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フロントジッパー 2代目社長が語るコンプレックス

「水中ニーソ」で知られるデザイナー・映像作家の古賀学氏が中野・Bar Zingaroで毎月開催しているトークショー「月刊水中ニーソ」。2015年6月に開催されたイベントでは、フロントジッパー競泳水着で話題になった水着メーカー「REALISE」の中村圭介氏との対談を行ないました。このパートでは先代から2代目REALISE社長を引き継いだ中村圭介氏が「フェチ」や「アート」「オタク」に対して抱えていたコンプレックスについて語りました。現在では「普通だったからできた」と考えるようになった中村氏ですが、2代目社長になった当時は考えるところも多かったようです。

「ジョジョ」や「エヴァ」をヒントにしたカラーリング

中村圭介氏(以下、中村):これが今試作中のもので、曖昧☆美少女アート展で赤根京さんが着てくれてたもののヒントというか、プロトタイプで作っていたものにもうちょっとかわいい要素を足そうというので、パイピング仕様にしたものです。

なぜこのカラーリングかというと、フロントジッパー競泳水着が祭りになったときに「ジョジョの奇妙な冒険」のブチャラティというキャラクターの画像を上げてる人がいて。僕はあまり詳しくないですけど、ジッパーを使うスタンドなんでしょう?

古賀学氏(以下、古賀):そうです。

中村:なので、それを足したら面白いということで、知らないところでブチャラティも祭りになってて。そのブチャラティのカラーリングが白×紫だったので、一応ネタで作ってみました。

古賀:これは商品化は間近?

中村:間近ですね。今はまだロゴが入ってない状況で、今朝届いたのでここまで開けずに持ってきました。伸びもいい素材なので使いやすいかなと。カラーリングも5パターンぐらい用意しようと思います。これはブチャラティをイメージしたカラーですけど、例えばエヴァンゲリオンのアスカのプラグスーツに似たようなカラーリングとかもありかなと。

そういう2次元との調和のようなものも重要な要素だと思っているので、その辺を意識したカラーリング展開をしようかなと思っています。

「普通だからできた」と思えるようになってきた

古賀:先代と違って中村さんは、絵に描いてもらうとか、すごい好きですよね。

中村:そうかもわかんないですね。

古賀:でも、オタクでもないんですよね?

中村:僕は普通です。文字通り普通。

古賀:ノンケといわれるやつですね。

中村:そうですね。すごくざっくり言うと普通の中学校にいって、普通科の高校にいって、普通の大学中退して、今に至る、みたいな。だから僕自体は普通だと思っているんですけど、周りから見るとたぶん普通じゃないよと言われる。

古賀:普通の人はフロントジッパー競泳水着は作ってないですからね。

中村:そうですね。だから普通な人が、一応それなりにマーケティングして、こういうのが求められているんじゃないかとか、こういう要素を足したら楽しいものになるんじゃないかっていうところがベースになっているのかもわからないですね。

古賀:いわゆるアーティスト的なコンプレックスとか、葛藤とかってないですか?

中村:最近は「普通だからこれができた」って思えるようになってきたんですけど、それまではアーティスティックなものを作らないといけないとか、作りたいとか、そういうコンプレックスがあったのかなとは思いますね。

古賀:先代を引き継ぐという、ある意味巨大なコンプレックスもドーンとあるわけですよね。

中村:そうですよね。でも今は普通で良かった。良かったというか、普通でもできるんだなと思いましたね。結構真面目に言ってみましたけど(笑)。

古賀:あまり普通じゃないですよね。

中村:ど、どうなんですか?

オタクに対してのリスペクトがある

古賀:本橋さんは、若いアーティストとかをいっぱい見てきた人として、中村さんは普通だと思いますか?

本橋康治氏(以下、本橋):先代として、ある意味リビドーとかコンプレックスが反映されたもの作りをやっている人がいて、そこに追い付きたいけど追いつけないというのが、1つのバネになっている感じはありますよね。

普通の人がフェチの世界に近づこうとするんだけど、そこでどうしても芯を喰えない感じがあって。でも、そこで努力をして、たまたま面白いものが見つかっちゃうっていうのが、すごい面白いなと思っていまして。

前回の青山裕企さんが、本当にコンプレックスをバネに作品を作ってる人で。それこそ個展の会場で、お客の前に出れなかったっていう話がすごく面白かったですけど。

古賀:デビュー展の会場で、在廊はしてるけど、ずっとバックヤードにいたらしいんですよ。

中村:何のためにやってたんでしょう(笑)。でも僕も、1ヶ月か2ヶ月前に古賀さんからこのお話をいただいて、「俺、何も語ることないっすよ」って正直思ってたんですけど、逆に、「普通でもこういうものを作れるんだ」という方向性に持っていけば、何かお話できることがあるのかなと思ったので参加させてもらったんですけど。

古賀:ゲームに例えると、ゲームのスタート地点がまっさらなところじゃないわけじゃないですか。師匠についてまわるシーンから始まって、いきなりステージ2で師匠が死んでしまって。そこから自分のプレイが始まるんですよ。

本橋:巻き込まれ系のキャラですよね。

中村:ちょっと普通じゃないですね。その人生。

古賀:ゲームとしてはあまり無いパターン。ただ、ちゃんとしてますよ。フェチとかオタクを全然馬鹿にしてないじゃないですか。

中村:そういう意味でも、すごい普通だったんですよ。全くそういう壁がなくて、例えばフェチのものを見たとしても、「あ、こういう世界があるんだ。ポイッ」じゃなくて、「どういう人がやってるのかな?」とか。人間にすごく興味があるんですよね。大学では民俗学とか心理学とかを勉強していたので、「日本という国民は」とか「こういう県では」というところは、すごく興味があるところだったので。

だから、掘り下げていけたのは、そういうところにあるのかもわからないですね。馬鹿にとかじゃなくて、むしろすごい尊敬してます。

古賀:オタク商売とかエロ商売とか、その顧客を馬鹿にしている作り手さんもいなくは無いじゃないですか。それはいかんなぁと思うんですけど、中村さんはオタクを下に見ないで、むしろリスペクトしかない。

エロかどうかは、よくわからなくなってきている

中村:いやほんとに。ありがとうございますっていう感じです。さっきお話しさせてもらったんですけど、自分の中にチャンネルが2つあるんですよね。素の時にこれを見て、「誰が着てくれるんだろう?」とか俯瞰で見る時があったり。

仕事モードの時でも、鳥瞰視しないと自分の立ち位置がわからなくなっちゃうので、引きのアングルで見て「自分の立ち位置はどこなのか?」とか「誰が求めてくれてるんだろう?」という問いかけは、普通なりにしています。その辺は普通でできることだと思います。

古賀:でも、憧れてなれる立場でもないですからね。「中村さんが普通なんだったら、俺もエロ水着屋を始めよう!」とはならない(笑)。

中村:みんな絶対ならないでしょ。なれないというか。ほんと偶然なので。人生何があるかわかんないなって感じです。

古賀:でも、2代目が引き継いで面白いものを作ろうっていうときに、全部にリスペクトがあるからクオリティはとにかく高くないといかんし、エロくなくなっても困るし。

中村:そうですね。その辺で、最近女性にとってのエロに対するハードルが下がったというか、理解が深まったというか。時代の許容範囲が広がったっていう感覚があるんで。

古賀:エロいかどうかも定かじゃないですけどね。

中村:それはもう、自分がその中にいるので、よくわからないですよね。その味になっている煮物みたいな感じで(笑)。

味見しすぎて味がわからねぇ、みたいな感じですね。鳥瞰視した時も「これはエロいものだ」と思ってるんですけど、正直僕自体はエロいとかじゃなくて、「似合ってるか、似合ってないか」という判断になってしまうので。

競泳水着愛好家に「NO」を言われるほうが怖い

古賀:中村さん自体が「オカズ」にしてない感は、すごいありますよね。

中村:そうですね。そういう部分がないと、たぶん表に出せなかったんじゃないかなっていうのもあるんですけどね。

古賀:なるほど。僕が浅草橋から電話して、「中村さん、出ませんか?」って言ったときに、これが中村さんのフェティシズムの図星だったとすると、出ないですよね。

中村:たぶん出ないですね。もしそうだとしたら、青山さんみたいになってるんじゃないですかね。自分はバックヤードから出ないっていう。

古賀:ある意味「恥部」をいっぱい持ってて。ただ、青山さん的には恥部を展示して、その矢面に立つことで乗り越えていく……というか乗り越えない。

中村:付き合っていくってことですか?

古賀:劣等感は抱えたまま生きていく、みたいな。

本橋:それが表現の原動力になっているところがありますよね。

古賀:でも劣等感そのものが時代とともに変容しているから、果たして劣等感がクリエイティブなエンジンとしてずっと機能するのかどうかもは怪しいですけどね。

中村:劣等感でいうと、全然ありますけどね。

古賀:中村さんの場合は、逆にフェチの人が怖いという劣等感じゃないですか。競泳水着愛好家の人たちに「NO」を言われる方が怖いわけで、リア充に「変態」と言われても痛くも痒くもない。でも愛好家の人たちにスカンされたらしょんぼりしますよね。

中村:うんうん、確かに。

REALISEの今後は海外への注力も

本橋:REALISEさんの今後、次の路線っていうのは?

中村:もうちょろちょろ出ちゃってますけど。先ほど古賀さんがおっしゃったように、スーパーフラット、ボーダー自体が各部分でなくなってきているというのを感じていて。国境だったり、そういうのは全部ネットが普及していくことによってとっぱわられていると思うので、海外に向けて、もうちょっと力も入れていけたらなぁと思っています。

そういうところに日本の文化とかエッセンスとかを混ぜていけたら、もっと面白いことができるんじゃないかなと。

古賀:REALISEはすごく日本人っぽいですよね。外人というか、白人は作らなそう。

中村:そうですね。外国の方はやっぱり速そうなやつを好まれるんですけど、「日本人が作ったらこうなんだ」というところ、メイドインジャパンというのは強みなんだと思います。

僕が日本が好きで手ぬぐいを作るぐらいですから、日本の顧客にももちろん好かれて、それが拡散して海外に飛び火してっていうストーリーは容易に想像つくので、最近はそれを念頭に置いてもの作りをしてます。

古賀:海外のファンが多いですもんね。

中村:はい。ありがたいことに。

本橋:例えばなんですけど、古賀さんと(口枷屋)モイラさんとREALISEのコラボが曖昧☆美少女アート展でありましたけど、新しい表現の上での接点みたいなものはありそうですか?

古賀:中村さんとはダイレクトメールとかメールでいろいろリークはし合っていて、さっきの水着のニーソのパターンを前もってリークしてたら、今、同じ色に見えるラバー加工のブルーが出せないかと研究してくれていて。

REALISEの水着で水中ニーソニーソを履くと刺さるんじゃないかな、みたいなことができるといいですよね。

中村:そうですよねー。

本橋:それは女子がメチャクチャ反応するでしょう。

中村:いてくれたらいいな。

古賀:あと、もっと先のやつを作れませんかねーって言う雑談はいっぱいしてます。

本橋:生まれる可能性はあるっていうことですよね。

古賀:そうですね。

中村:楽しみです。

古賀:まだかなり漠然としてますよ。

中村:そうですね。今と同じような状態で、収拾ついてないんで(笑)

(会場笑)

本橋:でもまぁ生まれる可能性はあるよと。

古賀:可能性はあります。

中村:そこは乞うご期待ということで。

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