2024.12.19
システムの穴を運用でカバーしようとしてミス多発… バグが大量発生、決算が合わない状態から業務効率化を実現するまで
尾原和啓×猪子寿之(全1記事)
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尾原氏(以下、尾):ずっと前に、猪子さんが英語しゃべれないのに、外国人の女の子とネコやらなんやらの画像や、好きな音楽の曲をメールでやり取りして、イチャイチャし合ってたとか話してたじゃない。
あと、日本はレストランに入れば写真が載っているし、イラストや擬人化までされていて、めっちゃ外国人にとって暮らしやすいって話。その話がすっごく印象深くて、この間、初めて本(『ITビジネスの原理』)を書いたんだけど、この本に書いた「ハイコンテクスト」という着想は、実は猪子さんが昔から言ってた「非言語」から思いついたんだよね。
猪子氏(以下、猪):へー。
尾:その「非言語」が、ようやく今年(2014年)ぐらいから来ると思うんですよ。
猪:うん。
尾:2012年に国立台湾美術館で開催していた『We are the Future(藝術超未來)』展とかのアートがそうだけど、猪子さんがアートの中でしか実現できていなかったことが、日常だったりビジネスの中で出来るようになるタイミングが今なんじゃないかなと思っていて。その中で、「非言語」が猪子さんの中でどう変わってきてて、今後どうなっていくのかを知りたいなと。
猪:あー非言語ですか? うん、非言語好きっすね僕ね。
尾:大好きだよね。外国人女性とかといっぱい喋ってたよね。
猪:(笑)。尾原さんとかと4年前話してたのは、非言語の方が絶対にこれからグローバルになるし、非言語の方がピースになるからっていう。
尾:そうそう。最後はね、平和にするって猪子さん言ってた。
猪:その時はたまたま、恋の話から「非言語なほうがピースになる」って話をしてたよね(笑)。それはまあいいとして。いきなりなんですけど、けっこう自分は言語で物を考えないんですよね。もう言語化されている時点で嫌なんですよね。
尾:は? 言語で考えない? 言語化されている感じが嫌なの?
猪:そう。いろんな情報が言語化されてる時点で嫌なんですよね。
尾:それって、どうやって表現してどうやって伝えるの?
猪:困るよね……だから、伝えるのも苦手(笑)。言語で情報を取得するのも嫌だし、言語で物を考えるのも嫌だし。
尾:それってやっぱり記号にすると情報が抜け落ちちゃうからなの?
猪:そうですね。ローデータの方が好きですね。
尾:あーなるほど。ローデータのほうがデータ量多いもんね。自由度高いし。
猪:うん。実はね、写真とかもあんまり好きじゃない。言語よりは好きだけど。
尾:じゃあ何が一番好きなの?
猪:体感。
尾:どうせいっちゅうんじゃ(笑)。
猪:いやいや(笑)。アートでも空間でもなんでもそうなんだけど、良さが言葉や言語化されることでハンパなく説明出来るものは、最もウンコなんですよ。少なくとも弊社(チームラボ)では。次に写真で説明できるものは、ちょっとマシ。
つまり、言葉では伝わらないけど、写真で伝わるものはちょっとマシ。写真でも全然伝わらないけど、動画で伝わるものはもっと良い。そんで最強に良いのは、言葉で全然伝わらない、写真でも伝わらない、動画でも一切伝わらない。けど、体感するとハンパないものが一番良い。まあ、ただそれをみんなした方がいいとは思ってないけどね(笑)。
尾:どういうこっちゃ(笑)。
猪:伝わらないからさ。
尾:あーなるほど。再現性ないよね、伝播性も。
猪:そう。再現性と伝播性が極めて低い物。
尾:そうだよね。だってこの再現性と伝播性の2つが科学じゃない。逆にアートって、もしかしたら再現性が低いものなのかもしれない。すっごくよくわかるよ。アメリカのネバダ州にある砂漠で一週間開催される「バーニングマン(Burning Man)」という巨大イベントがあるんだけど、参加して思うのは、あれって言葉でなかなか伝えられないんだよね。
猪:しかも、そういうものは結局、世界から人が集まるじゃないですか。
尾:たしかに。6万人が世界中から体験しに来る。
猪:そういう物を作りたいんですよね。
尾:なんだっけ、あのスマートフォンが並んでて、みんなが盆踊りするやつ。
猪:ちょうど今、シンガポールでやってます。秩序がなくともピースは成り立つ(Peace can be Realized Even without Order) っていう。あれはホログラムがブワーってあって、それを歩いていっているっていうやつなんだけど。
尾:その説明が、まず表現できていないよね(笑)。
猪:こんな説明を聞いても絶対に行きたくはならないと思うんだけど、ハンパなく話題になって。「ザ・ストレーツ・タイムズ(シンガポール最大の新聞)」の、一面の半分くらい飾ったんですよ。
尾:へー。
猪:「ザ・ストレーツ・タイムズ」の一面に日本のことが載るのって、数年ぶりかなんかで。前回は日本人の偉い方が謝罪したっていう話でした(笑)。で、アートが一面っていうのはもしかしたら初めてかもしれないって言われた。ほんとに話題になって、すっごいたくさんの人が見に来てくれて。ただ新聞の一面にすげー大きく写真を載せてくれたんだけど、たぶん、その写真見ただけじゃ全然行きたいと思わないんだよね。
尾:たぶん、伝わらないんだよね。大新聞の一面になったんだから、なんか多分すごいに違いないだろうっていって、みんな行くんだよね。
猪:たまたま記者が来てくれて、感動し過ぎて一面にしてくれたんだ。「ザ・ストレーツ・タイムズ」のFacebookページのカバーフォトにも何週間か使ってくれて。でもね、全然その写真を見ても行きたいとは思わないっていう……。
尾:その点はすっごくよくわかって、例えば「ザッポス(Zappos)」っていうアメリカにある超イケてる靴の通販サイトがあるんだけど、その会社での唯一の指標は売り上げとかじゃなくて、顧客に「Wow!」って言わせたかどうかなの。
猪:ほー。
尾:この「Wow!」って何がワオなのか明確には言えないけど、とにかく「Wow!」じゃん。そんな風にお客さんにとにかく「Wow!」って言わせると、それでやっぱりファシネーション(魅了)されるし、何よりもお客さんが「ザッポスはすごいんだよ! とにかく買ってみろよ!」ってなる。恐ろしいことにザッポスって、ユーザーの75%がリピーターで、残り25%の半分は顧客同士の口コミで来るのよ。
猪:へえー。
尾:ECって普通15~25%をGoogleの広告とかにお金を払ってお客さん集めるんだけど、そこは宣伝にお金を払っていないも同然で。そう聞くと「どうやって?」って思うんだけど、その答えがさっき言った「Wow!」なわけ。全然伝わらないし、そういうのって表現出来ないんだよね。
猪:へー。なるほどね。
尾:やっぱりそれはコールセンターの人たちがとにかくマニュアルも無しに、横目で仲間の姿を見ながら、グループの中で深め合うことでしかできない。猪子さんが言っていることって、それに似てる気がした。そういうもんじゃないと今の時代、何でも簡単に差別化できちゃうからさ。言語化が出来るってことは、コピーが出来るということなので。
猪:そう。だから、そういう言語化できない部分の方が過酷な競争にさらされることもないし、自分は比較的世界にいきやすいんじゃないかって思ってる。
尾:そうだよね。もちろん体験は非言語だから。言葉はどこでも持っていける良さがあるけど、結局のところ言葉に出来ないならマネは出来ないから。マネしにくいから、そうすると必然的に競争に晒されにくいから、付加価値を保てるんだよね。
猪:と思ったんだけど、まあ、うちもギリギリだけどね(笑)。
尾:何言ってるんですか、こんな新しいビルに素敵なオフィス構えておいて。
猪:案外、自分自身も非言語で考えているんですよね。だから何を考えているのか、自分でも分からないんですよね、非言語って(笑)。
尾:だね(笑)。
猪:ウェブに興味ないわけじゃなくて、むしろあるんですけど……でも、物理空間そのものにも興味があるわけ。物理空間がデジタルのテクノロジーでどう変わっていくのか。僕らチームラボでは「物理空間の拡張」と呼んでますが、そういうアプローチを色々と実験的にしている。物理空間になった瞬間に、言語的なインターフェイスは良くないんですよね。
尾:たしかに。物理のなかには言語を入力するキーボードがあるわけじゃないし。
猪:例えば空間を複数の人々で共有して。その複数人は目的が微妙に違ったり、もしくは全然違ったり。同一のときもあるけど違ったりもして、あんまりしゃべらない。
尾:いっぺんに全員がしゃべったらコントロール出来ないもんね。
猪:なんか嫌じゃないですか。邪魔じゃないですか。そういう意味で、非言語的なアプローチとその空間をどうデジタルで拡張していくか。僕らにとってはけっこう良いなと思う。
尾:ほんとにそう思うね。世間一般の人はよくバーチャルとリアルを対立構造で考える。つまりネットをバーチャルだと思っているんだけど、むしろ逆で、リアルをより高精細にしたり、リアルをよりリアルに感じられるようにすることで共鳴し合うことができる。「ハイパーリアル」みたいなものの方が可能性があると自分も思っているし、その方が人を幸せにすると思っているんですよ。
猪:まったくそうですよね。
尾:Googleグラス(Google Glass)のことをサイバーパンクなものだとか、単に友だちとすぐにしゃべれるツールだとか、そう想像している人が多いと思うんだけど、そうじゃなくて「ハイパーリアル」なんですよ。
猪:でもね、僕ね。全然否定してるわけじゃないんだけど、あんまりGoogleグラスには興味ないんですよ。
尾:おお!?
猪:それはなんかシリコンバレーの「係」だな、と思って。
尾:つまりGoogleグラスはシリコンバレーがやることでしょと。なるほどね。わかりやすい言い方だ。役割分担だからね。わかる気がするよ。
猪:そう! 僕はけっこうシリコンバレーがやってない係をやろうと思ってて。みんなにはオススメ出来ないですけど……何故かっていうとレバレッジ効かないし、儲からないし。
尾:そうだよね。
猪:シリコンバレーとは違う係としてね、例えばデジタルのテクノロジーがどう表現の幅を広げるのか。つまり、アートみたいなものはシリコンバレーがやってないから僕がやっている。シリコンバレーっていうのは物理空間の拡張っていうより、個人の拡張なんですよね。
尾:言い換えればシリコンバレーは集団的無意識の拡張だもんね。
猪:コンピュータのCPUが個人の脳を拡張して、HDDが個人の記憶を拡張して、メモリが個人の一時記憶を拡張している。もっと言えば、キーボードも個人の意思をどうデジタル領域に伝えるか、マウスも個人の意思をどうデジタル領域に伝えるかでしょ。デジタル領域が個人を拡張するためにインターフェイスがある。個人的なインターフェイスをしてくれている。だからiPhoneのタッチパネルもそうだし、さっきのGoogleグラスもね。
尾:あくまで個人だよね。
猪:実はWebサービスもそうなんですよ。Twitterもコミュニケーションの拡張だし、Facebookも個人の人間関係の拡張だし、Googleもモノを探すことの拡張だし。
尾:言ってみれば全部が自分のパワードスーツだからね。
猪:徹底した個人の拡張なんですけど、別に自分はそれを否定するわけではなくて、あんまり興味がないだけです。僕は物理空間そのものを拡張したいんですよね。人間そのものを拡張したいわけではないんですよ。
尾:群体としてとか、集合的な無意識の発展でもなく、物理空間なんだ。個人でも集団でもなく、物理だと。
猪:そうなんですよ。空間を拡張したい。だって「木」はあると嬉しいでしょ? それが拡張されてもっと嬉しい木になるかもしれない。
尾:ふふっ(笑)。完全に禅の「公案」だね。
猪:いやいやいや(笑)。そこに価値があるんですよ。
尾:今の話を個人的に解釈すると、ポジティブ心理学に幸せに大事だといわれる「マインドフル」という概念があって、それは「目の前にあるものを、ちゃんと目の前のこととして感じられるようになるのが幸せだ」ということなんです。猪子さんが言ったのは「その木がより木であるように」ってことなのかな? 違う?
猪:違うでしょ。もっと、何て言うのかな……。
尾:だって「木」は「木」でいるわけじゃなく、「自分」と「木」という関係性の中で「木」なのだと思うけど。アメリカの考え方なのかな。
猪:だから、僕そのものがデジタル領域にアクセスしなくてもいいんですよ。それは僕じゃない誰かでもいいし、それは風でもいい。
尾:うーん、そうだなあ。本ではきちんと書かなかったけど、結局シリコンバレーの役割に対して日本的なものの役割は何かと言うと、やはりキリスト教的原理主義や個人主義に対して、多神教的分脈主義だったり集合的無意識、要は胎蔵界曼荼羅みたいなものがある。
インターネットは本質的に群発的にワラワラしたものが勝手にワラワラとリンクされる中でうごめいて全体としての形を作るので、本質的にはアメリカ的な個人的原理主義よりも、アジア的な文脈主義の方が向いてるはずなのよ。多分、日本人の自分はそういうインターネットを作れるはずだと思っている。本当はこういうことを書きたかったんだけど、それ書くと宗教の話になるから書かなかったんだよね。
猪:もはやね、僕はね、インターネットにすら興味が無いかもしれない(笑)。
尾:(笑)。
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