2024.12.19
システムの穴を運用でカバーしようとしてミス多発… バグが大量発生、決算が合わない状態から業務効率化を実現するまで
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中野信子氏(以下、中野):では、最後の問題。日本人の幸福度についての問題です。
収入とか生活環境が、非常に日本はいいですよね。世界的な水準からみるとかなり高いほうです。海外生活を経験されたことのある人はよくわかるでしょう。治安も極めていいですし、インフラも整っている。GDPも高いです。それにもかかわらず、幸福度を測ると低く出てしまう。
これは文化的な背景によるものでしょうか? それとも、遺伝的なものでしょうか? これを○と思う人?
(会場挙手)
×だと思う人?
(会場挙手)
半々ぐらいですかね。
これは×。
ただ、幸福度というのは、きちんと数値化、学術的には「定量化」と言いますが、こういうものを数字にしてやろうとするとけっこう議論があって難しいんです。これまで欧米で開発されてきた「人生満足感」 を尺度とすると、どうしても日本人の幸福度は他国に比べて低くでてしまう。
ちょっと話はそれますが、現在、心理学研究のメインストリームは北米文化圏にあります。すると、「幸福」はいい成績を取るとか、そういう個人としての達成感とかそういうものを意味することが多くなるんです。
でも、ちょっと日本人には違和感がありますよね。日本だと、まわりの人たちとうまくいっているとか、誰かの役に立っているとか、みんなに評価されているとか、そういうことを「幸福」と感じる文化です。
そこで「他者との協調性」を主軸にした尺度を作って、幸福度を測るのに使おうと提案している研究者たちもいます。
ただ、幸福度を定量化すること、数値にしてしまうことそのものに、研究者でない普通の人は、なんとも言えない抵抗感があるかもしれません。幸せというのは、数字で測れるものではないんだ、誰かと比べたりできるようなものではないんだ、なんてね。
そういう気持ち、個人としては中野にもあります。でも、それだと、科学研究の対象にはできないんです。なので、大切な感情である「幸せ」を無情に切り刻んでしまうようなうしろめたさに目をつぶって、なんとか、研究者たちはこの捉えどころのない感情をがんばって定量化、数値化しようと工夫しているんです。
本題に戻りましょう。この設問でテーマとなるのは、さっきは浮気遺伝子の話をしましたが、今度は不安の遺伝子です。
ちょっと前によくあったビジネス書なんかでこういう話がでてきたりしますね。コップの中に水が半分入っています。あなたは、「まだ半分ある」と思うタイプですか、それとも「もう半分しかない」と思うタイプですか、という。
「まだ半分ある」と思う人って、どれぐらいいますか?
(会場挙手)
「もう半分しかない」?
(会場挙手)
おもしろいですね。「もう半分しかない」と思った方が(席の)前のほうに寄っているの、おもしろいな。これにも理由がありそうです。半分しかない、と思う人の方が学業成績が良いことを示唆する研究もありますよ。
もう半分しかないと思う人のほうが、将来の不安に備えて、より準備をしておこうとする傾向が高いからですね。そうやって準備をするので、災害とか不測の事態にも強い。
「まだ半分ある」という人には、楽観的に物ごとをみるというメリットがあります。しかし、デメリットもあります。「まだ半分ある」と満足してしまうと、なかなか、そこから成長したり、工夫したりしようとする意欲がわきにくい。モチベーションが上がりにくい。
「もう半分しかない」という人。こういう人は「もう半分しかない」と焦るので、モチベーションを高く維持することができて、放っておいても自分で努力したり、工夫したりできるというメリットがあります。
デメリットは、悲観的になってしまうので、本人の気持ちとしてはつらいですね。焦る気持ちが強くて、不安で、いつもいつも先のことを考えちゃう。だけど、だからこそ高いパフォーマンスを発揮する。どっちのタイプにもいいところがあります。どっちのタイプにもマイナスの部分があります。
どちらの人も存在する、というのが、バランスがよくていいのでしょうね。どちらの人の遺伝子も現代に残っている、ということを考えると、どちらのタイプも環境に適応して生き延びる力を持っていた、ということになるでしょう。
これは、セロトニンが関係しています。
人体の中では、セロトニンは腸の中に90パーセントくらいあると言われます。残りの大部分も血液にあります。その残りが脳に存在するわけですけれども。人体のほかの部分に存在するセロトニンは、脳にはたどり着きません。
ほかのところでいくらセロトニンが増えても、血液脳関門、という厳しい検閲所のようなものがあって、脳にはセロトニンが届かないんです。
ちょっと古い実験ですけれども。みなさんが生まれたぐらいの年ですかね。1996年。『Science』という非常に権威のある学術誌に載ったものです。
セロトニントランスポーターというタンパク質があります。脳の中にセロトニンが出るときというのは、神経細胞同士のつなぎ目に放出されるんですが、セロトニンを分泌しちゃったら、「余ったセロトニンはどうなるの?」という疑問がわきません?
その余ったセロトニンを、セロトニントランスポーターが再取り込みをして、また分泌するというようなかたちになるんですね。
このセロトニントランスポーターの数が人によって違う。リサイクルポンプの数が違うというわけですね。リサイクルポンプの数が多い人と少ない人と、中ぐらいの人がいます。
セロトニントランスポーターに関しては、これを多く作りなさいよと命令する遺伝子Lと、少なく作りなさいよと命令する遺伝子Sがあって、その組み合わせで、その人のもっているセロトニントランスポーターの数が決まります。
「少なく作りなさいよ」というSを2つもった組み合わせの人たちは、不安を感じやすい、緊張しやすい。つまり「もう水が半分しかない」というふうに焦るタイプは、こういう遺伝子をもっている可能性が高そうだというわけです。
こういう人には、不公平感を感じやすいという傾向もあります。「私だけ損してない?」「真面目にやっているのに、私だけ損している」ということを思ってしまいやすい。
どっちももっているミックスの人。不安の程度は中程度ですね。
「多く作りなさいよ」というLを2つもった組み合わせの人というのは、不安を感じにくい、緊張しにくいタイプと考えられます。例えば、大勢の前でしゃべってもぜんぜんあがらないだとか。みんなに見られていることでより気分が高揚して力を発揮できます、というようなタイプの人。
この人たちは「まだ水が半分もあるよ」というふうに楽観的に考える。ですけれども、やや楽観的すぎる傾向もあります。津波が今そこまで迫っているのに、「俺だけは助かるかもしれない」と言って逃げ遅れてしまったりすることも考えられます。
おもしろいことに、日本人にはSS型が際立って多いのです。世界の人と比べると。LL型が少ない。この理由を考えるとき、それは、もしかしたら災害が多い国だったからなのかもしれません。
日本に災害がどれぐらい多いかというと、統計の資料を見ますと、日本の総陸地面積の世界に占める割合ってご存知ですかね。みなさんはご存知かな。地理を選択だった人、ご存知? 1パーセントないですよね。0.25パーセントとかそれくらいです。
それぐらいの狭い面積の部分に、災害がどれぐらい集中しているでしょう、というデータがあります。世界の災害被害総額のうち、日本の割合は20パーセントを占めるというデータです。
つまり、世界の災害の5分の1を日本1国が背負っているということになります。日本はそういう、世界的な災害大国なのです。それで、あんまり楽観的過ぎると生き残りにくい、という事情があったのかもしれません。長い間、そういう環境圧力が高かったんじゃないかと言えると思います。
それでは、日本人のSS型の割合はどのくらいか。高いんですね。65パーセント以上の人がそうです。これに対してLL型は、すごく少ないですね。3パーセントぐらいです。100人のうち3人。この教室の中でも5~6人いるかどうかという感じでしょうか。
一方でアメリカ人はどうか。LL型は32パーセントもいます。日本の10倍ぐらいいるわけです。3人に1人が楽観的な人たち。SS型、慎重なタイプ、「コップに水が半分しかないよ」と考えるタイプは、18パーセントで、一番マイノリティです。
どっちがいいか。それはどっちともいいんです。どちらにもそれぞれに、違った環境で生き延びる力がある。そして、各国の環境圧力に適応した結果がこれです。つまり、単純にどちらの性質の方がすぐれているということはできないんです。
例えば、日本では慎重さだったり思慮深さだったりという性質をもっていると、職場でとても重宝されたりしますけれど、アメリカで活躍している人は、自分の不安や慎重な傾向をある程度無視するというか克服して、新しいことにどんどんチャレンジする必要があるでしょう。そして、楽天的な傾向が強くなければ生きていけないでしょう。
日本にいるけれども、自分はあんまりにも慎重さに欠けていて楽観的すぎる。これはもう日本の企業に就職しないほうがいいんじゃないかということを思う人もいるかもしれない。それぞれ適性があると思います。
これから就職活動をみなさんなさるのでしょうけど、「自分はもしかたらLL側じゃない?」と感じるような人は海外を視野に入れたほうがいいかもしれませんよね。
よく、アメリカ留学経験のある方とか、ビジネス本の一部の著者の方なんかは「日本はなぜアメリカのようにならないのか?」とか「日本にはスティーブ・ジョブズがどうして生まれないのか?」というようなことを頻繁に言うような感じがあるんですけども、これはもうしょうがないんです。遺伝子プールがこうだから。
なんで遺伝子プールがこうなのかというと、環境圧力に適応できなかった人は子孫を残さないうちに死んできたからですね。単純に、そういう遺伝子が残らなかったから。つまり、日本にいて生きていくにはSS型であったほうが一番効率的なのかもしれない、ということがわかるわけです。
さて、今回はあと10分の質疑の時間をとって、この講義を終了したいと思います。質問は、3人くらいお受けすることができますかね。質問のある方どうぞ。挙手を。
質問者1:テストになってないやつで、先生が「これはひどいな」と思ったような、脳に関する迷信とかってございますでしょうか?
中野:ありがとうございます(笑)。「これはひどいな」ですか。そうですね。たとえば、男女脳というのは迷信だという(笑)。
セロトニンの合成能が違うですとか、男の人のほうが空間認知能力が高いとかですね。あるいは、言語能力は女性のほうが高いとか。そういうことは、ある程度実験的にわかったデータから言えるんですけれども。
ただ、身長なんかいい例ですが、相対的に高ければ男性的とみなされますよね。ですが、女性がそういう、身長が高い、という男性的な性質を持つこともある。逆もまたしかりです。男性的な特徴を100パーセント男性が持っているというわけではなく、女性的な特徴を100パーセント女性が持っているというわけでもない。個体差はあるが、性でグループ分けして比較すると有意差がある、ということなんです。
さて、そうではないような、実験的に確かめられないような、例えば、女性のほうが感情的である、男性のほうが論理的である、とか、そういう言説があったとします。それ、まったく根拠がないですよね。実験的に調べた人っているんですかね? そもそも、「感情的」とか「論理的」って、どういう尺度で測るんでしょう? これも、扱うと儲かるタイプの擬似科学と言える。
そもそもちょっと差別的な感じですよね。差別的であることと科学的であることはまったく独立ですけれど、個人的には「女は感情的だから論理的に考える能力がない」みたいなことを連発しそうな昭和くさいおじさんを連想します。
ただ、この擬似科学問題があるので、本当に男女の違いがあっても、中野が「脳に性差がありますよ」と言うだけでおかしいと思われてしまう可能性があります。実際は、男女の体そのものにももちろん性差があるわけで。一番わかりやすいものは私が言わなくてもみなさんわかるでしょうから講義の場でいうことは差し控えますけれども。ともかく、非常に困っているという状態です(笑)。
もし、男性のほうが合理的であって、女性のほうが感情的であること証明する実験を考案できたとしたら、教えてほしい(笑)。
ほかにありませんか?
質問者2:中野教授はMENSAの会員だったと思うのですけれども。今日、授業でさまざまな脳内物質の話があったんですけれども。MENSAの会員の脳内物質って、普通の人とは脳内物質が違ったりとか、なにか違いがあったりするんでしょうか。
中野:違う可能性、ありますね。ただ、私は去年MENSAを退会しているので、元会員、なんですけれど……。たまに中野に会いたくてMENSAを受けましたっていう人の話を伺うのですが、MENSAに入ってももう中野には会えません。ごめんなさいね。
で、知能に関していうと、脳内物質では、アセチルコリンという物質が関係していると言われています。知能を担当する領域というのが、脳の中にあるんですね。前頭前皮質という、前頭葉のさらに前部分。この部分の外側に見えている、背外側前頭前皮質、DLPFCといわれるところが知能を担当する部分。
この部分は、ほかになにをやっているかというと、意思決定とか合理的に物ごとを考えるとか。それから、自分の情動を抑制するとか。そういう機能をもっているところなんですね。
ただ、この部分の厚さが、人によって違います。昔は脳のしわの数って言われていたりしたのを知っていますか? もう知らない世代かな? まあこの脳のしわの数というのも迷信ですね。しわの数じゃなくて、いま大切だと考えられているのは厚さです。
この厚さはなにによって決まるかというと、ミエリンという物質です。神経細胞には軸索という長く延びたコードのような部分がありますが、これを取り巻く脂肪の層ですね。
ミエリンが取り巻いているとなにが違うかというと、伝導速度が変わるんです。神経細胞が情報を伝える速さです。MENSAの人たちは、ここが厚いために、考える速度が速いのかもしれないですね。
じゃあ、どうしたら速くなるのか。もうみなさんの年代ではそろそろ手遅れになりつつあるかもしれない。みなさんは、20代前半くらいですよね。
DLPFCが厚くなる時代に、多くの情報のインプットがあるどうか。知的栄養を脳が得ているかどうか。知的栄養だけでなく、身体の栄養、つまり食べ物をきちんと食べたかどうか。あんまり若いうちに変なダイエットとかしない方がいいですよ。それが大きな要因として知能の高さに寄与してしまうこともあり得ますから。ご質問へのお答え、こんなところでよろしかったでしょうか?
では、次のご質問? こういう場ですと、だいたい1問ぐらい真面目じゃない質問をする方がいらっしゃるんですけども、やっぱり上智大学の学生さんって真面目なんだなと感じますよね(笑)。
質問者3:好きな食べものはなんですか?
中野:そうそう。そういう質問です(笑)。すごいのになると、「胸のカップ、なんですか?」みたいな質問もありましたけど。
好きな食べものは、鴨せいろです。そばが大人になってから好きになって。おそばを食べるときはたいてい鴨せいろです。鴨肉、フランスではすごく美味しかったのですが、日本でももっとおいしく食べられるといいなと思いますね
質問者3:ありがとうございます。
中野:それじゃ、次で最後の質問ですね。
質問者4:今まで会った芸能人のなかで、一番脳内がおもしろそうだと思ったのは誰ですか?
中野:これは興味深い質問ですね。芸能人の方……。ちょっと考えてしまいますが、みなさんもそう思うかもしれませんけれども、北野武さん。
映画をお作りになるでしょう。やっぱりあの方の認知というのは、空間認知が優れていて、そして同時性を保ちながら時間軸も行ったり来たりするんですね。こう見せると人はわかりやすいとか、インパクトがあるということを、すごくよく計算してらして。
言葉の使い方も本当におもしろいなと思いましたし、非常に速くて、言語能力が際立っているのだと思います。空間認知と言語能力の両方とも優れている人はあまりいないと考えられるのですが、武さんはそこがとても興味深いと思いました。機会があったら、中を見てみたいなと思った人の1人です。
質問者4:ありがとうございます。
中野:こんな感じでよろしいでしょうか。今日は長時間お付き合いくださいまして、ありがとうございました。
(会場拍手)
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