『脱イライラ習慣! あなたの怒り取扱説明書』の刊行を記念して開催された本イベント。認知行動療法を専門とする臨床心理士・公認心理師の中島美鈴氏が、「怒り」を感じにくくするための「考え方」と「しかけ」を紹介します。本記事では、不平等な関係を打開する「相手の期待」を裏切る技をお伝えします。
自分勝手な友達にイラっとする時の対処法
中島美鈴氏:次のケースです。次は自分勝手な友だちにイラッとするという友人関係のお悩みです。(スライドの)右のほうにいる女性がハルカさんです。
ハルカさんは、いつも友だちとの間では聞き役なんですね。友だちは待ち合わせをしてもいつも遅刻してくるし、ものすごく自慢話をするそうです。いつもいつもハルカさんはモヤモヤした気持ちで聞いています。
そういう時に、あぁこれぐらいの自慢話も聞いてあげられない自分って細かすぎるのかなぁ。私が嫉妬しているだけ? 他の友だちは、どうしてこの人の話が鼻につかないんだろうか。なんでこの人と仲良くできるんだろうか? 私ってちっちゃい人間なのかなぁ、みたいに悩んでいるそうです。
みなさんもこういう経験はないでしょうか。この事例を出すと、いろんな講演会で、「そもそも、もうそんな人とはプライベートで付き合っていません」みたいな、「縁を切っています」みたいな意見が大多数なんですけれども、ハルカさんは簡単には縁を切れない性分だというところでご覧ください。
気が弱くて自己主張ができない人
今見ておわかりのとおり、そして、いろんな方が「縁を切ります」と言ったとおりですね。このシーソー(の絵)で表すと、ハルカさんとその友だちはすごく不平等な関係なんですよね。イライラは私たちにはとっても大事な感情で、いろんなことを私たちに教えてくれる、警告をしてくれるんですね。
これも一例で、相手がいつも一方的に遅刻してきて自慢話ばっかりして、なんか不平等が起こっているぞとイライラが警告してくれるんですね。「不平等な関係だぞ。ハルカさん、主張のチャンスだ」という感じでしょうか。
海外の言葉で言えば「アサーション」。自己主張のチャンスだぞとイライラが教えてくれているんです。「対等なコミュニケーションを取りなさい。ハルカさんももっと主張していいんだよ」とか「『なんで遅刻してきたの?』と言っていいんだよ」ということなんです。
これは海外のアンガーマネジメントの本だと、おそらく主張の例とかがこの後に出てきて、「友だちにこうやって冷静に落ち着いて言いましょう」みたいな。怒りを爆発させるのではなく、「いつもあなたは遅刻しますよね。そのおかげで私はこれぐらい迷惑を被っています。次からこういうふうにしてくださいね」という主張場面が展開するんですけれども。
それができる方はぜひしていただきたいなと思うんですが、私はなかなかこれが言えないんですね。しかも長年そういう関係が続いていると「ハルカさん、今さらどうしたの」「ハルカさん、今日怖い」とか言われちゃったりして。「なんか遅刻したぐらいで言わないでよ」なんて、しれっと相手に言われたりして余計にムカつくみたいなパターンもあるかもしれませんね。
無意識に「自己犠牲」をしすぎているタイプ
ということで、ちょっとこのイライラをどう処理していくか、どう相手に伝えていって、平等な関係に持っていくかという話をここからしたいと思います。ハルカさんが置かれているポジションは、不平等の関係のうちの服従のほうです。ちょっとみなさんも服従に関するスキーマがないかチェックしてみましょう。
高価な贈り物をもらうと「自分にはもったいない」とソワソワしちゃう。人によくしてもらうと「ありがとう」よりも「申し訳ない」という気持ちが先に出て「ごめんね」と言ってしまう。
自分が損したり悪者になることでその場が収まるのなら喜んでそうしたい。自分の目の前の相手が不機嫌だと、無理をしてでも相手の機嫌を良くすることに尽力する。誰かと一緒に行動する時には行き先や食べる物などを相手の好みに合わせたい。
自分が損をしても相手に尽くしたい。自分にお金をかけるのはためらいがあるが、人へのプレゼントやおごりには抵抗がない。時々人付き合いがしんどくてどうでもよくなる。世の中の人は自分よりもっと勝手でわがままに生きているように見える。自分がどんな気持ちかよりも相手の機嫌のほうに目がいく。
いかがだったでしょうか。けっこうたくさん当てはまるという方は、知らず知らずのうちに自己犠牲をしすぎている可能性があります。ちょっと不平等をチェックしてみてほしいんです。チェックのポイントは、相手と自分の立場を入れ替えたとしても、自分はその相手と同じ行動を取るかどうか。
例えば、先ほどのハルカさんの友だちが毎回遅刻してくるという時に、みなさんがもし遅刻する側だったらどうですか。到着した後、延々と自分の自慢話をしますか。めちゃくちゃ悪かったと謝罪して「なんかごめんね。ここのランチ代おごるよ」なんてことまで言いませんか。
あえて相手の期待を裏切る
「そもそも遅刻をしないよ」と言われたらそうなんですけど、そんな人こそ、もし逆の立場ならどうしているかなと考えた時に、「あ、絶対私そんなことしない」と思えるのだったら、それってけっこう不平等な関係に陥っている証拠かもしれませんね。
さぁ、その後のハルカさんです。ハルカさんは先ほど申し上げたような教科書に出てくるような自己主張は、やっぱりちょっと気弱でどうしてもできなかったんです。その代わりに、私はこの方に、相手の期待を裏切るコミュニケーションをお伝えしました。どういうことか。
これまでなら、友だちはいつも自慢話を浴びせてくるんですよね。自分の子どもはこうだああだとかですね。旦那はああだこうだ。私はいかに魅力的で有能ですばらしい人物かを自慢してきます。
ハルカさんはいつも「あぁ~、すごいね! 本当、さすが○○ちゃんだね~」と聞いていたんですって。これだと気持ちよくしゃべれますよね。ハルカさんに聞いてもらったら、もう踊り上がりたいような気持ちになっていたと思うんですね。まさかハルカさんが心の中で「あぁ嫌だ、もうこんな話を一刻も早くやめてほしい」なんて(思っているなんて)思いもしないでしょう。
だからといってハルカさんはここで「え、そんな話ばっかり聞かされたら嫌だ」と言えないと言うんです。
そうしたら相手の期待、つまり「わあ~、すごいね!」をやめてみるだけでも、かなり効果があるはずです。つまり、「へぇ~」くらい感度低めの相づちを打つ。いいですね。別に攻撃はしていませんよね。そんなに難しいことじゃないと思うんですよ。ちょっとだけトーンダウンすればいいだけなんですね。ここがポイントです。ちょっと行動に移しやすいと思いませんか?
相手にとって「つまらない人」を演じる
できればその後、「へー、そっかそっか。でね、別の話だけどさ」と話題を切り替えてほしいんです。ここまでいければ相手はかなりの不完全燃焼パターンに陥りますよね。「あぁ、なんか今日ハルカさんノリが悪いわ」とか。「え、どうしたの? 何があったの?」みたいな。次第に相手はトーンダウンしていくでしょう。
でも、今までのお互いの不平等パターンが学生時代からの名残で十何年続いているとかだったら、相手はさらに自慢話を被せてくる可能性が高いです。これは今まで続いていた行動に対してとってもいい結果が起こるという学習のパターンが崩れ去る時によくある「消去バースト」という現象なんですけれども。
相手は「え、ハルカさん、今の私の話を理解していないのかな? もう1回ちゃんと言ってあげよう。ねえねえ、私の子どもさ、○○××△△なんだよね。聞いてた?」みたいな。「これってすごいことなんだよ」とさらにマウントを取って乗せてくると思うんですね。
この消去バーストは必ず起こりますが、これにぐらついて「えー、すごいね」と今までどおりの服従パターンをとってはいけません。ここでも一生懸命はぐらかして、「そうか~。でさぁ」みたいに別の話題に変えてほしいんですね。こんなふうに、とにかく自慢話をしてもつまらない相手だということを学習していただきます。
それを続けていると相手も「あれ、おかしいな?」「いつものパターンじゃないな」ということで、「最近、ハルカさんはどうなの?」みたいに近況を尋ねてくれるかもしれません。こんなふうにたまにはこちらの顔色をうかがわせてもいいんじゃないでしょうか。ハルカさんがいつもいつも顔色をうかがってばかりだったんですから、たまにはうかがわせても対等というわけです。