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数理最適化のエキスパートが断言「AIブームで見落とされがちな重要技術」 1,300社が導入した「演繹的AI」が意思決定を変える
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石田陽子氏(以下、石田):部下のパフォーマンスを育成するために、部下にストレスをかけるのは上司の大切な役割なんですが、上司がその事実を知らないでストレスのかけ方を誤ると、部下のパフォーマンスは下がってしまいます。
学問的には、パフォーマンスを上げるように働くポジティブな感情を引き起こすストレスを「ユーストレス」と言い、どちらかというとパフォーマンスを下げてしまうネガティブな感情を惹起するストレスのことを「ディストレス」といいます。
上司がかけるべきストレスは本来ユーストレスだけです。この例では、上司は「簡単な仕事で適切な負荷をかけて部下を育成してあげている」と思っているんですね。ところが左の部下は「自分にとって荷の重い仕事を上司が押し付けてくる」と感じている。右の人は、もうバーンアウトしちゃっているんですね。
これは同じ仕事に対する上司と部下の認識のミスマッチです。私はよくこういう状況に出会います。上司は「自分が部下の立場なら目の前の仕事がどう見えるか」という想像力が欠けているんですね。今の自分にとってシンプルタスク、今の自分にとって楽なタスクだから、不慣れな部下にも千本ノックで量をやらせたら達成感が得られるなんて思っている。
部下が難しいタスクに燃えるタイプならそれはそれでいいですし、上司に対してちょっと批判的に「これってハラスメントじゃないのか?」なんて文句を言えるぐらいだったらいいんです。ただ、こんなふうにバーンアウトに至ってしまうと「自分が悪い」と思ってしまうんですね。なんなら生きていることすら罪だって思えてきちゃう。これがバーンアウトです。
この場面のストレス因子は同じものなんですけれども、感じるストレスレベルは本当に三者三様です。昭和の上司は「部下に負荷をかけて成功体験を積ませることが最大の愛情だ」と感じている一方、部下は「上司の説明が不足している」と感じています。
これはみんながそれぞれ自然に思う当たり前の感情なので、「どうしてわかってくれないのかな?」ってすごく不思議なんですが、絶対にわからないです。絶対にわかり合えないので、現在のストレスに対するあなたの感情に対しては、感情マネジメントが有効な段階もあります。
ただ、有効なのはストレスがユーストレスである時までです。1回でも下り坂に差し掛かったら、みなさんのやることは1つです。逃げてください。逃げるっていうのは、仕事だったら辞めるというか休むことですね。ディストレスに傾かないように、元気なバランスを取れているユーストレスの間にやる感情マネジメントが「ストレスコーピング」です。
石田:先ほどの例でいくと、穏やかなユーストレスの状態であっても、できるだけPleasant(心地よい)状態に感情を持ってくるのが感情マネジメントです。
受け取ったストレスをコーピング、感情マネジメントによっていい方向に分別できる余裕があればそれはいいんですが、誰でもバランスを崩してディストレス側に傾くことがあります。そんな時は、ともかくいったんその場から離れる。これが最善策です。
バランスを崩しただけのことだったら、3ヶ月ぐらい休めば必ず元に戻ります。3ヶ月って、その時には無限に長く感じますが、長い一生の中では本当に瞬きの時間なので、ぜひ勇気を出して休んでみてください。
ストレスについて苦手意識をなくすのもとても大切なことです。さっきも言ったように、ストレスがあって、しかもストレスを悪くないと感じている。「ストレスはパフォーマンスの栄養だ。私の仕事を後押ししてくれる頼れる相棒だ」と思っている人は長生きするということまでわかっていますので、ぜひストレスを味方に、仲良くなるようにしてください。
ユーストレスはパフォーマンスを高める良い作用しかないかというと、感情的にはそうなんですが、生物学的にはそんなことないんですね。犠牲を払います。
パフォーマンスを出すにはエネルギー源が必要ですが、そのエネルギー源を運搬するのが血液です。ストレスがかかると、たくさんのパフォーマンスを出すために交感神経はストレスホルモンによって血圧と脈拍を上げて、心拍出量を増やしてたくさんの血液を臓器に届けます。その分、血管壁に加わる物理的なストレスは大きくなっています。
血管に物理的なストレスがかかっていても、元気になったり、嫌な気持ちになったり、痛いと思ったり、感情に変化はないんですね。だから、私たちは自覚的に血管のダメージには気づけません。
パフォーマンスを出す時だけ血圧や脈拍が高まる分には問題はありませんが、睡眠不足や睡眠障害の放置などにより動脈硬化が進行していると、突然死のリスクが高まります。
石田:突然死を避けるために禁煙や生活習慣病の治療はとても有効ですが、それ以上に効果が高いのが睡眠です。1日のうちの3分の1の時間、しっかり睡眠することによって、私たちは自律神経バランスを整え、心血管系を休ませています。
私の恩師、Stefanos Kales先生は警察官や消防士などの高ストレス職の健康について研究していて、睡眠研究の権威でもあります。
警察官や消防士は、まさに火事場の馬鹿力が通常業務なんですね。日々、現場でとてつもないストレスの下でパフォーマンスを発揮しているので、高ストレス職の警察官や消防士などは非常に寿命が短く、心血管イベントの発症リスクが高いんですね。これは日本の職業別の統計でも同じ結果が出ています。
ストレスは悪者ではなく、むしろパフォーマンスの栄養なんですが、その栄養の効果を十分得るためには感情マネジメントだけでなく血管内皮を鍛えることが大事です。どうやって血管内皮を鍛えるのか、その答えが睡眠マネジメントです。ついでに健診結果を参考に、血圧、脂質、耐糖能のマネジメントをすれば完璧です。
この実験では、同じメンバーにやりがいのある仕事と退屈な仕事をさせて、それぞれの場合の1日の自律神経の状態を観察しました。やりがいのある仕事ではパフォーマンスを出す必要があるので、仕事中にストレスはバンバン上がっていきます。就業時は1日で一番最高の高ストレス状態ですね。
しかし、やりがい群はとても切り替えが早いです。仕事が終わるとストンとストレスを手放し、家でくつろぐ頃にはすっかりリラックス状態になっています。
この副交感神経優位のリラックス状態でしっかり8時間眠ると、また朝には自動的に副腎からコルチゾールというストレスホルモンが分泌されますので、交感神経優位の臨戦状態になります。昨日までの蓄積されたストレスは(回復して)スタート地点に戻ります。
一方で、退屈な仕事やストレスなしでやってしまう仕事は、仕事をやれちゃうのでストレスは特に変化はありません。仕事が終わってもストレスは特に変わっていないんですね。自律神経のメリハリが失調しているので、休息を取ってもストレスが回復しないですし、この状態では必ず不眠を伴うので心臓や血管も休まりません。
睡眠は、このように自律神経のバランスを正常化して、いざという時に適切に交感神経の力を発揮するという仕組みで生産性を高めます。
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