「土日もつい仕事のことを考えてしまう…」「家事や勉強をして休日が終わってしまい、休んだ気がしない…」こんな悩みを抱える人も多いのではないでしょうか。今回は、『休暇のマネジメント~28連休を実現する仕組みと働き方』著者でフランス在住のライター髙崎順子氏にインタビューし、フランス式の休み方の秘訣をうかがいました。本記事では、疲弊した町工場で実践した休み方改革についてお伝えします。
フランスでは「2週間のバカンス」を前提に仕事のスケジュールを組む
——前回、フランスもかつては休めない国でしたが、国民が休めるように政府が改革していったとうかがいました。現在のフランスと日本では、休むことに対してどんな考え方の違いがあるのでしょうか?
髙崎順子氏(以下、髙崎):フランスでは、人間は機械と違って体力も気力も時間も有限であるから「リソースを大事に使わないとね」と考えられています。「人間は壊れたら機械みたいに直せない」という意識が強くて、しっかり休んで休養をとらないと、メンタルが削られる一方だと言われています。
あと、日本では休みと仕事を切り離して考えられていますが、フランスでは休みは仕事の一部なんですよね。雇用する人にとっては従業員を休ませるのが仕事なんです。雇用されている側も、5週間の休暇取得が義務づけられているから、仕事の一部として「この義務を遂行するために、ほかの業務とどう折り合いをつけて回していくか」を考えるんですよ。
例えば日本でもゴールデンウィークや年末年始の休みがありますから、その前提で業務のスケジュールを組みますよね。フランスでは、それを7月〜8月にやるんです。年間の2ヶ月間にみんなが2週間の休み(バカンス)をとるとなると、小手先じゃできないので、1年かけてスケジュールを作るんです。
それから、仕事の一部として休みの時間を作ったら、「完全にプライベートとして使わなきゃいけない」という、2段階の考え方があるんです。
「役員を1週間休ませる」ことから始めた石井食品
——すごくおもしろいなと思いつつ、日本では長期休みをとるのがなかなか難しい気がしています。実際に長期休暇の制度を取り入れた、日本の企業の事例はありますか?
髙崎:はい。『休暇のマネジメント 28連休を実現するための仕組みと働き方』でご紹介したように、老舗食品メーカーの石井食品さんは本当にすばらしい例だと思うんですけど、社長の石井智康さんはまず役員を休ませたんですね。「必ず長期休暇を取ってください」と業務命令を出して、とりあえず1週間休むように指示されました。
でも最初は、役員の方たちも「休んでも何したらいいかわかりません」とおっしゃっていたそうなんです。そこで、「その自分をまず受け入れてください。やることがないと思っていても、休んでみたら何か出てくるかもしれないですし」と。
もともと(長期休暇の)制度自体はあったんですけど運用されていなかったので、休みを取りやすくするためにも、まず上から休まないとダメだよねということで取り組まれました。「あなたが突然いなくなることは大いにあり得るので、その時の予行演習として、前もって休んでおいてください」と、プロジェクトとして行ったんです。
これはリスクマネジメントでもあります。属人化とも言いますが、やはり誰か1人がいなくなったらすべてが滞るというのは、組織上リスクが高すぎて許されない。なので、いきなり担当者が不在になる可能性を折り込み済みで仕事を回すのが大事なんですよね。
町工場で実践した休み方改革
——長期休みの制度はあっても運用されていなかった中で、休みを取りやすい組織文化を作るために工夫されていったんですね。一方、中小企業で長期休みを実践するのはさらにハードルが高いのではと思いますが、実際に導入された企業のエピソードがあれば教えてください。
髙崎:書籍の中でも書きましたが、金属加工の町工場として医療機器やホビー分野の部品、アウトドア用品などを製造している栗原精機さんでは、従業員が休める環境を作るために、事業構造自体を変える取り組みを行っていました。取材する中で一番印象的だったのが「上の世代から変わろう」とおっしゃっていたことです。
今は一般的にも「人生は仕事だけじゃないよね」という考えが浸透していますが、やはり仕事一筋でやっていらっしゃる上の世代の方の意識を変えられないと、現場で実践するには難しいと思います。
休めない要因は「下請け」という立場の弱さ
髙崎:あと栗原精機さんがおっしゃっていたのが、自分たちは下請けという立場の弱さから休みにくくなっていたと。仕事をすればするだけお金になるし、お客さんから降ってくる仕事をこなせばこなすだけ次の仕事もきます。でもそれが自分たちを疲弊させているんだと気が付いたとおっしゃっていました。
というのも、リーマンショックやコロナで仕事が減らされた時に「自分たちはこんなふうに切られちゃうんだ」と実感したと言います。じゃあ仕事を切られても収入を得ていくにはどうしたらいいのかと考えた時に、やはり独自の価値を出していくことを、すごく考えられたんですよね。
それで、「下請け側が独自の価値を出し、仕事を自立的に選べるようになる」というゴールに向かって動かれたことで、強くなれた。
一方で大企業の立場で見た時は、いかに「下請けの会社の方たちも同じ人間だ」と理解できるかどうか。この人たちだって休まなきゃいけないし、自分たちが休暇制度を入れているんだったら、「下請けのパートナー企業さんだってそうだよね」と思えることが大事です。
——なるほど。実際に長期休みの制度を取り入れるにあたって、日本企業がやるべきステップがあれば教えていただけますか。
髙崎:最初に(企業が)「ここからここの期間で休むよ」と決めることが一番大事なのですが、それには(経営者が)考え方を変えることからですね。そのためには(国が)会社の制度として決めることが大事です。
フランスでも成功したように、「国が決めちゃったからやるしかないよね」というのは日本の方にはすごく有効で、実際に2019年の働き方改革で有給の5日間の取得義務ができてから、有給の取得率が上がっています。
だから日本で必要なのは、まず国が制度として休暇を取れるようにして、経営者が長期休暇の制度を入れる。それをみんなが仕事だと思って遂行することですね。