「土日もつい仕事のことを考えてしまう…」「家事や勉強をして休日が終わってしまい、休んだ気がしない…」こんな悩みを抱える人も多いのではないでしょうか。今回は、『休暇のマネジメント~28連休を実現する仕組みと働き方』著者でフランス在住のライター髙崎順子氏にインタビューし、フランス式の休み方の秘訣をうかがいました。本記事では、休み明けにパフォーマンスを最大化する「長期休み」の使い方をお伝えします。
休み明けにパフォーマンスを最大化する「長期休み」の使い方
——前回、組織として従業員の休み方をどう見直していくかや、フランス式の効率が上がる仕事術についてもおうかがいしました。2024年の年末年始は最大9連休となりますが、休み明けによりパフォーマンスを発揮するには、長期休みをどう使っていけばいいでしょうか。
髙崎順子氏(以下、髙崎):まず、仕事は人との関わりなので、休む前に根回しはちゃんとやっておくことですね。行き先までは言わなくていいけど「今年はこの9連休は不在にするんですよ」「この日から稼働し始めますが、1日社内の会議や挨拶回りがあるので、この日からフルパフォーマンスで動きます。その時に向けていろいろ準備しておきますので、よろしくお願いします」とちゃんと伝えておくといいと思います。
それから、周囲にも「9連休ですから、みなさんしっかり休みましょうね」という同意をとることですよね。
あとはダラダラ過ごすのではなくて、9連休の過ごし方をしっかり考えること。フランスの人たちを見ていて、「日本ではあんまり多くの人がやっていないかも」と思うのが、大人も「修学旅行のしおり」のように、バカンスの計画帳を書いていることです。
例えば、以前知り合いの家族が10日間日本に行ったのですが、フランスから日本に行くとなると、遠いしお金もかかるので、本当に一生に1回の大ごとなんです。だから何ヶ月も前から「日本でやりたいことメモ」を書いておく。
「これはいくらでできるか」とか「距離があるからこのスケジュールだとできないね」とか、5人家族なら「2班に分かれてやろう」とか、すごく綿密に決めていくんです。写真もいっぱい撮って、行った時のチケットなども全部ファイルして、週末に「楽しかったよね」と言って見返す。家族でそうした振り返りの時間を過ごすのも含めてバカンスなんですね。
フランスではバカンスの計画に2年かけることも
——バカンスは、どのくらい前から予定を決めるものなんですか?
髙崎:すごく遠方まで行くとなると、2年くらいはかけますね。あと予算も組んでいかなきゃいけないので、そのために貯金するんですよ。例えばうちは、去年の年末年始は家族で5年ぶりに日本に行ったんですけど、やはり2年前から計画を立てていました。
「2023年〜2024年の年末年始は日本に行こう。飛行機代がこれだけかかるから、貯金をしよう」と言って、緊縮財政モードで過ごしていました。ふだんは家族で時々外食もするんですけど、「日本でおいしいものを食べるためにがんばろう」と言いながら(笑)、自炊をがんばっていましたね。
——「お金がないから旅行は諦める」と考える人も多いと思いますが、フランスでは「旅行をする」と決めて、ふだんのお金の使い方を逆算していくんですね。
髙崎:みんなバカンスを心の支えにして生きているので、漠然と「お金がないから」と諦めるのではないんですね。ただ、結局節約してもお金が足りなくて、3週間の滞在が2週間になっちゃうかもしれないし、ひょっとしたら日本に行けないかもしれない。
でもその時は、貯めていたお金の3分の1を使って別のところに行って、残りの3分の2は取っておいて「1年後にまた日本に行こう」というふうに考えるんです。
——ここまで長期間休むことのメリットをお聞きしてきましたが、デメリットはないのでしょうか?
髙崎:休みが長くなり過ぎると、やはり職場復帰が難しくなる人はいます。特に無理やり働いているというか、仕事があんまりいい状態じゃない人は、休み明けに戻るのが嫌で、うつになってしまうこともあります。でも、それはそれで「うつになるような職場で今後も働いていいのか」と考えるきっかけにするんですよね。
コロナ禍でも「バカンスを止めたらダメだ」という政治的な判断が
髙崎:そして、そもそもデメリットがないように仕組み化されているんです。『休暇のマネジメント 28連休を実現するための仕組みと働き方』の中でも、バカンスの経済的な意義についてけっこう書きました。
例えばコロナが2020年の2月から本格的になり、フランスは3月から5月までロックダウンがありました。当時は行動制限もすごく強かったんですけど、みんなもなんとか感染者数が下がるようにがんばったんです。それで、「よし、じゃあ感染者数が下がったから7月〜8月は動いていいよ」ということで、政府が行動制限を緩めた。それは本当に「バカンスを止めたらダメだ」という政治的な判断があったからです。
というのも、通常はパリ圏で動いている経済が、7月〜8月は地方に散るんです。過疎地が丸ごとバカンス村になるので、夏の間は住人が14倍になるところもあって、バカンスが経済圏を動かしているんですよね。
コロナの時は、これまで国外に行っていたバカンス客も国外には出られず、全員フランス国内でバカンスを過ごしたので、国内の宿泊施設では過去最高益を記録しました。だから、当時は確かに旅行産業は大変だったんですけど、補助金にも助けられて、宿泊業はそこまで沈まなかったんですね。
「休日は寝て終わってしまう」という人へ
——「国民が一斉に休んだら経済が回らなくなるのでは」と思っていましたが、かえって国の経済を活性化させるうえで、バカンスはすごく重要なんですね。ちなみに、週末などのふだんの休日を効果的に使うポイントはありますか?
髙崎:週末は2日しかないし、効果的に使わなくてもいいんじゃないですかね。フランスでも、みんな週末は朝市に行っておいしいものを買ってきて、土曜日の夜か日曜の昼にそれを食べて、散歩して終わりみたいな感じですかね。
2日間しかないから特別なことなんてできないと思っていますし、特別なことはバカンスにやるんですよ。
——休日は寝て終わってしまうという人も多いと思いますが、どう思われますか?
髙崎:寝ることはすごく大事ですが、ずっと寝てはいられないですよね。やはり休日に寝てばかりということは、体が睡眠を求めている。「今必要なことなんだ」と前向きに捉えられたらいいのではないでしょうか。
例えば、旅行に行かないかわりにいい枕やシーツを買って、「この休みはとにかく寝ることに全集中する」と決めるとか。「ダラダラと何も計画を立てずにずっと寝てしまった」というのではなくて、ちゃんと睡眠をとるために準備をしておくという考え方です。
あとは「家を片付ける」というのも、精神衛生上すごく大事なんですよ。年末に大掃除をする人も多いですが、「みんなが大掃除をやっているから」じゃなくて、「私が散らかった家で年越しをするのが嫌だから、自分のために掃除をしよう」と考える。
日本の方は、あまりこうした習慣がないので最初は難しいかもしれませんが、行事などもなんとなく「みんながこうしているから」ではなく、「私はどうしたいかな?」と自分軸で考えるのが一番大事なんです。
フランス人がやっている「冬うつ」対策
——なるほど。先ほど少しうつのお話がありました。近年は秋から冬にかけて心の不調を感じる「冬うつ」になる人も多いそうですが、フランスではどう対策されていますか?
髙崎:それはフランスでも言われますね。日照時間が少ないので、ビタミンDを摂取します。毎年冬が来ると病院に行って「ビタミンDをください」と言って、保険適用の処方箋をもらう方もいますね。
ホームドクター制(どのような症状や怪我であっても、まずは自身が選び登録した医師に診てもらい、専門医療機関への紹介を含め、治療過程に関わっていく仕組み)なので、それをきっかけに先生に会いに行って、「最近どう?」みたいな話をするんです。それで冬の間に2回くらい病院に行って処方箋を出してもらう感じですね。
みんながみんなやっているわけではないですけど、一応「ビタミンDをもらえるから病院に行ってね」という仕組みがあるんですね。
ワーカホリック=「問題を起こしがちな人」と見られることも
——国として冬うつにならないための制度を導入しているんですね。日本ではワーカホリックで働きすぎてしまったり、燃え尽き症候群になる人もいますが、フランスでもそうした人はいるのでしょうか?
髙崎:やはりフランスでもワーカホリックの人は一部いて、情熱にやられてしまった人という意味で「パッショーネ」と言われます。「あいつはパッショーネだからね」とか、本人も「自分はパッショーネで、この仕事が大好きでつい働きすぎちゃうんだよね」と言っています。
これに対して良い・悪いという価値判断はないのですが、サラリーマンとして組織に入ってくると、「あなたはその絶大な体力と気力があるからいいかもしれないけど、みんなはそうじゃないから、押し付けないでくれる?」と、やはり問題を起こしがちな人とは見られます。それから「そんなあなたも人間だから」と言って休ませようとします。
ワーカホリックな人が上司になったら部下は大変ですよね。マネジャーや経営者は人を働かせるのが仕事だからこそ、従業員を働かせすぎないように、有給取得の義務化のような仕組みが大事なんです。
——最後に、日本のビジネスパーソンにお伝えしたいことはありますか?
髙崎:あらゆる面において、フランスでできることは、日本ではさらに良くできると思っています。私もフランスの人に取材する時に「最後に日本人に向けて何か元気づけるメッセージをください」と言うと、「あなたたちは充分すごいんだから、私たちからの褒め言葉や励ましなんか要らないでしょ。素敵な国だって自信を持って!」って毎回言われますね。
労働の倫理観が高く、働くことを悪とは考えない日本で、フランスの仕組みのいいところだけをうまく活かせたら、(しっかり休みつつパフォーマンスも上がるような)日本ならではの仕組みができるんだろうなと思います。
——髙崎さん、ありがとうございました。