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メンタルヘルスの専門家と考える アフターコロナの中で「社員がやめない会社」をつくる方法(全3記事)

人間の脳がフリーズするのは「マルチプレイ」させ過ぎだから メンタルケアの観点からみた「いい組織」の作り方

株式会社mogが開催する「Hello!career well-being!プロジェクト」のイベントに、「ウェルビーイングのスタンダードを創る」というビジョンを掲げる株式会社メンタルヘルステクノロジーズ代表の刀禰真之介氏が登壇。リモートワークの普及に伴い、社内のコミュニケーション不足などからメンタルの不調を訴える社員が増え、対応を迫られた企業も。アフターコロナの中で社員のメンタルをケアしながら、「社員がやめない会社」をつくるための方法を同氏が解説しました。最終回の本記事では、参加者から寄せられた疑問に同氏が回答しました。

マズローの5段階欲求は「必要な正常な機能」

刀禰真之介氏(以下、刀禰):心理的安全性の本質を最後にシェアさせていただいて、今日は終わりにできればと思います。これは「ミニマムとしての心理的安全性とは何なんだろう?」という話で、「マズローの5段階欲求」に基づいて少しご説明できればと思います。

みなさん知っていますか? 「生理的欲求」から「自己実現」までの欲求。心理的安全性ってどこだと思いますか? 「安全欲求じゃないの?」という話を今からいたします。

実は「マズローの5段階欲求」、英語の原文を見ていくと、「Maslow’s hierarchy of needs」なんですけども、よく読むと「欲求」じゃないんですね。欲求だったら「Desire」なんですけども、「Needs」とありますね。「hierarchy of needs」。なので、「必要性」です。

これは原文の英語なので、これをもう少し解説をすると、「Physiological」という一番下ですね。ここでは「生理的欲求」という表現をしているわけなんですけども。

英語で書いてあることを、すみません、そのまま出します。右側に日本語を書いてあるんですけども、「食う、寝る、セックス、睡眠、神経系、内分泌系、消化器系の維持、排泄」という話ですね。これが「Desire」じゃなく「Needs」なので、「生理的欲求」じゃなく、「必要な正常な機能」ということですね。

これで気付いたのは、僕の父親は今介護が必要な状況で、オシメもして、排泄も含めたところで言うと、母もけっこう大変そうなんですね。正常な機能じゃないと、大変なんだなと。人が生きていく「hierarchy of needs」、必要性というところで考えると、僕はここはすごく解像度が高く理解できたと思うんですけども。

そういった観点でいくと、「Safety」って何を言っているか。英語の原文をそのまま日本語にしていくと、「身体、雇用、資源、倫理、家族、健康、財産」。これは、「安全欲求」ではなく、「必要な心身・財産の安全性」が必要ですよという話ですね。

組織の最小単位である「家族」で、心理的安全性を担保する

刀禰:次の「Love/Belonging」は所属欲求みたいなことで、「フレンドシップ、家族、性的な親密さ」とあるんですけども、「所属と愛の欲求」じゃなく、「必要な愛と相互信頼」という話ですね。

「Esteem」。ちょっと英語ではわかりづらいかもしれませんが、「Esteem」ってそもそも「承認」じゃないんですね。検索していただければ出てきますけども、「Esteem」って「尊重」のことですね。「Esteem of needs」なので「必要な尊重」というところですね。

英語の原文ををそのまま日本語にすると、「自分自身を信じたり、尊敬したり、敬意を持つ」「他者から敬意を持たれる関係を築く」というのが「Esteem」ですね。

最後の「Self actualization」。これは「自己実現」みたいなことが上に載っていたんですけども、実は違います。「actualization」は、実は「自己実現」であれば「realization」じゃないといけないんですけども、「actualization」。これは実は「現実化」なんですね。「考えや計画を現実化すること」というふうに見ています。

ということで、何が言いたいかというと、ミニマムとしての心理的安全性は、実は「尊重」「Esteem」なんですよと。「自分自身を信じたり、尊敬したり、敬意を持つ」。セルフケアですね。「他者から敬意を持たれる関係を築く」。ラインケアというかたちなので、両方必要なんだよという話になります。

このあたりは組織であると、両方重要になってきます。自分自身の満足度も高くないといけないし、周りのメンバーとの良い関係も作らないといけない。だから、「いつもみなさんもニコニコでいたほうがいいですよ。子どもがいらっしゃるんだったら、いつもニコニコで接してあげるのが一番いいですよ」という話をよくさせていただいています。

家族は、組織の最小単位だったりするので、このあたりも含めて、より良い心理的安全性を担保できるような環境を、みなさんも作ってみるのはいいんじゃないかなというところで、今日の僕のメンタルヘルスに関する「いい組織の作り方」に関して……。ウェルビーイングな組織を作るというお題に関して、以上とさせていただければと思います。

コロナ前後で増加した「休職する人」の数

司会者:刀禰さん、ありがとうございました。じゃあ、ここから質疑応答の時間に入っていきますので、ぜひみなさま、ご質問をいただければと思います。

刀禰:今チャットにある質問を、1個1個上から回答していきます。

司会者:はい、ありがとうございます。

刀禰:「特定会社の人事をしており、社員のメンタルケアについてのヒントを持ち帰りたく」というところですが、持って帰っていただけたでしょうか? 何か追加質問があればお願いいたします。

「コロナ前とコロナ後、現在までのメンタルヘルス関連で、企業からの相談内容の変化は変わってきていますでしょうか?」。はい、企業からは、冒頭でも申し上げた通り、法令遵守という話ではなく、休職する人が増えています。

平均で言うと、今だいたい1.5パーセントぐらいまで高まってきているのが政府からの報告です。1,000人くらいの組織だと、15人ぐらい年間で休職する人がいらっしゃる状況なので、100人だと1.5人ですけども、現実的に増えているのはあるかなと思います。なので、休職対策というのは非常に多いかなと思います。

「コロナ明けと同時に退職者が続き、残る人の負担が増えて、管理職としてどのようにフォローすべきか悩みます。また、職場での初めての鬱による休職者が出てしまい、復帰は難しいと思うんですが、留意点を」。こちらは説明させていただいたんじゃないかなと思いますので、ご質問が追加であればお願いいたします。

「良い人間関係を作ろう」という意識が必要

刀禰:「人事担当ではないのですが、以前から離職率が高い職場環境を少しでも変えることができるようなヒントを」。

「Esteem」な環境をぜひお願いします。「社員のメンタルケアの具体事例をお聞きしたいです」。これは休職後の仕組み化と4つのケア。まず、これをしっかり実現するということになります。

「エビデンスとしての理論も教えていただけると、会社での展開・提案がしやすくありがたいです」。

エビデンスというと、学会での報告レベルにはなっていないんですが、一応産業衛生学会とかでは使われているデータを用いて、先ほどの4つのケアのパフォーマンスとかも含めてご提示しておりますので、必要があれば、我々にお問い合わせいただければなというところでございます。

「リモートワークでの社員が孤独にならないコミュニケーション方法の例」。

どのぐらいのリモートワーク度合いかによるんですけども、完全のリモートワークなら、例えばヤフーさんの事例で言うと、必ずみんなでランチに集まるみたいな、必ずオフラインというか、仕事の話をしない時間を作っているというのが完全リモートワークの事例だったりしますし。

私どもの会社もそうですけども、週1~2回、2~3回という会社もあるんじゃないかなと思います。そこで言うとある程度みなさんカンファタブルに、むしろ生産性高く仕事をされている事例のほうが多いかなとは思います。

コミュニケーションの方向、上司と部下というかたちで言うと、1on1ってけっこう大変なので、それよりも「良い人間関係を作ろう」という意識がお互いあるほうがいい。特に上司にあるほうがいいんですね。というところが挙げられるかなと思います。

コロナ禍でメンタル不調の人が増えたわけ

刀禰:「人事ではないんですが、今フルリモートで働いています。毎日家事、子どものお世話、PCの前に座って作業で、やる気が起きにくい日があったり、話し相手がいないと思う日もあります。フルリモート下でも自分でできるメンタルケアのヒントをお願いします」。

これはもう、サードパーティを作りましょう。旦那さんにも協力してもらって、ぜひ趣味の時間、土日になるのか平日が休みなのかわからないんですけども、必ずご自身を守るための時間を作っていただければなというのが、メンタルケアとして一番重要かなと思います。

というのが、いったんまず、いただいたご質問に対する回答です。

司会者:ありがとうございます。他にご質問のある方がいらっしゃいましたら、ぜひチャットもしくは挙手いただければと思います。ちょっと私から、いくつか感想を含めておうかがいしたいなと思っているところがあって。今質問で出ていたところで言うと、コロナ禍でメンタル不調の方が増えているというのは、リモートワークが大きい要因だったりするんでしょうか?

刀禰:それよりは変化ですね。最近、徐々に増えているので、そもそも人は変化が起こると適応障害が起きやすいというところですね。みなさんも五月病って聞いたことがあると思います。あれは新入社員だけじゃなくて、いろいろ起こるわけですよね。あれも適応障害の一種です。

入社して1ヶ月ぐらい経つと、変化に対応できなくなって、休んでしまったり体調不良を起こすというのが五月病なんですけども、古くからある話なんです。

コロナというのは、リモートの影響もゼロとは言いません。正確に言うと食生活とか、あとは外に出る習慣がないとホルモンバランスが崩れるというのも確かにあるのは否定しないんですけども、一番大きいのは環境変化だと考えています。

最近20年間で、徐々に病んでいる方が増えているなと、みなさんも感じていらっしゃると思います。実際先ほども見せた通り、数字でも増えているんですけども、これはITとかによる社会変化がどんどん加速しているからなんです。コロナというのは、コロナによる社会変化が加速した時期だったので、大量に出やすくなったと理解をしております。

適応障害になってしまうのは「マルチプレイ」にさせ過ぎているから

司会者:なるほど。最近はコロナが一応収束しましたということで、「リモートじゃなく出勤だ」と舵を切っている会社さんも増えてきていて。

そこらへんってもしかしたら、主にコミュニケーションの面で、「リモートじゃダメなんだ」みたいに思われている会社さんも多いのかなと思います。そこがイコール、メンタルにもひも付いて考えている傾向もあるのかなと思っていたので、そうじゃない、そもそものもうちょっと大きい流れでの変化みたいなことだというのが聞けて、安心しました(笑)。

刀禰:たった10年、20年で、人間の脳はそんな変化しないので、例えば、情報流通量の変化もけっこう大きなポイントだったりするんですけども。

僕は今44歳なのですけど、パソコンは昔よくフリーズしたと思うんですね。Excelとか。今はだいぶ性能が良くなってきて、Excelもなんとか耐えられるようになっているかもしれませんが、あれも、パソコンに対するコマンド、命令が多いとフリーズしたわけなんです。

人間の脳もまったく一緒で、コマンドとかアプリケーションを複数立ち上げたり、要は同時並行でいろいろなことをやるというのは、実はあまり脳に対して良くないんですね、そもそも論で。なので、メンタルヘルス対策、適応障害対策で言うと、「多機能化をやめましょう」ですね。適応障害が起きやすいという人は、単機能にしていくというのが王道だったりします。

司会者:うーん、なるほど。

刀禰:だから、複数やればやるほど大変だったりするんですけど、最近みんなマルチプレイを求められているので、マルチプレイにさせ過ぎているんじゃないかなと正直思いますし。

ということを僕も50代の会社を運営している人たちにけっこう言っているんですけど、あんまりしっくりこないのか……。40代の方々は、みんな理解していただいているんですけども、なんとなくそんな感じの世の中で、僕も戦っていたりします。

従業員同士の「ななめの関係」

司会者:なるほど、ありがとうございます。あとは感想になるんですけれども、あそこの山道のところでの問いかけは非常にはっとするというか、「そうだよね。最初は自分だよね」と。あと、「働く人の側にも実は責任が、義務があるんですよ」というのも、「そうか」と思いました。

刀禰:ありがとうございます。

司会者:ありがとうございます。どうでしょうか。みなさんからご質問はございますでしょうか? すごくたくさん専門的なお話から、今日から取り入れられるところまでお話しいただけて、非常に有意義な時間だったかなと思います。

ありがとうございます。「職場改善の中で、従業員同士のコミュニティに有効な事例がもしあればうかがいたいです。仕事が原因でなく、家族やプライベートの問題で休職するケースが多い」ということですね。いかがでしょうか。

刀禰:これは、ななめの関係を作るというのが一番いいですね。同じ部署の上司と部下だと縦の関係なので、他の部署の上司と他の部署のメンバークラスをしっかり交流させたり、メンターみたいな制度が有効だったりしますね。

同じ部内でも、例えば当社は産業保健師という社員が数十名いるんですけども、保健師さんってけっこうカウンセリングをしているので、ちょっとメンタルが……。我々もかなりスクリーンして、なるべく強い人を採っているんですけども、それでもポジティブになろうと言いながら、ネガティブな話もカウンセリングとか面談で聞くんですね。

そうすると、優しい彼・彼女たちは自分のことのようにやってしまう傾向があるので。ガス抜きみたいなかたちで、直接の上司だとまたいろいろ言いづらかったりするので、同じ部内だけど斜めの課長クラスに、定期的に面談するような機会を設けていたりします。ななめの関係を作るというのは、非常にいい事例なんじゃないかなと思います。

司会者:うーん、なるほど。けっこうワーキングママ界隈ですと、「社内にワーキングママが少なくて」とか、「ワーキングママのコミュニティを社内で作って、そこでまさにななめの関係を作っています」みたいな事例もあったりしますね。

刀禰:いいと思います。

司会者:ありがとうございます。これ、①と書いていただいていますが、②もございますかね? 大丈夫でしょうか?

いつもニコニコでいるための「セルフケア」を

質問者:すみません。仕事の質と量と人間関係の3つということですけど、質の部分って、質が低い場合もストレスになり得るという認識で合っていますか?

刀禰:仕事の質を、高い質をこなせるけど量がこなせないという人もいるじゃないですかという話ですね。

質問者:なるほど。

刀禰:仕事の量もこなせて、高い質もこなせたら超優秀なので、いったん考えなくていいじゃないですか。仕事の質、クリエイティブな話とかはすごくできるんだけど、10件はできない、1、2件しかできないみたいなところで言うと、数は追えなかったりするので。

なので、そういう人に「いやいや、ちょっと。Aくんが10件できるから、その質で君も10がんばってほしいんだよね」みたいな話をしちゃうと潰れちゃうので。そこをどこまで、ストレッチゾーンをある程度させながらだったり、パニックにならないようにコントロールできるかという話ですね。

質問者:ありがとうございます。

司会者:ありがとうございます。ではお時間になりましたので、以上とさせていただければと思いますが、最後に刀禰さんからみなさんへメッセージをいただければと思います。

刀禰:そうですね。僕自身も医療職ではないんですけども、産業医の先生方に言わせると、セルフケアマニアぐらいセルフケアをやりまくっていますので、今日の話を何か1つでも持って帰っていただけたらなと思うんです。

ご自身を守っていただく。そのためには睡眠にフォーカスするというのが一番いいんじゃないかなと思うので。そして、いつもニコニコでいられるようなお母さんになっていただければなと思います。

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