2024.10.01
自社の社内情報を未来の“ゴミ”にしないための備え 「情報量が多すぎる」時代がもたらす課題とは?
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実は僕が学生に、「人望とは何か?」を調べる課題を出した時、文書では一切課題を伝えませんでした。その時見せたのが『ベイブ』という映画です。 ご覧になってない方いらっしゃいますか? ほとんどの方が見ていらっしゃらない。では、かいつまんで説明しますね。 村の農業祭みたいなところの景品で、子豚が当たったおじさんがいるんです。羊飼いの家なんですけども、その子豚を家に連れて帰って育てていく。そうするうちに、子豚の「ベイブ」はだんだん大きくなっていくんですが、羊飼いは牧羊犬を必ず飼っていて、牧草地から羊たちを集めるのに、牧羊犬が走って羊を集めていくんです。 これはいわゆるシープドッグという役割なんですが、これをベイブ君がやっちゃうという話です。 そこで学んだことは何かというと、シープドッグは、のろまな羊の足に噛みついたり、ウーって吠えたり、威嚇して全体を導くんです。 ところがベイブは、足は短いし、細い道でも転げちゃうし、とにかくドジなので、羊の群れの真ん中に行って「すみませんけど、こっちに動いてくれませんか?」って頼む。それでうまくいったら、ラッラッラーとか嬉しそうに言うわけです。 このベイブを見て、「うわ、これは新しいタイプのリーダーシップの発揮の仕方だな」と思いました。これを学生たちに見せて、ここから僕は「人望という言葉が何か、ワケをもっと探り出したいんだ」という課題の出し方をしたわけです。
それで出てきたのは、「人望はリーダーシップと愛嬌が合わさらないとちゃんと成立しない」という方程式でした。まだまだこれは仮説です。でもみなさんどこかで「うちの親分は、リーダーシップは持ってるけど愛嬌がまだ足りないな」とか、ちょっと目を閉じて、自分の上司を想像してみると思い浮かびますよね。 「もうちょっとああだったら、みんな言うこと聞いちゃうのにな」とか、そういうことがあると思います。でも、逆に言うと、そう言ってるあなたにも愛嬌がないと、みんなが一緒にやってくれない。 だから、大事なこととしては、愛嬌というのは台本で教えられないことじゃないかということなんです。こればっかりは別の機会で学ぶしかない。
実は今月(10月)25日に、コンビビアル・デザイニングということで、ここのカンファレンスで開催されるイベント「DESIGN TOUCH CONFERENCE」で90分お話をしますが、そのテーマがコンビビアリティ(conviviality)なんです。コンビビアルなパワーを、そこで僕はとっても大事にしたいと思います。
コンビビアリティというのは、辞書をお繰りになると「宴会」って書いてあります。酒飲みの宴会です。
これ僕は「意味が違う」と思っていまして、要するにコンビビアリティの本質は、実はこの「懇親力」だろう、と自分なりに訳していまして、授業なんかでは特権を使って、「そういうふうに考えろ」と学生に言っているもんですから、「コンビビアリティって何よ?」と言うと「懇親力じゃない?」とみんな言うようになりました。
教育力というのは恐ろしいもので、僕が間違えてると僕の学生も全部間違っちゃうという、恐ろしいことをやっているわけですが、現実的にコンビビアリティというのは懇親力、例えば会議をやっても、必ずあとに「懇親会」がセットされています。
実際、宴会なんですけども、先ほどのリーダーシップや、メソドロジーはちゃんと確立してるかもしれないけど、そこに愛嬌を足す。
あるいは、カルッカイネンさんにアルコールが入った状態で「さっき言ってたことだけどさ、本当は難しいんでしょう?」とか聞いてみる。そうすると多分、「これは簡単だけど、こっちは実はとても大変!」とかって言ってくると思う。その時のカルッカイネンさんは、きっとすごく愛嬌があると思います。それはコンビビアルな場だから言えることなんです。
僕はいろんなことを混同しているまずい人間なんですけど、こういうちゃんとした場で、あるいは国会演説で冗談言うバカはいませんよね。そういうところから考えると、ちゃんとやることと、「その心は?」と聞くことがセットにならないと正しいことが見えてこない。
コミュニケーションが大切だと先ほど結論付けられて、人とのコミュニケーションがリーダーシップとイコールだということですが、『「すみません」の国』という本がありまして、無性におもしろくて今読んでいるんですが、みなさんも関心があったら読んでください。 その中にコミュニケーションと英語で言うけれど、日本とヨーロッパでは意味が全然違うということが書いてあります。
それは思い当たる節があって、みなさんもコミュニケーションは、話をすればコミュニケーション、通じ合えればコミュケーションと思っているかもしれませんけれど、そのためには実はとてもたくさんの山を乗り越えないといけないというんです。
簡単に概説で言いますね。日本のコミュニケーションは、意見の対立があっても「いや、お前と俺と結局、同じこと考えてるんだよな」とか言って、せっかくの論争点を曖昧にして終わる。これが日本のコミュニケーション。
これに対してヨーロッパは、「ここお前と違うけど、ここ大好き」とはっきりさせてくる。この辺が全然違うものですから、外国人とはなかなかコミュニケーションできません、日本人は。いいですか?
せっかくさっきまで違う、NOと言って、こっちはYESと言ってるのに、コミュニケーションしたら「YESとNO一緒やで」と言っちゃうんです。これじゃ先に議論がいかない。よってディベートは日本人向きではありませんね。
そういうことを面と向かって「何でも海外がいい」と取り入れている日本がおかしい。私たち日本人には、私たちの納得の仕方があるわけ。
何か? 懇親会ですよ。飲まなきゃダメですよ。
(会場笑)
何で会議の後に懇親会があるか? 展覧会のあとに打ち上げがあるのか? パフォーマンスやっても打ち上げやるじゃないですか。千秋楽のあと飲み会があるでしょ?
あれは何かということです。そのことを考えてほしい。つまり、文脈なり脈絡、コンテクストというものを逸脱すると、いろんなことがわかってくるということなんです。
その脈絡を外すために、別の場「ここまで見ていただいた方ありがとうございます。では、ちょっとお席を変えて」というのは、どういうことか? 席を変えるということは、コンテクストを変えようということ。
何も飲まないで喋ったところに、何か取り入れて、ちょっとほろ酔い加減になって、それで「さっきの難しい話だけど、かいつまんで言ってよ」と言ったら、「まあこういうことだよ」とか教えてくれます。
でもそれがあって初めて、小難しい話がわかるということです。こういうふうに、だんだんと興奮してくると、僕はとんでもないことを言うので、この部屋から出たらそういうこと言ったらいけませんよ。さっきそういう約束だったじゃないですか?(笑)
ここから最後のお話になりますが、「クリエイティブリーダーシップ」の要件を、かいつまんでお話をしたいと思います。
実は、僕はデザイン分野から初めての武蔵野美術大学の学長だそうです。
デザイナーを、みんなクリエイターだと思っているかもしれません。実は家内がクラシックバレエのダンサーだったということを考えると、彼女はアーティストなんですね。アーティストというのはやはり「人生かけてここでやってるんだ。パフォームしてるんだ」という話になって、やっぱり命がかかってるわけです。
これからするとデザイナーは、クライアントという、「命はかけんでもいい。俺の言うこと聞け」という人が必ずいるので、ちょっと違ってくる。そこから考えると、クリエイターというのは、実は命がけのすさまじい人々なんです。
アーティストは、要するに命をかけてるすごい人たち。この人たちと付き合うのは非常に難しい。ちょっと何か顔を見て、この人わからないだろうとなったら相手にしてくれません。
そういう中で、僕はいっぱいプロデュースしてきましたが、自分の体験からわかるクリエイターと付き合うのに最も重要なことは「寛容さ」。自分が寛容力を持ってないと付き合えない。
もう1つは、理解力を研ぎ澄ましていかないといけない。わからないことをやるからクリエーションなのでね。みんなが「わかったわかった」と言ったら、それはクリエイティブでも何でもないです。
最初にやることは理解してもらえないんです。これを噛んで含んで説明していって、「もうしょうがないから作ってしまえ」と作って、「ああ、それをやりたかったのか」とか言われて、ようやくわかってもらえるというのがそのプロセスですから。
そういう意味では、向き合っている人に対しての寛容さがないといけないし、理解力もないといけない。これは明らかに今叫ばれている「グローバル」と似ています。
グローバルであるためには、やはり寛容さを持っていないといけない。自分と違うから排除するということではグローバルは成り立たないです。それから、連想しながらわかる力、理解をしていく力。本当はこの言葉使いたくないですが、理(ことわり)を解するんじゃなくて、腑に落ちる。自分に、「腑に落とす力」みたいなわかり方を持たないといけない。
もう1つ、クリエイティブリーダーシップの重要なポイントは、「ポジティブに妥協しましょう」ということです。日本の言葉でいう妥協は、とってもネガティブな意味を持っている。
思ったことを100パーセントできれば、さっきパフォーマンスは最大限に発揮するって言ったじゃないかとなるけれど、でも基本的にはどこかまでしかできないということに対して、もうちょっと頑張ろう頑張ろうとやった、最後のパフォーマンスなのであれば、ポジティブにそれを認めていく。
ある意味においてのポジティブな妥協を積極的にやっていく必要があるだろうと思います。
究極の言葉ですけれども、やはり上手にマネージメントをしないと、たくさんの人がたくさんの勝手なこと言うので、そんな人たちをまとめていけません。ルールを作るなど、様々な方法がありますが、マネージメントに従事する人は、「堅い意志と柔らかい頭脳を持つ」ように心がけないとだめだろうと思います。
組み合わせるには、これしかないですよね。柔らかい意志と柔らかい頭脳だとめちゃくちゃになっちゃうし、堅い意志と堅い頭脳だと「お前あっち行って」ってなっちゃう。だからこれしか残ってないわけですが、そういうことをいろいろと考えてきたわけです。
とにかくクリエイティブな人と付き合う、クリエイティブにリーダーシップを発揮していくためには、大事なことは「寛容さ」と「理解力」と、そして「ポジティブに妥協できる力」というのが、ちゃんとないと最高のパフォーマンスを作り上げていく、そのプロセスは維持しきれないだろうと思います。
ちょっとおまけです。実は僕が40年ほど前に、イギリスのロイヤル・カレッジ・オブ・アートの大学院で研究していたところから出てきた、僕のデザインの定義のダイアグラムです。何千点というダイアグラムや図に見えるようなものを集めて、それを分類しながら「図の図」というものを描こうとしました。
図の世界というのは、どんな体系図に描けるんだろう。これなんですが、この説明を今日やり始めると、これからあと1時間、お時間をいただけなければいけませんので飛ばします。ちょっと見ておいてください。
真ん中に「意図」という言葉がありますけど、あれがいわゆる身体に当たります。人間の身体が真ん中にあって、それを基軸に表現をする、「意」を「図する」かたちで表現をする、必要ならば、コーディングをしてそれを合わせて表現をしていく。
そしていろんな情報を私たちは外の世界から取り込んでいくということから、導き出した僕のデザインの図なんですが、この真ん中にある「意図」。ここが重要なんです。
人が何かを演じるとか、何かをするということは一体どういうことなんだろう? あなたは今ここで手を挙げましたね? それには何かの意図があったのね。例えばみんなの注目を集めたいとか、あるいは賛成、反対だったら手をあげてくださいという意味だったと。
これには「意図」が働いています。その意という言葉に今日は特に注目したいのですが、「意」という漢字をご覧いただくと、「心」という字と「音」という字が書いてあります。実は心の中では、ある音が鳴っているんです。それが「意」です。
だけれども、あなたの隣に座っている人、その人がどんな「意」を持っているかというのはわからないですよね。心の音は聞こえない。だからそれを上手に身体の外に出しましょう、ということが実は表現の原点だろうと思います。
そのやり方はたくさんあります。絵を描く、字を書く、踊る、歌う、文章を書く、立体を作る、やってみせる、全部心の「音」を外に出す方法です。それで初めてその隣にいる人は「ああ、あなたそういうこと考えてたんだ」ということがわかります。
自分の中に閉じ込めておくだけなら、何を考えていてもいいんですが、それではコミュニケーションは成立しないし、隣の人もわからない。ですから僕は、リーダーシップを発揮する時には、まず「心の音を聴け、そして、それを体の外に出せ」と言っています。
それが表現の原点だろうと思うんです。心の音というのはたくさんある。どんな音かわかりません。それを外に出して初めて、その人が考えていることがわかって、私たちはこんなことに気が付きます。
「We are all different. We are all special.」私たちはみんな違う。でもみんな特別。だってみんな「心の音」は違うんですから。それをしっかりと外に出していくというところを、みんなの共通の了解事項にして、ひとかけらの愛嬌を持って、ある1つの大きなプロダクションを完成させられればと思います。
今日はカルッカイネンさんのレクチャーにも刺激されて、明日からの僕はちょっと変わっていく、もう確実に自分の中で何かが沸き起こっています。そういうことで僕のレクチャーを終わりたいと思います。どうもありがとうございました。
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