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特別企画「琳派はポップ/ポップは琳派」(全4記事)

作品は日常と混ざったほうがいい-日比野克彦氏が語る、六本木アートナイトのねらい

国内最大のアートの見本市・アートフェア東京の特別企画「琳派はポップ/ポップは琳派」についてのトークセッション。琳派の創始者・本阿弥光悦生誕からちょうど400年後に生まれたしりあがり寿氏と日比野克彦氏が、日常におけるアートの役割について語った。(アートフェア東京2015特別企画「琳派はポップ/ポップは琳派」より)

時代を超えて連なっていく琳派の系譜

小崎哲哉氏(以下、小崎):またまた話がずれていますが、お二人にぜひ伺いたいことがあるんです。琳派にはいろんな特色があるとされていますが、世界的にめずらしいとされている「私淑(ししゅく)」がありますよね? 繋がってない。

どういうことかというと、本阿弥光悦(ほんあみ こうえつ)とか俵屋宗達(たわらや そうたつ)は16世紀ですよね。ところが、流派でないものを彼らが死んで100年後に尾形光琳(おがた こうりん)が写したりして復活させる。

光琳はもちろん光悦や宗達とは面識がないわけですよね、時代が違う。でも作品を見て「すごい! 俺も真似してみよう」というので始める。さらに、光琳が死んで100年経つと酒井抱一(さかい ほういつ)が復活させる。で、明治期に神坂雪佳(かみさか せっか)がそれを学ぶわけで。

有名な人は直接繋がってない、というか切れてるんですよね。だからポイントとして「私淑」というのがあると思うんですが。お二人は私淑のようなものはありますか? 影響された先輩とか、これを継いでやろう、というのは。

しりあがり寿氏(以下、しりあがり):僕は直接お会いしてもないし、教わってもいないけど、影響を受けたというのはやっぱり赤塚不二夫さんですかね。

小崎:天才ですよね。

しりあがり:生きているうちにお会いしたことはなくて、でもそういうのを感じますね。

小崎:壮絶にお酒を飲んだ方なんでしょ? 伝説がいっぱいありますよね。

しりあがり:そこを習いたいなと思ってんですけど(笑)。

小崎:タモリにマンションをポンとあげちゃったとか、いろんな伝説がありますよね。

本能に埋め込まれた琳派のスイッチ

小崎:日比野さんは誰かいますか?

日比野克彦氏(以下、日比野):繋がってないというのは「繋げなくても大丈夫だった」ってことだと思うんですよ。脈々と1個の技法を、師匠から弟子に、弟子から孫弟子に伝えていくんじゃなくて。ポンと生まれるっていうのは、すごい動物的なものなのかなと。

きちんと意図的に伝えないと無くなるってことじゃなくて。本能的に「あるタイミングになると、やらざるを得ないスイッチ」が自分たちのDNAの中に入っていて、そのスイッチがポンと入るときがくる。

きっと琳派の前後に、これが必ず生まれなきゃいけない理由があったと思うのね。たとえば、しりあがりが絵を描き始めているときに2時間絵を描いていたとすると、頭の中でストーリーを描いていた時間があると思う。

「最終的にクシャクシャにするから、ここを濃くして」とか「キャラ入れたほうがバランスいいかな」って頭の中で考えてる時間が30分あったとしたら、それが爆発して、どうでもよくなって手が勝手に動く時間が3分間ある。

そうなると頭がちょっと休まるから、また頭で考えるような絵を描いていって。30分になるとまた頭がいっぱいになって、勝手に手が動き始める時間が3分間ある。きっとその3分間みたいなところが琳派なのかな。

小崎:100年間眠ってるけどポンと出てくる、みたいな。

日比野:だから、教わらなくてもわかる。先人たちの作品を見るなかでドキッとして「そうだ、これだ!」と思ってやり始める100年後の人たちがいたというのは、そのようなことかなと。

1958年生まれの我々の世代だと、「もの派」とか学生運動とかが前にあって、後ろの世代にはデジタルがある。「失われた10年」という言い方があるけども、前後のがっちりとした流れとは違う息継ぎをするようなところがあって。そういう世代によって入るスイッチがあるのかなと。

しりあがり:そういうのって、何世代かで出てくる遺伝子の感じもそうだし、もしかして人間ってそんなに幅広くないのかなって。繰り返すってことは、そうですもんね? スカートの丈が足より長くならないのと同じように。

小崎:そうきたか(笑)。

完成度が上がってくると、どこかで反発が来る

しりあがり:何か知らないけど、どっかで繰り返さざるを得ないような。人間が足がすごい長くなったら、また全然違うアートが出てくるのかもしれないけど、人間の進化が変わらない限り、もしかすると、ある範囲で繰り返してるのかな、みたいな感じはありますね。

小崎:そうですね。本阿弥光悦が江戸に移ったのは、江戸幕府が成立して、ちょっと落ち着いた頃合いだから。それこそ光悦が生まれた頃には千利休がまだ生きてたのかな? 「わび・さび」が一段落ついて、もっと綺麗さとかが出てきた時代だというのもあるかもしれないですね。

しりあがり:わりと最近で感じるのは、湯村輝彦さんが出てきた直前っていうのは「スーパーリアリズム」が流行ってたんですよね。

小崎:山口はるみさんとか、空山基(そらやま はじめ)さんとか。

しりあがり:そういう上手なほうにいくと何か我慢できなくて、ウワッと崩すと(笑)。音楽でいったら1977年っていうのは、ちょうどセックス・ピストルズが出てきた年で。湯村さんがヘタウマの『ペンギンごはん』を描いたのと同じ年なんですけど。

そういうふうに大人しく完成度が上がってくると壊したがる。今のイラストとか絵画を見てると、すごく上手なものを志向してるほうが多いですよね。具体的で上手い絵。ピクシブとか見てても本当に上手なのが礼賛されたりだとか。

だから絵柄があることまでいくと逆の流れが出てきて。そういうのは何となく、ここ何十年かで感じたりしますね。

小崎:これからは、しりあがりさんも漫画に金箔をかかさず貼る……なんてことにもなるんですかね?

しりあがり:そうですね(笑)。

一夜限りのお祭りだからこそできること

小崎:日比野さんは今度、4月末に「六本木アートナイト」のアーティスティックディレクターをつとめられますけども、なかなか派手なものが出ると小耳にはさみましたが。

日比野:「ハルはアケボノ」というタイトルで、今年の特徴はライゾマ(株式会社ライゾマティクス)の齋藤精一さんがメディアアートディレクターというポジションで入ってもらって。

メディアアートのトラックが六本木をグルグルと回る。みんなのスマホとか事前に集めたデータ、ファンとのインタラクティブに反応して歌ったり音が出たりする。そんなトラックが六本木を走り回るという作品なんですけども。

小崎:ゴージャスな感じが尾形光琳と通じる気がしますね。

日比野:六本木の街って飲食が朝までやってたり、ときどき危ない事件も起こったりするようなところで。たぶんお客さんも3分の2くらいは日頃アートに積極的に興味がない人たちなんだけれども。

けど、そういう人たちが集まってきて街の中を歩いてると、お客さんの雰囲気でいろんな物がアートに見える変なマジックが起こるんですよ。このアートナイトも5回目なんだけども、作品を持ってやってくるやつが多いのね。公園で人だかりができていたり。

小崎:便乗だ。

日比野:そう。街の中でそういうことが起こってくるし、アーティスティックディレクターの立場であんまり言っちゃいけないんだけど。一晩だから規制のしようがないんですよ、やり逃げみたいな感じで。1ヶ月とか半期やってるような芸術祭だったら大変だけれども。

逆にそこがアートナイトのおもしろさというか。たとえば町とか屋外でやるものって越後妻有(えちごつまり)とか瀬戸内とかあるけれど。一晩だけ六本木の町場でやって、あっという間に終わるので。

その一瞬の輝きさ加減というのは、さっきの話に無理やりこじつけると、突然1年に1回ポーンと異空間の異次元のアートが出てくるということで言えば、琳派が突然ポーンと出てくるのとすごい人間っぽいところが。

小崎:ちょっと無理やり繋げてるかもしれませんけど(笑)。

日比野:人間っぽいところがアートナイトですね(笑)。

お行儀がいいアートだけじゃつまらない!

小崎:確かに六本木ってところは歴史からしてヤバい町ですからね。そういうものが出てくるのは実は正当なことかもしれないですね。ヴェネチア・ビエンナーレなんかでも、オープニングのときは世界中から変わった人がいっぱい出てきて楽しませてくれたりしますけどね。ハプニング的にいろんなことが起こるのも想定内っていうのかな?

日比野:だから今日こういうアートフェアをやってるじゃないですか? アートフェアもマーケットなので。さっき始まる前に、しりあがりが言ってたけども。しりあがりの言葉がおもしろいと思うのは「野菜を売るように並べられてるね」みたいな。

やっぱり、つくるほうとしてみれば「お行儀よく並べられて息がつまる」みたいなところがあるわけですよ。コレクターに引き取られて、部屋にバンと飾ると「イヒッ」としてくれると思うんだけれども。

やっぱりアートってのは本当の日常の、その人の趣味趣向と混ざるもので。美術作品だけがあると不健康だよ。リビングがあって作品があるとか、生活があって作品があるならいいけど。

あれだけ作品が所せましと並んでいると、本当になんかこう奴隷市場で「売られていくんだな、この子たち」みたいな。見てて、つらーい感じがして。

(会場笑)

小崎:でも、そういうアートフェアもあってもいいし(笑)。

日比野:あってもいいし。でもあれだけがアートだと思って、ここだけに通ってちゃダメだと思うの。町場とか美術館だけ通ってもダメだし。アートフェアだけに行って、見た聞いた知ってる、となってもダメだし。

小崎:確かにね。

日比野:やっぱり、町場に行って今の空気を吸って。それこそ日常の、もっと言えば海まで行けって話なんだけども、自分が動きやすいとこだけ動くんじゃなくって。

いろんなところに行くというのが、そこでドキッとすることがあったりとか、日常のちょっとした価値観のズレがあったときに「何かいいな」と思うものが見つけてこれるかどうか。だから額縁、本当に回していいと思うよ。

(会場笑)

しりあがり:ありがとうございます!

絵画をお散歩に連れて行こう

日比野:額縁にはまった絵が、白い壁にずっとジッとしてるのを見てて。

しりあがり:ヘンだよね?

日比野:ヘンだよね。本当にかわいそうだなと思うんだよね。

しりあがり:アートも野生で生きているうちが、一番ノビノビしてると思うんだけど。それを美術館とかに集めてきちゃうとね。

日比野:しりあがりがクルクル回したじゃん? 額縁。俺もね、ちょっと前に絵がなんか時速0キロで壁にはりつけられているような気分になって。

しりあがり:あぁ〜。

日比野:自分の展覧会で「絵をお散歩に連れて行く」ってのをやったんですよ。絵を外してキャスターとヒモを付けといて「絵をお散歩に連れて行ける」っていう。

しりあがり:なるほどね、すごいなぁ。

小崎:来年からアートフェア東京は「回転絵画」ってコーナーを1個つくるってのはどうですかね? 散歩絵画でもいいけども。

(会場笑)

小崎:日比野さん、どっかブースでやれば?

日比野:じゃあ日経さん、ちょっと(笑)。

しりあがり:でも日比野くん、すごいよね最近。野生具合が。

日比野:野生具合が?

しりあがり:アートを求めて海まで出てるとは思わなかった。すごいよね。この後はどんな感じなんですか? 世界とか。

日比野:この後?

小崎:ワールドカップは毎回行ってるでしょ?

日比野:サッカーね。

小崎:応援団兼レポータとして。

技術の束縛から逃れたアートとは

日比野:今やってる展覧会は、アール・ブリュット美術館合同企画展で「ひとがはじめからもっている力 TURN/陸から海へ」っていう展覧会なのね。これが去年から始まって今年の9月まで。日本財団が支援している4館のアール・ブリュット美術館で、財団はこれから美術館をもっと100まで増やすと言ってるんだけども、それが連携した展覧会をやっていて。

アール・ブリュット、障害者の方が描いた絵と、僕の絵も出ていたりとか島袋道浩とか中原浩大とか、岡本太郎さんの写真とかね。「ひとがはじめからもっている力」のキーワードで集めた作品の展覧会なんですよ。

しりあがり:(アール・ブリュットとは)あれですよね。「美術の教育を受けていなくても」という意味ですよね?

日比野:そう、アール・ブリュットの本来はね。たとえば僕らは教育を受けちゃってるじゃないですか? 受けちゃってるけども、いかにその束縛から、技術から逃れたいかというところがあって。そういう視点での展覧会をやっていて。

「みずのき美術館」という京都の亀岡にある美術館では終わって、広島の「鞆の津(とものつ)ミュージアム」では今ちょうどやっているところですね(現在は展示終了)。

小崎:ヤンキー人類学とか、死刑囚が描いた絵とかね。

日比野:そうですね。櫛野(展正)君がキュレーターでがんばっている、鞆の津ミュージアム。

それで、今度の4月18日から関東からも行きやすい「はじまりの美術館」って猪苗代にあるんですけれども、巡回展をやります。巡回展といえども作品がけっこう入れ替わっているので、ぜひ見に来ていただければと思います。

これの東京でやるシンポジウムが4月12日に渋谷ヒカリエの「8/(ハチ)」っていうスペースが8階にあるんですけども。そこで各館キュレーターと私と、「ワタリウム美術館」の和多利(浩一)さんに来てもらってシンポジウムを。

障害者とアート、アール・ブリュット、ひとがはじめからもっている力、アートの役割とか。福祉とアートって近いところがあると思うんだけど、日本の縦社会の中でいると全然扱う部署が違うので、なかなか難しい。それこそ「東京2020オリンピック・パラリンピック」を1個の大きなきっかけにして繋げていくというか、ブチ破っていきたいなと思ってるんですけども。

小崎:いい企画ですね。アール・ブリュットはアートフェア東京でもご覧いただけると思いますが、しりあがりさんは今後は何かあるんですか?

しりあがり:僕は、あんまないですけどね。

小崎:ないですか(笑)。今夜は崩すのみ?

しりあがり:今夜はとにかく崩して。そうですね、ボチボチですね。

ヘビはどこからどこまでが尻尾なのか

小崎:時間がそろそろなんですけども。ぜひ会場のみなさんから、質問があれば手をあげていただけたらと思うんですが、いかがでしょうか?

あがりませんねぇ。こういうとき誰か仕込んでおくといいんだよね。ひとりあげると続々手があがるから(笑)。

(会場笑)

小崎:一番最初はプレッシャーがかかるけど、どなたかいらっしゃいませんか? はい、どうぞ!

質問者:私は、たまたま琳派という言葉を日経新聞で見て。「おっ光琳か」というくらいしか知識はないんですが、申し込んだらメールが来て。

小崎:おめでとうございます。

質問者:もうすぐ後期高齢者で、この場にいちゃいけないような気もしますが。絵とは関係ないんですけど、ヘビはどこからどこまでが尻尾なんですかね? アーティストから見たら。

(会場笑)

小崎:難問ですねぇ。アーティストから見たらヘビはどこからどこまでが尻尾でしょうか?

しりあがり:どうなんですかねぇ。尻尾ないんじゃないかな? あんのかな? なんでもいいんじゃないかな(笑)。

(会場笑)

しりあがり:頭のすぐ下が尻尾でいいんじゃないかなって感じがしますけどね。それじゃまずいか、内臓とか入ってるもんな。

日比野:ヘビがこう自分の尻尾をくわえて、ウロボロス的なのかな。「どこからどこまでだ?」みたいな。

しりあがり:わかんないことの象徴ですもんね。

日比野:でも、お父さまが我々の話を聞いてくれた最後の質問が「ヘビはどこから……」。

(会場笑)

日比野:その質問は、とても僕たちのことを理解して頂いた質問だと。

(会場笑)

しりあがり:そうですよね。

10年単位ではなく、1000年単位で物事を考える

日比野:後期高齢者って何歳なんですか?

質問者:70を越えて、後期高齢者の坂を上っています。

しりあがり:僕らは前期高齢者ですか? まだですか?

日比野:でも、それこそ今年57?

しりあがり:57。

日比野:57なんだよね。だんだん6か7か8か、わかんなくなるんだけど(笑)。57になるんですよ。自分の「ヒビノスペシャル」っていう事務所があるんですけど、ヒビノスペシャルができて今年30周年なんですよ。

小崎:おめでとうございます。

日比野:1985年に自分の事務所をつくって、あっという間に30年ですよ。30年といったら、けっこうな月日じゃないですか。自分でもビックリして「えっ30年も経ってるの?」みたいな。

自分の歳が57歳というのは何となくわかるんだけど、自分のオフィスをつくってから30年経っているとなると「あれ?」って月日のことを考える。これからプラス30年となると僕らも後期高齢者ですよね。

こういう(琳派が)400年って話が出ているけども。震災だと1000年に1度の未曾有の大災害というのが出てきたりしていて。自分の中で、だんだん時間に対する尺度というものが変わってきている。

ディケイドという言葉は「10年単位で世の中が変わる」ということだけど、今は10年では大して変わらない。30年なんてあっという間だし、100年先なんて未来じゃなくて今と直接繋がっている。地球サイズの問題になると、人間は知恵をしぼって1000年先のことを考えていかないとダメなような気がしていて。

ただ、どんどん時間を考えるサイズはでかくなっているんだけど、1日、1分の中でやることも多くなっていて。情報を収集したり発信したりとか。その幅、時間の使い方の振れ方というのも、これからまた変わっていくんじゃないかと思いますね。

しりあがり:昨日、小崎さんと人口知能の人にお話を伺ったんですけど。

小崎:別の仕事を、しりあがりさんにお願いしていまして。人口知能の専門家と対談していただいたんですけど。

しりあがり:人口知能とか脳の情報を扱う速さって、情報が増えれば増えるほど速くなりますよね。その速さと人の身体的な時間のズレというのは、すごく感じて。「ついてけない感」が多いんだよね。自分が歳をとったせいかもしれないけどね(笑)。

1世代の目まぐるしさ、みたいなものを感じていて。でも考えてみれば明治時代って30年とか40年くらいで、すごい変わってますよね。

小崎:めちゃくちゃ変わってますよね。京都に住んでいるんですけど、家のすぐ近くに琵琶湖疏水(びわこそすい)ってのが流れてるんですよね。有名な話なんですけど、それをつくったプランナーが最初にプランを出したのが21歳とかで、全体のディレクターに任命されたのが23歳。

若い人にそういうことをやらせる力があの時代にあり、そういう人たちがどんどん(世の中を)変えていったんですね。そこは今とはだいぶ違うのかなとは思いますね。

税金で美術館を作ってアート作品を置く理由

小崎:では、よろしいでしょうか、ヘビの尻尾は?

質問者:すみません、関係ない質問をして。

日比野:いえいえ。でも後期高齢というか70、80、90、100、120のそういう人たちが、今日も年齢の幅が広いと思うんですけど、20代からね。そういう人たちが共有できる場が光琳とかアートにはあって。美術の力って何にでもくっついていけるところがあると思うんですよ。

そこがアートのおもしろいところで「世代こえて国こえて」みたいな。なので本当にこういう「場」というか、アートをきっかけにして、いろんな価値観を話し合っていけるようなね。「場」っていうのが、まだまだ足りないと思う。美術館に行くかギャラリーに行くかシンポジウムに行くかしかないので。もっと普通に入っていって、絵も飾ってあって、お茶も飲めて、クリエーターがいて喋れて、日がな1日過ごして家に帰るみたいな。

そういう集まりの場をもっと増やしていく、というのが日本らしい価値観づくりになるのかな。でもまだ、コミュニティースペースとかをつくろうとすると、さっきの話にもあったけど、福祉が担当すると「こういう免許がないとできない」とか、美術館に行くと「キュレーター置かなくちゃいけない」とか。何か縦割りでやると、すごい面倒くさくなるんですよね。

もっと枠を飛び越えたなかで、いろんな人が集まって話しができるような物をつくっていきたいなと思うんですけどね。

しりあがり:昔、日比野くんがやったシンポジウムで「何で税金で美術館をつくって、よくわからない作品を置いとくんですか?」って質問に対して、誰だったかわかんないけど「人間っていうのは放っておくと何かつくっちゃうんで、それを整理せざるを得ないんです」って言ったんだけど(笑)。

本当にそうだと思うんだよね。人って放っておくと何だか訳のわかんない物をつくっちゃうんだよね。キレイな物もつくるし、くだらない物も含めてね。アートって難しいものじゃなくて人間の営みそのものじゃない? それをもっと楽しむというかね。

「こいつこんなバカな物をつくったよ」とか「こいつすごいじゃん!こんなの考えたこともなかった」とか、楽しめばいいような気がするよね。

小崎:そこですよね。僕は自分がアーティストじゃないんで、お二人には申し訳ないんですけれども、アーティストはやっぱり変わった人たちだと思うんですよね。

「普通の人の代わりに変わったことをやってくれている」というのが素晴らしいところで、そこに税金を払っても全然問題ないなと思いますね。アーティストがいなかったらって考えると逆に恐ろしいかな。すごく息のつまるような世界になっちゃう気がしますよね。

武器を作るよりもアートを作ろう

小崎:時間も時間なので締めますけども。こういう、お二人のような光琳や光悦の生まれ変わりのような人たちに、これからもどんどん変わったことをやっていただきたいなと。

しりあがり:ひとつ告知を。

小崎:あっ、そうそう。ごめんなさい。

しりあがり:4月12日から静岡なんですけども。実は今年、徳川家康の没後400年でもある。

小崎:いろいろ400年なんですね。

しりあがり:それを記念して、安齋肇(あんざい はじめ)さんとか朝倉世界一さんとかと工作をやろうとしていて。鎧をつくろうと思ってるんですけど、あんま勇ましくない。それ見ると戦う気をなくすという「戦意喪失!スーパーヨロイ展」というのをやりますので。

(会場笑)

しりあがり:静岡ですけども、よろしかったら見にきてください。

小崎:それこそダンボールとか使うんですか?

しりあがり:そうそう! ダンボールもあるしね。「なんきん」さんとか、おもしろいんですよね。「ニットで鎧をつくろう」って。

小崎:あぁ、弱そうだなぁ。

(会場笑)

しりあがり:朝倉さんはシースルーの鎧とかね。

小崎:もっと弱そうだなぁ(笑)。

しりあがり:そういう鎧を今考えてますので。

小崎:でもアートの役割ですよね。戦争をなくせると思うんだよね、アートって。武器をつくるよりもアートをつくるほうが、人と人が会う機会にもなるし。Make Art, Not Warみたいな。

というわけで、取り留めのない話で申し訳ありませんが、今日はお二人のおもしろい映像を見せていただき、おもしろいお話を伺えたと思います。本当に今日はどうもありがとうございました。

(会場拍手)

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