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現役産業医の著者に聞く、対人関係の悩みを解消するメンタルハックとは?(全3記事)

欲望のままにだらだらするのは、心と頭を休ませる「治療」 産業医が解説する、仕事を休む時の過ごし方

『職場のめんどくさい人から自分を守る心理学』の出版記念セミナーが開催され、著者の井上智介氏が登壇しました。精神科医として精神疾患の治療をこなす傍ら、産業医として毎月30社以上を訪問し、働く人の精神的ケアも行っている井上氏。本イベントでは、事前に寄せられたさまざまな「職場の人間関係」についての悩みに対し、井上氏がアドバイスを贈ります。最終回の本記事では、休職中の過ごし方について、仕事の評価に納得いかない時の考え方について語られました。

休職中は2つのフェーズにわけられる

休職後、だらだらしてはいけないと思ってしまいます。好きなことをしたほうがいいと言いますが次を考えて焦ってしまいます。次が決まっていないような状況ですが、今どのように過ごしたらいいでしょうか。

井上智介氏(以下、井上):今たぶん「だらだら期」といって……これは勝手に僕が名前を付けていて、知らない人がいるかもしれないので、軽く説明します。

休職している時、仕事を休んでいる時は、だいたい2つのフェーズに分けることができまして。最初だらだら過ごす時間を「だらだら期」と呼んでいます。もう1つは「活動期」と言って、次の仕事への復職に向けて、ある程度時間も整った、働く人のスタイルに近いような生活をしていき、いかに仕事に近い刺激を浴びていくかという期間に分けているんですけども。

どちらかというと質問者さんは、今だらだら期だと思いますので、基本は本当にだらだらすることが一番です。自分の思ったとおり、欲求のままに休むのが何より必要ですので。

質問を読んでいて僕も思ったのが、資格の勉強とか転職活動のタイミングなんですけれども。まず資格の勉強は、これがしたいかどうかということが大事なんですね。やらなきゃいけないなということで動いてるのは、非常に厳しいです。「やらないとな」じゃなくて、「やりたいな」と思えることがすごく大事なんですよね。

「やらないとな」ではなく、「やりたいな」と思ったら行動する

井上:休職していて焦るのはわかるんですけども、こういうだらだらしている時にインターネットで調べて、「朝日を浴びたほうがいいんだ」とか「外に出たほうがいいんだ」と思って散歩に行こうとする人もいるんですよね。

確かにその意見は一応合っているっちゃ合っているんですけど、そこは時期が違うんです。散歩に行きたいなと、さすがに10日間もずっと家にいたら外の空気吸いたいなと思ったら外に出てほしいんですけども。

加藤実紗子氏(以下、加藤):なるほど(笑)。

井上:行かなきゃいけない、治すために行かなきゃいけない、外に行かなきゃいけないんだと思って行動するのは、ぜんぜん違うんですよね。

まずそういうところがまだ混じっちゃっているので、もし今、本当にだらだら期でちゃんと休めているんだったら、こういうことは考えなくていいです。もし質問者さんがいよいよ資格勉強をしたいなとか、自分がWant toで「したいな」と思うんだったら、そっちに合わせていってほしいなと思います。

まずは生活リズムから合わせていただきたいので、朝起きる時間とかを調整するところから始めたら、僕はいいかなと思います。その上で資格の勉強をする時間を日中にちょっとずつ取ってみると、働く上での刺激になりそうですね。

そういうのを刺激を受けて、自分の体調が変わらないか。いい状態を保てるか確認していくというのをちょっとずつやっていただきたいです。

だらだら期は、脳を休ませるための「欲求のままに生きる」時間

加藤:このだらだら期は、Wantが出てくるのを待つ時間というイメージですかね。

井上:そうです。ひたすら待つ。逆を言うとWantしかやっちゃいけなくて、さっき言った「欲求のままに生きる」ということなので、本当に今食べたいものを、好きな時間に食べたらいいんですよね。寝たい時に寝たらいいので、昼夜逆転もめちゃくちゃするし、夜中3時、2時とかにポテトチップスが食べたかったらそれでいい。

何でそれが必要かというと、脳を休ませるのにその方法が一番いいからです。

加藤:そうなんですね。

井上:欲求のままに生きるのが一番ですね。体が求めるものをそのまま受け入れて、そのまま実行に移すのが、一番頭が休まる方法です。逆にここがちゃんとできるかどうかによって、実は休む時間、休職期間が変わってきたりするんですよね。

やっぱり真面目な人は、「じゃあ明日からだらだらしてください」と言っても、なかなか難しかったりするんです。

加藤:そうですよね(笑)。

井上:休みなのに、朝目覚まし時計をかける人がいるんですよね。

加藤:(笑)。

井上:「朝7時に一応起きておこう」みたいな感じの人いるんですけど、いや違いますよ、そうじゃないということで。好きなだけ寝たかったら寝たらいいし、起きたかったら起きたらいいし、という状態なので。

だらだらすることは、心と頭を休ませる「治療」

井上:そういったところが実は休職の期間に影響してくることなので、ちょっと勇気がいる話だと思うんですけど、ぜひだらだら期はだらだらすることを大事にしてください。それは治療の一貫ですからね。心、頭を休ませるのは本当に大事な治療です。1個の薬よりかは効く治療ですので、ぜひだらだらしていただきたいなと思いますね。

加藤:治療って言葉に勇気がもらえますね(笑)。

井上:本当にめちゃくちゃ効果的な治療です。できるだけだらだらするというのが休職の最初にやることですね。

加藤:欲求に従ったら花丸ですね。

井上:本当にそうです。昼寝したから夜寝れないとか、ぜんぜん気にしなくていい。夜眠たくなかったら寝なくていいわけですから、寝れなくてウンウン悩んでたら、もうその悩みからおさらばしてください。

加藤:(笑)。今「Wantだらけの生活なので、本当にこれでいいのかなと思います」というコメントが来ているんですけど。でも、自分を信じてあげるというのが1つポイントになるのかなとも、ちょっと思ったりしていましたね。

不安になっちゃうとか、これでいいのかなとか、本当にWantが出てくるのかなという不安がある中では、そういう視点もあるのかなと思ったんですけど、どうですかね。

井上:でも、このコメントをくださった方は素晴らしいですね。というのも、「Wantだらけの生活なので」ということは、自分のWantに気付いている方なんですよね。めちゃくちゃ素晴らしいです。

加藤:おお、すごい(笑)。

井上:実はそこになかなか気付けていない人が多いんですよね。

休職の一番最初は、自分の心と向き合う時間をつくること

井上:あらためて休職し始めると、さっき言った「何がしたいか」を考えたことがないんです。今生きていると、やらなきゃいけないことばっかじゃないですか。

加藤:確かに。

井上:実は自分が何がしたいかというWantを、あらためて考えたことがない人のほうが多いんです。休職した始めに「Wantをしてください」と言っても、「何がWantかわからない」という答えが返ってくることが多いんですよね。

この「Wantだらけ」というのは、Wantに気付けている。僕は非常に素晴らしいなと思います。できるだけ自分の心と向き合う時間をつくるのが、実は休職の一番最初だったりするんですよね。

何がWantなのか。今、何が一番したいのか。寝ていたいのか。起きてご飯が食べたいのか、またお腹いっぱいで眠たくなった。ああ、眠たいな、ということで寝よう。そういうWantに気付くというのがめちゃくちゃ大事なので、そこをしていただきたいなと思います。「Wantだらけ」でぜんぜん構いません。

加藤:私、今めちゃめちゃいい話だなと思ってしまいました(笑)。ありがとうございます(笑)。

井上:いやいや、とんでもないです(笑)。

部下のできないところを見つけるのが、上司はうまくなっていく

会社の評価査定に納得がいかず、長時間残業も続いており辛い状態です。このような時は、どう捉えればいいでしょうか。

井上:やっているのにちゃんと評価が付けられていないということですよね。

加藤:そうみたいですね。

井上:これはしんどいですね。長時間残業だし。まず評価に関しては、人が人を評価するというので、これは仕方がないところだと思うんですよね。大学入試みたいにテストを受けて、点数でどうこうという評価ではない時代だと思うんです。時代というか、会社の中ってそういうものだと思うんですよね。

なので、結局はこの上司に嫌われているかどうかに左右される可能性だってあるというのが、正直この人事評価のややこしいことだなと僕は思います。ただ、反面この「人が人を評価する制度」自体を受け入れなきゃいけないと思うんですよね。

その上で、これはたぶん質問者さんが思っているのと、上司が思っている評価が乖離しているというか、離れているんじゃないでしょうか。

そうなってくると、まずちゃんとご自身の成果を見える化したほうがいいです。結局「これだけやっているんですよ」と言えるものがないと、上司は出来ていないところを示してくるのが得意なんですよね。

加藤:(笑)。

井上:「ここはできていませんよ」しか見ていない、と言うのは言い方が悪いですけど、そういう人がむちゃくちゃ多いんですよね。部下を育てるために、できるところじゃなくて、部下のできないところを見つけるのが、上司はうまくなっていくんですよ。なので、もしかしたら質問者さんも、そういうところばかりを見られちゃっている可能性があるんですね。

そこを打ち消すために、いやいやと。「そんなこともあるかもしれんけど、こういうこともできているんだから、最低評価はないんじゃないか」という交渉ができるので、何かを持っておかないと駄目ですね。

しかも長時間残業もされているということで、そこも1つ僕は押しのポイントだと思うんですよ。「ワシはこんなにやっているんだぞ」というポイントになります。

自分の成果をアピールしてはいけないという価値観を崩す

井上:あとはちゃんとした成果ですね。評価面談が半年に1回とか、年に1回とかあると思うんですけど、そのタイミングで、実際に「こういうことができました」というのをある程度まとめておいて、「これだけできていますよ。やりましたよ」とアピールできる素材を持つようにしてください。

加藤:ありがとうございます。日本人って奥ゆかしいので、そういうのを主張すると、「嫌な奴」と思われるんじゃないかという方も多いと思うんですけど、ちゃんと数字で目に見えやすいものを箇条書きにまとめておいて、淡々と伝えるといいですよね。

一番最初の「感情的に話して悪口にしない」というのと一緒だと思うんです。数字とか、「何件に対して何件やりました」という状況的なもので説明ができると、よりいいですよね。

井上:そうです。感情で言っちゃうと限界になって、余計にいい話が生まれないと思いますので。ちゃんと目に見えるようなかたちに直して伝えていくことが大事ですし、自分の成果をアピールしちゃいけないとか、そういう奥ゆかしさという価値観があると思いますけど、やっぱりそこは最初に言ったように、少し崩していかなきゃいけないところです。応援しています。

受け入れないと駄目な時もある「職場」だからこそ、自分を守る

加藤:では最後に、先生からみなさんにメッセージをいただけたらうれしいんですが、いいでしょうか。

井上:人間関係というのは、最初にお話したように、非常にストレスフルなものです。他人は自分でコントロールできないからこそ、ネガティブな感情も生まれやすくなります。

職場という環境はそれがどうしても仕方なくて、受け入れないと駄目な時もあるのが事実です。なので、傷付きやすくボロボロになる可能性も十分にあるからこそ、ちゃんと自分でケアしていくということが大事な観点になります。

そのためにいろんな守る方法がありますので、ぜひそれを身につけて、知識を武器として、実践できるようにしていただきたいです。よろしくお願いします。

加藤:ありがとうございました。「自分の行動や考え方に選択肢がある」と気付くことがすごく力になるし、状況を変えていくことにもつながっていくんだなと、今日はいろいろと学ばせていただきました。井上さん、ありがとうございました。

井上:ありがとうございました。

『「あの人がいるだけで会社がしんどい……」がラクになる 職場のめんどくさい人から自分を守る心理学』(日本能率協会マネジメントセンター )

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