2024.10.01
自社の社内情報を未来の“ゴミ”にしないための備え 「情報量が多すぎる」時代がもたらす課題とは?
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――最近ではYouTuberやインフルエンサーなど、好きなことを仕事にしている人が増えています。20代の若い方が仕事を「しんどい」と思う理由の1つに、身近に華やかな比較対象がいることで「私は何のために働いているんだろう?」と、働くモチベーションが下がることもあると思います。働くモチベーション、生きるモチベーションを上げるためには、どのように自分のメンタルを保てばよいのでしょうか。
井上智介氏(以下、井上):確かに、身近で大活躍している方を目にしますが、仕事で好きなことをして生きていくことは、「仕事の中で自己実現をしていこう」という発想だと思うんです。確かに、僕たち人間には「自己実現の欲求」という欲求があるんです。それを満たそうとして、(仕事と好きなことを)ごっちゃにしている。
精神医学では、自己実現とは「自分らしくありのままで、他人に縛られることなく、個性を発揮する欲求」という意味で使われますが、そもそもその欲求を仕事で満たさなくてもぜんぜん構わないし、プライベートでそれを満たせたら十分じゃないんでしょうか。
今の若い人は、「自己実現の欲求」を過剰に仕事で満たそうとする風潮があるなと思うんですよね。確かに華やかに見える世界だと思うんですが、そもそも大前提として、好きなことだけ100パーセントで生きていくのは、まず不可能だなと思っています。
実際、好きなことで生きていくことの体現者であるYouTuberさんも、演者さんとして見ていたら、もちろんそういうふうに見えるんだろうけど、裏ではすごく企画を考えたり、交渉したり編集したり、分析することもあるだろうし。「好き」とは言えないような時間をめちゃくちゃ費やしてて、5分、10分の動画を作るのに何時間も費やす生活をされています。
しかも、人気もいつまで続くかわからない不安定さがあって、登録者数や再生数や広告単価数とか、いつも数字に追われるわけ。楽な仕事だとはまったく思っていなくて。誰でもできるような仕事ではない、めちゃくちゃハードなお仕事だというイメージがあります。
井上:やりがいやモチベーションの観点でそういう人を見ていたら、「羨ましい」と思うんだろうけど、仕事のやりがいやモチベーションとはそもそも何なの? という話なんですよね。
やりたい仕事をやっていくうちに、必ず「超えられそうで超えられない壁」が出てくると思うんですが、それをなんとかクリアしようとしている時に、やりがいって出てくるんだと思っているんですよね。
なので大前提として、「そもそもやりたい仕事をやっているか」という話になってくるんですよね。やりたいと思える仕事もやっていなくて、情熱もないところにモチベーションとかやりがいを見つけるのは、前提からちょっとずれています。
今の20代は、モチベーションとかやりがいを見つけようとし過ぎているところもあるなと思って。20代の人はそれがないとダメと思っているんだけど、なくても働いている人なんて山ほどいるわけです。
もっともっと上の世代には、そんな熱い思いがなくてものほほんと働いている人がいっぱいいるよ、ということを、ちゃんとわかってほしいなという感じですかね(笑)。
――実際に井上さんが患者さんと接する中でも、今の20代にはこういった特徴があると感じられているんですね。
井上:やはり思いますね。産業医として20代の方と面談することや、精神科医としても外来でお話しするんですが、20代の特徴として「ぼんやりした成長意欲」はめっちゃ高いなと思っているんですよね。
周りでうまくいっている人をよく目にするからか、成長意欲がすごく強いなと感じますね。そんなところから、仕事のモチベーションを上げていく方法だとか、やりがいを模索するんだろうなと思います。
そもそも、やりたい仕事も見つかっていない状態なら、与えられたことをコツコツやっとったらええんちゃうかな? という感じだったりします(笑)。
――今の20代は「ぼんやりした成長意欲が高い」とのことですが、ほかにどんな特徴がありますか?
井上:ゆとり世代なので、今までストレスを受けてきた経験が少ないのはありますね。それは、社会がやってしまったことなので仕方ないと思うんですが。
ただ経験がないと、当然ストレスを扱う技術を試すこともなかっただろうから、ストレスの扱い方が上手くないですよね。なので、社会に出てズドーンとそのまま(ストレスを)受け止めてしまって、病んでしまう方が多いなぁという感じがしますね。
ストレス経験がないから当たり前なんですが、ストレスの扱い方がわからないですよね。練習したことがないのにいきなり本番の試合に出させられる、みたいな人が多いですね。
今は学校の力、先生の力もすごく弱くなっています。怒ったらすぐ親が飛んでくるし、教育委員会に訴えられるし……(笑)。生徒を怒れない先生もたくさんいるわけです。そうなってくると、怒られたり注意される経験もなかなかない。
だから最近の20代は、上司の人にアドバイスされたことでも「注意された」と感じていますね。上から目線にすごく敏感なのは、20代特有の考え方ですね。
――20代の持つ「ぼんやりした成長意欲」が、よい作用をもたらす側面もあるのでしょうか?
井上:もちろん「自分を磨いていこう」という意欲にはなるので、成長意欲をモチベーションや自分を高めていくエネルギーに変えられる人はいるでしょう。
例えば、周りの人から「お前ダメだな」と言われた時も、捉え方1つで「なにくそ、このままじゃダメだ。もっと成長しなきゃ」と、バイタリティに変えられる方もおられます。ただ、やはりそうじゃない人もいるんですよね。成長意欲をどのように活かすかは、やはり差が出てくるんだろうなと思いますね。
――成長意欲をバイタリティに変えられるかどうかは、その人の性格や気質によるものなのでしょうか? また、そのメソッドがあれば教えていただけますか。
井上:ぼんやりとした成長意欲をいいように変えようとする人は、「変わらないと、このままじゃまずいかもなぁ」と思える知識や経験があるというか。例えば、家で親が共働きで働いていて、お父さんの仕事の帰りが遅くて大変そうなところを見てたり。働いてる人を一番間近で見るという意味で、(家庭の)影響力は大きいですね。
あとはやっぱり、学生の時のアルバイト経験ですよね。大学時代にアルバイトを経験したことがある人は、確か統計としては右肩上がりで増えてるはずで、8割か9割ぐらいの人はしていると思うんですが。
そこで、お金の稼ぎ方の大変さをちゃんと経験しているところですね。「1時間働いて1,000円かい」と、学生なりに思うというか。「ランチを食べたら全部消えるがな!」みたいに(笑)、わかってるところがあったりとか。
このへんは人によると思うんですが、ブラック企業や過労死のニュースをどこまで耳にしてるかもすごく大事です。けっこうがんばらないと、それ以外の選択肢がなくなってしまうという、怖さをちゃんとわかってたりするんですね。
自分が成長しないと、そういう会社でしか働けない。さっき言った、「変わらないと、このままじゃまずいかもなぁ」というところにもすごくリンクしていくんですね。だから、そういった経験がある方は、成長意欲を自分のプラスに変えていけることが多いなと思ってますね。
――20代のほどんどがSNSを使っていると思うんですが、同年代の子がキラキラ働いている姿を見て、比較して落ち込んでしまう。そんな中で、ネガティブにならずにSNSと上手に付き合う方法はありますか?
井上:そうですね。これは本当によくある話だと思うんですが、比較しちゃうこと自体は仕方がないし、まずは「比較してしまうもんだ」ぐらいの感覚で、「無理に比較しようとしない」というのを止めたほうがいいですね。
「しちゃダメ」と言うと余計にしたくなるものだし、たぶん自然としているだろうから、「してしまうこと」を「しない」ようにするのは非常に酷な話なので、してもいいんですよね。
ただ、友人が楽しそうにしているところや、キラキラ働いているのを見て、本当に自分が求めている幸せとそれが一致しているかは、あらためて見直してほしいなと思っています。大人になっていく上で、自分にとっての幸せの価値観は非常に多彩なものがあるはずなんですよね。まず、そこで考えるきっかけにしてほしくて。
例えば、食事がおいしく感じられてゆっくり夜も寝られるとか。「あいつ羨ましいな」という愚痴も含めて、こっちの気持ちをわかってくれる人が周りにいるだけでも、けっこう幸せじゃないの? と感じることって、あると思うんですよね。
なので、まずは自分の幸せの価値観をあらためて考えていただいて、キラキラしたものが自分の幸せなのかを振り返って見て欲しいです。相手に嫉妬しちゃう気持ちもぜんぜんわからなくないし、若いうちは余計に比較はしてしまうので、別に嫉妬してもいいと思うんですよね。
それこそ「羨ましいな」という気持ちを、「自分もがんばっていこうかな」というエネルギーやバイタリティに変えられる人もいいだろうし。
井上:ただ、相手に対して攻撃的になってしまうこともあるのが、嫉妬の怖さの1つですね。キラキラしている人も実は見えないところでめちゃくちゃ努力しているのは確かなんですよ。何かしらの努力はしていることには、思いを馳せたり認めてあげるのは、絶対に必要かなと思うんです。
嫉妬はけっこう悪魔的なところがあるので、扱いを間違うと危ないんですが、嫉妬が大きくなりすぎないように相手を認めることが大事だよとお伝えしています。
――井上さんのブログで、「20代は脳の構造上ネガティブになりやすい」という記事を拝見しました。脳の構造上ネガティブになりやすいということは、自分ではコントロールが難しいのでしょうか?
井上:まさにそうです。脳が成熟するのは25歳以降、30歳くらいです。20代前半であれば、特に自分の感情をコントロールする脳の前頭前野がまだまだ発達しきっていない段階です。
なので、大人から見れば「まあ、ええがな」「仕方ないわな」と割り切れるところも、なかなか諦められないのは、若い人特有だったりします。でも、脳の構造上仕方がない。うまくコントロールできないのは知っておいてほしいですね。
――「今の自分はネガティブになりやすいんだ」と、事前に理解しておくことが、一番の対策ということでしょうか?
井上:そうです。それこそ経験もそうだろうけど、「大人になれば」というか、尖った部分が丸く削れて柔軟に考えたりできるんだろうなというのは、ぜひわかっておいてほしいところですね。
――20代は「ぼんやりとした成長意欲」が高いとのことですが、現在20代の部下を持つ方が、上司として接する際のポイントはありますか?
井上:今の20代は成長意欲があるなと僕も実際に感じます。たぶんその背景には「AIや外国人に仕事を取られるよ」とか、あとは今の20代って全員がゆとり世代なんですよね。
社会的に「ゆとり世代」という言葉自体が揶揄されていることは、もちろん本人たちは知っているし、「ちょっとよくない」「ヤバいな」という、漠然とした不安があって。大企業でもリストラされるし、自分の会社でも年齢を重ねても生産性がないと平社員のままの人を見て、「年功序列じゃないな」と気付いたりもする。
「なんかヤバいよな」という不安があって、「成長したいな。成長しないとマズいよな」という欲求を持っているんだろうなと思うんですが、そうは言いつつもだいたいみんな受け身なんですよね。
成長って、本当は自分の努力で切り開いていくものなんですが、「成長できる」ということにすごく受け身になっていて。「成長できる職場環境を誰か用意してよ」と求めていたりするし、実際に会社を選ぶ理由も「自分が成長できそうだからです」みたいな人って、けっこういると思うんです。会社からしたらとんでもない話ですけどね(笑)。
井上:「経営者目線では、なんで君の成長の場に会社が使われとんねん」という話になるんですが、そういうことは普通に多くて。もう若者の捉え方の事実としてあるから、上司としてはそこを理解しなきゃいけないですよね。
だから20代の方は、自分を成長させてくれる機会や経験を提供してくれる上司を求めていたりするわけなので、やはり「成長」がポイントになってくるんです。じゃあ、上司としてどんなふうに成長させるかというと、褒めて成長させるのが今の時代なんですよね。
なので、部下を褒めていかなきゃいけないんですが、上司自身は褒められてきていないので、褒めるのにそんなに慣れていなかったり、すごく苦手だという方が多いんです。
時間が経ってから「何週間前、何ヶ月前のあれ、すごくよかったよ」とか、抽象的に「よかったよ」「よくがんばってるね」という感じで褒められても、最近の部下はそのへんにすごく敏感なので、「こいつ表面的だな」と、そんなのはすぐ見抜いてしまいます。
ポイントとして上司の方に言っているのは、その場ですぐに具体的に褒めること。そうすると、部下の方は「自分のことを見てくれているんだな」と感じます。そういう向き合い方が、今の20代の部下を持つ上司に必要なところですかね。
――職場環境や上司がよくても、やはり「辞めたい」と感じてしまうこともあるかと思います。ただ、転職や将来のことを考えると「辞めるのも面倒くさい」と感じてしまう。そんな時に、自分の仕事や生活をどのように見つめ直せばよいでしょうか?
井上:確かに仕事を辞めるのって、めちゃくちゃ面倒くさいことなんですよね。退職の手続きとか、転職のプロセスとか、新しい会社に入ったら入ったで慣れていないし、人間関係も仕事もゼロからだし、かなりエネルギーが必要になるので。
だから、「辞めるのは別にいいけど、辞めたら辞めたで面倒くせぇな」というのは、よくわかります。なので、そう考えること自体は正常な反応なんですよね。
少し年配の人がそうは思わないのは、辞めることへのリスクもけっこう大きくなってくるからなんですよ。「辞める」という選択肢にある種の軽さがあるところが、やはり若者ならではであって、上司と大きく違うところなんですよ。
若者でも、仕事をするようになってから、今まで楽しめたことも「面倒くせぇな」という状態になっている人は注意してほしいですね。
趣味もそうだし、今まで楽しめていたものが「全部面倒くせぇな」と思って、外に行くのも億劫になってきたり、友達と会うのものも嫌だったりとか。休日はけっこうアクティブだった人が、面倒くさいから家からあまり出なくなっていたりするのは、注意するポイントですね。
辞めるのが「面倒くさい」のは、正常な反応だから構わないんです。ただ、それ以外のところ、例えば家にいる時間が増えて、掃除や洗濯や家の事務的な手続きまで面倒くさく感じ始めて、すごく行動が鈍っているとなると、何かしらの精神的・肉体的疲労が溜まっているはずなんですよね。
そうなった時にどこを見直すかというと、やはり睡眠なんですよね。ふだんの睡眠で、夜にちゃんと寝られていますか? というお話になってきます。あれもこれも面倒になってくると、大半のケースで睡眠が乱れ始めているので、睡眠時間や質を見直すのが最初の第一手です。
――まずは、あらためて自分自身の状態を見直してみることが大事ですね。ただ、それでも「仕事しんどいな」「つらいな」と思った時に、今の仕事を続けるか・辞めるかの判断基準はどこにありますか?
井上:僕はだいたい「2つの質問を自分に投げかけてください」と言うんですが、まずは「与えられた仕事ができているかどうか?」と自問していただく。しんどさを感じているのはもちろん大前提で、その上で与えられた仕事ができていますか? ということです。
これがノーだったら(仕事を)辞めるというか、休んだほうがいいのは間違いないと思うんですよね。
しんどくて、しかも与えられた仕事もできていないとなると、そのまま続けてもいい兆しはないだろうし、1回休んだほうがいい。自分の適性なのか、体調不良なのか、なにかしらが背景にはあるから、そこはちゃんと見直したほうがいいですね。
ただ、「しんどいけど与えられる仕事はできていますよ」という時は、次の質問として「他にやってみたいことありますか?」と聞くんです。例えば、やりたいことがあるんだったら辞めたらどうぞって感じなんですが、これは「ノー」の時が多いんですよね。
しんどいし、与えられた仕事はこなせているけど、別にやりたいことはない。こういう人はめちゃくちゃ多くて、そういう人だったら別に(今の仕事を)辞めなくていいんじゃないのかと思っています。他にやりたいことがあるわけじゃないなら、辞める必要はないだろうし。
ただ、実際しんどいのは事実だから、ストレス解消も含めて、しんどさに対して日頃から癒やしやケアをもっと積極的にやらなきゃいけないよ、というお話になります。
しんどいながらも仕事ができているんだったら、急に辞める必要はないし、辞めたとして(別の仕事を)見つける判断材料も少ないと思うので。(今の仕事が)できていて、やりたいことがないんだったら、ある種「生活のため」というような大きな手段の1つで、仕事をそのまま続けていたらいいんじゃないかなという考え方ですね。
――なるほど。ありがとうございます。
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