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岸畑聖月氏 インタビュー(全1記事)

女性や子育て中の人だけでなく、男性社員からの相談も3割 会社員のメンタルヘルスを支える、現代の“産婆”こと「顧問助産師」のメリット

あまりに激しい変化の荒波に飲み込まれ、精神的に疲弊する日々が続く昨今。 “我慢の時代”を生きる私たちは、なにを拠り所に進んでいけば良いのでしょうか? 『ログミーBiz』では今回、メンタルケアをテーマに特集を組みました。ツラくて長い現代社会を乗り切るためのヒントを、4つの企画で紹介していきます。「なんか疲れたな……」「不安だな……」という方々は、ぜひチェックしてみてください。 本記事では、企業向けの顧問助産師サービスを展開する株式会社With Midwifeの代表取締役 岸畑聖月氏のインタビューをお届けします。

14歳の時に、病気で子どもが産めないと知り、助産師を志す

――岸畑さんが起業をされるまでの経緯をお聞かせください。

岸畑聖月氏(以下、岸畑):私が助産師を志したきっかけは、14歳の時の病気がきっかけです。将来子どもを産めないことがわかり、命の大切さを考えるようになったというところがあります。また同時期に身近でネグレクト(育児放棄)があって、命を救うとか医療的な観点だけでなく、女性が母親になる過程のサポートを考えるようにもなりました。

その時に知ったのが助産師という職業でした。文字通り出産を助ける人ですが、実はそれだけじゃなく、更年期や婦人科疾患、さらには性教育など女性の健康全般をサポートする専門職で、そういったところに魅力と社会的な必要性を感じて、助産師になったという経緯があります。

一方で助産師になってみると、病院では入院中の5日間しか妊婦さんと関われないという現実がありました。出産前後のケアだけでなく、子育てや不妊治療や産後うつなど女性の健康全般をサポートをしたいと思っても、具体的な活動手段がなかったんですね。

助産師は開業権があるので地域で開業することもできますが、経営を学ぶ機会がなく、開業助産師としてビジネスを回せる人が少ないことも知って。そういう中で、私だけでなく、いろんな助産師の思いを形にしたいと考えて会社を立ち上げました。

非常にありがたいことに、まだ具体的にどんなサービスを展開するかを決めていない状態でしたが、大阪信用金庫さまから「助産師を自社に導入したい」とお声がけをいただきました。昨今、金融機関さんは健康経営やライフワークバランスへの取り組みを重視されています。

しかし介護領域の支援をされる企業はけっこうありますが、女性の健康や妊娠出産、子育てにアプローチする企業は少なく、その領域のサポートに助産師が適任ではないかということでお話をいただきました。

私たちは、かつて日本中のどの地域にも産婆さんがいたように「助産師を社会に戻す」ということを考えていますが、今は都市部では自宅の半径10メートルどころか隣に住む人も知らないという状況で、地域というコミュニティが希薄化しています。

なので、地域よりも「会社」を1つのコミュニティとして考えたほうが有意義ではないかと考え、企業向けの顧問助産師というサービスを立ち上げました。

顧問助産師サービスの最初の導入企業が、手にしたもの

――健康経営やライフワークバランスへの取り組みを重視してということですが、顧問助産師サービスを導入された大阪信用金庫さんからはどのような反響がありましたか。

岸畑:経済産業省が認定する「健康経営優良法人」や「ホワイト500」(健康経営優良法人のうち、優良な取り組みを実践している大規模法人)という顕彰制度がありますが、私たちの参加が加点につながって、大阪信用金庫さまはホワイト500の認定を取得されました。認定企業の代表として経済産業省で表彰も受けられ、それを非常に喜ばれています。

――大阪信用金庫さんの導入とそこでの成果を機に、導入企業が広がっていったのでしょうか。

岸畑:2019年11月から大阪信用金庫さまで顧問助産師サービスが始まりましたが、3ヶ月後に新型コロナウイルスの感染拡大が始まってしまい、進んでいた商談の多くがなくなってしまって。今振り返ると会社としてはけっこうしんどい時期でした。

でも、その間にオンラインの体制や必要なコンテンツの準備をすることができました。助産師を可視化できるように助産師の検索サイトを作ったり、営業資料やパンフレットもなかったので、そういったものを作ったり。

オンラインを強化すると、利用者が都合のよいタイミングで相談できるようになったり、助産師側も場所にとらわれなくなったので、オーストラリアに住む助産師が日本の企業をサポートすることも可能になり、助産師の働き方改革にもつながりました。

――コロナ禍で新規の商談がしづらい中で、オンラインや営業の体制を整えたわけですね。

岸畑:はい、そうした中で次の転機がありまして。私たちはコワーキングスペースに拠点を置いていますが、たまたまそこでお話をした人が竹中工務店さまの社員研修をされている方で、ご紹介してくださることになったんです。お会いした際に、竹中工務店さまは自社で育児や介護に関連した情報を発信する社内Webサービスをやられていることを知りました。

その中で、介護はソーシャルワーカーさんや介護士さんが入られて無料相談やセミナーなどをされていて、育児は助成金などの利用できる制度がコンテンツとして紹介されていましたが、専門家が従業員の方とコミュニケーションを取るということはされておらず、「介護みたいに子育てもサポートしてもらいたい」と言っていただき、竹中工務店さまへの導入が決まりました。

これはかなりの転機になりまして、顧問助産師サービスに興味を持たれる企業が増え、そこから徐々に広がっていったという感じですね。

“助産師”が健康やメンタルヘルス全般をケアできる理由

――実際に企業に導入される際、顧問助産師サービスはどういったことをされるのでしょうか。

岸畑:主に4つにわかれていて、1つ目はオンライン相談です。チャットボットとかチャットツールではなくて、Zoomなどを使ったオンライン相談やメールツールでの相談を行います。

2つ目は妊娠した方やパートナーの方に向けた、育休サポートプログラムという復職までの継続的な支援です。妊娠した時、産休に入る前、産後、そして復職前の4段階にわけて、両親教室のような独自の教育コンテンツを提供しています。

伴走支援なので、時期にあわせて「こういう体調変化はないですか」「そろそろこういうことを準備していかないといけませんよ」と、こちらから能動的にお声がけをして復職までのサポートをします。

3つ目がセミナーや研修です。私たちは助産師ですが、全員が看護師の国家資格を持ち、約半数が保健師の国家資格も持っているので、女性の健康や生活習慣病だけではなく、感染症対策からハラスメント研修まで幅広いテーマのセミナーや研修を行っています。

4つ目が、毎月の相談データを分析したコンサルティングです。例えば最近であれば不妊治療に対する15万円の助成金について相談会でどうお伝えするかとか、来年から男性育休の促進が義務化されますが、会社としてどういう取り組みをすればいいのかといったご相談を受けて、お答えしています。

――特に子育て中の方じゃなくても、独身の方や男性のメンタルヘルスケアもされるのでしょうか。

岸畑:そうですね。ご相談をされるのは、女性や子育て中の方に限りません。男性からの相談も3割ありますし、40~60代の方のご相談も多く、年代性別を問わず幅広くご利用いただいています。

これまで日本の企業では、働く人たちの健康相談や支援は産業医やメンタルヘルスのカウンセラーが行い、不妊治療の助成といった新しい制度の告知などは総務や労務などの管理部門が行うケースが多かったと思います。しかし、私たち顧問助産師は全員が看護師資格も持っているので、健康やメンタルヘルス全般をケアできます。

さらに保健師の資格も持ち、公衆衛生や感染症対策もわかります。もちろん助産師なので、妊娠・出産・子育てやジェンダーに特化した知識も持っており、オールマイティにカバーできます。とにかく「顧問助産師に相談しとこう」みたいな感じでご相談をいただき、企業からも幅広い支援やアプローチができることに価値を感じていただいています。

コロナ禍での在宅勤務で増えた、メンタルヘルス相談

――顧問助産師サービスと言っても、助産師・看護師・保健師と3つの資格を持つ方が多いので、トータルで対応できるということですね。

岸畑:そうなんです。「顧問助産師」というと妊娠出産に関連した専門家と理解される方が多いのですが、実際は看護師や保健師の資格も併せて総合的にケアができます。なので今年3月にサービス名を「The CARE」にしたんですが、新聞等のメディアでは「顧問助産師」と紹介されることが多く、顧問助産師での問い合わせも多いので、「顧問助産師サービスThe CARE」と言っています(笑)。

――顧問助産師サービスで、助産師領域の相談割合はどれくらいでしょうか。

岸畑:妊娠・出産に関すること、ジェンダーの深い質問、そして子育てに関する相談は、肌感覚ですが全体の半分くらいになります。

――少しコロナ禍でのメンタルヘルスについてもお聞きしたいのですが、働く人たちのメンタルヘルスの悪化は見られたのでしょうか。 

岸畑:やはりたくさんありましたね。例えば年代を問わず都市部で1人暮らしをされている方は出歩けなかったり、人と話をすることがなくなって気分が滅入ったり。在宅だとオンラインで仕事をずっとやれてしまうので、労働過多になったり、生活リズムが狂うといった悩みを持つ方が多かったと思います。

――特にコロナ禍で増えた相談はありますか。

岸畑:助産師領域で言うと、相談が増えたのは在宅勤務での子育てに関してですね。ミーティング中に子どもの泣き声が入らないように、その時間は奥さんが子どもを連れて外に出ていたりとか。子育てをしながら同じ空間で仕事をすることのハードルの高さを知って「出勤したい!」「出勤したほうが楽だ!」といった声が多く、そこがみなさんの疲れにつながっていました。

また、コロナ禍では自治体の「母親学級」(妊娠、出産、育児をする上で必要な知識を専門家から学ぶ場)や病院の「両親学級」などがなくなり、立会い出産や里帰り出産もできなくなったので、知識を得る機会や相談できる人が減って、孤立してしまう状況がありました。なのでそこへの相談はかなり増え、助産師が教育コンテンツを使って、赤ちゃんのお風呂の入れ方などをお伝えしていました。

日本の女性のキャリア形成を妨げる要因

――1回の相談案件に対して、どれくらいの時間で対応されるのでしょうか。

岸畑:一つひとつの悩みごとに対してはそんなに時間はかかりませんが、妊娠後のご相談であれば半年から1年ほどコミュニケーションが続きます。例えば7月に「妊娠6ヶ月です」とご相談を受けたら、11月頃が出産なので「出産の準備はどうですか?」とか「体調に変化はありませんか」と、こちらから能動的にアプローチします。そのようにコミュニケーションが続くことが、1つの心の拠り所になっているのかなと思ってます。

――従業員の中で子育てに関する悩みが増えたり、メンタルヘルスが悪化すると、企業にはどのような影響が出てくるのでしょうか。

岸畑:パフォーマンスが上がらず、生産性が低下するという課題が指摘されています。またメンタルヘルスが悪化すると、休職や離職をする人が出てきます。私たちが対応をする中で、メンタルヘルスが悪化した従業員の方の命を救えたケースもありました。休職ということにはなりましたが、状況を改善して、ご本人からもう命を断つことは考えないというご連絡をいただいています。

ーーコロナに関係なく、企業で働く人や子育て中の親のメンタルヘルスの悪化につながるような課題はありますか。

岸畑:先日、母校・京都大学の東京でのフォーラムにお招きいただいて、働く人や女性活躍に関連したお話をみなさんでされていたんですね。そこで感じたのが、「どれくらい売上を伸ばせた」「どれくらい事業成長ができた」「どれくらい新しいものを作れた」という企業の評価項目が、女性や子育て中の人のキャリア形成のブレーキになっているということです。

家族を持ちたいし、子育てもしたい。でも、それをすると「キャリアというレールの上からは外れてしまう」という感覚を持つ方が非常に多いんですね。「やっぱりキャリアを諦めないとダメなんでしょうか」「できるだけ今の仕事を続けたいけど、私が子どもを産むとしたらどのタイミングがリミットですか」といったご相談をたくさんいただきます。

子育て中の方も課題を抱えていますが、それ以前の方もすごく悩まれています。どちらかというと、子育て中の方はいったん自分のキャリアを整理している人が多いので、「子どもが急に寝なくなった」「離乳食がぜんぜん進みません」とか、キャリアよりも今の子育て中の悩みが中心です。

あとはパートナーの方から「妻がちょっとうつっぽくなっている」とか「家事の役割分担がうまくいっていなくて、家庭内がギクシャクしてしまっている」といったご相談もいただきます。

「メンタルヘルスの状態を見ても、課題は解決しない」

岸畑:メンタルヘルスは本当に幅広くて、「心の疾患がある」ということではないんですね。不満や不安が積み重なってメンタルヘルスが悪化し、絶望に近い感覚を持つ。なのでメンタルヘルスの状態を見ても、課題は解決しないんです。

その手前にある「評価基準が自分に合っていない」とか「自分はどれくらいで妊娠のリミットがくるんだろう」という不満や不安を、一つひとつ取り除いていくことが、課題の解決とメンタルヘルスの向上につながると思っています。

でも、それを1つの施策やコンテンツで補うのはなかなか難しくて。悩みは一人ひとり多種多様なので、個別に向き合ってきめ細かく対応することがとても重要です。個人というよりも家族を整えるところを、私たちは大事にしています。

ただ医療情報を伝えるだけじゃなく、その人が置かれている状況や、その人の目指すところ、ご家族がどう思っているかをしっかりとヒアリングして、家族単位で課題を一つひとつ取り除くということを行っています。

――メンタルヘルスの悪化につながる課題にちゃんと向き合わないと、根本的な解決にならないということですね。顧問助産師サービスが立ち上がり、従業員のメンタルヘルスケアを考える企業が増えていることは良い潮流のように思われます。改めて企業が顧問助産師サービスを導入するメリットを教えていただけますか。

岸畑:ワンストップのサービスであることが大きいと思います。自分のモヤモヤとした悩みをどこに相談したらいいかがわからないというのが最初の課題です。私たちは助産師、看護師、保健師の資格を持って幅広く対応できるので、相談先に迷うようなことも投げかけてもらえます。「利用者が迷わない」「相談の領域が広く、継続的な支援を受けられる」ところが、顧問助産師を活用するメリットだと思います。

また利用者の満足度が高いところも特徴です。リコーグループさまにて顧問助産師サービスのトライアルを行い、アンケートを取らせていただきましたが、利用者の満足度では92パーセントの方から高評価をいただき、導入希望者も96パーセントに上りました。

ちなみにこのトライアルでは、利用をしていない方にも導入希望を聞いていまして、一般的に未利用者は無関心な方が多いのですが、「利用者から助かっていると聞いた」「今の私は困っていないけど、いずれ利用したい」という声が上がり、76パーセントの方から導入希望をいただけました。

他にも、先ほどお話した「健康経営優良法人」や厚生労働省が認定する子育てサポート企業の「くるみん」などの認証取得につながりやすいという点もあります。特に健康経営は、昨今ESG投資への対応にもなると注目されています。女性の健康全般から子育てやキャリア、そして健康経営にもアプローチができるので、コストパフォーマンスの高いサービスと言えるのではないでしょうか。

今の日本で数少ない、「コミュニティ」が機能する場所

――ありがとうございました。最後に、岸畑さんと御社が顧問助産師サービスによって目指す未来をお聞かせていただけますか。

岸畑:助産師はかつて産婆と呼ばれていました。自宅での出産が当たり前だった時代は、産婆さんは自宅分娩だけでなく、地域の子育てのサポートや、夫婦喧嘩の仲介に入ったり、小学校に性教育に行ったり、本当に包括的に性や健康をカバーする存在でした。

しかし、戦後自宅分娩がなくなって病院分娩が一般化した時に、助産師は出産だけを看る存在になってしまいました。かつての産婆さんが担当した出産以外の領域を看る人が地域やコミュニティからいなくなったことで、望まない妊娠や不妊治療、産後うつといった社会課題が顕在化したと思うんです。

なので私たちがやりたいのは、もう一度「社会に助産師を戻す」ということです。この顧問助産師サービス「The CARE」というサービスも、助産師を社会に戻すプロセスの一歩目に過ぎないと思っています。助産師が介入することで、今の日本の社会でコミュニティとして機能している「会社」から課題を取り除き、みなさんを幸せに導きたい。それを具現化していきたいと考えています。

暮らしの中で、助産師と接する機会が増えれば、健康や子育て、キャリアに悩む人のいない社会になるんじゃないかと思っています。助産師を社会に戻していく。みんなの人生に助産師が寄り添えるようにするのが、私たちが目指すところです。

――「助産師を社会に戻す」取り組みを応援しています。本日はありがとうございました。

岸畑:ありがとうございました。

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