2024.10.01
自社の社内情報を未来の“ゴミ”にしないための備え 「情報量が多すぎる」時代がもたらす課題とは?
本田哲也氏講演(全1記事)
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皆さん、こんにちは。さっそくですが、世界で最もクリエイティブな国はどこだと思いますか? この中のどの国だと思いますか? アメリカでしょうか? 今日はさまざまな国籍をお持ちの方々にお集まりいただいているので、皆さんの出身地によっても回答が変わってくると思います。
アドビが行った最近のアンケート調査によると、正解は「日本」です。日本が世界で最もクリエイティブな国として認識されています。そして都市で分類した場合、東京がニューヨークを抑えて最もクリエイティブな都市とされています。
皆さんモノクル誌をご存知でしょう? 最近モノクル誌は東京を世界で最も住みやすい都市として位置づけました。
つまり世界の3分の1の人々が日本、そして東京はクリエイティブであると認識しているということです。とても嬉しいことですね。しかし実は日本人はそうは思っていない。日本は自身をどういう訳か、低く見積もっています。
2020年までにその状況が変わっていることを願っています。皆さんご存知の通り、2020年に東京オリンピックが開催される予定だからです。
それはさて置き、要は世界の大部分の人々が日本はクリエイティブな国であると認識しているということです。一体それはなぜなのか、これが本日のテーマです。なぜ日本はそれほどクリエイティブであるのか、そしてその裏にある要因は?
それが今日私がお話したいことです。このプレゼンが終わる頃には、皆さんの持つ日本と日本人に対する認識が少しでも変わることを願っています。
新幹線を皆さん見たことがあるはずです。正確に言うと、こちらの東海道新幹線は世界でも知られる日本の超特急列車で、毎年12万本が運行しています。1本の運行につき平均遅延時間はどれくらいだと思いますか? 答えは36秒です。
つまり、日本人と日本はその完成度と完璧主義で知られています。日本の典型的なイメージですね。しかし我々は常に完璧を目指すのでしょうか? 常にすべてのことに完璧を求めてきたでしょうか? 答えは「ノー」です。
こちらをご覧ください。完璧なものに見えますか? 恐らくそうではないでしょう。約500年ほど前、千利休という茶人がこのような椀を生み出し当時の流行となりました。このような椀はわざと不完全でいびつな形に仕上げられました。
「完璧に完璧を拒否する」これが日本の創造性を説明する最初のキーワードです。「完璧に完璧を拒否する(Perfectly Rejecting Perfection)」、これをここではPRPと呼ぶことにします。このほうが覚えやすいでしょう? 私達日本人は完璧を少しだけ崩したものに美を見出します。そしてこれは神道に由来します。日本の古い宗教です。
今日この会場の中で神道を信仰していらっしゃる方はどのくらいいるでしょうか? はい、聞く前から答えはわかっていました(笑)。今日は日本人の方が少ないですから。私自身意識的にも無意識的にも神道を信じています。
それはさておき、神道では人間は決して完璧になることはない自然と深く繋がっているとされています。そして神道によればすべてのものが神なのです。神道では800万の異なる神が存在するとされますが、これはまさにPRPです。
神道は少し置いておいて、今日の世界を考えてもコンテンツや情報に溢れてノイズが多すぎますよね。もしあるひとつのものが完璧過ぎたとしたら? 完璧すぎるものは逆に誰も目に留めなくなります。完璧過ぎてそこに目がいかない、人が注目しないものになるのです。
つまり今日のクリエイティブとコミュニケーションの世界でPRP、完璧に完璧を拒否する、という概念が重要な役割を担う、ということなのです。
それでは日本のPRPの例をいくつか見てみましょう。これは日本の女子高生です。彼女たちは制服を少しだけアレンジしています。彼女たちは彼女たち独自のやり方で完璧を拒否しているのです。
そして「ゆるキャラ」といった日本のポップカルチャー、「かわいい」文化の中にPRPという概念が生きています。ゆるキャラとは意図的に少し崩してつくられたご当地キャラクターを指します。
くまモンを見たことがありますか? この赤いほっぺの黒いクマは「くまモン ほっぺ紛失事件キャンペーン」で世界的なPR業界賞で賞を受賞しているのです。私はくまモンがカンヌライオンズで最も有名なゆるキャラになると思っています。
そして絵文字は世界を変えています。コミュニケーションのあり方を変えているのです。絵文字もまた意図的にデザインされたPRPの概念を用いています。LINEをご存知でしょうか? これもまた皆さんのご出身国によると思うのですが。
LINEとは日本で生まれた急成長するメッセージアプリケーションです。LINEは人々の生活に深く浸透しており、アメリカで言うところのWhatsAppのようなものです。LINEの世界中のMAU(月当たりのアクティブユーザー数)は2億です。
LINEがユニークであるポイントはスタンプにあります。スタンプでいかなる気持ち、感情をも表現することができるのです。LINEでは奥さんと話をせずに、更には文字を打ち込み文章をつくることなしに喧嘩をすることだってできるんですよ!
これは私の個人的なLINEのメッセージで、数週間前に起きた妻とのやり取りの様子です。LINEのおかげで私の人生は以前よりも良くなりました(笑)。
(会場笑)
それではここでLINEの企画担当者のお話を聞いてみましょう。
大事な人とのリアルタイムのコミュニケーションをどのように行うか。テキストだけでなく、スタンプ、絵文字、顔文字などを使って、非言語コミュニケーションを取るための方法を提供している点が、LINEならではの独自性だと思います。LINEのスタンプは、意図しすぎたゆるさというより、ユーザーが使うシナリオを考え、開発している我々が社内でテストバージョンを作りながら実際に使ってコミュニケートするのです。
なんとも言えない、ユルイというか微妙なニュアンスがあります。そのニュアンスはテキストでは表現しづらいですが、このスタンプだとよく表せるのだと思います。
LINEは間違いなく世界を変えており、そしてこれもまたPRPの概念によってデザインされたものなのです。
皆さんも見たことがあるはずです。東京での通勤ラッシュアワーの駅です。都内のほとんどの駅はその時間帯このような状態になります。人々は列を乱すことなく整列することが、当たり前のルールとなっています。
2011年に起きた大地震の頃を覚えていらっしゃる方もいるでしょう。非常時下であっても規律を守る日本人の姿が当時世界で広く報道されました。ここでも疑問は、私達は常に規律を守るか、常に規律的行動を取るか、ということなのですが、答えはノーです。
私達もこのようにクレイジーになることがあります。私達だって非常にアグレッシブにクレイジーになることだってあるのです。そう、我々は「インナーチャイルド(内なる子供)」を抱えています。
このように律されてルールに縛られた日本人と日本社会の深いところにそれはあるのです。では、我々はいつどのタイミングでインナーチャイルドを全面に出すのでしょうか?
日本には我々のインナーチャイルドを持ち出す特別な機会があります。一般的なのは、このような飲み会の場です。もし上司に「今夜は無礼講だ!」と言われたら―無礼講はブレイク・タイムと発音が似ていますね―、我々は自身のインナーチャイルドを全面に出して構わないということです。すると最終的にはこうなります。
(会場笑)
そしてカラオケ。カラオケも世界を変えてきましたが、これがもうひとつ日本人が自身のインナーチャイルドを解放する場です。皆さんには信じてもらえないかもしれませんが、最近日本では多くの人が一人でカラオケをしに行くようになりました。私はやりたいとは思いませんが。そして50歳以上の女性でもこのように自身のインナーチャイルドを解放しているのです。
ここで私が言いたいことは、日本はインナーチャイルドの国であるということです。インナーチャイルドを解放することで日々の生活から少し息抜きをするというシステムになっているとも言えるでしょう。「インナーチャイルド」、これが日本の創造性を説明する第二のキーワードです。
例えば、こちらをご覧ください。これは明らかにインナーチャイルド的思考を表しています。これはトマトをウェアラブルにすることでトマトの機能的便益をアピールする目的でカゴメが実施した「ウェアラブルトマト」キャンペーンです。とてもクリエイティブでインナーチャイルド的アイディアです。
時にインナーチャイルド的アイディアは日本のクールなテクノロジーによって強化される必要があります。これについての最適な例、こちらは皆さんもご覧になったことがあるかもしれません、ドコモのキャンペーン、「3秒クッキング 爆速エビフライ篇」です。
皆さんご存知でしょうから、今日はこの動画は再生しませんが、これを制作したクリエイティブチームから先日エビをコントロールするのがどれだけ大変であったかを聞きました。空気圧そして空気抵抗の関係でエビが四方八方に飛んで行ってしまい、エビが飛ぶ方向をしっかり制御するのに丸一日かかったとのことでした。素晴らしい。
ではここで、インナーチャイルドの概念について語るクリエイティブな人々のお話を聞いてみましょう。まずは世界でも知られるクリエイティブ・スケートボーダーの宮城豪さんです。
自分は面白いことをしたいというのがあって、スケボーで。で、面白いことって予想外のところから生まれると思うんですよ。計算されてないところ。自分の子供の部分っていうんですかね、なんかそういうところをさらけ出していって、そういう子どもの気持ちになって、そのスケボーしていると、自然と面白いことが生まれるっていう。
ただその、子どもの心で面白いことが生み出されても、子どもの状態のままだったら形にならないですよね。その子供の自分が生み出したものを大人の自分が少しずつ研ぎ澄まして、時間かけて形にしていくというその対話ですね。
彼はインナーチャイルドと大人としての自身の対話について語っています。つまり2人の自分が自分の中で協力してこれまで見たこともない新しいものを生み出す。とても興味深いですね。
次に、今日本で話題のユーチューバー「はじめしゃちょー」です。これからご覧いただきますが、彼はとてもクレイジーな試みをたくさんしています。彼のファンは100万人以上です。では、ご覧ください。
高校の時から、動画を撮るのが好きで部室で友達とズボンを脱がずにパンツを脱ぐ動画とか、元々動画撮るのは遊び感覚でやっていたので、コーラにメントスを差すという。粉々にして、温めて、くっつけて棒状にして、それを2リットルのコーラに差すというのが、すごい再生回数が異常で、完全に桁違いに再生されていて。家庭が割と厳しい家庭で、「あれするな」「これするな」みたいな、子どものころできなかったことを今、大人になって全部自分の責任で楽しくやっている。
クレイジーですが、彼はしっかりと教育を受けた好青年です。彼もまた同じようにインナーチャイルドについて話をしています。彼の場合は厳しい家庭に育ち、抑圧されていたことで、インナーチャイルドが育ったということでした。
PRP、完璧を完璧に拒否する、というコンセプトとインナーチャイルドの概念を合わせて生まれるものを、私は「ネクストステージ・クリエイティブ」と呼びます。これは、オリジナルを多くの人がコピーしていくことで成長するクリエイティブです。
PRPによってオリジナルにはカスタムできる余地が与えられます。そしてインナーチャイルドの概念により人々はオリジナルのもつ精神を遊ぶことができる。「クリエイティブにオリジナルをコピーする」ことで増幅していくわけです。
ところで皆さんラーメンはお好きですか? きっと好きな方も多いはずです。日本のラーメン文化もまた世界を変えつつあり、ラーメンは世界中で愛されています。私ももちろんラーメンが大好きです。ラーメンの世界でもネクストステージ・クリエイティブという概念が重要な役割を担っています。
日本には数えきれない数の種類のラーメンが存在します。その数は多すぎて誰も正確な数を数えることができません。様々な種類のラーメンが生まれるのは、オリジナルをコピーし、他の要素を取り入れていく人々がいるからです。
日本で有名なラーメンクリエイター、宮崎千尋さんのお話を伺ってみましょう。彼のラーメン店は2015年のミシュランガイドに載っています。では、動画を見てみましょう。
各国料理のミックスというか、そういうものがラーメンだと思っているので、それを日本人が独自に発展させたものがラーメンかなというところで、凄く自由な表現ができているので魅力があるんじゃないですかね。僕はレッドオーシャンは嫌いなんですよ。だから「ベジそば」を作ったんですけど。マネじゃないですか? 真似をしてその引き出しを一杯増やして、その中からオリジナルみたいなところの再構築が上手になってきます。ラーメンってそういうものだと思います。そもそも各国料理なり、他の店のラーメンなりを勉強して、勉強したことを自分の中で咀嚼して、再構築して、表現していくということだと思うんですよ。
ここでポイントとなるのは、彼がクリエーションのプロセスを語っていることだと思います。まずはオリジナルをコピー、真似をし、触発され、オリジナルのあり方を真に理解し、そこからまったく新しいものを生み出すのです。とても興味深いプロセスですね。
最後にご紹介したいのは日本の有名なクリエイティブ・ディレクターであるNIGOさんです。彼はナイキ、アディダス、ファレル・ウィリアムズといった多くのブランドやアーティストと一緒に仕事をしています。それではネクストステージ・クリエイティブについての彼の話を聞いてみましょう。
要はミックスカルチャーなんだと思うんですよね。世界中の人が例えば、「なんか日本っぽいけど、自分の国っぽい」というか、だから割とそのクリエイティブに手を出しやすいとか。「日本のクリエイティブはすごいいい」と言われるんですけど、では実際国内でどうかというと、やはりそんなに評価はもらえなくて。で、世界中のクリエイティブとかが影響し合っていくんじゃないかっていう気はします。それはネットによって、本当に世界中のものが洗練されてひとつのものができる。
つまりネクストステージ・クリエイティブを言い換えれば、「継続的な再発明」です。
ここで日本の今日の創造性を表す3つのキーワードをおさらいしましょう。まず第一に「完璧に完璧を拒否する(PRP)」、これは神道に由来する洗練です。第二は「インナーチャイルド」、構造化され制限が多い日本社会の中にはインナーチャイルドが存在します。
これら二つが合わさり、「ネクストステージ・クリエイティブ」というダイナミックな世界が生まれます。これが3つのキーワードでした。
これらのおかげでクリエイティブを考えたときに日本は世界の中でその地位を確立していると思います。繰り返しになりますが、今日の世界にはコンテンツや情報が溢れており、ソーシャルメディアの中のコミュニケーションをコントロールすることは非常に難しい。そんな中、共同クリエーションの時代が始まります。このようにして日本のクリエイティビティは世界を変えているのです。
ここまでお話してきて、日本のクリエイティブ、日本人、そして日本人の考え方に皆さんの興味を掻き立てることができていれば幸いです。もう少しだけ日本のことを知りたくありませんか。最後にもうひとつ日本独自の考え方をご紹介させてください。日本の母親と子供についてです。
パンパースは最も信頼されてるオムツブランドの一つです。その特長は最長12時間お肌さらさら。一晩中赤ちゃんのぐっすりを約束することで、一緒に寝ているお母さんも安心して眠ることができます。しかし、それだけでは日本のママには十分ではありませんでした。過剰な価格競争の中、日本のママにパンパースを選んでもらうには、より明確な価値の提供が必要だったのです。そこで調査が実施され、日本のママ特有のインサイトが浮かび上がりました。
「赤ちゃんはみんなかわいい。けれど、正直なところ、他の子より自分の子が賢くあってほしい…」
赤ちゃんの脳は寝ている間に、起きている間に体験した記憶を整理することで、成長します。私たちは、12時間さらさらのおむつが提供する価値と、ママたちが何となく気づいている科学的事実をつなげることにしました。
「寝る子は育つ」
この古くからのことわざを、より新しい、そして脳の発育と眠りを関連づけるコンセプトとして、「脳育眠」という言葉を生み出しました。
「私の赤ちゃんには、他の子よりも社会的・知的レベルが優れた人になってほしい」と出てきましたね。日常における終わることのない完璧主義の追及、これが日本では一般的なのです。
こちらをご覧ください。お皿です。PRPの概念を用いたデザインのように見えますね。実はこれは2週間前に東京で制作されました。500年前の日本ではありません。誰がつくったと思いますか? 東京に住む私のかわいい小さなアート・ディレクターが、2週間前に迎えた彼女の1歳の誕生日につくりました(笑)
彼女は毎日私にインスピレーションをくれます。新しい種類のクリエイティビティが娘の世代、そしてその次の世代に新たな世界を、より良い世界をもたらすと私は信じています。そのためには皆さんの力が必要です。
冒頭に出てきた、こちらの写真をご覧ください。日本人女性の足にタトゥーがあります。彼女は猛烈に世界を変えることを願い、西洋のオートバイにまたがっている。しかし、注目したいのは彼女が日本の伝統のシンボルである着物を着ていることです。つまり日本はまだグローバル化できていない。
そこで皆さんの助けがいります。もっともっとPRPやインナーチャイルドの概念を日本から開放し、新しいものをつくるために。皆で共に協力し、新たなものを生み出しましょう。この後のカンヌのパーティでお酒を飲みながらでも是非お話をしましょう。インナーチャイルドを解放しましょう。「着物」を脱ぎましょう。ありがとうございました。
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