2024.10.01
自社の社内情報を未来の“ゴミ”にしないための備え 「情報量が多すぎる」時代がもたらす課題とは?
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中野信子氏(以下、中野):幸福も寛容と似ていて、一般的にいいイメージを持たれているために、それ自身のネガティブな側面というのを理解してもらいにくい概念ですね。
こうした講演会で、運の良し悪しという話をさせていただくことがあります。「運がいいってなんでしょう?」ということですね。これも幸福と、ちょっと似ていますね。
そのとき、聞きに来られたお客さんに「どんなことを『運がいい』と思いますか」と聞くのです。
そうすると、だいたい3通りぐらいに分かれます。まず最初に、運というテーマに惹かれてくる人たちですから、もちろんお金は欲しい。くじ運がいいとか、儲かること。生き延びていくために大事なリソースを効率よく得られるかどうかという問題です。
2番目は、健康で満足して暮らせるということです。たしかに身体の状態の良し悪しで幸福の度合いは変わりますよね。あまり心身の状態が良くないと、力いっぱい幸福ですとはなかなか言いにくい。
3番目、これがおもしろいところかもしれませんが、人に恵まれることと答える方がいらっしゃいます。頷かれる方がやっぱり多いですが、私も納得します。日本人だから、かもしれません。
これらをちょっと頭に置かれた上で、欧米と日本の幸福度の違いを考えたいと思います。
だいたい幸福度調査というのは、欧米の基準なんです。心理学の実験がされた欧米の研究結果を基になされたものですから。これはどういう基準なのか。彼らはなにを幸福だとしているかというと、自分のアチーブメントです。社会的成功や、金銭的にどれだけの収入があるのか、自分がどれだけのものを勝ち得たか。
友光雅臣氏(以下、友光):“自分が”ですよね。
中野:そうです。もしかしたら、自分と神との契約というのが、彼らの心のベースにあるのでしょうか。個人主義的だと感じます。たしかに幸福度ランキング上位常連の北欧諸国などは、すごく社会保障も行き届いていますし、ある意味、世界の「成功している」地域ですよね。
一方、幸福度が低いことに疑問を感じた日本の心理学者が、本当にそうした欧米の基準で、日本人が幸福と感じているのかどうか調査をした。すると、やっぱり違うのです。むしろ、欧米の基準で幸福な状態になると、日本人は足を引っ張られるのではないかと不安になったりするようです。
友光:「俺が仕事して儲けたんだ」という満足感。
中野:なにか後ろめたい感覚ですよね。「儲けたはいいけど、自分が死んだときに心から泣いてくれる人は誰もいないのではないか」「葬式に友人は誰も来てくれないのではないか」とか。
友光:自分ばかり儲けて、自分ばかりいい思いして、と。
中野:そういう心の動きが起こるのですね。では一番大事なのはなんなのか。それは、「周りの人にどれだけ必要とされているか」です。他者にどれだけ必要とされているか、という感覚がその人の幸福度を左右する大きな要因だったということがわかりました。
家族に必要とされているとか、友だちが多いとか、周りにいい人がたくさんいますといった基準です。
友光:あまり自己肯定感じゃないですよね。他者からの承認というか。
中野:そうですね。より向社会的なのですね。ということは、欧米の基準での幸福度調査で低く出ても無理はないのです。
友光:そうですね。別にそれを暗く思う必要もないし。
中野:社会のあり方がかなり違いますね、という話であって。日本人でももしかしたら向こうの生活にだいぶ慣れて、周りの人から必要とされるということがそんなに重要ではないのだとマインドセットが変わっていくと、欧米基準でいう幸福をためらいなく追求するようになるかもしれませんが。
友光:僕らが急にノルウエーに行っても幸福になるわけではないみたいな。
中野:(笑)。日本人のマインドセットはかなり堅いかもしれません(笑)。
友光:1位の国に行っても幸せになれないんじゃないですか?
中野:北欧でなくフランスですが、日仏を行ったり来たりするとき、社会に合わせて自分の基準もスイッチさせられるような感じがあったのは、しんどかったです。
フランスでは、主張して最初にとったもの勝ちです。最終的には自分を守るのは自分ですし、非常に個人主義的なところがあり、日本とは対照的でしたね。慣れればそちらのほうが気楽なんですけれど。
友光:そういう意味では、自分が成功する・しないは他者との関係性とか、人に恵まれることが大事となる。これは先ほどのオキシトシンじゃありませんが、幸福と感じるための範囲が広いのかもしれませんね。
「欧米の人は自分と家族ぐらいまでしかオキシトシンが出ません」といったように、近しい周囲の承認や自己肯定感が大事です。日本人の場合は、それよりももっと広い範囲に対しての承認を必要としたりで、オキシトシンが発生するリーチが長いということですね。
中野:日本と北欧を比べると、一般的信頼という尺度が北欧のほうが高いのです。一般的な信頼というのは、自分とぜんぜん違う他人に対して寛容であるか否か。
友光:一般的信頼が、高い?
中野:高い。日本は低い。つまり日本は、仲間にはあたたかいのだけれど、よそ者には冷たいという社会ですね。おもしろいことに、南の国に行くほど一般的信頼は低いのです。
友光:ということは、よそ者に冷たい?
中野:あまりそういうイメージはお持ちではないかもしれませんが、データ上はそうです。沖縄の人はすごく寛容だというイメージがあるかもしれませんが、彼らと腹を割って話をしようとすると、「あれ?」と感じるはずです。とくに内地の人間はそういう扱いを受けるでしょう。
友光:逆に、同じ1つのコミュニティーに対しての信頼が深いわけですよね。同じ沖縄県民であったり。
中野:そうですね。同じ沖縄県民なのか、島の人間なのかはわかりませんが。本島の人間と、宮古島ではまた違うかもしれません。
友光:島生まれ、島育ちなどもありますよね。
中野:そうです。もう1つ面白い研究があって。耕作食物の違いによって、関係性に対する依存度合いが違うようなのです。
友光:米か芋かといった感じですか?
中野:麦作と稲作の比較です。2014年にミシガン大学の中国人を含む研究グループが行ったもので、中国の稲作地域と麦作地域で人々の性格傾向を調べるという興味深い研究です。
その結果、稲作地域の人々のほうが関係依存性が高いということがわかった。関係依存性とは、向社会性と似ていて、自分の意見よりもみんなの意見を優先しましょうという性質のことです。
自分の意見を殺しても、みんなが丸く収まるようにすることが、良しとされる社会。ご存じの通り、日本の多くの地域は、稲作社会です。
これを研究者たちがどのように解釈しているかというと、米を作るほうが水路を作ったり、農作業のステップが多く、みんなでやらなきゃいけない集団でやる行動が多くなるために、それに外れた人は、食い物も余分にもらえない、嫁も与えられないなど、遺伝子を残しにくくなっていく。
そうすると、集団に対して協力的な人の遺伝子だけがどんどん濃縮されていきます。その結果、稲作地域では関係依存的な性質の人が増えていく。そういう考え方です。
こうした地域では「個人主義でいきましょう」とはなかなかなりにくい。そうした人は一見きらびやかに目立つのですが、最終的には排除されてしまうでしょう。
そもそも萌芽期に潰そうとされますし、それを逃れて大活躍しても「本能寺の変」のようなことが起きて誅殺されかねない。最近はシリコンバレーの影響なのか、「イノベーション起こすんだ、みんなと違うことするんだ」とすごくもてはやされていますが、この地域ではその戦略は適応的でないので、やめた方がいいと私は思います。
もともと無自覚に個人主義で動いてしまう人は仕方ないですが。
友光: 一方、小麦はなんでも少人数でやれるし、ステップも少ないからというのがあるんですか?
中野:米作と比べればですね。米作と比べれば、小麦作、麦作のほうがステップは少ないでしょうが、もっと他に比較できるものがあれば、比較できたほうがよかったのかもしれない。
ただ、なかなか遺伝的なベースが一緒で耕作作物だけが違うという大規模な集団は他にはないですよね。本当は移動しながら狩猟している大規模な集団などがあればよいのでしょうが。
友光:ざっくり宗教の話になってしまいますが、僕はもともとお寺の生まれではありません。父親が経営コンサルをやっていて、母親が生協の広報誌を作っているという、普通の団地の出身です。
たまたま高校の時に知り合った彼女がお寺の娘さんで。彼女と付き合っていたら、お寺に嫁ぐじゃないですけど、お寺に入ってお坊さんをやることになりまして、一般家庭から宗教者になりました。
そのとき「宗教とはなんなのだろう」がそもそもわからなかったので、まず宗教全体がざっくりなんなのか、その中で仏教とはなんなのかを考えたんです。
さっき南の島の人はという話がありましたが、生きていくことが辛い環境においては、厳しい宗教がやはり多いのです。
例えば、ロシア。本当にコミュニティーとして協力しないと生きていけません。また、東北のほうの山深いところ。何月から何月までは他の村に行けなくなって、この中でちゃんと暮らしていけないといけません。
生きていくのが厳しい環境にあると、やっぱり神様、仏様が罰を与えてきたり、ちゃんと捧げ物をしないと与えてもくれない。そんななかで、かなり厳しい神仏との関係性が生まれて来ます。
砂漠の中もそうですね。厳しいルールがあって神との厳しい契約関係や信者同士でのルールへを結ばないとコミュニティが存続できないのですね。宗教が先に存在するわけではなくて、コミュニティと、それを存続させるためのルールがある。
宗教は人が作ったものになります。その前提の中で、「仏様、神様はこうですよ」がある。南の島なら釣り糸を垂らせば魚が釣れる。すでにできているものを食っていればある程度は生きていけるというところでは、宗教性というか強い神様、怖い神様はあまりいなかったりするんです。
もちろん船を出した時に波でやられるといった海の怖い神様もいますが、基本的には南の神様は与えてくれる優しい存在です。
そうした中で、稲作、米作じゃないですが、おそらく現代社会、とくに都市部とおっしゃいましたが、現代社会においては食料を確保して死なない程度に生きていくこと自体はそんなに難しくない社会になってきているのかなと思っていて。
稲作社会であろうとも、稲作の苦労というのはどんどん減っていきています。僕も今現在は、田植えをしたこともないように。
そうした意味では、だんだん釣り糸を垂らせば生きていける社会に……なったとまでは思いませんが、だんだん柔らかい宗教の時代であったり、厳しい宗教が要らない時代になっていくという気はしています。
だからニューヨークやイスタンブールなどの各都市部に行くと、やっぱり宗教離れのようなものは世界中の都市部で実感します。
それは生きることの難易度の変化ですよね。その変化が起きていく中で宗教が言ってくるストーリーであったり。ファンタジー的な話ですよね。神がどう世界を作ったとか、お不動さんを信じれば救ってくれるといった話を、ファンタジーととるのかどうかは本当に個々の感じ方なわけです。僕は信じているのですが。
でも、「それは絶対の真実だ!」とは思っていなくて、それぞれが信じる・信じないかでしかないと思っています。そうした中で各宗教におけるファンタジーやストーリーに共感できない人や、それらが必要じゃない人やコミュニティが生まれてきている。そして「結局は自分だよね」ということが世界中の、特に都市部で発生しつつあるなと思っています。
そもそもの宗教の役割は、みんなでどう生きていくか、生き残り続けるかということがかなり強かったり、コミュニティやモラルのキープがすごく大事でした。でも、東京においては……というか都市部においては、精神的にではなくイキモノとして生きることの困難さがある程度は文明によって克服されてきたわけです
なにがこれからの宗教の役割かなということをすごく考えます。今後の社会においては宗教がなくなるのか、仏教はその社会においてはもはや言うことがなくなるのかとでも教えを読み解いていくと、ぜんぜんいっぱいあるのです。
仏教の場合は「みんなで仲良く暮らしましょうと」いう話ばかりではなく、一人ひとりがどう生きていくかということがすごく書いてある。そうした意味ではむしろ、いよいよこれから本格的に必要とされる時代が来るんじゃないかなと感じています。
そう思ったからこそイベントを始めて、「これを唱えれば救われます」「これは徳が高いです」「この人はすごい人です」といった、ファンタジーが多めではない、より本質的な仏教を伝える場をやりたいと思っています。
これまで通りの伝え方や立ち位置での宗教は段々と必要とされなくなってきているということや、そうじゃないフェーズに移行しなければいけないなとも思っていて。
そもそも仏教がなにをいいたかったのか、宗教がなにを言いたいのか、一人ひとりにどう生きてほしいのか、どう生きるときの助けになれるのか、今後はそういう役割になってくるなと思っています。
そういう意味で稲作、米作、麦作をみんながやって、生きていくのがどれぐらい困難かという時代じゃないこの都市部においては、なにができるのかなということですね。
中野:そうですね。みんないい話を聞きたいと思ってここに来てくださったのだろうに暗い話ばかりしているみたいで、ごめんなさい。
友光:謝りましたね(笑)。
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