『脱イライラ習慣! あなたの怒り取扱説明書』の刊行を記念して開催された本イベント。認知行動療法を専門とする臨床心理士・公認心理師の中島美鈴氏が、「怒り」を感じにくくするための「考え方」と「しかけ」を紹介します。本記事では、だらしない自分にイライラしてしまう時の対処法をお伝えします。
ついだらだらしてしまう…自分へのイライラ
中島美鈴氏:では最後のパターンとして、自分自身へのイライラパターンも扱っていこうと思います。会社員チサトさん40代女性、営業職の方です。この方は仕事が終わって19時には退社してコンビニ弁当を買って家に帰ります。 弁当を食べながら「今日こそTOEICの勉強をしよう」と意気込むのですが、YouTubeをつけたら最後、それを見ながらだらだらして、いつの間にかうたた寝をしているという日々です。
私ってどうしてこんなにだらしないんだろう。弁当ガラも捨てられない。当然風呂に入る意欲もない。そしてお風呂に入らないと寝苦しいですよね。翌朝は自己嫌悪して、「シャワーを浴びなきゃだけど嫌だなぁ」みたいな朝からスタートするんです。これだとたぶん化粧も落とさずベタベタな顔のままなので、「また肌が荒れた」とか、散々ですよね。「風呂キャンセル」と言われる現象ですね。
今のことをちょっと図にまとめたものをご用意しました。ビフォーアフター、ビフォーは風呂キャンセルしている頃ですね。仕事から帰ってきて夕飯にありつく。
YouTubeを見ながらご飯を食べるんだけど、だらだらとYouTubeが止まらなくって、食器を洗わなきゃと思いながらもううたた寝をして、「あっ」と気づいたら電気はつけっぱなし。風呂に入らなきゃな、でもなぁと言いながらまだベッドに行けずにうだうだして、最後に観念してベッドに移動するのは0時半みたいなパターンでしょうか。
帰宅したら風呂場に直行
確かにこの現状で自己嫌悪に陥らない人のほうが少ないんじゃないかと。自分へのイライラマックスで情けなくなっちゃいますよね。
そういう方には、いろんな励ましよりも、どうやったら風呂に入れるかなとか、少しでも勉強する確率が上がる生活の方法をご本人と一緒に考えていきます。帰宅して腰を落ち着けてしまうと根が生えるというのがこの方のパターンのようなので、帰ったら一息もつかずに、玄関で素っ裸になる勢いでお風呂に向かう。
お風呂に入ると、ちょっとリフレッシュできますよね。温まって、筋肉もほぐれて、ちょっと元気になっちゃったかなと体も勘違いするんですね。ここで目も若干覚めますので、その勢いで買ってきたお弁当をさっと食べる。ここで今までの最悪パターンでYouTubeを書いたんですけれども。
ここに勉強を持ってきて、眠くなったらもうすっと寝てしまうというのはどうですかね。すごく早寝なんですけれども、その分朝早く起きてまた英語の勉強の続きをするのが、この方のバイオリズムには非常に合っているということです。
もうお風呂もご飯も済んでいて、私たちが家に帰って最低限やらなきゃいけない二大要素が終わっていると、堂々とベッドで寝られるんですね。睡眠の質も上がるので、翌朝は目覚めもいいはずなんです。ということで、これさえやってしまえば、あとは英語の勉強が入ろうが入るまいが睡眠もよくとれているので、次の日の自分にけっこう期待できるよというパターンです。
今の風呂にすぐ入りましょうの流れは、活性化エネルギーという概念に従って組み立てています。この活性化エネルギーというのは、「今から活動だ、よっこらしょ」という時に必要なエネルギーです。この活性化エネルギーは活動のスタート時に最もエネルギーが必要であること。
活動のスタート時は最もエネルギーを消費する
なので、この「よっこらしょ」の山の数が少ないほうが効率的だと言われています。理屈でいけば、帰宅して一息もつかずにご飯を作って片付けをしたり風呂に入ったり、勉強まで済ませて寝れば……と一山でやるのが一番エネルギー効率はいいんですけれども。これだと体力的に無理ということで、ちょっと休憩としてのお風呂をこのあたりで挟んでいただいたのは、先ほどの時間割の原理です。
やるべきことが終わっちゃってるという解放感でいいですよね。ここで何をしてもよくて、気が向けば勉強してもいいし、1ページやってみて気が乗らなかったらもう寝ちゃってもいいよみたいな感じでしょうか。
なので、自分に対するイライラって、実は他人に対するイライラよりもつらいんですよね。他人は縁を切ればそれで終わるけど、自分は自分とずっと付き合っていかなきゃいけないんです。
なので自分ができないとかだらしないとか三日坊主だとか根性がないとか、そんな自分に愛想を尽かしそうになる夜もあると思うんですね。でもそういう時ほど、自分で自分へのイライラを解決する方法を思い出してほしいんです。
今ご紹介したのは、やる順番を見直すという方法でした。活性化エネルギーの法則に基づいて、活動のスタート時に最もエネルギーを使うことを応用して、できれば活動はひとつなぎで行う。洗面所に行ったついでに洗濯もして歯磨きもしようとか。帰宅後すぐに風呂に入れば、そのついでに洗濯ができるとかですね。ついでついでに抱き合わせで、1つのよっこらしょでだだだだっと済ませていくと、わりとうまくいきやすいです。
「自宅はくつろぐ場所」だと脳が覚えている
2番目の秘訣は、やる場所を見直そうというものです。自宅に帰って勉強しようとか、書類を書こうとか筋トレしようみたいに意気込む人は今多くいらっしゃるんですけれども、私たちが物心ついた時から、家ってくつろぐ場所じゃなかったですか?
家でがんばるのって、せいぜい中学生以降の受験勉強期ぐらいだったと思うんですね。なので、脳がもう家に帰ったらリラックスみたいに覚えちゃってる可能性が高いんですね。となると、家でがんばるほうが不自然なのかもしれません。
逆に言えば、帰宅しちゃう前に外で勉強まで終わらせるとか、どうしても風呂キャンセルが続いちゃう方は、もう銭湯に行ってから帰るとか、スポーツジムで風呂まで済ませて帰ると、脳がまだ緊張している時間帯、場所なので、そこでやるのは理にかなっているわけですよね。職場と自宅の間にあるカフェで勉強してから帰るのもすごくいいと思います。
帰宅したらあとはくつろぐだけ、みたいにオンオフをはっきりさせたほうが入眠もうまくいきますよね。
やる気を出す仕組みを作る
3番目です。やる気を出す仕組みを作ろうというものです。先ほど申し上げたとおり、銭湯に行って帰ろうという人には、銭湯の回数券を買っておく。その11枚綴りとかを2枚使って終わるなんてもったいないことは、ほとんどの人がしないと思うんですよね。
そういうふうに私たちの飽きが来ても根性が続かなくても、回数券という仕組みがあれば、とりあえず11回は銭湯に行くような気がします。
同じ目標を持ってがんばっている匿名の仲間を全国から募る。例えば今日はTOEICのこの教科書の○ページをやりました。最近は、証拠写真を送りますみたいな、習慣化を形成する「みんチャレ」というアプリも登場しています。そういうものも活用しながら、自分の綺麗事とか精神論だけに頼らないのもポイントでしょう。
また、スモールステップというものも今日覚えて帰ってほしい1つなんです。たとえば、「カレーを今から作ってください」と指示されたとすると、それは「おぉ、1時間はかかるな」と感じる、ちょっと重めのタスクかもしれません。
でももしも、玉ねぎを1個ポイッと渡されて「この薄皮だけちょっと剥いてくれない?」と言われたら、「いいよ」と気安く引き受けられて、テレビを見ながらちょっと剥くかもしれませんよね。このぐらい軽いタスクということができます。
でもよく考えると最初の例のカレーのタスクも、最初の一歩目は玉ねぎの薄皮を剥ぐぐらいのちょろいタスクから始まって、小さなタスクの連続ともみなせるわけです。こういうふうに大きく見える課題でも小分けにしてやっていくことを心理学では「スモールステップに分けていく」といいます。
この小分けの度合いが小さければ小さいほど、階段を刻めば刻むほど私たちはやる気を起こしやすくなることがわかります。できればその刻んだ階段の各所に、ちょっとしたご褒美が待っていると最高ですよね。
自分へのご褒美を散りばめる
「玉ねぎの皮を剥いてくれたの? ありがとう! 上手だね。もう1個やってみようか」と褒められるのは「強化」といって、ご褒美がもらえることを指します。「いいね! もう1個やってみようか。え、もう剥けたの? すごいね!」となったら、3個目を渡されてもたぶんやるでしょうね。
「○○ちゃんが剥いてくれるとおいしそうな気がするよ」と、合いの手を入れられるかのように褒めてもらうとか。
でも大人になると誰も褒めてくれないので、何かひとつのタスクを終えたらto doリストのチェックボックスに自分でチェックをつけて達成感を味わうとか。チョコレートを買ってきて、この課題が終わったら1粒食べてよいとか、1ページ終わったら1つ食べていいとか。こんなふうにスモールステップの階段の各所にご褒美を散りばめておくと、これがやる気を出す仕組みになるというわけです。
その後のチサトさんの話です。だいぶ脱線したので「チサトさんって誰だっけ」という話かもですが。40代女性で営業職で、会社から帰って、本当は自宅でTOEICの勉強がしたいんだけれども、コンビニ弁当を広げてYouTubeを見ていたらうたた寝しちゃう風呂キャンセルの女性です。
この方は、家に帰ったらリラックスしちゃうなと観念して、仕事帰りにカフェに寄って軽い食事を取りながら勉強したそうです。これでコンビニ弁当じゃなくて軽めの食事も取れちゃったんですね。家に帰ったらもう寝るだけなんです。帰宅してすぐ風呂に直行すれば、もう無敵ですよね。やるべきことは終わっている。勉強も終わっている。風呂も終わっている。ご飯も終わっているというわけです。
こんなふうに、チサトさんにとって家はオフの場所とはっきり区別ができたため、熟睡できるようになりましたし、カフェでコツコツ勉強できる自分を誇らしく思え、無事にTOEICでいい点が取れました。ということで、自分へのイライラが減ったという事例でした。