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第1基調講演(西野亮廣氏)(全8記事)

この先もなくならない仕事はお土産店? キンコン西野氏が語る、人がお金を使いたくなる理由

2018年4月14日、早稲田大学井深大記念ホールにて、日本イーコマース学会シンポジウム「そのうちAmazonに駆逐されて終わってしまう」が開催されました。イーコマース市場が急速に拡大していく中で、従来の商売の在り方も大きく変化しています。第1回となる今回は、これから訪れる変化を想像し、覚悟し、受け入れるために、まずは変化を意識するきっかけとなることを目指して催されました。本パートでは、西野亮廣氏が、クリエイター自身がきちんと売り方までデザインしていくことの大切さを語りました。

いかに自分を少数派に持っていくか

西野亮廣氏(以下、西野):基本的に僕、何をするときにも、絶対に四面楚歌というか、村八分にあうようにもっていくんですが、これって極めて数学的、算数的なんですね。

去年、東京五輪のエンブレムの一般公募がありましたよね。最終的に、千鳥柄のなんか変なやつが選ばれたじゃないですか。変って言っちゃダメですね、まあ素敵なやつが選ばれた。最終的にあれが選ばれる前段階で、最終選考で4種類くらい残ったのを覚えてますか? 

Aが最終的に決まったモノクロのやつで、B、C、Dが緑だとか黄色だとか青だとかもうちょっとカラフルなやつだったんです。この中でどれが選ばれますかね、ってテレビに出たんですが、あの時点で実はもう勝負があった。

A、B、C、Dの4つがあって、それぞれ選ばれる確率が4分の1ずつかというと決してそうではない。あれを見たときに、まず人は、モノクロか、カラフルかで分けるんです。すると、Aが選ばれる確率は、2分の1ですよね。

B、C、Dが選ばれる確率は、2分の1×3で6分の1。2分の1対6分の1対6分の1対6分の1なので、Aが勝つ。あの座組みを作っちゃうことがすごく大事。とにかく四面楚歌になるように自分をデザインすることが、まず、すごく大事だと思います。

自分の場合だと、芸人をやるときに、まず、ひな壇に出ないということをやってみるんです。やっぱりお笑いファンが見るときは、まず、ひな壇に出るか出ないかで分けるので。それで、「ひな壇に出てる芸人の中で誰が好き?」という話になってくると、ひな壇に出てないのは僕しかいないので、その時点で勝負あった。

1対全員みたいな逆境を、いかに作るか。1回は批判されるんですが、大したことじゃないんで、それを一度作るということが1つ。

副業を持つことが有利になる時代になってきた

さっきの絵本の話でいうと、そこから大切なのは何かというと、とくに、僕のお父さんお母さん世代は、すぐにお前、何屋さんなんだ、何がやりたいんだ、ということを言う。

職業を転々としている人とか、職業をかけもってる人に対して、けっこう強く当たりがちなんですが、さっきの『えんとつ町のプペル』の場合で言うと、1冊作るのに5年かかるんです。あれは、他に職業を持っていないと作れなかった。

えんとつ町のプペル

プロの絵本作家さんには、あれを作ることはできない。副業をしている人を叩くのはもう時代にあってない感じがしていて、1回やめたほうがいい。

これから売り方の話に入っていきますが、絵本のほうも、1作品書く前に結局ボツにしたやつがあったんです。僕、絵本作家になろうと思って、1回ストーリーを書いてみようと思って、ばーっと書いたんですよ。すると、けっこう、才能がすごかったんです。

(会場笑)

なんというか、天才作家がよく言う、物語が勝手に進んでいく感じ。キャラクターが勝手にしゃべりだして、物語が勝手に進んでいって、状況が勝手にどんどんどんどん降ってくるんです。書いてて、「やばい俺、天才だ」と思って。結局それはボツにしたんですが。

どんな作品だったかというと、家族4人の物語で、お父さん、お母さん、子ども2人で、東京から田舎に引っ越すんです。お父さん、お母さんは忙しいから、子ども2人で初めて田舎を経験するんです。初めて、森を経験するんです。初めて、木のトンネルをくぐるんです。初めて蜘蛛の巣くぐって、その先に化け物がいるんですが、これ、ほぼトトロでした。

(会場笑)

つまり、僕、「絵本作家になる」っていって、いきなりトトロを書いちゃってた。

やばいですよね。トトロなんか書いてる場合じゃないと思って、次の作品に変えて、それが結局、1作目になったんですが、いいものが書けたんです。

毎日作り続けたのに「オワコン」扱いになってしまった

絵を描いてみたら、意外と上手かったんです。『Dr.インクの星空キネマ』という本で、4年くらいかかったんですが、これは大変なことになる、100万部くらい売れるかもしれない、いきなり、ディズニーに挑めるかもしれないと思って、世に出したら、3万部しか売れなかった。

Dr.インクの星空キネマ

ぜんぜん、売れなかったんです。絵本業界って、5,000部とか1万部とかでヒットといわれます。市場が小っちゃい業界ですから、3万部でもまあまあヒットなんですが、業界内のヒットというだけで世間的にはヒットではないし、ましてや、ディズニーに挑める数字ではない。

「あれ、おかしい、ぜんぜん売れない」と。誰に見せても評判が良かったんです。Amazonの評判もいいんです。評判は良いけど、売れないんですよ。

なんで売れないんだろう、なにかの間違いかな、と思った。でも、へこんでる場合じゃないから、次だ、次だと思って、2作目の『ジップ&キャンディ ロボットたちのクリスマス』を、これまた3年くらいかけて作ったんです。「今度は売れる、今度は忙しいことになるぞ」と思って、世にぱっと出したら、これもまた3万部くらいしか売れなかった。

ジップ&キャンディ―ロボットたちのクリスマス

3年くらいかけて、3万部ってちょっとまずいんですよね。世間の人は、僕が絵本を書いてることなんて知らないんですよ。業界が知っててくれただけ。絵本を書きだしてからすでに7年経っていて、世間の反応はどうだったかというと「キンコン西野、最近何してるの?」「見ないね。いなくなったね。オワコンだね」という感じになっちゃった。

自分の口で言うのはちょっと恥ずかしいですけど、僕、ぜんぜん終わってないんです。25歳のときに「テレビやめて絵本に行く」って言って舵を切って、その日から、サボってたわけでは決してなくて、毎日毎日、作業部屋にこもって、朝までずっと作り続けたんです。

読者の手に届かなければ、作ったことにならない

つまり、他のタレントさんがコンパしたり、パーティー行ったり、ゴルフ行ったりしている間、全部エンタメに時間使って、ずっと(絵本作りを)やってたんです。事実、作品を作ったんですよ。でも、オワコン扱いになっちゃって。なんでだろう、終わってないんだけど、と思ってた。

ここは非常に残酷なんですが、作品を作ってもお客さんの手に届かなかったら、作ったとカウントされないということです。僕は作ったけど、世間は作ったとしてカウントしなかった。なにもしていない奴というハンコを押しちゃった。

まず改めなきゃいけないと思ったのは何かというと、「作る」という言葉を再現しなくちゃいけない。だって、僕は作ったけど、お客さんが作ってないって言ってるんだから、「作る」という言葉の定義が、そもそも間違っているなと思った。

そこから再現すると、まず「こういうものを作る」というのは当たり前の話で、作ったものがお客さんの手に届くまでの導線を確実にデザインして、初めて作ったと言えるようになるということです。つまり、実際にお客さんが乗って、初めて車を造ったといえる。線路まで引いて、初めて電車を造ったといえる。

こう思ったときに、自分の過去の作品を振り返ってみたら、すべて未完成品だったんです。作品だけ作って、導線はぜんぜん作っていなかった。売り方をぜんぜんデザインしていなかった。売る方法は、吉本興業や幻冬舎に全部任せていたんです。

そもそも、なんで任せていたんだろうと思ったんです。自分が作ったものを「これを売ってくださいね」って、なんで人に任せてたのか。

売るとなると、お金の話をしなきゃいけない。クリエイター、作り手が、お金の話をするのはどうなんだろうと思ってたんです。お金の話って汚いじゃん、不純でしょ、って思っていて、お金の話をしたくなかったんです。だから遠ざけていた。

作るだけ作って、届けるほうは人に任せるのがかっこいいと思っていたんだけど、よくよく考えてみたらこれは育児放棄だと。

「これ以降は、作ったものを絶対にメガヒットさせると決めた」

産むだけ産んで、育てるのは人に任せるって、親が一番やっちゃダメなことだと思ったんです。自分が産んだ子どもを人に任せて、その子が死んでしまったら、誰の責任かといえばやっぱり預けた親の責任だと思ったときに、そうか、僕は今まで育児放棄をしていたんだと思った。

それはかっこ悪いからもうやめようと。自分が産んだ子どもは、絶対に自分で殺さないということです。もう『ジップ&キャンディ ロボットたちのクリスマス』と『Dr.インクの星空キネマ』っていう本を2人殺しちゃったんで、もう自分の子どもは絶対に殺さない。これ以降はすべてメガヒットさせる、絶対に売る。

僕は親なので、どんなに嫌われてもいいし、ぼろ着てもいいし、泥水吸ってもいい。でも、子どもは絶対に育て上げようと、作ったものは絶対に売ろうということを決めて、そこから初めて売ることに目を向けました。

じゃあ、本ってどうやって売るんだろうと思ったんです。ここから広告の話になってくるんですが、ものの売り方を考えるときに、買う側から1回考えてみようと。まず、普段自分が何を買っていて、何を買っていないかを1回分けてみようと思って、ノートを広げて、買ったものと買っていないものを分けたんです。

すると、本ってあんまり買ってないんです。月に2冊くらい。本を書いてるくせに、本を買ってない。CDなんて、2017年は1枚も買ってない。有田焼なんて、30何年間で1度も買ったことがない。つまり、クリエイターとか言ってるくせに、作品をほとんど買ってなかったんです。

一方で水は買うし、牛乳は買うし、米は買うし、パンは買うし、高くても冷蔵庫買うし、テレビ買うし、エアコンなんかも買ってる。こっちは、けっこう買ってるんです。

「生活に必要ないのに買ってしまう」ものがある

ここから見えてくるのは何かというと、僕たちが買うもの、買わないものの大きな線引きはすごく単純明快で、生活するうえで必要であるか否か。

水はやっぱり要るし、牛乳も要る。一方で『えんとつ町のプペル』がなくても食っていける。そうか、作品というのは生活必需品ではないから売れないんだということで、結論にしたかったんですが、売れてる作品もあるし、買ってしまってる作品ってあるんです。

僕、シンガポールに行ったときに、マーライオンの置物を買っちゃってるんです。あの白のバーッてゲロ吐くやつです。

(会場笑)

あと、広島の宮島に行ったときに「宮島」って漢字で書かれた、三角形の布切れあるじゃないですか。壁にベタッて貼る、ペナントを買っちゃってるんです。

どうですか、みなさん、生きててそろそろペナント欲しいなって思ったことありますか。たぶんないですよね。でも、買っちゃってるんです。

去年、芸人仲間と京都でさんざん遊んで、帰りに京都駅で「御形」って書いてある提灯、買っちゃってるんです。誰も取り締まらないのに、提灯買っちゃってるんです。

この仕事をしていると良くわかるんですが、本ってなかなか売れないのに、演劇のパンフレットとかは劇場でめっちゃ売れるんですよ。本は1,500円でこんなに分厚いですよね。演劇のパンフレットは4,000円でこんなにペラペラなのに、めっちゃ売れるんです。

ここから読み取れるのは何かというと、僕たちは、作品にはお金は出さないけど、思い出にはお金を出すということです。どうです、みなさん最近、旅行、行かれました? たぶん、お土産買ってるんじゃないですか?

お土産は買っちゃうんです。いろんな職業がどんどんどんどんなくなっていく中、お土産屋さんはぜんぜんなくならないんです。原宿なんて、ほとんどお土産屋さんですよね。

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