「土日もつい仕事のことを考えてしまう…」「家事や勉強をして休日が終わってしまい、休んだ気がしない…」こんな悩みを抱える人も多いのではないでしょうか。今回は、『休暇のマネジメント~28連休を実現する仕組みと働き方』著者でフランス在住のライター髙崎順子氏にインタビューし、フランス式の休み方の秘訣をうかがいました。本記事では、かつては休めない国だったフランスで起きた休み方改革についてお伝えします。
「年間5週間」の有給取得が義務付けられているフランス
——髙崎さんの著書『休暇のマネジメント~28連休を実現する仕組みと働き方』では、かつて休めない国だったフランスがバカンス大国となった過程が書かれています。フランス在住でライターとしてご活躍されている髙崎さんが、「フランスの休み方」に関心を持たれたきっかけを教えていただけますでしょうか。
髙崎順子氏(以下、髙崎):私は2000年にフランスに来て、最初は一人暮らしをしていました。フランスにある日系の企業に勤めて、それから夫と一緒になって、より深くフランスの社会の中に入っていったわけなんですけれども。私自身はずっと、フランス式の休み方ができなかったんですね。
フランスの現行の労働法では、年間5週間の有給休暇取得が義務になるので、会社に勤めている時はしっかり休みを取っていましたが、その休みの間も勉強したり、何か仕事につながるようなことをしがちでした。フランスで働く人々を見て「この人たちすごく休んでるなぁ」「フランス人はもともとそうなんだろう」と、しっかり休む国民性なんだと考えていました。
結婚してからも、夫と子どもは夏に2週間がっつり休むんですけど、私は同じように旅行に出かけても、1週間しか休まず、残りの1週間は仕事をしていたんです。「2週間も休んで仕事が回るわけがない」と思っていたのと、「私のリズムはこれだから」と思い込んでいました。
「休むこと」に抵抗していたフランスの労働者
髙崎:日本では2018年に働き方改革法案が国会で可決され、年5日間の有給取得が義務化されましたよね。日本の友人たちからも「日本もこうなったけど、フランスはすごく休んでるでしょう。どうやってるの?」と聞かれることが増え、そこからフランスの休み方を調べるようになったんです。
そこで、あるバカンスの歴史について書かれた本を読んだ時に、フランス人もかつては休めなかったということを知りました。やはりフランスも日本と同じで、労働者たちは「働くこと=人生」になっていて、「休みなよ」と言われても、休み方も休む価値もわからなかったんです。
逆に休むのは悪だと思っていて、「休んでいる間に首を切られるんじゃないか」とか、「休んだぶんは有給にして(給料は)保障すると言っているけど、騙そうとしているんじゃないか」みたいな疑惑があったりして。「21世紀の日本でも聞いたことがあるなぁ」みたいな話がいくつも出てきました。
そこでフランスでは、1936年にレオ・ラグランジュという人が政府で余暇を進行する大臣に就任し、「休めない背景にはこういうことがある」と分析して要因を一つひとつ潰していったんです。
「休むことは人の尊厳である」
——フランスの人々も、最初は休むことに抵抗感があったんですね。そこから休めるようになったのは、どんな考え方の変化があったのでしょうか?
髙崎:「なぜ休まなきゃいけないか」ということについて、「休むことは人の尊厳であって、生きる喜びを知らなきゃいけないから」と本に書かれてあったのがすごく印象的でした。
では、休むとはどういうことか。本の中では、「自分の時間をとって好きなことをするのが余暇であって、休みは余暇をするためにあるんだ」とはっきりと書かれているんです。
日本では、「休み=仕事に行かない日」だと思うんですけど、フランスではそうじゃなくて、自分のやりたいことを自分で決めてやって、生きる喜びを知ることだとされています。
目から鱗が落ちて、私自身、「ぜんぜん自分の自由や好きなことを考えていなかったな」と、休み方を見直すようになったんですね。
「休みの日も休んだ気がしない」と言う日本人
——今、日本でも働き方改革が進んでいて、有給休暇の取得率も上昇していると言われています。ただ一方では「休みの日も休んだ気がしない」という声も上がっています。どうしてこうしたギャップが生まれてしまうのでしょうか?
髙崎:やはり日本では、働き方改革によって休みは増えたけれど「仕事をしない時間を作るだけ」になってしまっていると思います。フランスでは、仕事をしない時間を作るだけじゃなくて、その間で何をするかまでセットで改革したことが日本との違いだと思います。
日本でも、個人では考えている方がもちろんいらっしゃると思うんですけど、国の仕組みとして(導入されていないんです)。「仕事をしない時間に何をしますか?」といったら「心身の休養」とか、ちょっとふわっとしているんですよね。「心身の休養って寝ること?」みたいな。
フランスでは、休み方に関してよく目にする言葉が2つあります。「エヴァジオン(Évasion)」=気晴らし。「デペイズマン(Dépaysement)」=気分転換。
エヴァジオンはエヴィテ(éviter)「逃げる」「現実逃避する」という動詞からきていて、デペイズマンはpaysが国とか自分のいる場所で、その「今いる場所から出る」「異なる場所に行く」という意味なんですね。だから、フランス人にとっての休みはとにかく「日常から出る」ことなんですよ。
「いやぁ、この人たちはうまいことを言うな」と思いました。確かに私自身もそうですし、日本の人と話していても、休みの日に家にいると、家事をしたり仕事をしてしまう。
これはなぜかというと、結局家って、仕事をしている自分の延長上にあるんですよね。つまり、朝起きて準備をして、何時に電車に乗るために何時に支度をして朝ご飯を食べて……と、家が仕事に行くための場所になっている。だからフランスの人々は、「仕事に行くための場所」からも離れるために、バカンスの時に家から出るんです。
私も最初は「別に家でバカンスしたっていいじゃない」と思っていました。実際に家で過ごす人も少なからずいるんですけど、やはり家から出ないと「自分を完全に仕事から切り離せない」と言うんですね。
家にいたら「休めない」のは当たり前
——家にいるとつい家事や仕事のことを考えてしまうのは、フランス人も日本人も同じなんですね。
髙崎:そうなんです。だから休み方改革をした1936年に、「国民を家から出すにはどうしたらいいか」ということが議論されました。そして「自宅から200キロ以上離れる人の電車代は半分にしてあげるよ」という制度が生まれ、今も利用できるんですよ。
ここまでの話で言いたかったのは、家にいながら休める人って、逆にものすごく精神力が強いということ。家にいたら、なかなか休めないのは普通なんですね。
——なるほど。仕事と自分を切り離すには、休みの日は外に出るのが大事ですね。
髙崎:そうです。あと、どうしてフランス人はそれができたのかというと、休暇に限らず人間の能力をそこまで信用していないんですよ。人間は弱い生き物だから「仕事を忘れて休め」なんて言われても、簡単にはできないと思っているんですね。だから、制度を作って物理的に切り離す仕組みがうまくいったんです。
——ちなみに、しっかり休むためには、バカンスのように長期休みじゃないといけないのでしょうか。
髙崎:そうです。私も1回やってみて「これは長期休みじゃなきゃダメだわ」と思いました。『休暇のマネジメント 28連休を実現するための仕組みと働き方』にも書いたとおり、休んでから1週間目でやっと仕事と切り離せて、2週間目から本当に休んだ感じになるんです。日本人で(2週間の休みを)実践された方は「本当にそうだった」と全員頷いているんですよ。
1週間休んでやっと、メールを見ないとか電話を受けないといった、仕事をしていない自分に慣れるので、実はこの期間はあんまり快適じゃない人も多いんです。
以前に(長期休みを実践された)中小企業の社長さんに取材した時も「最初の10日間がすごく嫌で、こんなの意味あるのかなと思った」とおっしゃっていました。そわそわして、もういっそメールを見たいと思ったけど、10日過ぎたあたりからスポンと別ゾーンにいって、携帯を見ても「これさえなきゃいいのに」と思ったとおっしゃっていました(笑)。
——ある程度まとまった長期休みが、本当に心をリセットするためにも必要なんですね。