2024.10.01
自社の社内情報を未来の“ゴミ”にしないための備え 「情報量が多すぎる」時代がもたらす課題とは?
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田中浩也氏(以下、田中):みなさん、こんにちは。田中です。インターネット関係の方が多いと思いますので、インターネットとの比較で「ウェブからファブへ」という題名で、少しお話をしたいと思います。私は札幌市生まれで、18年間札幌で育ったんですけれども、小さいころ、ミュージシャンになりたかったんです。
学生時代はミュージシャン活動もしていまして、4人くらいでバンドをまず作ります。世界中のライブハウスを演奏して周りながら、新曲を作り、大体ライブを50回くらいしたところで、CDにまとめてそれをリリースをする。その感覚でモノが作れないかな、とずっと考えていました。その後、ミュージシャン活動は辞めました。
先ほども紹介があった「ファブラボ」と呼ばれている、いろんな機器を集めた市民の実験的な工房、それが世界中にできてきています。今大体200箇所あるんじゃないかと言われています。
これに日本からも参加することになり、2年間、立ち上げています。最近は世界中のファブラボを行き来しながら、ものづくりをしています。3月にはイスラエルに行きまして、先月は、フランスのファブラボを数か所周ってきました。
PCがどう変化してきたかというと、メインフレームから皆が使えるような場所ができて、それがひとり1台のパーソナルコンピュータになっていきました。その途中で、使われ方というのも、すごく大きく変わりました。
昔は、ミサイルの砲弾の数値計算に使われていたような大型計算機だったのが民主化し、人々が表現したり、通信したり、そのように変わりながら、段々パーソナル化して広がっていきました。それと似たようなことがファブリケータで起こるんじゃないか、と今考えられています。
量産品を作るための専門的な工作機械だったものが、利用のされ方も変えながら、だんだんパーソナルなものになって、これから普及していくのではないか。当然ながら、インターネットがあるので、最終的には、パーソナルコンピュータとパーソナルファブリケータが両方、インターネット端末になるような感じで捉えています。
パーソナルコンピュータを、パーソナルファブリケータで作る。ハードウェア部分は作り、ファブリケータのソフトウェア部分は、パーソナルコンピュータで作る。このような母親と父親のような、そういう関係もあるのでは、と思っています。
ミュージシャンが世界各地のライブハウスを転々としながら演奏して、そのなかで作曲をするように、ものづくりができないか、というように。「ファブラボ・ネットワーク」というのは、世界と連動しながらやっています。
僕が初めてファブラボを訪れたのは、2008年のことでした。インドの、かなり田舎の人口が200人くらいの村です。道路も砂利道で、水も電気も不安定。こんな村に小さな木工小屋みたいなものがありまして、そのなかに「ファブラボ」と呼ばれている工房があります。レーザーカッターや、いろんなツールも置かれています。ここで村の人たちがいろんなものづくりをしています。
どんなものを作っているかというと、超音波を発信して犬を撃退する装置や、不安定な電気をリカバーする自転車型人力発電機、100ドルのウェザーデータロガー等を彼らは作っていました。
これはインターネットの無線アンテナでFab-Fiというのですけれども、この小学生がインターネットが見たい、というので、設計データをどこかからダウンロードしてきて、ファブラボでルーターを使って、これを作りました。そして、家からインターネットが見られるようになった。こんなようなことがインドでは実際に起こっていて、かなり衝撃を受けました。
文脈性に、創造性が発揮されていることの面白さだと思っています。作る人と使う人が一致したり、近接したり、あるいはローカルな必要性や必然性があって、モノが生まれているのだけれども、そこに強い文脈が生まれている、ということが、今までの量産性ものづくりとは違うスタイルの創造性の芽生えではないか、と思っています。
世界のファブラボの様子を旅をしながら、自主映画を作っている友人がいて、これは彼がこの夏日本で上映する予定の2時間の映画のトレーラーです。このような感じで、彼はワークショップ活動をしながら世界中を周っています。それはなんだか、ミュージシャンが各ライブハウスを周りながら演奏するのと、僕にとってはすごくパラレルなんです。ちょっとその様子を見てください。
はい、このようなのが最近の現状で、僕が興味があるのがこうした「世界を渡り歩きながらモノを作る」というタイプの働き方。デザイナーが出てきたことや、彼の場合は「作り方」を作って、それを売っている、というような感じなんです。
「ショッピング」という単語に最近興味があって。「"Window-shopping"から " Work-Shopping"へ」と書いています。議論を盛り上げるために、50年後くらいの未来の話をしますと、文房具屋さんというのは、文房具を作ることもできる場所になる。服屋さんというのは服を買うだけではなく、服を作ることもできる場所になる。そういうショッピングになるのでは、という気がしています。
それから、ファブを製造業との議論で考えるといろいろな議論が起こるのですが、私の世代は、インターネットの自然な進化形、という捉え方のほうが馴染む感じがします。ネットから出てきたソーシャルな文化というのを、モノの世界にまで広げていく、という捉え方がいいなと思っています。
この2年間、やっていたことというのは、ネットの初期と似ていて、非常にベーシックなインフラ整備なんです。20年くらい前は、ルーターでサーバーを繋いでいたんですが、フィジカルな工房を人間が繋いでいく、ということをやっています。ラボ間をうまく繋ぐようなウェブサービスを開発したい、と思っています。ひとまず、こんなところで。ありがとうございました。
田川:ありがとうございました。ディスカッションは後ほど。では、林さん、お願いします。
林信行氏(以下、林):僕はこのなかで一番アカデミックでもなく、ワイルドカード的存在です。僕は、最近ミーハー的に、3Dプリンターを追いかけているような状態です。3Dプリンターって発明品としては、実は20年以上前ですよね。4、5年くらい前に、秋葉原のUDXというところに3Dプリンターが入った。みんなアニメのキャラクターをフィギュアにしている。正直、すごいなと思ったけれども、あまり興味はなかったんですね。
ところが、2011年頃から急速に興味が湧いてきました。そもそものきっかけは、渋谷のロフトワークさんのところに「3Dスタジオキューブ」というところがあって、そこに関わっている「K's Design Lab.」という会社の原雄司さん。彼と、あるアートツアーで出会いました。
彼が3Dのプリンターで作った腕時計をしていましたが、そこもまだ、あまり響きませんでした。彼が最近、仏像とか国宝とかスキャンしていると言うんですね。「国宝とか仏像とかスキャンして、何するんだろう?」と思っていました。
その後、いろいろ調べてみたら、ロダンの「考える人」とかも、盗まれて壊れてしまったロダンの「考える人」を他の「考える人」をスキャンして修復してみたりだとか。あるいは、アートではないのですが、サンゴ礁も魚のすみかとして重要じゃないですか。
林:そういったものを3Dプリンターで作る、という記事を読んで、ちょっとずつ3Dプリンターに興味が湧いてきた。原さんがサポートしているいろいろな、たとえば最近芸能人等の人形が出てくるのを、テレビ番組なんかで見ていると思うのですけれども、原さんのところはPerfumeを始め、ほとんどのコメディアンのスキャンを持っている。話を聞いていくうちに、名和晃平さんという世界的に有名なアーティスト。
彼の作品も、実は原さんのところがやっていて。人間の体をスキャンして、すごく滑らかな彫刻のように見せておきながら、片方はピクセレートしてみたり。そんな作品を作っています。名和さんのサンドイッチ工場という、京都にあるアトリエにも行ってみました。
まもなく6月19日、韓国ですごく巨大な名和さんの彫刻が公開されます。名和さんのMac Proに入っているデータを、フリーフォームという彫刻刀のようなものでやると、触感があるんですよ。削らしてもらったりして、そういうことができるんだ、と衝撃を受けました。
一方で、石黒浩さんというマッドサイエンティストみたいな阪大の名物教授がいて、彼が自分のアンドロイドの話をよくしています。自分大好きなのか、自分とそっくりのアンドロイドやって、「アンドロイドは歳とらないけど、自分は歳とるから」と言って、自分の顔をアンドロイドに似せるために整形しています。
彼の研究にほれ込んだクアルコムの山田元会長等が投資し、最近彼はアンドロイドフォンを作っています。みなさんがご存じのGoogleのアンドロイドフォンではなくて、アンドロイドの電話機なんです。人間の格好をしたような。こういった、誰にでも見えるニュートラルなものを人形に向かって抱きながら話していると、おばあさんが孫と話しているような愛着が湧いてくる、とか言っていてですね、かなりクレイジーだけど面白いなと思っていて。実は、彼のアンドロイドも3Dプリンター、原さんのところが絡んでくるということが後からわかりました。
全く別の話なんですが、僕ずっとiPadのファッション業界での応用、Digital Fashionという会社の森田さんとすごく親しくさせてもらっています。彼のところがどういった技術を持っているかというと、服のデザインをすると、ランウェイをモデルが歩いている様子がリアルな3Dでできて、シャネルとかそういったところのショーをやっているんですね。素材を変えると、ひらめき方が変わる、という技術を持っています。デジタルモデリングした服のデザインから型紙が起こせる、そういう技術も売り始めました。
まさに、Atom とbitというのは、これまでパソコンの画面の中の世界と、外のリアルなフィジカルな世界は全く対立するような関係だったのが、急に僕の頭のなかで繋がり始めて。リアルとバーチャルもどんどん相互連携が始まり、すごく3Dプリンターに興味が湧いてきました。
数年前からパソコンは、処理性能を上げるためにグラフィックアートとかが売りになっているじゃないですか。それによって、セカンドライフみたいなものも出てきたけれども、セカンドライフでみんなが作っていたジュエリーとかが、今や3Dプリンターで出せば、本当に売れるジュエリーになってしまう。こういったところも凄いし、気が付けばGoogle Earth上でも、世界中のほとんどのビルが3D化しているし。これからすごい時代になっていくんでは、と考えています。
ちょっと前まで世界2位だった「Objet」という会社でも、取材に行くと、CADを使っている人もどんどん増えているけれど、その応用がとにかく幅広い。医療でも使われている、という話がありました。
医療と言えば、iPad手術で非常に有名な、神戸大学の杉本真樹さんという、こちらもマッドサイエンティストみたいな人がいるのですけれども、彼が3Dプリンターで何をやっているかというと、CTスキャンで撮ったこれから手術する臓器のデータをObjetのプリンターで印刷して出す。そうすると、血管がどこを通っているかがわかるので、手術をする前に「どこを切れば、血管の切り口が一番小さくなるか」そういうことがわかる、というのです。彼に衝撃を受けた中学生が、彼と話して人体標本を作ることになった。
これまで人体標本って、必ず死刑囚とか、そういう人の体が使われていたのが、初めて生きている中学生の人体標本ができてしまった。しかも、これから毎年この中学生はスキャンされていくので、毎年、成長過程が見られる、世界で初めての人体標本になる、ということになります。臓器のシミュレーションをやるのに、ウェットな素材でないと本当に手術している触感がわからない、ということで、今ウェットな素材で臓器のモデルを作れるものを開発していたりします。
医療と3Dプリンターはすごくマッチして、これで世界が変わりそうだな、とか思っていたら、さらに衝撃を受けたのが去年のTED(アンソニー・アタラ 「臓器を印刷する試み」)です。これ何をやっているかというと、腎臓を印刷しているところです。
人間の移植可能な腎臓を印刷しているんです。これを臓器移植の研究をしている中山先生に、「このTED、すごかったよね」という話をしたら、「あれはインチキだ」と言っていました。臓器を3Dプリンターで印刷すると、何が問題かというと、形がすぐにぐにょっと潰れてしまうらしいんです。実は中山さんこそ、世界で最先端の崩れない臓器の印刷をやっている人で、ちょうど今週の頭に、安倍首相も見に行っています。
「剣山方式」といって、剣山の上に組織をどんどん置いていって臓器を作る、というものなんです。ある意味、リサイクルというか。太っている人は、膝の半月板を怪我しやすいのですけれども、その膝の軟骨を、おなかの脂肪を手術で取り出して、脂肪の細胞を使って軟骨を作るという、ある意味自己完結型リサイクルの手術をやっている人なんです。将来は臓器もつくれる。僕が「Maker:」という雑誌のことを紹介したら、中山さんが触発されて、自分で「OpenCV」という本を勉強して、細胞3Dプリンターを作ってしまいました。
取材を続けていくと、デルタ航空では今やパーツの在庫がなくなってしまった飛行機のトイレの部品を、自分たちで印刷して作ったりしています。世の中の医療から製造から、いろんなところで使われ始めている。最近僕、高校とか大学とかで講演するとき、「産業革命的なものは、世紀の変わり目に起きる」と話しています。
たとえば、19世紀の初めに蒸気機関が出てきて、世の中が大きく変わった。あるいは、電動機、モーターが出てきてエレベーター、エスカレーター、蓄音器、ミシン、冷蔵庫、エアコンができた。下にあるのは、ペースメーカーの元祖みたいなやつです。モーターができたことによって、衣食住、すべて変わったわけです。
それとまったく同じようなことが、実は今、起きている。3Dプリンターを使って、衣食住も含めすべて変わりつつあるのでは、と思っています。建築も、プラスチックの素材で鉄筋コンクリートの1万倍の強度の素材が出てきたり。コンシューマーエレクトリックショーを見に行っても、ものの造形がどんどん変わりつつある。
Surface、あれもObjetのプリンターを使ってプロトタイピングをしたことにより、短期間でこんなにかっこいいものができた。3Dプリンターもすごいですが、モデリングソフトもすごく進化しています。
「ユーロモールド」というフランクフルトのイベントに行って驚いたのが、プリンターだけではなく、その周辺ソフトウェアもすごく進化していて。マテリアライズという会社の技術、たとえば3D CADを使って自転車とかそういうものを作った場合、全部部品をばらした状態でコンテナに積むと、どういうふうに積めば一番容積が小さくなるとか、そういったシミュレーションができる技術もあります。
先ほどお話にあった「123D Catch」というのもすごいですよね。4、50枚iPhoneで写真を撮るだけで3Dデータになって、それが数日後には印刷され、肖像になって送られてくる。このような技術が出てきています。
2011年は、3Dプリンター業界は主要な変わり目の年でした。これは「Makers」が大ヒットして、パーソナルファブリケーションブームが起きる前のマーケットシェアを見ると、こんな感じなんです。
ZCorpという元祖の会社が3DSystemsに吸収されたり、ナンバー2のObjetとナンバー1のStratasysというところが、今年になって正式に合併が許されたり。そしてこの巨大勢力に対抗するために、3DSystemsが今度はソフトウェア会社をどんどん買い始めたり。まさに大きな変化が起きているところだと思います。
ちなみに3D SystemsとStratasys、何がすごいかといえば、3Dプリンターの世界でも精度の高いものをやろうとすると、インクジェットの技術というのは、非常に重要なんです。インクジェットを使った技術も、この2社が特許を押さえています。
Stratasys と3D Systems、何が違うかというと、3D Systemsは低価格のCubeという個人でも買える3Dプリンターを出しており、メーカームーブメントに乗って、新しい3Dプリンターの形を模索しようというアティチュードの会社です。
Stratasysは、もともとのObjetがマルチマテリアルでのプリンティング。これがどういうことかというと、スライドのなかの写真のタイヤがあります。周りのゴムの部分はすごく柔らかい素材でやって、内側の部分はすごく固い素材でやっている。それを1回のプリントで合成できる。こんな技術を持っています。
Stratasys Objet側は、もともと工業用に製品を提供していたこともあり、「絶対、このレベル以下のものは作らない」という高い水準を維持しつつ、だんだん値段が落ちて、個人のほうにいけばいいな、という。上のほうから攻めるのがStratasys。ボトムアップで行こうとしているのが3DSystems。こんな違いがあります。
最近、Stratasys とObjetが合併して、香港で初めて新生Stratasysの発表会がありました。どういう風に整理したかというのが、今の3Dプリンタ、3タイプに上手く象徴されていると思うので、最後に紹介しようと思います。
アイデアシリーズ、デザインシリーズ、プロダクションシリーズという3タイプに分かれています。アイデアというのは、デスクトップの上に置いて、デザイナーの人が試行錯誤していく使い方。2つめのプロトタイプというのは、ラピドプロトタイピング、つまり精度の高いプロトタイピングをしていこうという、今一番主流な使い方が、真ん中のデザインシリーズです。
マニュファクチャーとは何かというと、まだまだ使える素材は限られていますけれども、最終的な製品を作ってしまおうというもの。これプラス、Cubeのような、個人用のパーソナルファブリケーションの3Dプリンター、というのが今の現状を示していると思います。
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