2024.10.21
お互い疑心暗鬼になりがちな、経営企画と事業部の壁 組織に「分断」が生まれる要因と打開策
約3,000人のデータ分析結果からわかった効果的なメンタルヘルス対策 第2部 効果的なメンタルヘルス対策のための実践ガイド -心身のストレス、ワークエンゲージメントを改善するための睡眠改善メソッドとは?-(全1記事)
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猪原祥博氏(以下、猪原):今度は「大手IT企業のストレスチェックデータ」をご紹介します。これは許諾をもらい、完全に匿名加工されたものです。全4万件のうち、データ提供に同意した約3,800人の、2019年から2023年までの5年分のデータになります。
5年中5回とも「高ストレス判定」となった方が、一番下の濃い緑の部分です。5年中4回がその1つ上で、上に行って緑の色が薄くなるごとに、5年中3回、5年中2回、5年中1回となっています。
高ストレス者の全体の数(239名から280名の間)はあまり変わっていませんが、私はこのデータを見て、定期的に高ストレス判定を受ける人がいかに多いかを思ったんですね。ある時たまたま高ストレス判定が出たという方も幾分はいらっしゃるかもしれませんが、6〜7割の方は2回以上の複数回、高ストレス判定を受けていることがわかります。
もう少し分析を進めていきます。5年中一度も高ストレスになっていない人から5回なった人までを横に並べています。左の縦軸は心身のストレスのスコアです。77点だと一発アウトですけれども、これを見ていただきます。
右は睡眠の軸で4点が一番悪くて、1点が一番いいです。これを見ると、5年中5回高ストレス判定の方は、5年間平均で心身のストレススコアが86.6点です。77点が一発アウトのレベルなので非常に高いんです。5年中高ストレス判定4回の方で80.9点、3回で75.5点、2回で70.1点、1回で63.1点でした。
なお、63点以上でもA領域(業務や人間関係など、ストレスの原因と考えられる因子)とC領域(家族や職場のサポートなど、ストレス反応に影響を与える他の因子)のスコアが悪ければ高ストレス判定になります。
この結果でわかることは、ある時はめちゃめちゃ良くて、ある時はめちゃめちゃ悪いということではなく、心身のストレススコアが悪い人は平均して悪いことがおわかりいただけると思います。
そして、そういう方は睡眠のスコアも平均して悪い。つまり、めちゃめちゃ寝られる年とめちゃめちゃ寝られない年があるとか、心身のストレスがすごく低い年とすごく高い年があったりするわけではなく、高ストレス判定の近辺をずっとさまよい、ずっと悪い状態が続いているということです。
猪原:それをもう少しわかりやすくしたデータがこちらで、横軸が睡眠の質です。
「ほとんどなかった」は、眠れない日がほとんどなかったということなので、よく眠れていると。右に行くほど眠れないということですね。縦軸は5年分の心身のストレススコアの平均値です。ほぼ直線に、睡眠と心身のストレスが並ぶことがおわかりいただけると思います。
63点以上は高ストレス判定になる確率が高まります。睡眠のレベルでいくと「(眠れない日が)ときどきあった」と「しばしばあった」の中間のあたりですね。そこよりも左側にもってくる必要性があるとおわかりいただけるかなと思います。ここでは60点に予防ラインを引いています。
これが今日一番お伝えしたい資料です。これも2019年から2023年まで取っているデータで、「ちゃんと毎日眠れていますか」という質問に対し、「ほとんどいつも眠れない」「しばしば眠れない」という人だけをピックアップしています。
最近「どうやったら高ストレスの人に早く気づいてあげられますか」というご質問があったんですね。その答えは、「ちゃんと毎日眠れている?」と聞くことです。「ほとんどいつも眠れない」という人はだいたい、85〜90パーセントの人が心身のストレスが60点以上です。
「しばしば眠れない」だと、70パーセントくらいが60点以上の高ストレス値になっていることがわかります。
なので、昔よく上司の方が「ちゃんと寝られているか?」と聞かれたと思うんですが、それは非常に効果のある質問で、「眠れていない人は本当にストレスが高い」ということが3,000人のデータからわかったと思います。
今までは「ストレスを感じてメンタル不調になって、メンタル不調になったから不眠状態になる。不眠は結果だ」と言われていたんですね。最近はエビデンスベースも高いメタ分析などもあって、不眠は実は結果ではなく「大きな原因の1つ」だと。
不眠とストレスが相互に影響を与えて、メンタル不調になっていくと。なので不眠状態を放っておくと、メンタル不調になると言われています。先ほどのデータは、まさにそれを物語っていると思います。
猪原:ストレスの原因はいろいろありますが、ストレスに対する生体反応は非常にシンプルで、人はストレスを感じると交感神経が優位になって、睡眠不足になったり睡眠の質が低下します。そうすると脳が休まらないんですね。脳が休まらないと余計にストレスを感じやすくなります。ストレス原因がグルグルグルグル回って、どんどん悪くなっていく。こういうスパイラルに入るということですね。
なので解決策としては、ストレス原因そのものはいったん切り離して、ストレスを感じて睡眠が悪くなった人に対して、シンプルに睡眠改善をすることです。脳が休まるとストレスを感じにくくなるので、ちゃんと眠れるようになってさらにストレスを感じにくくなる。こういう状態に戻すことが1つの解決策かなと私どもは思っています。
本当にそんなにうまくいくのか。ストレスがかかっているから眠れないんじゃないのかとおっしゃるかもしれません。こちらも今日お伝えしたい非常に大きなデータです。
横軸は「アテネ不眠尺度」という睡眠の質を取っています。右に行くほど睡眠が悪く、6点以上は病院に行ったほうがいいレベルです。縦軸は「心身のストレス」になります。先ほどお話ししたように、77点以上は一発アウトというやつですね。
ほぼ70点以上のグレーの高ストレスの方に睡眠改善を施したところ、(主に左側に固まっている)オレンジになったんですね。改善幅はアテネ不眠尺度がだいたい6.5ポイント改善しました。左側に寄っているということは睡眠が改善しているという意味です。心身のストレスも、平均値で6.8ポイントも改善しているんですね。
なので、ストレス原因はそのまま置いておいても、睡眠を改善することはできると。睡眠を改善するとストレス原因は変わらなかったとしても、心身のストレスは下がるということを、N=26ですが、1つ証明できたのかなと思います。
じゃあ何が改善するのかは、この項目ですね。よく寝たから疲れが取れたということです。悲しくなくなり、活気がわいてきて、へとへとじゃなくなって、イライラしなくなり、仕事が手につくようになったし、食欲も出てきて、首や肩の痛みもなくなり、目の疲れも取れ、だるさもなくなったと。当たり前ですけど、ぐっすり寝るとこのへんが良くなるということですね。
第2部のまとめです。
ストレス社員は基本的には不眠社員。眠れていない社員にほぼほぼ等しいのではないかと。なので、不眠状態を改善するとストレスも改善する。ストレス対策とは、睡眠対策を基本に考えていただければいいのではないかと思います。吉田先生、コメントをお願いします。
吉田健一氏(以下、吉田):本当に良いデータを取られたと思います。ビフォーアフターできれいに示されたのを私も初めて見ましたし、非常に事業としても期待できるものじゃないかなと感じました。
猪原:ありがとうございます。5年分のストレスチェックのデータというのは、どうでしょう。レギュラーというか、ずっと高ストレスの方がいらっしゃるというのは、臨床の現場から見るとどんな感じでしょうか。
吉田:必ずしも眠れていないわけではない場合もありますが、「今年も来ました」と言って何度もいらっしゃる方は実際にいますね。ただ、高ストレス判定になる方というのは全受検者の10パーセントなんですね。
高ストレスの判定基準は、うつ・不安などの領域Bの設問の合計点数が77点以上か、業務・人間関係などの領域Aと周囲のサポートなどの領域Cの合算の合計点数が76点以上で、かつ領域Bの合計点数が63点以上ですが、なんで国が10パーセントにしているのか。
根拠は確か資料には書いていなくて、当時のワーキンググループの議論などを見ると、働いている人の中で、うつ病状態のまま働いている人が2パーセントいると言われているんですね。そして、治療を受けている人は2パーセントのうちの一部に過ぎないと。
なので、うつ状態の人にはちゃんと治療を勧奨すると。そして、うつの一歩手前、あるいはもうちょっとマージンを取って2歩手前まで、ちゃんと網を掛けて高ストレス判定にしておこうという話が、おそらくあったと思うんです。だから10パーセントということになっているんだと思います。
この10パーセントに入る方たちをしっかりケアするのが大事なんじゃないか。今企業はレピュテーションリスクということを、随分言われるようになったと思いますが、そういう意味でも価値があるんじゃないかなと思います。
猪原:最後に、素直に眠れているかを聞こうという、このデータはどうですか?
吉田:これは本当に、いい意味で昭和の質問というか、場面が目に浮かぶような質問ですよね。部下に対して「最近、毎日ちゃんと眠れているか?」というのは、しかるべきコミュニケーションなのかなと思います。
その時に「最近ほとんど眠れないんです」と答えた人は、基本的には9割近くが高ストレス予備軍でしょうし、「ときどき眠れなくて」という場合も、7割くらいが心身のストレス60点以上に該当なので。経験的にこういった質問しましょうみたいなことは、ずっと昔から言われいますが、それがデータとして明らかになった、非常にすばらしい分析かなと思います。
猪原:ありがとうございました。
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