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『スラムダンク勝利学』の辻秀一さんに学ぶ、個人とチームの勝利への道しるべ(全6記事)

メンバーが本音を言わないのは「agree」かどうかで接するから 部下のパフォーマンスを引き出す上司のコミュニケーション術

「社員の幸せと働きがい、社会への貢献を大切にする企業」を『ホワイト企業』と大きく定義し、さまざまな活動をしているホワイト企業大賞アカデミーのイベントに、同賞の企画委員で、『スラムダンク勝利学』の著者・辻秀一氏が登壇。「個人とチームの勝利への道しるべ」というテーマのもと、「声掛け」の重要性や、部下が本音を言わなくなる上司の特徴などを語りました。

自分で「今に生きる」とリセットする思考習慣

辻秀一氏(以下、辻):三井(寿)くんは、「あきらめない」ですよね。

安西(光義)監督の「あきらめたらそこで試合終了ですよ」という名言もあります。三井くんといえば「あきらめない」ですが、あきらめないというライフスキルは実はなくて。

「あきらめない」がどういうライフスキルを背景にしているかと言うと、「今に生きる」というライフスキルを持っている人は、結果的にあきらめない。

「あきらめている」とは、思考を未来に飛ばしていることなので。油断したりするのもそうだし、不安に思ったり心配したりするのも、わからない未来に頭を突っ込んでいるということ。

「今に生きる」は、自分でリセットしていく感じです。「新しい今」は毎日やってきます。1日24時間あって、1日86,400秒も新しい今はやってくる。多くの人は日曜日にリセットしたり大晦日にリセットしたり、行事でリセットしていますが、自分で「今に生きる」とリセットする思考の習慣ですね。

車椅子の選手たちに「どうやっていつも自分の心を整えているの?」と聞くと、「今に生きる」と自分でリセットしていないと、「なんであの交差点に行っちゃったんだろう」「なんであいつの車に乗ったんだろう」と過去のことばかり考えたり、「車椅子になって将来どうしよう」と考えちゃうと、どんどん機嫌が悪くなるので、「『今に生きる』と自分でリセットして考えることをやっている」と言っていました。

我々は今に生きたほうがいいと知っているけど、あまり「今に生きる」と実際に思考していないですよね。一生懸命やろうと、意識の訓練が大事だなと私は思っています。

「まず楽しもう」と考えたり、「自分は何を本当にやりたいんだろうか」と考えたり、「まずチャレンジしようぜ」と自分に思ったりしていないですよね。「まずは一生懸命やろうぜ」と自分に言い聞かせる訓練が、ライフスキルにつながっていくのではないかと思います。

メンバーのパフォーマンスを引き出せる3人のリーダー

続いては、リーダーマネジメント。「周りのパフォーマンスを引き出していく」という発想です。周りのパフォーマンスを引き出すということで、私が好きなバスケのコーチが3人います。

1人目は、ジョン・ウッデン。アメリカのUCLA(カリフォルニア大学ロサンゼルス校)というNCAA(全米大学体育協会)のディビジョン1の大学で、全米チャンピオンに10回なっているコーチです。

「成功のピラミッド」というすばらしい考え方をして、25個のライフスキルをピラミッド型にして、これを一つひとつ大事にしていければ必ず人間として成長して、気づけば結果がやってくるということを徹底的にやった人です。

アメリカのUCLAのアリーナに「成功のピラミッド」の実際の模型があって、私もそれを見に行ったことがあります。すばらしい人で、たぶんたくさんの本が日本語でも訳されています。「自分の心の状態が充実することをもって成功とする。人の評価ではない」ということをおっしゃっている方で、教育者でもあり、全米ですばらしい結果を残しているコーチです。

2人目は安西監督で、3人目がフィル・ジャクソン。NBAのコーチで、マイケル・ジョーダンやコービー・ブライアントを育てました。この方もすばらしいコーチで、『シカゴ・ブルズ 勝利への意識革命』という私が熟読するバイブルを出しています。

この方もアメリカ、それこそインディアンの教えとかをすごく取り入れている。選手たちに「今、君が読むべき本はこれだよ」と、月1回、遠征のたびに選手全員にその人に合った読むべき本を渡すような哲学的な人です。

3人に共通しているのは、どんなチームでもパフォーマンスを引き出していける力があることです。

良いリーダー・親・コーチが備える「指示」と「支援」のバランス

では、パフォーマンスとは何なのか。先ほどの原点に戻ると(スライドを指して)こうなります。パフォーマンスは「内容」と「質」でできています。ということは、人のパフォーマンスを引き出すとは、この2つにアプローチしていくことです。

何をしなきゃいけないのかという内容、Do Itに関しては「指示」です。なぜやらないといけないのか。具体的にどうするのか。指示は明確に、具体的に、厳しくですよね。なので、指示の具体性、明確性にちゃんと意味があるかを問う必要があります。

一方で、心の状態をフローに、少しでも機嫌の良い状態に導いていくアプローチを「支援」と呼びます。良いリーダー、良い親、良いコーチは、やはり指示と支援のバランスがすごく良いなと思います。

指示しかなく、支援がなくなればハラスメント傾向が高くなりますし、指示がなくて支援だけだとカウンセラーになりますよね。

指示と支援のバランスを自分に問うて、「今、自分の目の前にいる人は指示が8、支援が2のアプローチでいいんだろうか」「今、自分の目の前にいる人は指示が3、支援が7の割合で接し方としていいんだろうか」と自分に振り返る練習を、いろんなスポーツのコーチや企業のリーダートレーニングでやっています。

もちろん指示は仕事やスポーツの種類によって違うので、機嫌が良い方向に導く支援を教えるのが私の仕事になります。

「声掛け」の重要性

支援力のある人は、自分の機嫌が良く、「自分がフロー」です。自分の機嫌が良くなければ周りをご機嫌に導けない。機嫌が良いだけで周りをご機嫌に導いていけます。

次は「フローに導く声掛け」です。これも本を書いていますが(『メンタルトレーナーが教える子どもが伸びる スポーツの声かけ』)、「声掛けを教えてください」というケースがすごくあるけど、声掛けとは自分の心掛けを表現することです。自分の心掛けをちゃんと持っていかないと声掛けは変わりません。

心掛けこそがライフスキルです。例えば、私が体育会で「気合と根性」という心掛けを持っていたら、必ず子どもに「気合いと根性でやれよ」と声を掛けますし、スタッフにも「気合いだ」と声を掛けてしまう。人は自分が心掛けていることを声掛けするので、自分の心掛けを変えないと声掛けは変わらないですよね。

でも「まずは一生懸命やろうぜ」という心掛けを持っていれば、「一生懸命やろう」と思うだろうし、ライフスキルを心掛けていれば、そういう声掛けを人にしていくようになる。

「まずはチャレンジしてやってみよう」と言うようになるし、「まずは何がやりたいんだ」と声掛けするようになるし、「どうせやるんだったら楽しくやろうぜ」と言うし、とにかく「がんばってね」と声掛けするだろうし、「まず今に生きてやろうぜ。あきらめないでやろうぜ」と、自分が心掛けていることを声掛けしていくと思います。

そして、コーチ力。「してほしいことをしてあげる姿勢」というのがあって、これもいろんなかたちで多くの人たちに伝えています。

なぜ人は「感情」と「考え」をわかってほしいのか?

私たちはどんなことをしてくれるとご機嫌になるのか。人間は「わかってほしい」という本能を強烈に持っているので、わかってあげる姿勢を。人間は「見通してほしい」という本能を強烈に持っているので、見通してあげる姿勢を持つことが大事だと考えています。

ジャパネット高田さんはもう30年トレーニングさせてもらっていて、この「わかってあげる姿勢」だけでも、リーダーは1泊2日とかで徹底的に練習したりします。

人間は何をわかってほしい生き物かというと、「感情」と「考え」をわかってほしい生き物です。

なぜなら、感情と考えは自由だからです。何を感じ、何を考えても私たちは自由ですよね。この自由を謳歌したい。これが生きる尊厳です。だからわかってほしいんですね。

残念ながら、私たちは認知の世界で「何をしなきゃいけないのか」を常に制限されています。だけど、何を感じ、何を考えればいいのかは自由だから生きていける。なのでわかってほしい。自分の生きる尊厳を主張しているわけです。

でもリーダーになると「わからせる」ことに夢中になってしまって、自分の考えや感情と違うとわからせようとして、わかってあげることが疎かになる傾向があります。自由なんだから、わかってあげればいい。

部下が本音を言わなくなる上司の特徴

例えば、私が週末に何か映画を観て、めちゃくちゃおもしろかったとします。月曜日にオフィスに行って、秘書の女の子に「あの映画を観てむちゃくちゃおもしろかったんだけどさ」と言ったら、彼女が「私も観たんですけど、先生、ぜんぜんつまらなかったんです」と言うと、私は彼女を説得したくなっちゃうんですよね。「なんであの映画を観てつまらないと思えるわけ?」みたいな。

私は指示の権限を持っているから、彼女を説得しても彼女にわかってもらえなさそうだったら、今度は命令して「いいからもう1回観てこい」とか言って、指示の権限を行使して彼女に観に行かせるんですよ。観に行くんですけど、またつまらないんですよね。自由なんだから。

でも「つまらない」と言うと私に怒られると思うので、今度は嘘をつくんです。「先生、今度はむっちゃおもしろかったです」と言って、私を納得させるために嘘をついてしまうことになる。これが企業の中で生じるとまずいんですよね。

やはり、上司は自分と違う考えがあったとしてもまずそれをわかってあげるという発想が極めて重要です。「そう、あの映画を観てつまらなかったんだね」と言ってあげることが極めて重要なんです。その「わかってあげる」は何かというと、agreeよりunderstandの能力が、ここで言う「わかってあげる」です。

「僕はおもしろかったけど、あなたはつまらなかったんだということは、ちゃんとunderstandしたよ」というメッセージを伝えていくことが、人間関係の中で極めて重要です。でも、私たちはついついagreeかdisagreeかという発想を持っちゃうので、「あの映画がつまらないってあり得ないでしょ」とdisagreeしてしまいます。

子どもが母に求めるのは「understand」

これもよく言う話ですが、例えばお母さんが子どもと出掛けようと思っています。子どもがグズグズしていて、世界中のお母さんが「早くしなさい」と言っているんですが、お母さんの機嫌が悪くなっているわけです。そんな時に限って子どもがどこかに蹴つまずいて、こけて痛いとまた泣きます。そうすると、ますますお母さんはイライラして機嫌が悪い。

子どもがこけて泣いているから「〇〇ちゃん、どうしたの」ととりあえず声を掛けますが、あんまりわかってあげる気がない。自分の言いたいことを言うきっかけとして「〇〇ちゃん、どうしたの」と聞きます。

子どもは当然お母さんに聞かれたもんだから、自分の気持ちを言いますよね。「今こけて、擦りむいて痛いの」と言うと、ほとんどのお母さんは何て言うかというと、その瞬間に「痛くない、痛くない」と言うんですよ。

これ、おかしくないですか? 「どうしたの?」と聞かれたから「痛い」と答えたのに「痛くない」と言われるんです(笑)。それってぜんぜんわかってあげていないですよね。子どもは痛いのを拒絶されたわけです。

「いや、我が家の家系は信念をもって痛いと感じてはいけない家訓があるんだ」というなら別ですが、痛いと感じるのも自由です。それすら奪う権利はお母さんにはないですよね。でも子どもはわかってもらえなかったから、また機嫌が悪くなって泣きます。そうするとお母さんは「痛くないって言っているでしょ!」とまた脅します。

子どもはわかってもらえなかったから泣いているのに、今度はお母さんが脅します。「今すぐ泣き止まないと、お菓子なしにするわよ」と言うんです。痛くてわかってもらえないところにお菓子までなしになってご機嫌になる子どもは、世の中に存在しない(笑)。

指示は「明確に、具体的に、厳しく」

でも企業でもこういうことってよくあるんです。脅しで動かす方法ですよね。

「痛いんだね」と言ってあげればいいんですよ。子どもは一緒に泣いて「私も痛いわよ」とお母さんに言ってほしいわけじゃない。「あなたが痛いのはよくわかったわ。でも時間がないので今すぐ靴下を履いてね」と、具体的に指示したほうがいいですよね。

「痛い」と言うのを許しちゃうと、甘やかしだと思っているけど、甘やかしは行動させないことです。

指示は明確に、具体的に、厳しくですよね。「痛くない痛くない、いいから早くしなさい」……これ一番曖昧な指示ですよね(笑)。でもそういうことがまかり通っていて、私たちは自分の感情や考えという生きる尊厳を奪われながら、自由に生きられていないんです。常に私たちは行動を制限されていますよね。

この間、電車に乗っている時に、小学校の男の子とお父さんが「俺、あれ行きたくないんだ」と言っているんです。「え、お前行きたくねえのか?」とお父さんが言って、「行きたくないけど、俺は『行かない』とは言っていないんだ」と子どもが言ったら、お父さんが「行きたくないのも、行かないのも一緒だ」と子どもに言っちゃったんですが、これは最悪です。

「行きたくないけど、行く」と子どもは言っているのに、お父さんは「行きたくない」というネガティブな感情すら否定しようとしている。それはものすごく子どもの生きる尊厳を奪っていくことになります。わかってあげる。agreeよりunderstandです。

コーチは「成長」と「可能性」を見る

次に、コーチ力に必要なのは「見通してあげる」こと。人間は時間の幅を持って見てほしいという本能を持っています。何かをやっていない時に誰かにいきなり来られて「お前、まだやっていないのか」と言われると、「やろうと思っていたのに……」と余計にやりたくなくなるのが人間です。時間の幅を持たずにその人を評価する人は、人のやる気をバンバン阻害する人です。

じゃあ、どう言えばいいのか。「まだやっていないけど、どういうことがあって今やれていないんだ?」と聞いてあげれば、時間の幅がありますよね。「今やっていないけど、この後どうするつもりなの?」ということがあれば、時間の幅があります。この時間の幅があることを「見通す」と表現しています。

そのためには何が大事かというと、結果よりも変化を見る力です。結果というのは、ワンポイントでしか物事を見られない。変化というのは、時間の幅を持って人を見てあげることです。

結果しか見られない人の特徴は、ワンポイントで評価しないといけないので、必ず何かと比較する必要があるんです。比べられたら人は嫌な気持ちになる。「お姉ちゃんはあなたの年にはもうできたわよ」「前の秘書はもうちょっと早くやったんだけどさ」と言われたら、むちゃくちゃやる気がなくなります。

大学の体育会のOBで、久しぶりに練習試合に来て、試合後の反省会でなんやかんや言うOB。あれ、みんなむちゃくちゃ嫌な気がしますよね。「春から良くなってきているのに」とか「このあと、秋までにこうするつもりなの」を無視して、その瞬間だけバンバン評価する。

大学の体育会のOBは必ず何かと比べるでしょ。「俺らの頃はね」と必ず言い、比べるから、みんなむちゃくちゃ嫌な気持ちがするんですよね。あれも、見通していないOBの典型的な不機嫌会議です。

結果より変化です。変化を見るためには2つあって、成長と可能性。過去から今までの変化を成長、未来への変化を可能性と言います。

1ヶ月ごとにチームの選手全員分の可能性と成長を書き出す練習とかを、コーチのトレーニングではやっています。じゃないと、ワンポイントで評価することになってしまう。そういうのをコーチ力と考えています。

安西監督は指示は明確ですし、支援のアプローチも常にわかってあげています。(桜木)花道のことを、常にagreeじゃなく、すごくunderstandしていますよね。見通しています。常に選手たちの可能性と変化を見て、その発想を伝えていますよね。安西監督はすばらしいなと思います。

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