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第4回「脳科学者・中野信子氏に聞いてみた」(全3記事)

戦争や過激ないじめはなぜ起こる? 脳内を支配する“善悪”の危うさを考える

DMM亀山会長がバーチャルおやじユーチューバーを目指す「かめっちTV」の第4弾。今回のゲストは、著書『サイコパス』等で話題の脳科学者・中野信子さんです。中野氏によると、誰かの損害を喜ぶ「シャーデンフロイデ」は少なからずどんな人間にも存在するとのこと。脳内で生まれる感情の仕組みを理解して、我々が信じ込んでいる“善悪”の不確かさを考えます。

「他人を引きずり下ろす快感」とどう向き合うか

亀山敬司氏(以下、亀山):今回 『シャーデンフロイデ(他人を引きずり下ろす快感)』を書いて、この本の中で「引きずり下ろす快感がありますよ」ということから、「だからこうすべきですよ」っていうことまで行くの?

中野信子氏(以下、中野):私が「こういうふうにすべきですよ」って言うのにかなり抵抗が大きいんですよね。

「こういうふうにすべき」って言うと、もうそれはサイエンスではないし、むしろ宗教であって、私はそこに踏み込むつもりはあんまりないです。ただ、書籍とかで一般的にモノを言う場合には、そこを求められることがすごく多いですね。

私はそこの部分を薄くしか書かないので、物足りなく感じる人もいると思います。

亀山:「結局どう思ってんだ⁉︎」とか「俺たちにどうしろって言うんだ!」みたいな。

中野:「どうしろって言われて、やるのかよお前!」って思いますけどね。

亀山:いいね(笑)。「お前!」って言ってやってよ。

中野:私、本当はガラ悪いんですよ。江戸っ子なもんで(笑)。

亀山:江戸っ子か。じゃあ、この本の中でも明確な方向性は出してない?

中野:そうですね。例えば「シャーデンフロイデを感じますよ」っていうとこまで説明して、「感じないようにしましょう」って言ってるわけではない。メッセージとしては「シャーデンフロイデを感じることは、まったく恥ずかしいことでも何でもない」ということです。

亀山:ああ、なるほどね。

シャーデンフロイデ 他人を引きずり下ろす快感 (幻冬舎新書)

「社会的排除」と「外集団バイアス」を理解する

中野:例えばみんながこれ(シャーデンフロイデ)を持ってても、「恥ずかしいと思わなくてもいいよ」と言いたい。でも、恥ずかしいと思っちゃうのもまた人間の本質ではあるんですよ。

だから、恥ずかしいって気持ちも、別に否定する必要はない。これはそもそも社会性の一部だから、自分から見て社会に害を成す存在であれば、それに対してネガティブフィードバックをかけてやらせないようにするわけですよ。

それで、その機能の一部が働いてるだけで「じゃあ一番避けるべきなのは何なんだろう?」ということを、今ここ数十年ぐらいのスパンで考えてみると、社会性が高すぎるために起こってくる諸々の不都合がある。

それは社会的排除が一番大きなところだろうと思います。社会的排除と外集団バイアスかな。

亀山:ん? 社会的排除と何?

中野:外集団バイアスです。これは、自分たちと違う集団のことを低く評価するということです。私は、これを戦闘のモチベーションになるものだと思ってます。

「あいつらがこういうことをしてきたから戦うんだ」って思いやすいところを、単に「これ、外集団バイアスじゃね?」って思えると、戦闘しなくてもいい場面はあるんですよね。

いじめが過激に起こってる場合に、「これ社会的排除じゃない?」ってその集団の中の多くの人が思うと、「別にこの人排除しなくても、ちょっと3ヵ月ぐらい休んでて貰うだけでいいんじゃない」ってことになったりするので。そのほうがもっと合理的な社会が築けるんじゃないかなと期待を込めて書いたというところがあります。

愛情と憎悪は表裏一体

中野:平たく言うと「愛情が深ければ深いほど攻撃も激しい」っていう話ですね。

亀山:あーそうか、なるほどね。確かに。憎愛は裏表みたいなとこがあるよね。

中野:同じオキシトシンという物質が担当してるので。

亀山:愛情の時に出るものと憎しみの時に出るものはどっちも同じ物質が出るんだ?

中野:どっちもそうなんですよ。文脈によってちょっと変わっちゃうってだけで、孤独感を感じると攻撃になったりっていう具合に。

亀山:そうだ、さっきの話で「堕天使」とか言ってたけど、あいつも結局神から追放されて、その寂しさと悲しさから……。

中野:悪魔になっちゃうんですよね。

亀山:神を愛するが故に「寂しいからこいつの敵になるわー」みたいな感じ?

中野:なんかこじらせてますよね。

亀山:こじらせてるな。そのときに神ももう1回くらい包み込んでやればよかったのにね。

中野:そうですね。

亀山:そしたら「ごめん、俺も言い過ぎたわ」みたいになって、神と悪魔もいい感じになってさ。

中野:和解したかもしれないですね。

「善悪はどうでもいい」の真意

中野:私が思うのは、「神/悪魔」「良い/悪い」「善/悪」「美しい/醜い」という基準があるじゃないですか。

この基準って勝手に人間が決めているので、本当は生命を維持するためだけならなくてもいいはずなんだけど、効率的に繁殖しようとかいろんなことができるようにっていうふうに進化してきて、とうとう善悪まで生み出しちゃった、というのが人間ですよね。脳の中にルシファーも神もいる。

亀山:ふーん、そこに神も悪も……。そもそもそう考えると、脳の進化ってどうなの?

中野:こんなこと言ったらちょっと上から目線かもしれないんですけど。みんなすごく大層なことのように喋っているし、とっても重大な問題のように扱っているのだけど、本当は「人間の小さな脳の中で起きている現象のひとつに過ぎないよ」ってことを、ちょっと立ち止まってみんなが考えることができたら、もう少し緩やかな世の中になるんじゃないかしらって思ってますけどね。

亀山:この正義のために戦うとか、その悪のために苦しむとか考えすぎないでね。極端に言えば「今日も飯食ってセックスして生きてきたぞー!」みたいな。猿とか平和そうだもんね。たぶん彼らは「明日何食うかなー?」くらいしか考えてないでしょ。

中野:まあ、そうですね。

亀山:そもそもボス猿が「これ俺1人だけでこいつら全員ヤっていいのか」って悩んでないだろうね。社会構造を変えようとかなんて思ってもないし。

中野:そうですね。良い社会を作ろうとはあんまり思ってないと思うんですよね。

亀山:「あ〜腹減った」っていうぐらいだよね。

中野:たしかに、猿の世界でも凄惨な骨肉の争いとか殺し合いとかはあるけれども、別にそれを悪いこととは思ってない。生き延びるために仕方がないこと、自然なことですよね。

亀山:猿ならもしかしたらちょっとはあるかもしれないけど、魚とか絶対ないよね。

中野:ないですよね。自分の産んだ卵も食べちゃうし。

亀山:なんか平和に見えてきたよね(笑)。

中野:私はそんなに「良い/悪い」に拘泥しなくてもいいのかなと思ってます。だけどこういうことって、例えばテレビ局で言うと、「善悪どうでもいいはちょっとマズイんですよね」って感じで言われる。

亀山:言われそうだね。

中野:うわー、今日も電話かかってきそう……。

亀山:いっぱいクレームきそうだね(笑)。

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