2024.10.10
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氷川竜介氏(以下、氷川):みなさんこんにちは。アニメーション研究家の氷川竜介です。今日はようこそお越しくださいましてありがとうございます。
こっちの方ではニコニコ超会議・超言論ブースなんですけど、これから1時間「アニメの情報量とは何か」そういうお題でスタジオカラー代表の庵野秀明監督、KADOKAWA・DWANGOの川上量生会長にお越しくださいました。じっくりお話をうかがいたいと思います。よろしくおねがいします。
庵野秀明(以下、庵野氏):庵野です。今日はお忙しい中どうもありがとうございます。
川上量生(以下、川上氏):川上です。今年は(ニコニコ超会議は)過去最大。毎年(入場者数が)増えてるんで、毎年過去最大なんですけど、今年も過去最大です!
氷川:相撲もあり、自衛隊もあり、恐竜もありでなんか大変な……。
庵野:プロレスもあります。
氷川:なんでもありですね。さっそくですね、「アニメの情報量について」ってテーマのきっかけになったのはこちらの本でよろしいですね? 川上さんの新刊なんですけど。『コンテンツの秘密』という。
ここ(目次)に「情報量とは何か」というふうに書いてまして、そこについてお話していきたいと思うんですが。
川上:そうなんですよねー。出版社の人から宣伝やってくれって頼まれて。僕、宣伝嫌なんですけど、庵野さんとアニメの情報量について話すんだったら、面白いし、この本に書いていることだったら、さらに先の部分とかも話できるなって思ったので、今日こういう場を企画しました。
氷川:実際この本の中にも庵野さん何度か登場していて、とくにこれ「スタジオジブリで考えたこと」って書かれてあるんですけど、川上さんはずっとプロデューサー見習いという形でお入りになってますよね。
川上:そうですそうです。ずっと僕、仕事してなかったんですよね。ドワンゴの仕事何もしてなくて、ずっとジブリにいて。鈴木さんの話相手をずっとやってて。その中でいろいろ考えたんですよね。
ファンとしてアニメは見てましたけど、アニメの作り方とか別に考えたことなかったんですよね。
氷川:そこに通われて、中に入って……びっくりですか?。
川上:そうそう。本の中でも書いてるんですけど、アニメの現場で「情報量」って言葉がみんな現場で使われているんですよね。で、「情報量」って情報理論っぽい言葉じゃないですか。
氷川:そうですね。
川上:なんでこの言葉がアニメ業界で使われているんだってことが、一番最初にアニメの情報量について興味を持ったきっかけで。それがこの本の中にいろいろ書いてあるんですけど。
氷川:そこに書いてある、情報量とクリエイティブとコンテンツの3つの関係をこの本で考えられた?
川上:そうですそうです。それこそ、鈴木さんから聞いた高畑さんだったり、宮崎さんの話だったり、押井守さんお話だったり、庵野さんの話も。
氷川:庵野さんも出てきますよね。
川上:庵野さんにはちょっとね「いろいろと間違いがある」ということを指摘されてるんですよね。
氷川:そうなんですか?
庵野:まぁ、多少。
川上:多少(笑)。
庵野:ななめ読みしたら「ここ違うじゃん」っていうことがいくつかあります。わざわざ否定することはないですけど、間違ってますよっていう。
川上:ははははは(笑)。
氷川:間違っているのはさておいて、この本って読まれたことあります? 読まれたご感想とか。
庵野:よくわかってない人が読む分ならいいです。入門としてはいいです。
氷川:アニメで何を大事にしているかとかですか?
庵野:そうそう。表現するときに、何がどういうふうに、何がどうなっているかっていうのを紐解くにはちょうどいいんじゃないですか。
ほんと、入門にはいいと思います。
氷川:入門には。
川上:ははははは(笑)。
氷川:それは、川上さんが最初わからなかったことを解き明かしていくような感じ?
川上:そうですね。理系的に、いったいクリエイターって何をやってるんだってことを考えてみた結果ですね。
氷川:実際、中に入るまでにはこの本にも書かれていたようにストーリーを重視してたっておっしゃってたじゃないですか。
川上:そうなんですよ。僕、ストーリーのみに興味があるって自分でも思ってたんですよ。実際そうなんですけど、でもよく考えると実は違ってたってことがわかったんですね。
氷川:そこはどうですか?
庵野:でも、映像作品の場合ストーリー自体も情報のひとつなんですよね。お客さんにどれだけ見せるか、与えるか、感じてもらうかっていうのを全てコントロールするのがアニメーションだなぁと。
実写だとコントロールしきれないところがまたいいんですけど。アニメは全てコントロールできるのが良いところです。
氷川:隅々まで。
庵野:隅々ですね。ストーリーもこういうストーリーにしたいっていうのもその段階で情報をコントロールしてると思うんですよ。
複雑なストーリーにするか、単純なストーリーにするかっていう。そこに既に情報量っていうのはあると思うんですよね。
氷川:ああ、確かにね。その辺どうですか? 川上さん的には。
川上:そもそも情報量って言葉を使い始めたのが庵野さん……。
庵野:いろいろ言われていたんですけど、アニメスタイルって本が出たときに、あの雑誌は小黒(祐一郎)君っていう友達がやってて、彼が創刊するって。じゃあ、ご祝儀にいろいろ喋りましょうと。
旧作エヴァのときに、エヴァンゲリオンってアニメはどうやってできていたんですか? っていうのを話したときに「情報のコントロール」っていうのが一番大事みたいなことを話をしたと思うんですね。
あれは結構業界の人に読まれていた本なんで、あれで当時、ものすごい反発されまして。「アニメは情報なんかじゃない!」みたいな。
あのときほめてくれたのは押井さんぐらいです。
氷川:ああー。
庵野:あんなバカだと思ってたけど、実は賢かったんだっていう。
川上:(笑)。いまやみんな情報量って言ってますよね。
庵野:今は定着しましたね。あの頃は「アニメはそんなんじゃない」とか「思い」だとか「情熱」だとか。
氷川:「魂」とか。
庵野:もちろんそれもあった上の情報なんですよね。それですら僕は情報だと思うんですよ。
川上:僕もそう思います。コンテンツ作ってるのを見てると、わりと科学的に、工学的に作ってますよね。
庵野:そうです。基本的には全部計算して作っています。計算しきれないところがたまに出てくるところがおもしろいわけで。
川上:最後は感性なんだけど、その途中までは計算ですよね。
庵野:計算です。ほとんど理屈で作ります。
川上:理屈ですよね。
庵野:基本理屈です。理屈じゃないところが出てくるのがまたいいんですけど。そのために理屈が必要なんですよね。映像自体は科学的なものなんで、理屈でできています。
モンタージュっていうものも理論になってますね。
川上:まぁ、そうですね。
庵野:モンタージュ理論っていうぐらい、理屈なんですよ。映像の。
川上:なんとなく見てると、経験を積めば積むほど、理屈で作るようになっていきますよね。
庵野:そうですね。
川上:いろんな人の話を聞いていると、若い頃は感性で作っているんだけど、自分の中に持っている理屈がわからないだけで、だんだんそれがわかっていくっていうか。そういうような話ですよね。
庵野:映像の場合ってまず絵をつなぐじゃないですか。編集の前に、どういう絵を16対9の枠の中に入れるかっていう。トリミングっていうか、切り取りがあるんですけど。
切り取った後に編集っていう作業があって、その編集のときに切り取った中でさらに何かをどう見せるかっていうところに行くんですけど、そこはもちろん、見る人の感性っていうのもあるんですけど、やっぱり理屈なんですよね。
イマジナリーラインとかそういうのもありますけど。それを崩した感覚っていうのはあるんですけど、お客さんはそこで戸惑うんですよ。
やっぱりお客さんも同じ理屈の上で見ているんで。そこの理屈はお客さんと作っている人が共有しないとわからないんだろうなと。日本語っていうのも理屈なんで。
川上:でも、理屈とかって学校で教わっているわけじゃないじゃないですか。その理屈をちゃんと持っている人って全体のうちの何割くらいいるんですか?
庵野:高校のときになにか撮っていたら、そのときは別に理屈じゃないんですよね。絵コンテとかとくになくて、適当にこう来たらこう撮りたい。こう撮りたいっていうのを、フィルムが現像から上がってきたときに、こういうふうにつないだらおもしろいんじゃないか。
それは感覚でやってるんですけど、その感覚っていうのはもともと自分の中にあったんじゃなくて、子供の頃に見ていたテレビとか映画とかが、こんな感じでつながっていたっていうのを、記憶の感覚で作っているんですよね。
こういう絵の後はこういう「寄り」があった。とか。こんどはこっちの「切り替えし」に行ったほうがいいんじゃないかっていう、そういう感覚でやってるんですけど。
それを続けていくと、それに何か理屈みたいなものが見えてくるんですよね。理屈と言いながら、ルーチンなのかもしれないですね。
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