2024.10.21
お互い疑心暗鬼になりがちな、経営企画と事業部の壁 組織に「分断」が生まれる要因と打開策
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岩井俊憲氏(以下、岩井):ここで何度も言っている「共同体感覚」にちょっと話をもっていきたいと思います。
共同体感覚の意味です。定義としては、家族、地域、国家も共同体ですね。所属感・共感・信頼感・貢献感を含む感情、感覚のことを言います。これはアドラー心理学においては、精神的なバロメーターの1つの指針です。
今、この共同体感覚がますます重要だと思っています。さかんに精神的な健康=Well-beingと言われますが、基本は共同体感覚にあるんじゃないかと思います。我々が今直面し始めて、これからますます重要視される責任、SDGsなどとも大きく関わっていくのだろうと思います。
では、アドラーはいつ頃から(共同体感覚を)言い出したかというと、第一次世界大戦が終わってから強く言うようになったんですね。1920年くらいからです。
100年前から言っているんです。アドラーは自分の心理学を「個人心理学」と呼んでいました。「共同体感覚」と「勇気」というスローガンを示さなきゃならないと。
さらにアドラーは大風呂敷の人で、現在の限定された共同体だけではなく、過去・現在・未来という時間軸、人間共同体だけでなく、生命共同体、宇宙共同体も含めた、より広い人類の理想を反映する共同体を夢見たんです。けっこう理想主義者です。
岩井:この100年前にアドラーが注目した共同体感覚が、現在どうなっているか。アドラーの時代は「宇宙、宇宙」とけっこう言っていましたが、(今は)リアルに月から見た地球が観察できるようになった。地球から見るだけじゃなく、地球が宇宙から見られる時代になっている。
もう1つは環境問題についてです。これ(スライド資料)はアマゾンの「赤い傷口」と書かれた新聞のコピーです。一昨年イギリス・グラスゴーで開催された国連気候変動枠組条約締結国会議でのことですよ。
(南太平洋の島国)ツバルの外務大臣が「かつてここは陸地でした。ところが海面上昇とともに我々の領土は年々狭まっている」と強く訴えたシーンです。
そして今年、国連の(アントニオ・)グテーレス事務総長は「温暖化は終わり、地球沸騰の時代が到来した」と言っています。「アクションが必要なんだ」と強く訴えている。
そう考えると、共同体感覚を我々自身に落とし込むことが必要です。
“Think globally, act locally.”という言葉のように、グローバルに地球規模・広い視野で考え、大風呂敷だけじゃなく、環境問題に影響する一つひとつを実行レベルに活かすこと。これが必要だと思うんですね。
アドラー心理学はけっこう理想論を述べますが、この理想論は今こそ必要とされている。より広い空間軸、より長期的な時間軸の視点で捉え「自分自身の在り方はどうなんだろう? 人間関係はどうなんだろう?」と行動レベルで共同体感覚を活かすことが必要です。
それは先ほど言った「精神的健康=Well-being」「よい人間関係」「心理的安全性」と切っても切れない関係にあると言えるんですね。
岩井:それから共同体感覚という点では、英語で「ソーシャル・インタレスト(共同体感覚)」という言葉があります。それに対するものが「セルフ・インタレスト(自己の関心)」ですね。アドラーの言葉を先に紹介しちゃいますが、アドラーは「われわれが反対しなければならないのは、自分自身への関心だけで動く人である」と書いています。
ゴミやその他のいろいろな行動を「この態度は、個人と集団にとって、考えられるもっとも大きな障害である」と言っています。我々には両方の意識がある。セルフ・インタレストも必要。でもこれで終わるのではなく、より広い共同体にとってこれは果たして有益かどうかも考えなくてはならない。
我々は多くのソーシャル・サポートも受けています。私は91歳の義母をこの5月に我が家に迎え入れて、老々介護をしながら、同時に税金を納めたり、その他のボランティア活動をしたり、社会貢献をしています。
セルフ・インタレストのみで活動すると、どうしても非建設的・破壊的な対応になってしまいます。そこにより広い共同体という観点を持つと、それは建設的な対応につながり、我々自身の周囲を含めて、成長、成熟へと向かわしめることができるのではないか。
(スライド左のように)セルフ・インタレストは簡単に言ってしまうと、利己的な動機のみで動いてしまうことですが、(スライド右のように)利他的に、より広い共同体の利益のために「自分は何ができるのか」「どういう貢献ができるのか」「どういう協力で進んだらいいのか」と、ヨコの関係でいろいろな活動を営めると思うんです。
判断軸は「I」ではなく、私たち「We」。そして違いを認め合うことは、ダイバーシティにも関係する。建設的な対応ができ、成長、成熟へと向かう。
組織の在り方として、我々が卒業しなきゃならない過去の遺物として「恐怖によって人を動かそうとすること」がある。自分自身が直面するのはいいです。だけど人に対して恐怖を与える。ナントカモーターがありましたね。あの事件は恐怖そのものですよ。
(スライドの3つの恐怖反応)戦う、逃げる、凍りつく。そういう結果しか示さない恐怖によるモチベーションではなくて、すでに話した「勇気づけ」で全体を取り囲み、「リスペクト」をベースに、「信頼」と「共感」を柱として、「協力」に向けて貢献し合う。
その先にはパーパスがある。目標もある。こういう考え方ならば心理的安全性も保てるし、共生社会、多様性の時代の先取りとして、機能するのではないかと見ています。
岩井:もう1つは、アドラー心理学の重要な柱である「勇気づけ」です。これは先ほど一度技法のように示しましたが、大事な理論です。
「勇気づけ」は、今の「勇気くじき」の時代には、ますます必要ではないかと思っています。「勇気づけ」について簡単に5分くらいで話します。「勇気づけ」で生きるためには、「勇気くじき」を克服し、「勇気くじき」に替わる「勇気づけ」として対応しなきゃならないんじゃないかと考えています。
我々はどうしても「勇気くじき」的にやってしまいがちです。でも求められているのは「勇気づけ」なんです。「勇気づけ」は「勇気くじき」と違います。(スライドの)この対比を見ていただきたいんですけれども、「勇気くじき」は困難を克服する活力を奪う。
それに対して「勇気づけ」は困難を克服する活力を備えるように、尊敬・共感・信頼をベースにし、相手の自己価値観が高まる営みになる。これは「共同体感覚」につながると思うんですね。
この「勇気づけ」をどのように実践していったらいいのか。「ヨイ出しをすること」。ダメ出しに替わるヨイ出しです。辞書にはダメ出しは載っているけど、ヨイ出しは出ていません。
「ヨイ出しをすること」「感謝を表明すること」「聴き上手に徹すること」「相手の小さい進歩・成長を認めること」「失敗を許容すること」。特に気になる誰かさんの行動は、頻度でいうと良い点が圧倒的に多く、一部ダメなところが加わるだけ。それなのに、我々はダメなところばかり口を酸っぱくして言います。
関心を向けられた行動は、頻度が増えていくんです。良いところに目を向ければ、良い頻度が増えていく。そのことを忘れないでほしい。
さらに感謝という勇気づけ。感謝は、最もコストが安く、最も効果の高い勇気づけのツールであると考えます。他者への感謝は言葉だけじゃなく、LINE、メール、その他いろいろあります。
岩井:ではまとめに入ります。ちょっと急ぐ感じですが、まとめとして自分のミッションと絡めると、やはり「ディプレッション」ですね。
ディプレッションの意味は、精神学用語(精神医学用語)だと「うつ病、うつ状態」です。経済用語では「不景気、不況」です。同じディプレッションが使われますが、どちらもエネルギーが低下した状態を表します。
こういう時に必要なものは何かというと、私のパーパスとしては「ディプレッション」を「エンカレッジメント」すること。勇気づけのことを「エンカレッジメント」と言います。閉塞状態にあるディプレッションを、エンカレッジメントで吹き飛ばす。こういう方向に向かうと、時代を変える活力が自分に、他者に、そして周囲の環境に湧いてくるのではないか。
勇気づけは、より広い長期的な視野、共同体感覚を教えてくれます。私たちの共同体のためにエンカレッジメントせよ。自分自身を勇気づけよう。組織を勇気づけよう。それで終わるんじゃなく、社会を勇気づけようじゃない。そうするとI、私というセルフ・インタレストがWeに発展し、そしてLarge weになって世の中を変える動機になるんじゃないか。
そういう点で私はアドラー心理学をもっともっと広めたいと思っています。そのためのいろいろな講座もあります。一番はアドラー心理学ベーシック・コース、集合型、オンライン型でもやっております。
ちょうど私の持ち時間がきましたので、沖さんにバトンタッチいたします。ありがとうございました。
沖みちる氏(以下、沖):先生、ありがとうございました。岩井先生のアドラー心理学にまつわる講座は、学びの内容が本当に多岐に渡っていまして、今日お伝えしたものはほんの一部でしかないんですね。
より深くより広く体系立てて学びたい方には、ベーシック・コースがお勧めです。私も2回受講しております。さらにアドラー心理学に触れてみたいという方は「夢」のワーク。夢について深ぼっていくんですけれども、他にはないアプローチかなと思っております。とても興味深く私も参加させていただいておりました。
沖:最後に先生から、本当にアドレリアンな人生を歩まれている方々に向けたメッセージをいただけたらなと思うんですが、いかがでしょうか。
岩井:最後の自分のミッションじゃないけれども、やはりディプレッションは、環境によってどうにもならないのもあります。だけどその中で、ますます必要とされるのは勇気だと思うんですね。
だからエンカレッジメント。勇気づけを自分自身に対して、周りの人に対して、もっと周囲の人に対して提供することが、プロティアン・キャリアを学ぶ人の1つの役割じゃないかなと思っています。それをみなさんにお伝えできたことがとてもうれしいし、つないでくれた沖さんに、あらためて感謝申し上げます。
沖:いえいえ、ありがとうございました。先生は「勇気をつけますよ」じゃなくて、(先生の)在り方やちょっとした関わり、投げてくださる言葉全部が勇気づけなんですね。今回、岩井先生に来ていただきたかった最大の理由は、「アドラー心理学がプロティアンに活きますよ」というのはもちろんあるんですけど。
それ以上に先生の生き方から私たちが学べることがたくさんありますし、それを自分たちが他の方に介していくことで、プロティアンが生きやすい、プロティアン・キャリアを積みやすい、そんな人生になってくると思ったからなんですね。
まもなく時間が終了しようとしています。有山さん、よかったら最後に感想をお願いします。
有山:いろいろな気づきがあったんですけど、プロティアンとの親和性というか、プロティアンで伝えようとしていることを、さらにちゃんと言語化されていて。しかもダグラス・T・ホール教授(のプロティアン・キャリア)も45年くらい前ですので、100年前から(アドラーが)そんな考え方を提唱されていたことにビックリしました。あらためて本を読んで勉強させていただきます。
岩井:お送りしますから(笑)。
有山:ありがとうございます。勉強します。
沖:ありがとうございました。みなさん、週末の貴重なお時間、ご一緒いただきありがとうございました。耳だけ参加してくださった方もいて、300名以上の方がご参加くださったんですよね。本当にうれしいことです。
ではまた次の機会でご一緒したいなと思います。本日はアドラー心理学の、日本を代表するアドレリアンでいらっしゃいます、ヒューマン・ギルド代表岩井俊憲先生にご講演いただきました。ご参加いただいたみなさん、どうもありがとうございました。
岩井:ありがとうございました。
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