【3行要約】・デジタル化で伝統メディアが苦戦する中、出版社やラジオ局の変革が急務となっています。
・集英社「少年ジャンプ+」編集長の籾山悠太氏とニッポン放送の冨山雄一氏が対談し、デジタル時代における新作重視の戦略を語りました。
・両者の共通点から、メディア企業は既存ブランドを活かしつつ新コンテンツ創出に注力すべきことが示されています。
前回の記事はこちら 『ゲルゲットショッキングセンター』を聴いていた中学生時代
入江美寿々氏(以下、入江):籾山さんは、ラジオの世界に対して何か思いとか、「こういうふうに見ていた!」というところはありますか?
籾山悠太氏(以下、籾山):僕は不勉強で、ラジオをこれまでたくさん聞いてきたわけじゃないんですけども。中学生ぐらいの時に『新世紀エヴァンゲリオン』がすごく流行っていて、エヴァンゲリオンの特集をすごいやっている『ゲルゲットショッキングセンター』というラジオ番組があったんですよね。
冨山雄一氏(以下、冨山):ニッポン放送の夜にやっていた番組ですよね。
籾山:それをよく聴いていました。当時、クラスでも『エヴァンゲリオン』の話はするんですけど、今みたいにSNSやインターネットもほとんどなかった時代だし、友だちもそんなに多くなかったので、クラスの中では話し足りないというか。もちろん会話ができるわけじゃないですけど、当時はラジオでエヴァの話題をたくさん聴いていて、その時一番「ラジオを聴いていたなぁ」という思い出があって。
そのあと、インターネットやスマートフォンが世の中に普及する中で、YouTubeも出てきて、出版と一緒で「ラジオって世の中にちゃんと残っていくのかな?」と思ったことはありました。今は編集部の後輩もラジオとか、Podcastとか、本当に音声のものをすごく聴いていて、その話題がたくさん出てきます。
そのタイミングで冨山さんの本もタイトルに『今、ラジオ全盛期。』と「全盛期」って書いていますし、めちゃくちゃラジオが盛り上がっているんだなと思って。なんで盛り上がっているのかとか、どうやってラジオがここまで来たのかというのを僕も聞きたいなと思って、今日は楽しみにして来ました。
出版社におけるデジタル部署の立ち位置
冨山:ありがとうございます。僕も今回『王者の挑戦 「少年ジャンプ+」の10年戦記』を読ませていただきました。聞きたいことがいろいろあるので、どんどん聞いていっちゃうんですけど(笑)。
僕の会社にもデジタルの部署があるのですが、やはりラジオ局なので、基本的にはラジオを作るのがメインなので、制作部とか編成部とか、営業部とかが、なんとなく会社のメインとしてあります。そういうところでいうと、2010年から今に至るまでの、出版社の中のデジタル部署って、どういう立ち位置なのかなと思って。
籾山:僕が移った2010年のタイミングでは、部署に何人ぐらいいたのかな? 正確な数字はちょっと覚えていないんですけど、10人はいなかったんじゃないかなと思います。当時はスマートフォンではなくて、ガラケー向けに1コマずつ携帯に漫画が表示されるような漫画を売っていました。
もちろん売上も大きかったんですが、ただ、僕は編集部にいる時に、正直に言うとそこまで意識をしていなくて。ガラケーで漫画も読みにくいし「そういうことをやっている部署があるなぁ」というぐらいだったんですね。しかも僕自身が、デジタルにあまり強くないというか(笑)。
冨山:あ、そうなんですね。
籾山:パソコンが苦手ということもあって、異動した時も「いやぁ、ちょっと……。どうしようかな?」みたいな(笑)。「困ったなぁ」みたいな感じでしたね、最初は。
「ジャンプLIVE」から「ジャンプ+」への転換
冨山:「ジャンプ+」の前に、先に「ジャンプLIVE」の立ち上げがあるじゃないですか。あれは、どういう中身だったんですか?
籾山:そうですね。「ジャンプLIVE」という、増刊としてお試しでやったものがあるんですけど。最終目標は「ジャンプ+」と一緒で、『週刊少年ジャンプ』のような、新しい漫画がどんどん生まれる場所にしたいということで、漫画アプリをスタートしたんですが、今の「ジャンプ+」とはちょっと内容が違いました。
まず1つ大きく違うのが、スマホならではの「紙の雑誌ではできないものがあったほうがいいんじゃないかな?」ということで、動画とか、グラビアとかミニゲームとか、漫画以外のコンテンツをたくさん配信しました。もう1つ、有料だったというのも「ジャンプ+」とは違うんですけども。そういうものが「ジャンプLIVE」でした。
冨山:それは、あまりうまくいかなかった感じなんですか?
籾山:そうなんです、はい。もちろんいろいろな作家さんにも協力していただいていて、人気はあったんですけども、「週刊少年ジャンプ」のようなものになりそうかというと「ちょっと物足りないかな?」みたいな感じがして、途中から作戦変更をして、それで「ジャンプ+」になった感じですね。
雑誌作りとアプリ運営に必要な2つの視点
冨山:ディレクターだと、もうその目の前の番組に集中すればいいというのがあると思うんですけど。たぶん今の籾山さんのお立場だと、アプリの中をどうやって使うかというところで、作品を作る脳みそと違う脳みそがある感じがしているんですけど。仕事の仕方ってどうなっているんですか?
籾山:確かに少し違うところはあるなぁとは思います。ただ、最終的にゼロイチで人気漫画を生みたいという意味では一緒です。
これは紙の雑誌もそうだと僕は思っているんですが、漫画家さんと、より漫画が魅力的になるように打ち合わせを重ねて、作家さんをサポートしながら漫画を生むという、漫画編集者としての仕事と、『週刊少年ジャンプ』なり、「ジャンプ+」なりの雑誌を編集する仕事。雑誌があってこそ、人気漫画も生まれやすくなりますし、人気漫画があってこそ、雑誌も活性化するので、それぞれちょっと違いますが、絡み合っているというか。最終的には目標も一緒なので、両方大事だなと思いながら、やっていますね。
入江:冨山さんが手書きで質問メモを書いてきてくださっているんですよね。
冨山:そうなんですよ(笑)。
入江:どうぞ、どうぞ。
競合が増える中で貫く“新作重視”の思想
冨山:あと、本の中に書かれていましたが、その10年ぐらいの中で、やはりどんどん競合の漫画アプリがたくさん出てきて。課金システムがあったほうが稼げるので、ポイント制にするか、ライフ制にするかみたいなところで、単純に雑誌じゃなくて、競合他社があることについては、どういうふうに考えていたんですか?
籾山:そうですね。おっしゃるとおり、LINEマンガさんとか、ピッコマさんとか、いろいろな漫画アプリが増えていく中で全体が盛り上がってスマホで漫画をたくさん読む人が増える、「場所が増えるのはうれしいな」とは思っていたんですが、一方で、周りの方はよく一括りに「漫画アプリ」とよくおっしゃっていたんですけど、僕はけっこう差があるなと思っていました。
「ジャンプ+」に近い漫画アプリは、あまり少ないというか。「ジャンプ+」しかないんじゃないかなみたいな(笑)。そう思っているところもあります。先ほど申し上げたように、本当に新作を生むということを目標にしているという。
「ジャンプ+」は、最新話は無料ですし、連載中の作品は、初回1回は全話無料で読めるんですね。それは『SPY×FAMILY』でも『怪獣8号』でも同じです。なので「そのアプリだけで利益、売上を求めるぞ!」というのもあまりなかったりします。ユーザー数、雑誌も部数とかが大事だと思うんですが、必ずしもその数字だけを追っていないんですね。
例えば『DRAGON BALL』とか、『幽☆遊☆白書』とか、『SLAM DUNK』とか、過去の名作をどんどん配信していけば、読者もいっぱいアプリを使ってくれると思いますが、それはしないようにしています。本当に新作を推すという、そういう思想を思い切ってやっているところは、けっこう少ないなと思っていて、漫画アプリはたくさんあるんですが、実は「ジャンプ+」っぽいのは1個しかないような気がしています。
入江:新しい作品を生んでいく場所というのが、もう固定でブレないものってことなんですね。