【3行要約】
・デジタル機器への常時接続が引き起こす「脳疲労」は、現代社会における新たな健康リスクとして世界的に認識されるようになっています。
・『戦略的暇』の著者・森下彰大氏は、問題の本質は能力ではなく「キャパシティ」だと指摘し、デジタルデトックスの実践で変化を体感した事例を紹介。
・重要なのは「依存」ではなく「共存」のバランス感覚であり、自分の内受容感覚に従って「使えないからこそ気持ちよい空間」を見つける工夫が必要です。
現代人がケアすべきデジタル疲労
森下彰大氏(以下、森下):ここから『戦略的暇―人生を変える「新しい休み方」』の一部をお見せできればと思うんですが、この本の中で、休むことは体を休むこと、体というか筋肉を休めることと、脳とか心を休めることに分けてるんですけれども。
現代人が一番ケアしなきゃいけない疲れは、脳疲労だと思うんですね。人間関係のストレスもあれば、何よりこのデジタル社会ですよね。昼夜問わずずーっと新しい情報が入ってくる。しかもランダムに入ってくる中で、常に僕たちはこれに反応してる。通知に反応したり、仕事のチャットに反応しているわけなんですが、その生活の中でやはりすごく脳が疲れちゃっていると。
去年(2024年)の世界の流行語、オックスフォード大学出版局が出している流行語なんですが。みなさんご存知ですかね? 脳疲労を表す「ブレインロット」、脳腐れ、脳が腐るという言葉が去年の流行語だったわけですよ。
SNSを見ていたり、ネットとかデバイスに頼りすぎて記憶力がなくなっちゃうとか、考える力がなくなっている。老化しているような感じを示す言葉として、ブレインロットという言葉が出てきたと。
だから“戦略的暇“で解消すべきなのは、デジタル疲労だとこの本では特定をしています。
戦略的暇の大きな目的
森下:(画面を示して)これは図にして見ていただくのが一番良いと思うんですが、本の中でこんな図を紹介しています。これ、みなさん見れますかね。映っていますかね?
中場牧子氏(以下、中場):見えています。
森下:もうちょっとアップにしましょうか。こんな感じで『戦略的暇―人生を変える「新しい休み方」』の左側の図ですね。要は「もうみんな疲れてんじゃない?」ということを最初に言っているわけなんですけれども。
何か仕事やあるいは人生がうまくいかないという問題意識があって、じゃあどうすればいいのかということでみんないろいろなハウツー本を読んだり、もっとがんばってみたり、あれこれ試すんですよね。
これは僕はキャパシティの問題だと思っていて。その多くの人たちは、自分の能力がないから問題が解決できないとか、そういうふうに特定してると思うんですけれども、僕は「いや、そもそももうみんな、僕も含めキャパオーバーなんじゃない?」「疲れてるんじゃない?」と言っています。
「ケイパビリティ、つまり能力の問題じゃなくてキャパシティの問題だよ」と冒頭で書いてるんですけが、「じゃあまずキャパシティを作っていきませんか」ということですね。これが戦略的暇の大きな目的になります。
この図を見ていただいてわかるとおり、デジタル疲れという例で言うと、スマホ依存とかスマホ見ちゃう問題は本人の意志が弱いとか、SNS企業のせいだとかいろいろあるんですが。
デジタル機器を使うことによって脳が疲れる。疲れると誘惑に抗えない。要はストレスが溜まっちゃうんで、その状態では自制がきかなくなっちゃう。そうすると、もっとデジタル機器にのめり込んじゃうという、負のサイクルがあるのかなと思っています。
じゃあいったん“戦略的暇“によって休息を取りましょうと。それによってストレスを取り除いた状態で物事を考えていくことがすごく大事だと思うんですね。
キャパシティを与えただけで人は変わる
森下:これは自分のプログラムをこれまでやってきた中ですごく感じたことです。例えば1泊2日のデジタルデトックスをしただけで、翌日のアンケートを見ると、みんな「目の痛みがびっくりするほどなくなった」とか「肩こりがすごく楽になった」とか、ポジティブな感想が返ってきます。
できる限り日常生活でも実践してくださいねと今回もお伝えできればと思うんですが、ふだんの生活にデジタルデトックスを取り入れていただくと、だんだん変わってくるんですよ。
例えば「これまで我慢できたことなのに、なんか職場でちょっとしたことがあって、涙がバッと出てきた。でも、なんか、うれしかったんですよね」って教えてくれた人がいました。そこから「あ、私やっぱりこの仕事じゃないんだ」ということで、自分がもともとやりたかったセラピストの仕事に変わっていった人もいます。
それって、別に何か能力開発をしたわけでもなく、ただキャパシティを与えただけで人はこんなに変わるんだということを僕はすごく思ったんですよね。そういう原体験から、やはりまずは自分たちのキャパを作ろうよと。エネルギーをまず蓄えようよという提案をしています。
休み方については、この本の後半で……。デジタルデトックスもそうですし、あるいはその時計時間、コスパとかタイパから離れることもそうですし。いろいろな実践方法をそこで紹介してます。
マインドフルネスももちろん重要な要素として含まれているよという感じですね。
デジタル疲れをシステムとして考える
森下:(スライドを示して)こんな図もあったりします。今、デジタル疲れだとか、日本も過労社会という。アンケートを採ると、8割の人が「自分は疲れている」と自覚している国なんですけれども。

じゃあその問題に対して、「スマホ依存は本人の意志が弱いからだ」といった直線的な問題解決じゃなくて、やはりシステムとして考えるということですね。
システムで考えると、氷山の下にあるもの。いろいろごちゃごちゃと書いてるんですが、こういったものが複雑に組み合わさって今の現代社会の疲れというか、生きづらさを生んでるんじゃないかというところですね。
氷山の下にどんどん潜っていって、僕たちは本当に忙しく駆り立てられて、スマホ依存になっちゃってるっていう。こうなっちゃっている要因を探っていこうという本です。
長々とお話ししましたが、いったん牧子さんにお戻ししたいと思います。