2024.10.10
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ーーつい悩みすぎて意思決定に時間がかかってしまうことも多いのですが、「後回しにせず、すぐに決めたほうがいいこと」と「じっくり時間をかけて決断したほうがいいこと」の区別はありますか?
堀田秀吾氏(以下、堀田):まずは、脳の働きからよく分析される話をしておきます。脳には「早い脳」と「遅い脳」という2つの働きがあります。早い脳が(司っているのが)インスピレーションや感情です。
一方、意思決定では長期的な利益を考えなきゃいけない。脳の働きと連動していくと思うんですが、そういうものはやっぱり、じっくりと遅い脳で考えていかなきゃいけないものですよね。
あとは論理です。特に僕ら(研究者)は論文を書いたりするんですが、論理は直感で書いてはいけないので、しっかりと考えなきゃいけない。論理的な思考、合理的な思考、長期的な利益に関わるものはじっくり考えていいです。逆に言えば、時間の制限があるものはすぐに決めたほうがいいです
特に人間関係が関わってくるところは、(遅い脳が)功を奏しますよね。かけた労力、かけた時間がその人への思いやりだという部分があるから、かけた時間が好意ということになるじゃないですか。
相手に好意を与えられると、こっちも相手に好意を抱く「好意の返報性」というものがありますからね。そんなことから考えても、プライベートにおいて、特に人間関係が含まれる部分においては、じっくり考える意識はけっこう大事なのかなと思いますね。ただ、本当にケース・バイ・ケースなんですよね。結局、大事なのは決断することで、決断しないのが一番いけないんです。
ーー遅かれ早かれ、決めることが一番大事なんですね。
堀田:「やらない後悔よりやる後悔」とも言うし、自分の中でいろいろ言い訳もしていくし辻褄も合わせていくので、(決断さえすれば)最終的にはハッピーになれるんですよね(笑)。
ーー「やらない後悔よりやる後悔」というお話も出ましたが、過去の自分の決断に対して、いまだに「あの時こうしていれば……」という後悔に囚われてしまいます。過去の自分の決断に対する後悔から抜け出す方法はありますか?
堀田:まず前提として、これは神戸大学の西村(和雄)先生と同志社の八木(匡)先生の研究で、僕の本(『最先端研究で導きだされた「考えすぎない」人の考え方』)にも書いてあるんですが、健康や人間関係以外で言うと、自分で決めること自体が幸福度を決める上でものすごく大事なんだと言われています。特に人間は「しなかったこと」に対して後悔するんです。
別の人の研究ですが、ホールネスという考え方があって、結局、いいことも悪いこともいろいろ経験した人のほうが幸福度が高かったんです。なので悪いことがあったとしても、人生において全部をおしなべて考えたら、最高の人生を送るための1つのスパイスであって、そんなに嘆き悲しむことじゃないんだという考え方です。
これはすごくいい考え方だと思っていて、そう考えるだけでだいぶ楽なんですよね。自分のやったことは失敗じゃない。エジソンだって、「私は失敗したことがない。ただ、1万通りのうまく行かない方法を見つけただけだ」と言っています。
「失敗だった」と考えるより、成功するまでの1つのステップを繰り返しているんです。そういう考え方をするだけで、ずいぶん気は楽になると思いますけどね。
ーー決断する上で、ネガティブ思考が足を引っ張っている側面はありそうですね。
堀田:そうですね。人間にはネガティビティ・バイアスというものがあって、ついつい悪い情報にばかり注目します。そして悪い結果ばかり考えて動けない、決断できないということがあるんですね。だから、そこを打破するためのアクションを自分の中で用意しておくんです。
「ちょっと心配だけど、1年後に後悔しているか?」と考えてみれば、ぱっと行動できる時もあるじゃないですか。コイン投げでもじゃんけんでも何でもいいんですが、ネガティブなことを考えないで決断するためのアクションを用意しておくんです。
それから、これも知識として覚えておくといいと思っています。コイン投げの実験の一番のポイントは、コインを投げて決めることそのものじゃないんです。人間って、意思決定に対して後悔しないように行動しようとするわけです。
例えばコイン投げで「離婚する」と決められたら、人間はこの決断を後悔しないように行動していこうとするわけです。だから結局は、コイン投げで決めようが何で決めようが、満足度が高いんです。
「決めることが大事だ」ということを、まずは知識として持っておけば簡単です。それに対して、自分はあとは一生懸命やるだけなんだということがわかっていれば、不安はなくなってくるかなと思います。
人間と不安は絶対に切り離せなくて、付き合っていくしかないので、不安をどれだけ軽減するかが勝負です。あるいは、どれだけ考えないで済むか。
ーー不安は避けられないから、うまく付き合うことが大事なんですね。
堀田:僕はよく「向き合って、付き合っていく」と言いますね。それは、不安がどういうものなのかという知識を得ることです。実は、僕個人の言い方にはなりますが、「不安最強説」というのがあって(笑)。不安を感じる人のほうが生命維持の活動で強いんです。だって(危険なことに)対処し、予防できますからね。
だから、不安ってぜんぜん悪いことじゃないんですよ。「やばい。私は不安だ」と思って、不安に囚われるのが一番まずいわけです。
不安な気持ちになったということは、“問題”を出されたようなものです。「何か問題(不安な気持ち)が出された。これに答えを出さなきゃ」という気持ちで考えていくと、だいぶ不安とうまく付き合えるのかなと思います。
あと、不安になると冷や汗をかいて、顔が紅潮することがありませんか? あれって人間の身体状況だけで見てみると、興奮している状態とあまり変わらないと言われているんですよ。だから「私は不安だ」と思っているとパフォーマンスが下がるけど、「私は興奮しているんだ」って自分に言い聞かせるとパフォーマンスが上がるという、ハーバード大学の研究もあります。
ーー不安最強説、すごくいいですね。
堀田:うん、不安最強説。不安を持っている人は生存競争で残っていきますから、不安を持っていない人よりも強いんですよ。脳の不安を感じる部分が損傷した人は長生きしないと言われているから、不安であることはぜんぜん悪くないんですよね。
ーー不安の正体を正しく理解していれば、最良の意思決定をするためのポイントにもなるかもしれないですね。
堀田:そうです。仕事中に不安を感じた時は、ちゃんと自信を持って「私が不安に思うということは、きっとこうすればいいんだ」という意見を言っていけばいいんです。不安は最強の武器ですね。
不安とどう付き合っていくか考えていけば、意思決定もうまくできて、自分の自己肯定感を高める方向にもつなげていけると思うんですよね。
ーー不安という感情には、やはり自己肯定感も関係しているんですか?
堀田:みんな自信がないんです。世の中の全員が不安だし、世の中は不安でできているんですよ。すべての人が不安を持って、不安がなければダメなんです。人間は不安をちゃんと細かく感じる脳を持ったからこそ、こうやって生物圏の頂点に君臨できたわけだし、文明が発展できたわけです。
とにかくね、後悔しても過去は絶対に変えられないから、未来をどうしていくかという未来思考が大事なんです。
これは『セルフコントロール大全』という本のあとがきにも書いてあるんですが、「こういう自分にはなりたくない」という姿を想像することがけっこう大事かなと思うんです。くよくよして、行動しない自分の未来を想像したら、それは嫌だなって思うわけじゃないですか。
人間は不安を糧に生きるんです。僕自身の人生でもずっと、「こうなりたくないな」という未来像が、とにかく原動力になっていました。
ーー「なりたくない未来の姿」を描くことは、おそらくネガティブ思考の人にとってはやりやすい方法だと思います。「不安」という感情が、逆に決断するエネルギーになりそうですね。
堀田:「人生は1つ、解釈は無限」って僕はよく言うんですけど、どう捉えるかだけでぜんぜん違うんですよ。本当に捉え方1つなんです。自分がネガティブに捉えちゃうからダメなだけで、考え方で人生やすべてが変わります。
だからこそ、「事実は1つでも解釈は無限」。この言葉の他にも、僕は自分の中にいろんな標語をいっぱい持っていて、それを行動の指針にしています。「後でやろうは馬鹿野郎」「1年後に(目の前の些細な不快なできごとを)覚えているか」とか。自分を鼓舞するための言葉というか、自分をコントロールするための言葉をいくつか自分の中に用意しておけば、だいぶ気が楽になるかな。
ただおもしろいのが、ネガティブな人に「ネガティブになるな」と言うのは、実は逆効果だという研究もあるんです(笑)。「ポジティブになれ」と言われると、もっとネガティブになるらしいです。
ーーあぁ、気持ちはすごくわかります。たぶん、伝え方のせいなんでしょうね。
堀田:そうですね。あと「やらない理由」も本当はいろいろあるんですよね。不安でやらない人と、「なんとかなる」って楽観視しているからやらない人もいますよね。
これもやっぱり2つの対処法が有効です。「なりたくない自分」を想像するとか、あと「後でやろうは馬鹿野郎」とか、言葉を自分の指針にしたり。
「眠いなあ。でも明日の朝やろうなんて思ったら、たぶんやらないよな」って思うと、「後でやるのは馬鹿野郎だ。じゃあ、今やってやろう」というふうに、がんばれます。なので、僕も昨日は朝4時半まで確定申告をやっていました(笑)。
ーーお忙しいところすみません(笑)。でも確かに、自分なりの語録を作っておくのはいいかもしれないですね。
堀田:語録は大事ですよ。
ーーここまでは「決断できない人」自身の目線でお話を聞いてきたんですが、逆に相手側がなかなか決断できない人だった場合。なかなか物事が決まらなくてイライラしてしまうこともありますが、このような場面をうまく乗り切る方法はありますか?
堀田:僕もめっちゃあります。相手が決めないということは、つまり自分に優先権があるんです。「これは自分の決断力を鍛えるチャンスじゃん」という言葉が頭にあれば、決めるモチベーションにはなりますよね。
ただ人間関係が関わってくるので、相手への配慮もしなければいけません。人間だから承認欲求もありますし、自分の意見を採り入れてもらいたいという気持ちもある。相手がなかなか決められないとしても、一応意見は聞いてみて、取り入れられるところは取り入れていく。
あとは、強制的になってはいけないです。承認欲求・自由欲求は人間の行動原理だから、大きな行動のモチベーションになっています。だから、相手の自由欲求を阻害するようなやつはダメですよね。当然、命令するような言い方はダメです。
行動自体が相手の承認欲求や自由欲求を阻害するようなものだと、うまくいかずに不満が残ります。相手の意見を褒めつつ、自分の意見を言う。(相手の意見に対して)「それは違う」とは言っちゃいけないし、相手が決められないとしても、お互いを尊重した言い方で決めていく。配慮しながら決めなきゃいけません。
堀田:あと、例えば選択肢が多くて決められないような場合だったら、コイン投げやじゃんけんとか、自分たち以外の力で決めてしまう。「これで決めちゃったなら、文句を言わないようにしようよ」というルールを決めて決断しちゃうのは1つの手ですよね。
たとえコイン投げで決めたとしても、人間は自分たちの決めた決断に関しては後悔しないように行動していく行動原理があるので、決めちゃえば楽しもうとするわけですよね。
ーー確かに。個人的な話で申し訳ないんですが、相手も優柔不断でなかなか決められない時には、私もLINEのあみだくじ機能を使って決めたこともありました。
堀田:素晴らしい。プロセスがけっこう楽しいので、あみだくじは大事ですよ。LINEのあみだくじ、ゼミで学生たちがよく使っています。
ーー「実は、自分自身もちゃんと仕組みを使えていたんだな」と思えました。
堀田:その通りです、素晴らしいと思います。自分の決断力の一部になっております(笑)。それに「自分で決めたんじゃないしな」と思えば、不満も残りにくいですよね。言い訳を自分の中で作っていく余地がありますからね。最終的には満足度が高くなる理由なのかなと思っていますけどね。
ーー「自分にとって、いかに納得のいく決め方をするか」はすごく大事ですね。
ーーちなみに「友だちとご飯を食べるお店を決める」という小さい決断と、転職などの大きい決断では、決める方法は変わるんでしょうか?
堀田:シカゴ大学(スティーヴン・)レビットという人の研究ですが、コイン投げの実験を使っていろいろな決断をさせたんです。今言った転職の問題とか、離婚の問題とか、人生においてけっこう大きな決断を迫られているようなものが多かったそうです。
それなのに、コイン投げの結果に従った人が63パーセント(もいました)。しかもコイン投げの結果に従った人のほうが満足度も高かったんですよね。これはおもしろいなと思って。結局は、決めちゃうことが大事なんです。
「悩むことに悩んでいる」という状態になる時があるじゃないですか。そういう時って、自分の中で答えを持っていたりするんですよね。「あの人と別れたほうがいいよね……」と思うのは、もう別れたほうがいいのはわかっているんですよ(笑)。
ーー悩んでいるから、しっかり考えている気になっている場合もあるのかもしれませんね。
堀田:そうそう。実はただ話を聞いてほしいだけ、みたいなね。これもね、点数化して考えるとけっこうおもしろいですよ。(相手の)長所と短所に点数を付けたりすると、明らかにマイナスばっかりになって「やっぱりダメじゃん」ってわかったりするんですよね。
頭の中で考えていると整理できないんですが、不安は書き出すと軽減されるという研究が山ほどあります。決断できなかったら、不安を書き出しちゃうのも良いかもしれないですね。
ーー優柔不断な人が「決断」するためのノウハウだけでなく、不安とうまく付き合う術を知ることで、よりよい意思決定ができそうですね。「不安最強説」という言葉は、多くの人が励まされるのではないでしょうか。堀田さん、本日はどうもありがとうございました。
堀田:ありがとうございました。
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