【3行要約】・スマホ依存やデジタル疲労が現代人の課題として注目される中、新しい休み方やデジタルとの距離感が求められています。
・デジタルデトックス・ジャパン理事の森下氏は、現代の疲れは脳疲労という新しい形であり、デジタルデトックスや「暇リッチ」な時間の重要性を指摘。
・意図的にスマホから離れる時間を作り、情報の質を厳選することで、デジタル時代の豊かな生活を実現できます。
“スマホを忘れる2日間”がくれた気づき
中場牧子氏(以下、中場):そうですね。ちょうど私たちも3月に、デジタルデトックスのリトリート(心身をリフレッシュして自分と向き合う時間を過ごす旅)を開催したんですよ。1泊2日だったのですが、やはりその間はスマホのことを忘れてたという方がとても多くて。その体験、その瞬間にすごくフォーカスするというのを、御岳山という山でやったんですよね。
森下彰大氏(以下、森下):はい。
中場:その美しさをすごく堪能したという声をたくさんいただきました。
森下:そうですよね。デジタルデトックスのキーワードとして、「みんなでやる、楽しくやる」と「ゲーム感覚でやる」という2つがあると思います。リトリートなんて、まさに現場でやるということですよね。
中場:そうですよね。
森下:ゲーム感覚でもいいし、1日1個お題にチャレンジする「7-DAYデジタル・デトックス」という、LINEオープンチャットのイベントとか、そういう仕掛けを自分で作っていくのはすごく大事。やはり日常生活で、いきなり「自分の部屋でスマホを使わずに本を読むぞ」とかは難しいと思うんです。
だからリトリートもそうですが、まったく違う環境に行って、そこで成功体験を持って帰ってくる。「スマホを触っていないとこんなに変わるんだ」みたいな気持ちいい感覚だけ覚えて日常生活に戻ってくると、その心地よさを取りに行きたくなると思うんですよね。
そういう意味では、リトリートとかはすごくいいのかなと思います。
“暇リッチ”という豊かさ
中場:はい、ありがとうございます。(コメントが)どしどし来ているので進めましょう。
森下:すごいですね。
中場:「スマホを最近持ち始めたデジタル弱者のため、最強の時間泥棒=スマホ対策が自然にできていて、暇リッチです」。
森下:あぁ~。いいですよね。
最近、川上(浩司)先生という京都大学の工学の先生を取材しました。初期のAIなど研究していた方なので超絶テック系の方なんですけど、携帯電話を持っていないんですよね。スマホを持ってないし、なんならガラケーも持っていない。
出張の時は迷わないように前入りして、当然ホテルまでの地図もアプリがないので看板とかを見ながらうろうろしているそうです。そうすると「あ、今日ここで飲もうかな」みたいな店が見つかったり「ちょっとした旅感覚になっておもしろいですよ」と言っていて、「あ、この人リッチだな~」とすごく思いました。……というのが暇リッチ。いいですね。
中場:暇リッチね。いいですね~。
森下:いい言葉ですよね。
労働時間は減ってもストレス度は上がっている
中場:次、「社会人が疲れていない時代は過去あったのでしょうか」です。疲れの質というのがあるんですかね。
森下:そうですね。
中場:先ほど、脳疲労の話をされてましたけど。
森下:はい。あると思います。疲れていない時代がなかったというか、社会階級の階層によりますよね。例えば有閑階級と呼ばれるような、奴隷を雇っていた貴族や王族の時代は、長時間労働という問題とは無縁だったかもしれません。
あと、長い目で見て労働時間は確実に減ってはいます。今の日本の休日や祝日は、実は世界レベルで見てもすごく多いです。労働時間で言うと、減っていると思います。
ただ、何をもって労働と換算するかですよね。リモートワークが普及してから、業務時間外のチャットがものすごく増えたというMicrosoftの報告もあります。そういうのはなかなか労働時間としては見えてこない。
もっと言うと、日本人の労働時間は減っているけど、ストレス度で言うと上がってきています。ストレス度が上がり始めた時期は、Microsoftとか、要はオフィスツール、パソコンが普及してきた時とちょうど重なるんですよね。そこから常時接続状態になっていったので。
だから長時間じゃなくて、断続的な労働とか、脳の労働ですよね。そういうので疲れているという意味では、新しい状況にあるのかもしれないですね。
新しい働き方になったからこそ新しい休み方が必要で、前みたいに体を休めるだけが休み方じゃないんだよとは言えるのかなと思います。
中場:そうですよね。本当に休みの日にもずっと連絡が来るみたいな。新しい疲れ方かなぁというのはあります。
森下:そうですよね。だからやはり意図的に「仕事しないぞ」というものを作らないと。ちょっと前にどこでも仕事したいというので、ノマドワークみたいなこともはやりましたし、それで僕もパソコンだけでできる仕事を選んだんですけど、これが自由なのか不自由なのかは、未だにわからないです。
中場:確かに。
森下:バリ島的なリゾート地まで行って、そこでピコンってプロジェクトのメールが来て。バリのきれいな海を目の前にして、日本の仕事をするのは自由なのか? みたいな(笑)。なんとも言えない思いになったのは、よく覚えていますよ。すみません。ちょっとお話が逸れました。
中場:ありがとうございます。そうそう、疲れているところが違うかもという話があり……。
森下:いや、そうですね。本当にそう思います。これは本の中でも詳しく書いている。
中場:そうですね。ぜひ本書をお読みください。
森下:脳疲労が、新しい時代の疲れということですね。(コメントを見て)次の「アプリを入れていない時は、脱スマホ依存のブラウザで(見ていますか?)」。
はい、ブラウザで見ています。パソコンはやはり持ち運びにくいのがいいところで、パタンと閉じたら、1回見られなくなるので、けっこうパソコンで済ませるようにしています。
ちなみにSNSも、アプリに入れない時はパソコンで見ます。
どの情報を自分が摂取しているのかという感覚が大事
中場:次ですね。(コメントを見て)「デジタルといい感じの距離感が置けたらいいなと思います。私はデジタルとバウンダリー(境界線)が引けていないような気がします。今までデジタルでいろいろな情報を得ることができたので、今更それをまったくなしにはできないというか、したくないと思う私がいます」ということですね。
森下:僕もそう思います。今回の本を書く上でも、やはりいろいろな海外メディアの記事を読みましたが、それはデジタルじゃないとできないですし、それを(デジタルで情報を取ることをまったくなしに)したくないというのは僕も同じです。するべきでもないとも思います。
ただ、一言にデジタルと言ってもいろいろな情報が渦巻いています。例えば、X上を行き交う名前のない人たちのいろいろな情報。顔が見えない人たちの情報もあれば、『ニューヨーク・タイムズ』とか『エコノミスト』とか『ワシントン・ポスト』とか、権威あるメディアの情報発信もあります。ショート動画もそうですし、本当にいろいろ。
なので、どの情報を自分が摂取しているのかという感覚はすごく大事だと思うんですよね。
情報においても重要な「視野と視座と視点」のバランス
森下:コロナの時、すごくそう思ったのですが、ワクチンの報道に関しても、どちらが正しいかどうかは別として、ワクチン賛成派と反対派できっぱり分かれましたよね。見ている情報がもう根本的に違うと思うんですよね。よく言われるフィルターバブルという話です。
この本の中では、情報の新型栄養失調という話をしています。栄養失調というのは生活に必要なカロリーがそもそもない状態。ただ、今先進国では新型栄養失調というのがものすごく問題になっている。
生きていく上で必要なカロリーはあるんだけども、ビタミンとか必要な栄養素が足りていない状態が新型栄養失調。要はカロリーは高いけど健康に必要な栄養が入っていないという状態です。
やはり、情報もその状態になっていると思っています。要は刺激的な情報は嫌でも入ってくるじゃないですか。
でも本当に自分にヒントを与えてくれる、視野を広めてくれる情報、「視野と視座と視点」とよく言いますが、その3つのバランスが取れているかどうかというのはすごく考えないといけない時代だなと思います。
情報の洪水にどう向き合うか
中場:ありがとうございます。ちょっとそれに関連しているコメントをいただいています。
「ネットから逃れられないのは、情報の流れるスピードが昔に比べて圧倒的に速くなったのも大きいと思う。情報化社会の弊害。やはり良くも悪くもネットのほうが情報量が多いので、信憑性の怪しさはあるけれど、テレビや報道で知った情報も、結局詳細はネットに頼ってしまっています」といただきました。
森下:牧子さんにお聞きしたいんですけど、ネットサーフィンという言葉があったじゃないですか。あれって、今みんな使いますか?
中場:いや、私の世代だと普通に使っている感じなんですけど(笑)。どうでしょうね。
森下:なるほど。ネットサーフィンって、初期のインターネットの時ですかね。
中場:えっ、そうなんですか!?
森下:iモードの時とか、そういう時。
中場:今は使わないんですかね?
森下:僕とか、例えばZ世代の人たちはあまりネットサーフィンと言わないかもしれないです。
中場:今、あれのことをなんて言うんですか?
森下:なんて言っているんですかね。ただスクロールしているみたいな。
中場:うーん、確かに。ネットサーフィンはちょっと古いんですか? 気づかなかったです(笑)。
森下:僕は感覚的に使っていないだけなんですけど。
中場:そこでいきなり世代差を出されても……(笑)。
森下:(笑)。いや、でもネットは、けっこう世代差が出ますからね。
中場:うん、出ますよね。子どもと話していると、話が伝わらない時がけっこうあります。
森下:びっくりしますよね。僕、この間子どもに電話の仕草を実験してみたんですよ。電話するジェスチャーって、こうやる人(親指と小指を立てて)いるじゃないですか。今の子はこう(手のひらを耳に当てて)なんですよ。
中場:えっ、そうなんですか。知らなかった。
森下:そうなんですよ。子どもに「電話している真似して」と言ったら、こうやってやったんですよ。
中場:えっ、うちでも試そう。
森下:まじかと思って。それぐらい使っているデバイスが違うんですよね。
ただ、ちょっと話を戻して、このネットサーフィンという言葉は、ある意味波を待っている感じ。「このニュース気になるな」と押しても、当時の回線は5Gでも4Gでもないので遅かったじゃないですか。
中場:そうですね。
森下:情報の波が来るのをぼんやり待っているのがネットサーフィンという言葉だと思っていて。今はもう洪水なんで、サーフィンどころじゃない(笑)。
中場:確かにそうですよね。
森下:板ごと飛ばされる感じだと思うので。そういう意味では、この情報の流れる速さは圧倒的に速くなった。それに圧倒されているというのはすごくあると思います。
だからやはり絞っていくのがすごく大事だと思います。僕がすごく好きで、よく取材させていただく、ミニマリストの四角大輔さんという方がいるのですが、読むメディアを本当に厳選してますよ。逆に言うと、それ以外を見ないので、あの方は、音楽プロデューサーをやっていたのにSMAPが解散したのを数年間知らなかった。
中場:それはなかなかですね。
森下:「でもこれ、僕の人生になにも関係ないので」って言っていて。そっか、すばらしいなという。やはり絞るのは大事なのかもしれないですよね。