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不機嫌な自分をやめるために!認知行動療法の専門家 中島美鈴先生新刊『脱イライラ習慣! あなたの怒り取扱説明書』発売記念【無料オンラインイベント】(全6記事)

職場の同僚にイライラ…ストレスを最小限に抑える秘訣 「いい人でいなきゃ」と自分を追い込むタイプへの処方箋

『脱イライラ習慣! あなたの怒り取扱説明書』の刊行を記念して開催された本イベント。認知行動療法を専門とする臨床心理士・公認心理師の中島美鈴氏が、「怒り」を感じにくくするための「考え方」と「しかけ」を紹介します。本記事では、職場のストレスを軽くする心理学的メソッドについてお伝えします。

イライラしがちな日々が生きやすくなる習慣

中島美鈴氏:こんばんは。今日の講師を務める中島と申します。画面を共有して進めさせていただきます。今日は短い時間ですが、この本のコンセプトとなるようなとても大事なことについていくつか触れて、みなさんの事前質問に答えていくかたちで進めていきます。
 
まず今日は、現代社会ってイライラしちゃうよね。そういう時に認知行動療法が少し役立つかもというお話から入っていきます。そして、職場の人間関係の話。友だち関係でのイライラの話。そして自分へのイライラの話をご紹介したいと思います。
 
現代社会はイライラしていると思いませんか。今はだいぶ規制されるようになりましたけれども、Yahoo!(ニュース)コメントは匿名なのをいいことにいろんな誹謗中傷も目立ちますよね。Google Mapの口コミでも裁判が行われていたり、とにかくみなさんがなにか鬱屈としたものを吐き出しているなぁという気がします。
 
こういう一般社会に向けられたイライラだけでなく、職場・家族・友人などの人間関係で悩んでいる方も後を絶ちません。こうした流れを受けて、「アンガーマネジメント」という言葉がこの10年ほどもてはやされているように思うんですけれども。
 
私が勤めていた精神科医療の分野では、特に医療観察法病棟や刑務所ではアンガーマネジメントに注目して、いち早く導入してきたという歴史があります。そうした歴史を踏まえて今回の本を書いてみました。

日本人が実践しやすいアンガーマネジメントの方法 

また、私の専門としている認知行動療法は認知、自分の物事の捉え方、物の見方や行動、なにか困ったことが起きた時の解決の行動レパートリーの広さとかバランス。そんな行動パターンをいくつ持っているかを見直すことで、より問題を解決しやすくするというカウンセリングの一種です。これがわりと怒りの問題に効果を出していることも今日お伝えできたらと思います。


 
また、今回の本のコンセプトは、欧米で流行っているアンガーマネジメントではなく、「アメリカ人みたいになかなか主張ができない」という会社風土の中で苦しんでいる日本の方でも実践しやすいものを、だいぶアレンジして考えてきました。
 
認知行動療法は、この物事の受け止め方や行動パターンを見直して少しでも穏やかに生きていく方法を探るものになります。私たちの人生にはライフイベントがいろいろありますよね。 こうしたライフイベントを乗り越える際に、いつも穏やかな気持ちのままではいられないでしょう。すごく忙しくなったりストレスフルになったり、これまでどおり働けなかったりしていくはずです。
 
また、年齢や病気、怪我などの影響を受け、体力・気力はなかなかフルでは発揮しづらいです。こんな時期も少しでもしなやかに乗り切れたらという思いでこの本を書いています。

職場の人にイライラするのはなぜ? 

それではさっそく、職場での人間関係に悩む40代女性のユイカさんをご紹介します。事務職で同じ部署の人のものの言い方がきつくてつらいと悩んでいます。その相手の女性はユイカさんに対して、知らないことを教えているつもりなんでしょうけど、嫌味な口調なんだそうです。

ですからユイカさんはその方のことが、顔を見るのも嫌い。パソコンのタイプ音すら嫌になるぐらい、すごく嫌いになっちゃったという事例です。みなさまはこういう時どうしますか。
 
このように毎日顔を合わせる職場の人に対してイライラするのはなぜでしょう。「嫌いなら嫌いってほうっておけばいいじゃない」、そんな意見も聞こえてきそうですけれども。
 
私たちは幼稚園や保育園の頃から親や先生に「みんなで仲良くしなさい」「兄弟で仲良くしなさい」「お友だちと仲良くしなさい」、そうやって育てられたのではないでしょうか。これがどうやら大人になってもアップデートされないまま、ずっとずっと私たちの心に残ってしまっている。


 
「スキーマ」という言葉がここで出てきたんですが、「思い込み」ぐらいの言葉に入れ替えて聞いていただければと思います。「みんなで仲良く」という思い込みがあるからこそ、「仲良くしなきゃ、でもできない自分」ということで自分を苦しめている可能性があるということです。

「悪口を言ってはいけない」という思い込みが自分を苦しめる

今出てきたスキーマという言葉は、私たちの心の中でもわりと奥のほうにある、日頃強く意識しない部分のことを指します。「当然みんなで仲良くしなきゃだよね」みたいにわざわざ言語化しない。「常識でしょ」と思っていることがここにあたります。これとは対照的に、もうちょっと私たちが意識しやすい、より浅いレベルの認知の部分を「自動思考」と呼びます。
 
例えば、嫌いな人のパソコンのタイプ音が聞こえてきたら「あんなにカチャカチャ音を立てなくたっていいじゃん」みたいな思考が湧きますよね。これが自動思考です。私たちがすぐ何を考えているか意識しやすい考えのことを自動思考といいます。
 
でもこの「あんなにバチバチ音を立てなくたっていいじゃん」の奥底、もうちょっと根っこの部分を覗いてみると、「あんなに日頃から意地悪で嫌味な人は罰せられるべきだ」「やることなすこと全部嫌い」とかですね。もしかしたら気の合わない人の悪口も言っちゃいけないみたいなスキームがあるのかもしれない。そうじゃない思考が芽生えた時に、私たちはイライラするのかもしれません。
 
こんなふうに振り返ってみるとどうですか。職場の人が本当に嫌い。「あの人、本当にどうにかなっちまえばいいのに」と思えたほうが、どちらかというとストレスは少ないんです。
 
まだいい子な自分が残っていて、昔の思い込みを捨てられない。「職場の人だから、それでもにこやかに対応しなければならない」とか、「それでもこの人ともずっと悪口を言い合わずにやっていかなきゃ」みたいな思い込みが強ければ強いほど、このスキーマに苦しめられるというわけです。

「人から愛されたいスキーマ」の6項目


今「仲良くやっていかなきゃいけない思い込み」と申し上げたんですけれども、ちょっとチェックリストを作ってみました。みなさんが人と仲良くやらなきゃとか、嫌われている相手からでも愛されなきゃという思い込みがどれぐらいあるかをチェックしてみましょう。全部で6項目です。いくつ当てはまるでしょうか。


 
会議などで大多数があなたの意見に賛成していても、数名の反対があると、その反対したほうが気になって落ち込んじゃう。2つ目。こちらが好きではない相手からでも嫌われちゃうのはつらい。3つ目。相手が不機嫌にしていると、自分がなにか気に障ることをしたんじゃないかなと心配になる。4つ目。誰か2人がコソコソ話をしていると自分の悪口を言っているんじゃないかなと気になる。
 
5つ目。所詮他人なんだから、自分のことを理解してもらえるとは思えない。最後。今仲良くしている相手でも、この先はどうなるかわからない。誰しも1回ぐらいは思ったことがある項目ばかりではなかったでしょうか。でも、もしも「全部当てはまりました」という方がいらっしゃったら、けっこう人の目が気になるタイプ、誰とでも仲良くしなきゃと思っているタイプかもしれません。
 
私はXをしているんですけれども、これ全部にチェックがつく人がXをやってしまうと、ストレスで仕方なくなるだろうなと思いますね。でも、誰かが反対をするし、誰かには嫌われるし、相手の不機嫌は自分のせいとは限らないし……のように反論できればいいんですよね。
 
当てはまった項目があれば反論を考えてみてください。これがけっこう当てはまっちゃうなという方は、例えば100人の人がみなさんの前にいたとして、90人ぐらいがみなさんにすごく賛成して好きでいてくれても、10人ぐらいから嫌われたら落ち込んじゃうということになりますよね。
 
でも、けっこうみんな簡単に嫌われるものですし、そんな100人が100人から好かれる人って芸能人でもほぼほぼいないですよね。みたいに、1つずつを丁寧に考えていくんです。
 
しかも、あんまり自分事とせずに「一般的にこうだよね」という感じで切り込んでいくと、少しずつみなさんの思い込みは修正しやすくなるかもしれません。

「人から評価されたい」鬱のリスクをはらむタイプ


職場といえば、上司からの評価を気にする場所でもありますので、ここでは人から評価されたいスキーマもご紹介いたします。みなさん、いくつ当てはまるでしょうか。
 
少しでも批判されると落ち込んでしまうタイプ。努力しないと褒められないと思うし、ちゃんと努力が報われないとやる気をなくす。世間体を気にする。自分が何をするかより、他人からどう見えるかを気にして、いろんな選択、決断をしてしまう。大嫌いなはずの相手からでも評価されたいと思って努力してしまう。自分の成果について評価されることが一番うれしい。いかがだったでしょうか。
 
「職場では評価されてなんぼでしょう」「お給料をもらっているんだし、当然そうでしょう」という意見もあるかもしれません。ただ、それはすごく良い社員ですよ。しかし、これの全部に当てはまり、なんの例外もないくらい「絶対これである!」となってしまうと、けっこう鬱のリスクをはらんでいます。
 
人は、自分の努力に対して十分な報酬がもらえないと感じると、鬱っぽくなることがわかっているんですね。なので「人から評価されたらうれしいけど、されないこともあるよね」とか、上司が自分のやっていることを全部見ているわけじゃないかもしれないし、上司だって完璧じゃないかもしれない。
 
間違った評価をする時もあるかもしれないし、見逃されているかもしれないみたいな。いくつか例外を持った、ちょっとだけやわらかな思い込みに訂正できると、少ししなやかに人生を生きられるのかなと思います。

「職場の人みんなと仲良くする」という間違ったゴール設定


さぁ、今度こそユイカさんの話に戻りますね。ユイカさんは職場にすごく嫌いな人がいて、イライラしているんでしたよね。
 
最初に申し上げたとおり、「職場の人みんなと仲良くしよう」とか、「相手のことは嫌いであっても嫌われないようにしよう」なんていうのは間違ったゴール設定だということです。仕事の生産性を落とさないのが、まずは職場の一番の目的ですよね。
 
ということは、仕事が滞らない程度の情報交換を第一のゴールに掲げて、ものすごく友だちになって情緒を交換し合って共感し合おうなんてことはゴールでなくてもよいはずなんです。最悪、その人のことが全部嫌いでもいい。仕事さえ回すというのが最初に目指すべきステップではないでしょうか。
 
振り返ってみれば、ユイカさんは幼い頃から優しい優等生タイプだったそうです。クラスでなにかのグループ分けをする時に、1人ぼっちになった人には率先して声をかけていたし、バレーボール部では常に人間関係に気を配っていたといいます。仕事でもそんなチームワークが発揮できて、円滑にいければベストでしょう。
 
しかし、相手がそもそもユイカさんと仲良くしようとか、すごく円滑に仕事をやっていこうというゴールを描いていない場合。つまり相手にその気がない場合は、ユイカさんだけが努力しても、なかなかうまくいかないですよね。

「仕事に支障が出ない」レベルで関わる 

また、仕事は食べていくため、いわゆる生存権が発生するとってもすごい場なんですね。となると「仲良くしよう」みたいなふんわりゴールとは違う、学生時代までとも違う、現実的に仕事を回していく、仕事に支障が出ないようにするというルールを適用すると、この優等生の呪縛からちょっと解放されるんじゃないでしょうか。
 
もちろん情緒を交換して一体化した職場で和気あいあいと働くのは理想ですよ。でも、現状では到底できそうにないという代替案です。
 
さぁ、その後のユイカさんです。ユイカさんはやっぱり真面目で不器用なところがありましたので、嫌いな人に対して、このことはやる、でもこのことはやらないとあらかじめ仕分けをしておく作戦に出ました。
 
例えば、あの人は大嫌いだけど、職場だし挨拶はしようとか。仕事の指示は受けるし、わからないことがあれば質問もするし、依頼した仕事をしてもらったらそのお礼はする。これは仕事を円滑に回していくために必要ですよね。しかし、昼休憩の時に一緒に同じ机でご飯を食べる必要まではないだろうと線引きをしました。
 
また、雑談の中で自分のプライベートの話まではしないようにしたい。そこで踏み込まれるのがすごく嫌だというふうに仕分けをしました。こんなふうにユイカさんは割り切ったことで、「相手のことを好きにならなきゃ」とか「仲良くしなきゃ」と思っている時よりもずいぶん楽になったそうです。


 
こんな仕分けをしなくても自然に割り切って淡々と接することができるポーカーフェイスの人っていますよね。でも、もしみなさんがそうじゃないとしたら、その人のタイプ音さえ見苦しいぐらいアレルギー反応を起こしているとしたら、こんなのも一度試してみてほしいなと思ってご紹介しました。

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