
2025.02.18
AIが「嘘のデータ」を返してしまう アルペンが生成AI導入で味わった失敗と、その教訓
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川上:そこらへんで思うのは、たとえばみんな、漫画だったら誰かのまねをして、まねをしているうちに個性が出てくるっていうじゃないですか。
それって平たく言うと、みんな見たものをまねで書くんだけど、正確に再現できない。そのブレの部分が結局みんな個性になっているんじゃないかなって気がするんですよね。
庵野:あとは反発ですよね。「ここはこういう風にしてたけど、僕だったらこうする」っていう。そこをベースに別のところに発想を持っていくっていう。
漫画を読んだことない人にとってはいきなり漫画って読めないんですよね。うちの親もさっぱり読めないですから。
川上:最近漫画が読めない子どもが増えているっていいますよね。
庵野:コマの運びとか、ふきだしの意味がわからない。なんでこの文字のまわりがギザギザなんだと。怒ってる表現なのか、大声の表現なのか、わからない。
四角だとモノローグで、雲のような形だとこれはセリフという、ちゃんと“音”読みをしているものに出ているんだっていう、約束事もわからないとやっぱり読みづらいと思うんですよね。
コマの流れひとつについても。右からこう、流れて、見開きのページのこっちに行くっていう。
川上:情報量のコントロールってことでいうと、『コンテンツの秘密』の中では、「情報量」は基本、多いほうがいいんだっていうのがこの理屈ですよね。
情報量が少ないほうがいいっていう場合、コントロールの基準っていうのは、どういうふうに庵野さんはやられているんですか?
庵野:お客さんに何を1番伝えたいかっていう。伝えるためにはコントロールしちゃうんですよ。
川上:つまり、多すぎるとダメだっていう?
庵野:多すぎるのはいいんですよ。お客さんに伝えたいものをごまかすときは、多すぎるほうがいいんですよ。
川上:ごまかす?
庵野:ごまかす。ものすごいいっぱい人がいると、全体で見てくれるじゃないですか。
川上:はいはいはい。
庵野:全体で「なんかここカットすげー」っていうことになるんですよね。
川上:なんか最低3つ入れるって言われていますよね。ひとつのカットに好きなもの、興味を引くものを3つ入れるっていう。
庵野:そうですね、今回アニメ見本市で鶴巻(和哉氏)がやっていたあのアニメ(I can Friday by day!)が情報量のコントロールに1番いい教科書だと思いますよ。
鶴巻は背景が白っぽいのが好きなんで、あんまり描き込まないんですよね。「フリクリ」のときもそうでしたけど。背景に関しての情報はそんなに必要ないと。
キャラクターを立てるにはこう、背景を薄くするんですよね。背景は背景としての、ここはどこですよっていう情報が最低限あればいい。
ここは部屋の中か、電車の中か、登校している最中なのかっていうのがわかればいい。それ以上の情報はいらないので。描き込まないですよね。その中でキャラクターがかわいければいい。
川上:(笑)。
庵野:かわいいための最低限の情報量で作っていて、その中の頭の中にあるメカはものすごいCG使って描き込んでいるんですよね。
細かいハンドルのところまでディティールが入ってて。パイプ椅子もきちんと穴が開いているような。そういうカチっとしたところと、ふわっとしたところを描き分けて見せる。そういうのも含めてですね。
川上:そういうのも含めて情報量のコントロールと。
庵野:エヴァの場合はなんにもないようなところと、ものすごい描き込んでいるようなところと使い分けてますから。
川上:でも、そういうように情報量のコントロールと考えていると、今のCGのアニメっていうのは、どんどんどんどんリアルに近づいていますけど、そういうのだと逆に情報のコントロールってできにくいような気がするんですけど。
庵野:まぁ、やりづらくなってますね。実写が1番コントロールしずらいんですよね。実写でコントロールしようとすると、舞台劇みたいな。
舞台劇って実際の生身の人間が演じていますけど、うしろ書き割り(セット)じゃないですか。ああいう感覚になると思います。
川上:舞台みたいなセットをやるみたいな。
庵野:そういう映画もありますけど。ほんとに舞台みたいなところで撮っている映画もあります。あれは、キャラクターとストーリーとドラマしかいらないんで、ここはどこであるっていうのは最初に情報を見せれば、もうそれでいいってことなんですね。「ここはこういうところですよ」っていう。
演出しているほうからすると、お客さんにノイズを与えたくないってときと、ノイズをばーっと入れてよくわからなくするときと、使い分けている。
川上:両方あるわけですね。
庵野:テレビ版のエヴァのときに、最低限の情報量で映像を作りたかったんですね。声が出るっていう。
16話(第拾六話:死に至る病、そして)でシンジともうひとりのシンジが会話するところなんですけど、あれのときに最低限の声の情報量ってなんだろうって思ったときに……。
まだフィルムだったんで、アフレコのときに絵がないときは線をフィルムに引くんですよね。赤い線を引いて、赤い線が映っている間はシンジがしゃべってください。青い線のときはレイがしゃべってください。黒い線のときはミサトがしゃべってください。
声優さんに「赤のときには私」「黒は私」っていう。で、波が出ているときは「わー!」と叫ぶとか。ブレスのところにも6コマとか9コマ、フィルムが途切れるんですよね。線が途切れたときが「間」っていう。
あれはほんとにすごい技術だったんですけど。ほんとに白地に黒い線だけだったんですよね。もしくは「セリフ」っていう文字が出るんですけど。
1番シンプルだったのは線だったんですよね。やっぱり線だけが1番アニメっぽくていいやっていう。
川上:(笑)。でも見てると逆に気付かないですよね?
庵野:あれはポジでやってたんで、ネガでどうやって再現しようっていうところが1番大変だったと思います。
川上:なるほど。情報量のコントロールっていうところでいうと、やっぱり情報量を消したいっていうところがあるじゃないですか。
でも実際は実写でもアニメでもどんどんどんどん細かく、リアルなものの方が売れたりしますよね。
庵野:そういうところは風潮としてはありますよね。描き込んでいるほうがいいみたいな。そういう風潮もありますけど。まぁ、そういうものだけではないんですね。
川上:それの理由っていうのを僕いろいろ考えたんですけど、鈴木(敏夫)さんが言っている「高そうなもの」を人間は好きだと。それが一般のユーザーにとっては1番重要な減少なんじゃないかなと。
庵野:アニメで描き込みが流行ったのってやっぱり80年代なんですよね。やっぱりその前にヤマトが最初ですよね。ヤマトがものすごい分量の線を。
氷川:とくに主役のヤマトの主砲とか。
庵野:最初の宇宙戦艦ヤマトでシビれたのはそこなんですよ。この線の量。こんな線の多いものがちゃんと動いているっていう。オープニングのカットを見てもシビれたっていう。
もう、あのカットで俺は一生ついていこうっていう。
氷川:単に線が多いだけじゃなくって、複雑なものが……。
庵野:複雑なものがちゃんと動いているっていう。
氷川:あれが情報量をアニメに持ち込み始めた……。
庵野:だと思うんですけどね。ヤマトまでは線をどうやって減らそうっていう。単純化しようってとこですね。ヤマトからは線がいきなり増えましたよね。
氷川:そうですね。次に増えたのがマクロスじゃないですかね?
庵野:マクロスのときは線を増やすときが楽しかったですね。
氷川:当事者ですね(笑)。
庵野:動画仕上げる人は大変だったと思いますけど。あの頃は喜んでディティール書いてましたね。ガンダム1本目の映画もディティール増やしていましたね。
氷川:パネルラインとか、マーキングをどんどんどんどん増やしていって。
庵野:ディスプレイの、モニターのデザインみたいなやつですよね。
氷川:実際僕自身がアニメファンとしても、情報量って言葉を聞いたのは1984年の劇場版マクロスの「愛・おぼえていますか」のときに、描き込みがすごいってことを他の言い方知らなかったんで(知人に)「これ、情報量がすごいんだよ」って言ったら「え? 情報量って何?」って一瞬きょとんとされたんですよね。
庵野:あのとき、アニメーターが線増やすの好きでしたからね。
氷川:当時は線ですよね。
庵野:線と影ですよね。
氷川:じゃあ、スタジオぬえっていう文化もからんでいるんですね。スタジオぬえっていうデザインに線を増やしていった人たちの。
庵野:ガンダムのとき劇場で一段影、二段影と出ましたよね。
川上:動きの情報量っていうのはあるんですか?
庵野:動きの情報量っていうのは、それはあんまり変わっていないんですよ。ただ、動かすものの情報量が変わってると思うんですけど。
川上:難しいものが動いていると情報量も全体で増えると。
庵野:あと、動きの気持ちよさっていうのも情報量の中にあって。動いてて気持ちいいっていうのはありますね。
川上:音とかも増えているんですか?
庵野:音も増えてます。昔はモノでしたけど、それからステレオになって、ドルビーになって、今は5.1だの7.1だのでいきなり後ろから音がきたりしますね。ぐるぐる音が回ったりするんで。やっぱり音の情報も増えてますね。
やっぱり宮崎さんがこないだやった「風たちぬ」は、わざわざ1.1chにするっていう。もう音がうるさいと。真ん中から出てくればいいんだと。
これはわかるんですよね。画面はいっこしかないのに、どうして他のところから音が出てくるんだろうって。「気が散る」って言うんですね。それはわかります。
僕も、1chでもいいと思うんですけど、でも1chだと音の合成とか難しくて。ちょっと散らばしたくなるんですよね。音での演奏を考えれば、7.1chぐらいあってもいいのかなと思いますね。
とくにスペクタルものは、びっくりさせるには後ろから音がわっとくると。
川上:びっくりしますよね。後ろから、わっ! と来ると。
庵野:毎回は使えなくても、ここぞというときのびっくりには使えるんでいいと思います。
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