。勉強がなかなか続けられないというところに、ここからつなげていくんですけれども。そもそも林田さんも、かなりハッキリしたADHDを持ちながらの勉強だったわけですよね。
林田絵美氏(以下、林田):(笑)。うんうん。
半村:実際にいろんなミスもあったと思うんですけれども、それこそ勉強をしていくうちに心は折れませんでしたか?
林田:そうですね、ミスもそうなんですけど、心が折れるところでよくあったのが、私は特に最初にご紹介したこの「全か無か思考」がすごく強かったんですよね。

例えば冒頭の自己紹介でよく「宿題をやってこなかった」と申し上げると思うんですね。実際、今思い出すと、宿題はやっていたんですよね。ただ、完成しなかったということ。自分の中で最初から最後まで宿題ができたと思っていなかった。
例えば読書感想文も最初から最後まで書いてはいるんだけれども、自分の中でそれがうまく書けなかったと思っているわけですよね。そうすると「もうそんな宿題、提出する価値もない」と思って、ずっと提出しないんですよ。
だから、やっぱり自分で「もうここまでいかなかったらダメ」と決めてしまっていて、ダメなシーンをすごく多く作り出しちゃっていた。その都度その都度「勉強、自分には無理だ」「もうやめよう」「もう明日のテスト無理だ」とか(笑)。
本当は勉強を続ければもうちょっといい点が取れたり、本当は宿題を提出すればもうちょっといい成績を取れたかもしれない、みたいなところでどんどん落としまくっていたような小学校生活を送っていたなあと思いますね。
うまくいっている人や「一番良い時の自分」と比べてしまう
半村:なるほど。実はこれも身につまされる話で、キズキの生徒さんだけではなくて、大人の方も思っていることが多いと思うんですよね。あと、僕がスライドでもう1個すごく印象に残ったのは、「過大評価、過小評価」のお話です。
林田:あぁ、そうですね。
半村:まさにこれですね。なぜこれが僕の印象に残ったかというと、自分が東大に入った後でまたガチっと引きこもってしまったのが実はここで。何と比較するのかということなんですけど。僕だと、もう勉強ですごいなと思った人と自分を比較するというレベルじゃなくて。
例えば、初めて会った教授とうまく話せている人を見ると、自分がそんなコミュニケーションができなかったので、そこでもまた比較してしまう。自分ができていることもあったのかもしれないけど、そっちにはもうまったく目が向かないんですね。
あと、キズキの生徒さんを見ていても、何と比較するのかもけっこう重要かもしれなくて。例えば2年前までは名門の学校にいたんだけれども、ちょっとそこでつまずいて不登校になっちゃった時に、やっぱりできる方々が学校に多かったので、そこばっかりに目がいっちゃう。
さらにそれだけじゃなくて、今なかなかうまくいっていないなという自分を、2年前の自分と比較してしまうみたいなこともあると思うんですよね。
林田:ありますよね~。
半村:「勉強もがんばっていたし、運動もがんばっていたし、もちろん学校も行っていたよ」みたいな時の自分と、今、実際は何かできているかもしれないんですけど何にもできてない自分みたいに思っちゃって、そこと比較する。
でも本当だったら、1ヶ月前の自分とか2ヶ月前の自分よりはできていることもあるかもしれないんですよね。参考書がちょっと開けるようになったとか、ちょっと早起きできるようになったとか。でも一番良い時の自分と比べてしまうみたいなことがあって。こういうのも、わかっちゃいるかもしれないんですけど、どうしてもやめられない。で、心が折れがちになる方が多いと思うんですよね。
ただ、実は僕はこういうことにもちゃんと対策はあるんじゃないかなと思っています。もちろんその対策もこの本に載っているんですが、僕が考えた僕なりの話もちょっと別のパートでさせていただければと思います。
特性と“うまく”付き合いながら受験勉強を乗り切る方法は?
半村:あともう2つ大事なテーマがありまして、「特性と“うまく”付き合いながら受験勉強を乗り切る方法は?」。こちらのイベントに来てくださっている方は、ご自分が発達障害の傾向をお持ちだったり、あるいはお子さんがとかですね、あるいはご友人とかかもしれない。

そういう場合、いろんな特性がどうしても出てくるわけですね。それとどう付き合って受験勉強を乗り切ればいいのか。これも本当によくいただくご質問なので、外せないテーマだと思って入れさせていただきました。
もう何千人もの生徒さんを見ていると、一人ひとり特性が違うとは言っても、大きくくくれば共通しているところも見えてくるというのも、だんだん僕たちもわかってくるわけですね。ただここも、林田さんもいろんな意味で特性と付き合ってこなきゃいけなかったのかなと思うんですけれども。ご自身の場合はどうやって乗り切っていましたか?
林田:さっきの完璧主義の話に似ているかもしれないですけど、1つの科目にしたら、その科目だけをやる傾向があって。それがけっこう試験勉強、受験勉強にはマイナスに響くことがすごく多かったんです。
自分が勉強した時間を矢印で書く
林田:例えば期末テストとか中間テストとかは、基本5科目あると思うんですけれども。基本的に私、数学はある程度得意だったのと、英語は好きだったという感じなんですけど、他がけっこうボロボロだったりして。
勉強はもちろん得意、苦手もあるんですけど、自分は興味があるところだけにすごく勉強の時間を割いちゃうところがあって。それを自分でもいろんな対策をしようしようと思って、なかなかできたりできなかったり。
中学生の時に通っていた塾で、当時はあんまりスマホのアプリとかもないもんですから、ノートの横線を時間軸というふうに見て30分単位で勉強の時間をつける。まずその予定じゃなくて、自分がやった勉強時間を矢印で可視化するのを塾の先生に教わってやったんですよ。
やっぱりさっきの思考傾向も、こういう集中しやすい特性も一緒なんですけど。それを対策することにいきなりフォーカスしがちなんですが、まず自分がどういう状態になっているのかを、意外と本人も周りもわかっていなかったりするんですよ。
半村:確かに。
林田:そう。だから、勉強が偏ったという時によくあるのが、「じゃあまずは偏らないように計画を立てましょう」というところから入るんですけど、そうじゃないんですよね。
まず今自分はどうなっているのかを自分で見て「あっ」と気づくところから始めるのが大事なんですよね。それで、自分が勉強した時間を矢印で書くところから「あ、こういうことになっているんだ」とあらためて気づいて、じゃあその矢印を直すにはどうすればいいかなという。本当はこういうスケジュールだったらよかったというのをやるようになったんですよね。
そういうことから、だんだん勉強の時間を管理することが自然とできるようになってきた。それで高校受験に向けた勉強の時は、だんだんバランスの取れる子になっていったみたいな感じでしたね(笑)。